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ONKYO D-200 をメンテナンスする

オンキヨーの2ウェイスピーカーシステム「D-200」を入手したものの、故障機だった。それを直しつつ、マーク2モデル「D-200II」との違いについて述べてみた。

 
 

Liverpool

以前、二代目であり改良モデルでもあるD-200IIを整備したことがあり、構造の大枠はそちらとほぼ被るため、この記事では初代D-200と二代目との相違を中心にまとめておく。

ONKYO Liverpool D-200
1987年登場の本機、当時のオーディオ雑誌を眺めていると評価は上々で、いまだ中古市場に大量に流れているところをみるにかなり売れただろうことは想像に難くない。そして、ウーファーの朽ちたウレタンエッジをオーナー自身で張り替えているものが多いことも、オーディオを気に掛ける人間に受け入れられた証のようにも思う。
 

外観

Liverpoolというシリーズ名のとおり、英国製スピーカーのような異国情緒というか、重厚でやや凝った意匠のエンクロージャーだ。

黒地のバッフルに浮かぶゴールドの銘板が誇らしげ
といっても、幅210mm強ほどで取り立てて高身長でもないいたってシンプルな2ウェイシステムながら、重量は1本7kg近くあり、実際に重たいのである。
 
前面バッフル面の外観は、D-200IIと一緒に見える。

ツイーター。TW-385A
ウーファーのエッジは、前オーナーが張り替えている。オリジナルはウレタン製らしいけど、ラバー製となっている。

ウーファー。W-1652A
背面。コネクターユニットとバスレフポートがある。

背面
ネクターユニットは、D-200IIと比べるとポストが小型で、シャフトに横孔が開いている現代では一般的な構造のもの。ただし、4mm径のバナナプラグは非対応。

キャップはあまり見かけないデザイン
 

音が出ない

さっそく音を聴いてみようと鳴らすも、片方のスピーカーから高音域が聴こえてこない。

ツイーターが故障しているほうの周波数特性
中古のスピーカーに不良品がけっこう紛れこんでいることはこれまでの経験で知っているし、入手のリスクとしてある程度は受け入れている。しかし今回は、某オークションサイトで"エッジ交換済"のものを競り落としている。それでいてこのザマである。
……ウーファーのエッジは張り替えたけどツイーターは知らないよ、ということだろうか。
 

修復

先方が決めている返品期間はとうに過ぎている。とりあえずドライバーユニットを分解して手を入れてみて、直ればそれでよし、修理不可能ならそのまま廃棄処分とする。
 
ツイーターの樹脂製バッフルプレートと磁気回路は、表面から見えるネジ4点で固定されている。ただし、ダイヤフラムのあるメンブレンはプレート側にくっついており、メンブレンの平型端子のタブが生えている部分に少量の接着剤で固定されているだけである。
そのプラス側の端子があるほうの接着剤は、接続されるケーブルの重量に耐えられないのか切れていて、プレートから少し浮いた状態になっている。

割れた接着剤
この浮いた部分をプレート側に押し付けてやると、ツイーターの導通が一瞬だけあったりする。おそらくこのタブの裏側にはボイスコイルのリード線がユニット中心付近まで伸びているだろうから、ここのメンブレンがたわむことによってリード線に余計な張力が加わり、切れてしまったものと推測する。コイル側の故障である可能性が低くなって、少し安心する。

チタンドームの載ったツイーターメンブレン
見ると、やはりリード部が切れている。

シートをめくるとバラバラに
導線自体が腐食して黒ずんでいる。あまり良い環境に置かれていなかったこともあるけど、このドライバーユニットの構造の設計が良くないのもあるだろう。

マイナス側も触れたら切れてしまった
ちなみに、改良版であるD-200IIでは、リード線は片出しに変更され、メンブレン自体も堅固に固定されている。
見たところリード部はアルミではなく銅製のようだし、これならなんとかなるかもと、適当な撚り線をほぐしてあてがう。結果、メンブレンがはんだごての熱で若干溶けたものの、なんとか復旧。出音も問題なし。廃棄は免れた。

コイル自体は綺麗で助かった

復旧後の周波数特性
 

ようやく出音確認に移れる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。パソコンから「DIRECT」設定で再生。
D-200IIとの比較となる。端的に表すと、バランスは似ているけど質感が別物、となる。
 
まず低音。かなり低い音が聴こえてくるものの、量感はD-200IIより若干少なめ。とはいえ良質で高速なのは一緒。絶対的な低音を求めなければ、必要十分といえる。
D-200IIでは盛大に出ていた背面のポートノイズは、こちらも無いわけではないものの比較的小さめに抑えられている。
 
中高音寄りのバランスであり、それが二代目にも受け継がれたものと思われる。
密度と解像度が高めで、いかにもオンキヨーっぽい硬くまじめな音。ただし、明瞭感とパース感はD-200IIより控えめな感じ。こちらのほうがドライに聴こえる。
 
いちばんの違いは、空気感の表現だろうか。D-200IIにあるクリアで抜けるような中音が、初代ではそれほど感じない。能率感も、数値を上回るようなドライブ感のある二代目に対して、こちらはスペック相応といった印象。
反面、低域方向のレンジ感はこちらのほうがやや広い。大径ウーファーの腹をえぐってくるような低音はさすがに出てこないけれど、ブックシェルフ型の括りでみれば大したもの。このあたりは、ラバー製エッジの影響もあるかもしれない。
 

分解

内部を見ていく。
D-200IIと比べて、筐体内の吸音材の量が格段に多いことがひと目でわかる。

内部俯瞰
吸音材はすべてニードルフェルト。底面と両側面にコの字型にシートを貼りつけている。

底面側
また、天面側はシートが無い代わりに、低密度のフワフワしたフェルトを畳んで詰めている。内容積のだいたい3分の一程度がこのフェルトに占有されている形。

天面側。バスレフポートもD-200IIより長い
すっからかんのD-200IIとはまったく異なる調整。
日本のオーディオメーカーは、知る限り、音の響きが殺されるのを嫌ってなるべく吸音材を置かない傾向がある気がしている。想像でしかないのだけど、おそらくメーカーとしては、この大量の吸音材投入は苦渋の選択だったんじゃないか。これをなんとかして無くせないか臥薪嘗胆した結果、二代目にあたるD-200IIのペラペラのウレタンフォームに行きついたのではないだろうか。
ただ、吸音材の大幅な削減は、単に減らしたのではなくなにかしら調整をするうえでの要素のひとつだと思うのだけど、それが具体的になんなのかは読み取れない。すべて引っぺがして鳴らすとどうなるのか確認してもいいけど、その気力がないので今回は止めておく。
 
ウーファーのコーンはカーボンファイバーを平織りされたもので、二代目にも引き続き採用されている。ただ、触ってみるとこちらのほうが若干硬いような気がする。

コーン拡大
コーンの内面側には、共振対策と推測する白いなにかが塗られているのもD-200IIと同じ。その反対側に小さな重石のようなものが貼りつけられているのも一緒だけど、材質はフォームではなくラバー片で、しかも二枚ある。こちらのほうが質量があるだろうから、リニューアルモデルでは減量させたということか。

謎のラバー片
ネクターユニットに固定されているポストは、内部側でナットで固定されているので、簡単に分離できる。

埋込ボックス型コネクターユニット

よく見るとキャップは半透明だ
ディバイディングネットワークは、一見似たような感じだけど細かな部分で異なる。
ウーファー回路とツイーター回路で基板を分散配置しているのは一緒。ただし、D-200IIはポストから各基板に配線を直結しているのに対し、こちらはツイーター用の基板を親として、そこから子であるウーファー用の基板に分岐する形を採っている。

ネットワーク基板表裏
基板自体に余分な銅箔が多く、特にツイーター回路は不可解なエッチングをしており、それに伴って不要なはんだ付けが多くなっている。このスピーカー専用に設計された基板ではないのかもしれない。
フィルター回路は、基本的にD-200IIと大差はない。

ネットワーク回路
ウーファー並列の抵抗器が存在しない点と、各パーツの定数が少しずつ異なっている。D-200IIでは、ウーファー並列にフィルムコンデンサーが併用されていたり、5.6μFと6.8μFのコンデンサーの位置が逆だったりと気になる点があったけれど、それは試行錯誤した結果だったのかもしれない、などと思いを馳せてみたりする。

電解コンデンサーは、すべてニチコン
 

整備

今回はツイーターの修理に神経を使ったので、それ以外の改修は最小限にしておきたい。じつは吸音材を変更するために材料まで用意したけど、またの機会にする。
 
背面のバスレフポートは、D-200IIでも実施したようにフレア型に加工して、ノイズ減少を狙う。
ルーターでそれっぽく削り、塗装する。

そろそろ電動トリマーを入手してもいいかな……
ネクターユニットは、樹脂製ボックスを再利用して、バインディングポストのみ新しくする。

今回用意した大型金属製キャップのポスト
既存のポストを撤去したあと、貫通孔をドリルで拡張。用意したポストに合わせて、8mm径の孔を開ける。

下穴ははんだごて
背面でポスト付属のナットで固定するだけ。ここは新たにポスト固定用のベースを用意したD-200IIよりも簡便に済ませられる。

なかなか様になっていて良き
ディバイディングネットワークは、ツイーター直列の両極性電解コンデンサーの静電容量が増えているようなので交換する。ウーファー側は問題ないので弄らない。
また、ついでにフィルムコンデンサーもオンキヨー御用達のWIMA製にしておく。

今回使用するコンデンサーたち
WIMAはメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー「MKS2」シリーズ。電解コンデンサーはオーディオ向けのPARC-Audio製。
配線はすべて引き換える。改良機と同じように各基板とポストを直結とし、OFCケーブルとする。
ネットワーク基板からドライバーまでの配線は、WIMAと同じドイツのメーカーinakustik製スピーカーケーブル「STAR-0.75CT」とする。

エントリーモデルでお財布に優しい
コンデンサーは基板を経由せずに直結させてもいいけど、コンデンサー本体の固定が手間なので基板に載せる。ただし、利用するスルーホールを変更し、既存よりも大幅にショートカットしておく。

コンデンサーを寝かせているのは、吸音材の邪魔にならないように
結線をすべて済ませてから、背面のコネクターユニットの孔から内部に挿入させる。

ツイーター用の基板は、スペーサーを挟んでコネクターユニットに背負わせてもいいかも
ネクターユニットに背負わせていたツイーター用の基板は、ツイーターユニットの後ろ側に移設する。基板のマウンティングホールには、3mmのスペーサーを接着している。

円形のパーティクルボードが、固定におあつらえ向き
 

まとめ

Liverpool初代と二代目の音を両方知ったわけだけど、両者は出音の面で想像していた以上に異なることがわかった。
一応、今回手に入れた初代はラバーエッジで、以前入手した二代目は薄手のラバー製からウレタンフォーム製に変更されていたから、本来の性能ではない可能性も大いにある。なんとなくだけど、初代D-200はラバー製よりもオリジナルと同じウレタン製のエッジのほうが合っているような気がする。ラバー製ではやや重い印象。

組み上げ後

整備後の周波数特性(左右)
とはいえ、リニューアルモデルであるD-200IIは、初代から確実に進化、発展を遂げていることが、今回の整備で実感できてよかった。原器が良質だっただけに、とんでもない完成度になってしまったわけだ。
 
どこで見かけたか忘れたけど、このD-200は「ブックシェルフ型流行の火付け役」なんて賞されたようだ。まあ、この性能なら疑いようがないわな、と思わざるを得ない。
 
終。