オンキヨーのブックシェルフ型スピーカー「D-150」を入手した。音を出したり軽く整備してみた所感。先代モデルとの相違点を記す。
知名度は低め?
1990年代前半に登場した、「Liverpool」シリーズのブックシェルフ型スピーカーシステム。
1980年代に後半に発売され、"高音質小型ブックシェルフ"のムーブメントをけん引した「D-200」とそのマーク2「D-200II」の弟分にあたる……と勝手に思っている。
このスピーカーの存在を知ったのは結構最近で、オークションサイトの出品物としてたまたま見つけて落札したもの。入札数自体も少なく、未だ人気のある先述二基の相場の4割くらいの金額で競り落とせてしまった。
また、本機はインターネット上にあまり関連する情報が無さそうなのも、ちょっと意外。発売当時の界隈としては、優秀な兄貴分たちが手元にあるのなら、同じ系統かつサイズ感も同等の廉価なモデルをわざわざ入手する道理がなく、そのまま席巻していたオーディオブームも尻すぼみ、といったところだろうか。
そんなこんなで、意外と知名度が低いのかもしれない。そのうち当時の読み物を開いて調べる機会を設けてみようか。
すでにD-200やD-200IIを入手している都合で、今回はそれらと仕様がどのように違うかを見ていくことにする。
外観
2基のドライバーをバーチカルで揃えた、至ってシンプルな2ウェイシステム。
表面に八分くらいのツヤがある仕上げ。
ツートンカラーの先代と比べるとスッキリとした面構え。銘板風で立体感のあったエンブレムも、こちらでは印字となっている。
筐体の奥行きがやや短めなのも、兄貴たちと同じ。背面は単色で塗装されている。
板材の断面を見る限り、パーティクルボードで組まれたエンクロージャーのようだ。
リアバスレフを採用。板材に孔を開けて紙製ダクトを差し込んで固定しているもの。
背面にあるコネクターユニットは、ネジ式ではあるものの、大径のケーブルにも対応できるとされた先代の大型ポストではなく、当時一般的であった小型のものが採用されている。
ウーファーについては、前オーナーがエッジを張り替えている。ラバー製となっているけど、オリジナルはウレタン製らしい。
フランジの外周部が金属なので金属製のバッフルプレートなのかと思っていたけど、ネジ部をよく見ると樹脂製である。どうやら化粧として設けられているだけのようだ。
ちなみに、この仕様はツイーターも同様である。
そのツイーターは、先代のハードドーム振動板ではなくソフトドームが採用されている。ドームが奇妙なほどに真っ白なのが特徴的。
改修前の音
出音を聴いてみる。アンプはヤマハの「RX-S602」。
基本的に、D-200とD-200II両者の音を踏襲したバランスとなっている。異なるのは高音域の質感と、重厚感だろうか。
充実の中音域。適度な密度と明るさでハッとさせる音だ。明瞭感はD-200IIに近い雰囲気。
また、この容積らしからぬしっかりした低音を繰り出すのも特徴。重心が低めで、音に安定感がある。
高音域は、先代と少し異なる。ソフトドームらしいクセの無さと柔らかさがある代わりに、先代モデルの金属製ドーム振動板にある伸びやかさや絢爛さは抑えられている。ツイーターの構造がそのまま出音に反映されているようだ。
よって、どちらが良いかというものでもないけれど、D-200IIの音を知っているとやや物足りなさを感じるかもしれない。
また、これも先代と比較した場合だけど、少し表面的になるきらいがある。先代二基と比べるとわずかながらパース感が乏しい印象なので、そのぶん"軽く"聞こえるのかもしれない。とはいえ、良音をしっかり受け継いでいるのは間違いない。
周波数特性を見てみても、やはり高音域の稜線に違いはあるものの、そのほかのバランスは先代と似通っている。
中音にやや凸があるように見えるのは、さしあたりコンデンサーの静電容量の狂いによるものかもしれない。是正してみてどうなるか確認しておく。
分解
内部を見ていく。表層に見えているネジを外すだけ。
ウーファーのバッフルプレートはやはり樹脂製で、ユニットのフランジ部とは分離する構造になっている。
空間を上下に切るように張られた帯状のウレタンフォームや、短めのバスレフダクトなど、エンクロージャー内部を眺める限り、D-200IIの設計を踏襲しているような印象を受ける。
ただし、ツイーターユニット真裏のウレタンフォームは、背面ではなく天面にタッカーで固定されているのみ。
背面に固定されているディバイディングネットワークは、なんと高域と低域で専用の基板を設けて別々に配備するいわゆる「分散ネットワーク」となっている。
これは先代の両モデルには採用されているものの、廉価グレードである本機では一般的な一枚のPCBにまとめてコストダウンを図っているだろうと思っていたので、ちょっと意外だ。フィルター回路も高域低域ともに-18dB/octと、兄貴たちと一緒。
ただし、基板の銅箔は必要最小限といった感じで、それなりに簡素にはなっている。搭載しているパーツも、D-200IIには配備されているツイーター直列のフォルムコンデンサーが省略されて、電解コンデンサーのみになっている。そうかと思えば、ケーブルの接続の一部には平形端子が設けられて着脱可能になっていたりと、謎の手間をかけていたりもする。
もっとも、各々定数が先代二基と異なってもいるため、チューニングの一環である可能性もあり、一概に不要であると切り捨てられないところではある。ケーブルに関しても「極薄の銅箔よりもケーブルを渡らせたほうが抵抗値を小さくできる」という考えかたもある。
各ドライバーのほうを見ていく。
ウーファーは、編みこまれたカーボンファイバーが黒光りする16cmコーン型振動板を搭載。先述のとおり、エッジはラバー製に張替え済み。
型番が異なるので別モデルであることは予想できるのだけど、外観では先代二基との違いがまるでわからないウーファーユニットである。コーンの裏にあるオンキヨー独自の制振技術もしっかり採用されており、性能的には同等なんじゃないかと思えるほど。兄貴譲りといったところか。
いっぽうツイーター。厚みはやや薄めながら大径のフェライトマグネットが二枚付いたもの。
先代にあった磁気回路を覆うカバーは付いておらず、見た目は汎用的。ハードドームからソフトドームに変更されて、おそらく磁気回路の構造も異なるだろうから単純に比較はできないものの、ある程度低い周波数帯域まで鳴らせそうな雰囲気は変わらず。
磁気回路とメンブレンの分離は、グリルネット内にあるネジを外して行う。今回は面倒なのでこれ以上の分解はしない。
やたら存在感のある白いソフトドームは、見たところファブリック系の素材のようだ。その上に白いなにかをコートして、この姿になっている。
整備
経年でボロボロになるウーファーのエッジはすでに張り替えてあり、そのほかに著しい不具合もないので、今回の整備では気になる部分を改修する程度に留める。
コンデンサー交換と回路の最適化
ディバイディングネットワークに関しては、コンデンサーの交換を実施する。既存の電解コンデンサーは、一部が誤差の許容範囲を若干超過している程度で、思いのほか静電容量は狂っていなかったけれど、ツイーター回路は上位機種と同じようにフィルムコンデンサーを搭載しておきたいので、ついでにすべて新しくしてしまう。
また、やたらと迂回させている一部の経路を見直し、回路の最適化も図っておく。
ツイーター回路の一段目はメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーオンリーとする。パナソニック製4.7μFとSuntan製2.2μFを合成。三段目のコンデンサーには電解コンデンサーを残すこととし、ニチコン製「MUSE・ES」と東信工業製のフィルムコンデンサーを合成させる。
なお、配線経路の変更に伴い、ケーブルも新しく引き直す必要がある。ここは在庫のなかから適当なものを引っ張り出してきて、基板にはんだ付けする。
基板は既存と同じ位置に固定する。マウンティングホールに樹脂製のスペーサーを挟ませて浮かせたのち、タッピングネジで固定。
もともとは樹脂製のスタッドで固定されていたけれど、例によって基板を取り外すさいにちょん切ってしまって再利用できないので、その残骸を撤去してからネジ留めする。
バインディングポストの交換
背面のコネクターユニットは扱いづらいため、バナナプラグに対応するポストに換装してしまうことにする。
既存のユニットは撤去し、適当な板材を貼りつけてポストを直付けする"いつもの"方法を採るのだけど、今回はベースとなる板材の塗装をせず、代わりにカッティングシートを貼ってみることにする。
いつだったか100均ショップで確保していた黒いカッティングシートが余っていたので、それを切り出して板材に貼る。
被着体を平滑にしたり、貼るさいに木くずや埃が入りこまないように気を遣う必要があるけど、塗装用のブースを用意する手間を考えればいくらかラクではある。
吸音材の追加
片側側面と底面に、吸音材としてグラスウールを敷く。
これは、中音域の響きかたを少し落ち着かせたいために実施するのだけど、量が少ないのでどの程度効果があるのかわからない。おまじないみたいなものだ。
あまり増やしても音が潰れて単調になりかねないし、この程度に留めておく。
改修後の音
ここまで整備して、音を出してみる。
正直、聴感では整備前とさほど変化を感じられない。追加したグラスウールの効果も、多少中音域に粘りが出たかな、と感じるものの、おそらく気のせいだろう。
ただ、ツイーター直列のコンデンサーは電解コンデンサーを残しておいてもよかったかもしれないとは思う。一段目をフィルムコンデンサーとしたことでひずみ感が減ってクリアになっているけれど、実在感もやや後退している。ソフトドーム振動板との相性なのだろう。ここは電解とフィルムの併用がベター、あるいはむしろ電解オンリーでもいいのかもしれない。
また、周波数特性では、コンデンサーの容量の是正で引っこむかと予想していた中音域の緩い凸は、整備後もなんとなく残っているように見える。これについては、どちらかというとウーファー由来のもののようだ。このスピーカーの性質という理解にしておく。気にならない程度なので問題ない。
まとめ
兄貴たちに引けを取らない音を持ち合わせている。というのも、単純に、ツイーターが異なることによる音の違いが表れているだけで、それ以外で音質面において明確に「ここが劣っている」と示すのが難しいため、このような表現にならざるを得ないのである。
見てきたとおり、上位機種顔負けの設計となっている。
流通数が少ないことと、ウーファーエッジの張替えが必要である機体がほとんどであるのがネックではあるものの、それさえクリアできればかなり良好なコストパフォーマンスをほこるスピーカーシステムだと思う。
終。