JBLのパッシブスピーカー「JBL2600」という製品を入手したので、少し整備をして音を聴いてみた。その所感。
素性
インターネットによると、「JBLシリーズ」というコンシューマー向けモデルのひとつとして、1989年ごろから数年発売していた製品らしい。
このころのシリーズは五つのスピーカーが名を連ねていて、各々ウーファーの径が異なる2ウェイスピーカーの「JBL2500」「JBL2600」「JBL2800」、ミッドレンジドライバーが追加された3ウェイの「JBL3800」「JBL4800」が存在している。
特に前3機種は、コンシューマー向け全体のなかで最廉価帯の製品で、つまるところエントリーモデルの位置付けになっていたようだ。
外観
今回入手したのは、サイズがシリーズのなかで下から二番目のJBL2600。6.5インチ(約165mm)径ウーファー搭載2ウェイスピーカーだ。
横幅は229mmで、高さは432mmある。いっぽう奥行きは213mmと、やや薄型となっている。
そのエンクロージャーは、背面まで覆われた明るいオーク調の化粧シート仕上げ。
のちに登場するJシリーズと異なるのは、前面のバッフル部が少しだけ奥まった位置にあり、その分突き出た上下左右の板材にR加工が施されていること。ここは、後続の面々よりも凝った構造となっている。
また、バッフル自体は濃いグレーとシルバーを混ぜた人工大理石のようなストーン調のシート。
ウーファーは、ドットのエンボスと同心円状のリブが施されたコーン紙に、コーティングが施されたもの。
エッジはクロス製だろうと思っていたけど、実物を見ても判断がつかない。見た目はフォームっぽいし、クロスにしてはかなり柔らかい。ウレタン製かもしれない。
ツイーターは、12mmチタンドームツイーター。ドームといっても、コーン型とドーム型の中間のような、いわゆるセミドーム型ツイーターである。
これ、呼称がメーカーや時代によってまちまちなんだけど、ここではJBL公称に従ってドーム型ツイーターとしておく。
イコライザー付きのバッフルは、やはりというかなんというか、ネジ孔部に特有のクラックがある。
「J2050」のバッフルはネジ孔部にもそれなりに厚みがあったのだけど、こちらはかなり薄いものとなっている。破損も時間の問題だろう。ほかと同じように、別のものに張り替える。
前面のネットは立体構造のメッシュ。
それなりに目立つ汚れと破れがあるので、こちらも張り替えて新しくしてしまうこととする。
音
動作自体は問題なさそうなので、そのまま出音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
Jシリーズの音を3種ほど知っているので、それらと似た音色だろうと想像していた。
一応その予想は外れてはおらず、中高音を明るくかき鳴らす、小ざっぱりとした音である。
ただ、その傾向自体は後継品よりも抑えられていて、思いのほかバランスが整ったものとなっている。中音域が明瞭であるのは間違いないけれど、パリパリに張った感じではなく、飛び出してくるようなことも無い。低音域もレスポンスの良さを保ちつつ、量感も比較的ある。
全帯域に渡ってクセが小さく、うまくまとまっているなと思う反面、音に深みやツヤっぽさを醸すような鳴りかたでもないので、そこで個性的な部分が丸くなってしまってはつまらないなとも思う。
とはいえ、定位感は良好で、音場もそこそこ広く、なにより特有の鮮明さを備える音は、ハマる人にはハマるものだろう。
周波数特性を見る。
概ねフラット。
低音域は100Hzくらいまでは難無く出ている。そこからさらに下になると下降していくけれど、下り坂はけっこう緩やかだなという印象。低音にある程度量感があるのは、この特性によるのかもしれない。
測定中に気づいたことだけど、背面のコネクターユニットの固定が甘いのか、ユニットと板材に隙間があり、そこから空気が漏れていることが判明。
JBLの廉価な製品にはめずらしいことではない。ここもパッキン付きのものに換装するつもり。
分解
内部を見ていく。
見えているネジを外していくだけ。ただし、ウーファーユニットのタッピングネジは捻じ込みがだいぶ雑で、いくつかは斜めにネジが立っている。
そして、予想していたとおり、ツイーターのバッフルはネジを外すさいに簡単に折れてしまうほど脆くなっている。
エンクロージャー内部は、前面以外をグラスウールでガッツリ覆っている。国外製品でよく見られる吸音の仕方。
筐体は単層のパーティクルボードで構築されており、厚みは16mm。これといった補強は無い。
ウーファーユニットは、金属プレスフレームの一般的なもの。
フレームの厚みは強度の必要最低限を確保する程度のもの。マグネットも小径で、直径80mm、厚さ13mm。ゆえに、体積の割に軽量である。
ツイータードライバーも、簡素なもの。
ただし、かなり細身ながらも、パッキンとなるリング状のシートがある。これは、後代は省略されているものだ。
また、後継品は樹脂製のバッフルプレートとドライバー本体は爪で引っ掛けるだけの嵌合式だけど、こちらはちゃんと接着されている。
造りで見れば、こちらのほうがしっかりしている。
といったところで、いずれも常識の範ちゅうというか、スピーカーユニットであればやっていて当たり前のことではある。後代の製品があまりにも粗末なだけなのだった。
スナップイン式のコネクターユニットに、ディバイディングネットワークがはんだで直付けされている。
フィルター回路自体に、際立った特徴は見受けられない。HFは6dB/oct、LFは12dB/oct。
コンデンサーは両極性アルミ電解。
単独6.2μFという容量のコンデンサーを採用しているのは、初めて見たかもしれない。
整備
さて、直せるものを直していくわけだけど、今回は音質的な面の調整はほとんどせず、なるべく原音のままとしておきたい。現状で特段の不満がないからだ。
バインディングポストとネットワーク基板
ネットワーク基板は撤去して、いつものようにMDF上に組み直そうかと思っていたけど、新たに用意したコネクターユニットに、なにやら基板を挟みこめそうな突起があることを発見したので、今回は基板を再利用とし、オリジナルと同じような形にしてみることにする。
既存のコンデンサーを撤去し、新しいものを取り付ける。
とはいうものの、3.0μFと6.2μFというコンデンサー自体めずらしく、なかなか良さげなものを見つけられない。というか、わざわざあえて用意したくもない。よって、1.5μFと3.3μFをそれぞれ二つずつ用意して、並列させることにする。
既存のケーブルは、平型端子の一部に若干腐食があるようなので、引き換える。
ここは、最近出番が増えているJVCケンウッドのOFCスピーカーケーブルとする。
基板に取り付けられたら、基板とコネクターユニットを接続する。
オリジナルと同じように、コネクターユニット側と基板の銅板を直にはんだ付けできるとスマートでよかったのだけど、実際にはプラスとマイナスの位置が互い違いとなり、そのままではうまいこと取り付けられそうもないので、短いケーブルを引きまわすことになる。
基板の物理的な固着には、2液型エポキシ系接着剤を使用する。
このとき、コンデンサーやケーブル類にも塗しておく。
ツイーター用パネル
2液型の接着剤は実用強度に達するまで時間を要するけど、今回はもうひとつ、その接着剤を使用することになるパーツが存在する。それが、ツイーターの前面バッフルとなるパネルである。
Jシリーズの整備において、これまではパネルは天然木の板材を削り出していたけれど、今回はMDFを使用してみる。前面のデザインに杢目があるほうがカッコいいだろうと思い、なにかしらの木材を使っていたのだけど、なんとなく垢抜けない感じがしていたので、ためしに黒塗りのシンプルなものを製作してみることにしたのだ。
ベースのMDFは、4mm厚のものを使用。それを、オリジナルよりも2mm大きい長辺84mm、短辺78mmで切り出す。さらに、一辺から33mmの位置を中心に、30mmの孔を開ける。
今回はさらに、以前バスレフポートの改良で行ったように、開口部の端部をフレア型にしてみる。もちろん面取り加工用の道具なんて持ち合わせていないので、ルーターと布やすりを駆使したフリーハンドである。
また、既存のパネルからJBLのロゴ部を切り出して、新しいパネルにエンブレムっぽく移植できるよう整形しておく。
MDFの塗装は、艶消しの黒とする。いつもは適当に塗っているけれど、今回の塗面は仕上がりを気にする部分なので、サンディングシーラーを併用してしっかり塗る。
オリジナルにある"PURE TITANIUM"の文字もどうにかして再現したいけれど、よい方法が思いつかず断念。
塗料が乾いたら、裏面にツイーターユニットを固定する。当然エスカッションなど無いので、ここでも2液型エポキシ系接着剤を使用して無理やり吸い付かせる。
半日くらい経ちある程度くっついているようなら、MDFとユニットにある隙間をパテで埋めておく。
その後、上からさらに接着剤を塗してまた放置。
ネットの張替え
諸々の接着剤の硬化を待つあいだ、前面ネットの張替えを進めておく。
ネットの下部にある樹脂製のエンブレムは、嵌めこまれているだけなので、ゆっくり持ち上げていけば存外簡単に外れる。
新しいネットの固定は、いつも布用の両面テープを使用している。そのテープを貼る面を、布やすりで擦り、凹凸を無くしておく。
ネットのフレームは樹脂製。そこそこ厚みがあるため、ありがちな反りはほとんど無いものの、長辺の片側だけ妙に劣化しているのが気になる。
あまり意味は無いけど、ここも一応、軽くサンディングしておく。
これは東洋紡の「ナノバリアー」という製品で、手製の布マスクの表地として使われるものらしい。マスク自作のブームが過ぎ去り生地の需要が減ったからか、投げ売りされていたものだ。
薄手だけどかなり頑丈で、かつ通気性も良いとなれば、スピーカー用の保護材としてもピッタリではないかということでチョイス。しかし、セール品のためか色味の選択肢が少なく、残念ながら当初イメージしていた色を選択できなかった。
生地の固定方法は、以前実施したものとほぼ同じ。
ただ、今回は化学繊維なので、天然由来の生地よりも伸縮するため、四隅の切り上げがダブつくことなくスッキリ仕上げられる。
あとは、エンブレムを嵌めこむだけ。
エンクロージャーの軽微な調整
今回の整備では、割と状態が良いこともあり、エンクロージャーの改修はほとんど行わない。
それを別にしても、中古品ゆえ表層の汚れはどうしてもあるので、拭き掃除が必須となる。
中性洗剤だけで済ませられるかと思っていたけど、やはりニコチン汚れがあるようで、ハヤトールの出動と相成る。
また、今回用意した新しい角型のコネクターユニットは、エンクロージャーの既存の埋込孔より、ほんのわずかに大きい。この孔の大きさは、スピーカーの個体差で多少異なるのがわかっているのだけど、たいていはそのまま埋め込むことができない。そのため、やすりを使って少しだけ孔を拡張する必要がある。
ツイーター用パネル再調整
すべて組み上げて、音を出してみる。聴感上は違和感なし。
しかし、マイクで収音してみると、特定の周波数でディップが発生していることがわかる。
初めは位相接続を間違えたかな? と思ったけれど、そこは正常。ディバイディングネットワークはコンデンサーを交換しただけだから、多少特性が変わることはあってもここまであからさまなことが起きるとは考えづらい。
ひょっとするとこのイコライザー、じつはドライバー固有の共振を抑制するために設けられていたのではないか。
ためしにオリジナルのパネルをツイーターの前面に重ねて音を聴き比べてみると、聴感でも割と大きな変化があることを確認できる。ということは、これなのか?
というわけで、パネルからイコライザー部分を切り取り、新しいほうに移植してみる。
振動板まで垂れていかないよう、ごく少量の接着剤で固定する。
三度2液型エポキシ系接着剤の出番となり、さらに時間を食われるけれど、仕方がない。
そして、音を見てみる。すると、多少解消されている。
とはいえ、まだ兆候としては残っており、完全に元どおりというわけではない。ここから先の調整は、ツイーターのパネル自体をさらにオリジナルの形状に近づけて、音の反射の仕方や回折の処理を元に戻すことが必要になるだろう。応急的に付けたイコライザーも、振動板との距離が適切でない可能性もある。
今のところ、これ以上整えられる術を持たない。一から作り直すこと以外で、できることは無い。
まとめ
正直、ツイーターのイコライザー(あるいはディフューザーと呼ばれたりもする)の有無でここまで音が変化するとは思ってもみなかった。それまでは、出力レベルの微細な調整のために設けているのだろうと思っていた。
でも、考えてみればたしかに、特定の周波数は振動板の特定の面積が振幅することで鳴動するということを鑑みれば、振動板のある部位のみ隠す形にすれば、そこが受け持つ周波数のみをピンポイントで調節できることになってもおかしくはない。まさに音のイコライジングをしているわけである。
こういった廉価なスピーカーシステムでも、やっぱりユニットとして必要となるものが細かい部分で存在し、それを含めたうえでのシステムの設計が成されているということになるんだろうな。
ひとつ勉強になった。
あと、パネルは杢目ではなく、黒単色にしたほうがバッフル面が引き締まって見えるので、今後は基本的にこちらを採用していくことにする。
デザイン面でも性能面でも、完成されている製品に対してシロウトがおいそれとちょっかいを出したところで、良いことなんて無いどころかデメリットが目立つことのほうが多いんだろうな。
終。