ケンウッドのブックシェルフ型スピーカー「LS-K711」を入手した。ちょっとした補修をしつつ、音を調整してみた。その所感。
見た目はシンプル
以前「LS-K731」というスピーカーを整備したことがある。そのひとつ前のモデルと思しきスピーカーが手元に届いた。それがLS-K711である。
コーンのウーファーにドーム型ツイーターの、2ウェイ2スピーカー。木目調のシートに覆われた、角張ったバッフルと直方体のエンクロージャー。世間一般が思い浮かべるスピーカーは、まさにこの姿をしているのではないだろうか。
ケンウッドは、2000年代から現代まで「Kシリーズ」と銘打ったミニコンポーネントシステムを輩出している。こちらは、2007年発売。CDレシーバー「R-K711」とともに登場した。いわゆる"高級ミニコンポ"のスピーカー部となる。
外観
高級路線とはいえミニコンポ向けなので、見た目の高級感はあまり無い。
ただ、仕上げの木目調の化粧シートは、ほかの機種と比較すると明るい色調をしている。
杢目が際立って、これはこれでいいと思う。しかも背面までキッチリ化粧されていて好印象。
だけど、前面バッフルと筐体部の色の濃度がなぜか異なっていて、それがチープさに拍車をかけているのが、ちょっともったいない気がする。
樹脂製のフランジとバッフルプレートが採用された、ウーファーとツイーター。
ツイーターのバッフルプレートは、ほんのわずかにホーン形となっているものの、ほぼ真っ平。
ウーファーのエッジはラバー製で、割と硬め。
このコネクターユニット、このころのケンウッド特有で、汎用のものよりも横幅がやや狭い仕様になっている。バナナソケットのキャップが若干薄く作られてポスト自体がスリムになっているほか、バックプレートに設ける孔も一回り小さい。専有面積が広くなりがちな埋込型ユニットにおいてはありがたい仕様だ。
個人的にはこのユニット単独で欲しい。どこかで手に入らないかな。
改修前の音
じつは入手の時点で若干補修が必要な箇所があったのだけど、しばらくそれに気づかず、そのまま試聴をしている。
アンプはいつものように、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。音質を改善する回路諸々をスルーする「DIRECT」モードで再生。
能率が低い印象がまず来る。アンプの出力をやや上げ気味にする。
バランスとしてはいわゆるドンシャリ。エネルギーとしてみると、中音がほかと比べてやや薄い感じ。沈んでいるわけではない。
ケンウッドのスピーカーなので、低音がバンバン出てくるのかと思っていたけど、そこまでではない。といっても低めの中音を効かせてスケール感を出すあたり、「ああ、ケンウッドだなぁ」という印象。
高音はクリアで、ソフトドームらしいクセの小さい耳触りの良い鳴りかた。耳をつんざくような部分は感じられない。耳をユニットに近づけてみると、ウーファーから高めの中音がほぼ聴こえてこないので、ツイーターが割りと下のほうの周波数帯域まで担っているのだろう。
ただ、中音が薄い影響か、特に女性ボーカルがやや埋もれ気味なのが不自然といえば不自然。もう少し実在感が欲しい。
周波数特性を見てみる。
低音は、やっぱり大人しめなんだな、という印象。バスレフはけっこう効いているけど、ウーファーの振動板がボインボインとストロークするタイプではないので、ユニット自体は低い音はあまり出さないのかもしれない。それでも聴感ではそれなりの量感を得られるのは、このスピーカーの妙か。
中音域は、特性上はたしかに落ち着いているものの、ほかの帯域と比較してそこまで沈んでいるようにも見えない。ここはとりあえず、2kHzあたりを少し持ち上げてやれば印象が変わるのかな、とも思う。
分解
中身を見ていく。なんのことはない。見えているネジを外していくだけだ。
ユニットの取り外し
各ドライバーまでのケーブルは、抜け止めの機構を簡単に解除できるタブの付いた平型端子が付いているのだけど、そのうちのひとつが破損していて、かろうじて引っ掛かっている状態だった。ロック解除の仕組みが端子自体の強度を落としてしまい、壊れやすくなってしまったのだろう。
吸音材と木片
このウール、よく見ると2種類使われている。ひとつは厚さ1cmくらいのシートを折り畳んだもの。もうひとつは、わたあめのようにフワフワとした状態のものだ。
シート状のものはウーファー裏に使われており、二つ折りにして、その内側にわたあめ状のものをくるむかたちで配備されている。2種類のウールの採用はなにか意図があってほしいところだけど、おそらくはなにも無いだろう。
底部には、ウレタンフォームと思われるシートが、折り畳まれてタッカー留めされている。
また、ウーファーのマグネットがあるあたりの両サイドに、木片がふたつずつくっついている。そのうちの上側のものには、薄いウレタンフォームが貼られている。
このウレタンフォームは、ここ以外にも筐体内部のいたるところに見受けられる。どんな効果があるのかわからないけど、国内メーカーの安価なスピーカーにしては吸音にけっこうなコストを割いている感じなのはわかる。
前面バッフルの加工
エンクロージャーは、背面のみパーティクルボードで、それ以外の面がMDF。
前面バッフルはほかの面よりも厚めの板材が採用されており、21mmある。ウーファーの貫通孔には内側にテーパーを施してあり、凝った造りになっている。
ウーファー
ドライバーを見る。
ウーファーは、樹脂製のフレームに組まれたもの。材質はABSだろうか。
フランジ部まで樹脂製のためか、タッピングネジが収まる部分だけフランジがバッフルに沈むように凹んでいる。これはのちに見るツイーターでも同様。見た目はけっこうガッシリしているけれど、あまり頑丈ではないようだ。
フェライトマグネットはダブルで、やや大きめのものが採用されている。Cチャンネルみたいな形状の鋼材を使ったカバーが特徴的。
カバーのすぐ下にはウレタンフォームが貼られている。
防磁というよりは、ウーファーから発する筐体内部の音質調整のために設けられているのかもしれない。
振動板は射出成形の樹脂製かと思っていたけど、目を凝らすとコーティングされた紙製のようにも見える。
センターキャップは、柔らかめのフォームになにかが塗られたような質感のもの。エッジのゴムとはまた異なる。
ここで、片方のセンターキャップに小さなクラックがあるのを発見。試聴時には気づかなかった。コーンを清掃している形跡があるから、そのときに誤って突っついたのかな。
ツイーター
ツイーターは、合成繊維製のソフトドーム。外観はいたって普通。
ただし、こちらも背負っているマグネットは大きめ。なかなかに贅沢だ。
バッフルプレートは、ネジを外すと簡単に分離できる。振動板も一緒にくっついてくる。
磁気回路には、ギャップに磁性流体が使われている。
ディバイディングネットワーク
ディバイディングネットワークは、背面のコネクターユニットの裏に背負われている。正方形の基板の真ん中に、バインディングポストのタブが突き刺さるようにしてはんだ付けされている、ケンウッドのスピーカーでよく見るタイプだ。積層鋼板のコアコイルとフィルムコンデンサーには「KENWOOD」の印字がある。
回路は-12dB/octのクロスを狙うシンプルなもの。
LF回路は聴感の印象のとおりで、ウーファーは高めの中音を含めて高い音をまるっと削ぎ落とされているようだ。対してHF側は、意外にもそこまで中音をカバーするようには見えない。この設計が、中音が薄い感じのする一因かもしれない。
整備
いくつか手を入れてみたい改修があるけど、あまり大掛かりな整備はしたくない。中音を少し引き出したいので、そのイコライジングをネットワークで軽く行うくらいでいいかな、という心積もりでやっていく。
センターキャップの補修
分解中に気がついたセンターキャップのひび割れは、丸ごと交換してもいいのだけど、キャップを見繕うのに時間がかかるのがイヤなのと、損傷の範囲がわずかなので、ここは接着でお茶を濁すことにする。
接着剤は、最近お試しで使っている「B7000」というもの。竹串の先に少し馴染ませて、割れ目に薄く塗りこむ。
B7000の使用感は、以前使用していた「E6000」とほぼ一緒。糸を引く感じがあるけど、いわゆる「G系」のものよりは扱いやすいのも同じ。異なるのは、E6000と比較してB7000のほうが粘性が少し低く、指触乾燥時間が短い。B7000のほうがより瞬間接着剤に近い印象だ。
そのままだと接着剤がテカテカして目立つので、キャップ全体をテカテカにすることで隠ぺいする。
水性の液体ゴムを3倍希釈くらいにして、筆でキャップに塗る。
適当な塗料でもいいのかもしれないけど、キャップの表面のコーティングの上から塗った塗料が上手いこと定着するかわからないので、無難に透明のアクリルエマルジョンにしておく。
とりあえず3回重ね塗りしたところで、これ以上塗っても見た目はあまり変わらないだろうということで終了。
ネットワーク回路の改修
センターキャップの補修と並行して、電気的な部分の調整も進める。
ツイーターのマグネットを見てまず思ったのは、「もう少し下まで伸ばせるんじゃない?」ということだ。ツイーターにもう少しだけ下の帯域を担ってもらえれば、気になっている中音域の薄さを解消できるのではないか。
整備前のクロスオーバー周波数付近の、各ユニットの波形は下の図のとおり。
ウーファーのフィルターを少し弱めるのも手だけど、2ウェイシステムの場合は個人的に、ツイーターが広帯域を担う鳴りかたのほうが好みなので、HF側の回路を弄ってなんとかしてみる。
2kHz付近を少し持ち上げたい。そこで真っ先に思い立ったのが、直列のコンデンサーを追加して-18dB/octにしてしまうこと。
このくらいの増補なら、あまりツイーターユニットに負担をかけずに済みそうだ。出音自体もひずんでいない。ここからアッテネーターを少し調整して鳴らしてみる。
しかし、問題ないだろうと踏んで聴いてみると、たしかに中音は整備前より聴こえるようになったのだけど、女性ボーカルがガサついて汚らしくなってしまっている。特定のセリフでヒリつくようになってしまい、ハスキーめな声質だとひときわ目立ち気持ち悪い。
これが緩和される程度までアッテネーターを少しずつ強めていき、なんとか聴けるくらいに収まったのが下の図。
波形としては、意図したとおりになっている。ただ、薄まってはいるもののこれでも女声のヒリつきは完全に無くなってはいないし、アッテネーターを強めた影響がほかの帯域にも出ていて、高めの中音がまろやかになりすぎてつまらない音になってしまっている。まろやかな雰囲気はこれはこれでアリだという気がするけど、今回はオリジナルのバランスからかけ離れることはしたくないので、再調整となる。
ちなみに、位相接続については改修後もオリジナルのままであるほうが自然なので、変更しない。
周波数特性の波形を見たり、ツイーター単独で聴くとなんともないのに、ウーファーと一緒だとキツい音になってしまう。でも、定位感は改修後のほうが明らかに良い。フィルターを-18dB/octに変更したこと自体は、そこまでおかしいものでもない気がする。
新たに挿しこんだ10μFのコンデンサーを、約15μFに変更。持ち上げていた2kHz付近を少し引き下げるかたちにする。すると、ボーカルのヒリヒリが霧散していることを確認。持ち上げたものを元に戻しているので、当然といえば当然ではある。
再度アッテネーターを調整して、最終形となったのが下の図。日付が変わり測定環境をいったんリセットしているので、あまり正確な比較にはなっていないことを付記する。
そう。結局、稜線の形状は整備前のオリジナルとほとんど変わらない状態に落ち着いたのだった。しかしそれでも、中音の聴感はけっこう変わっている。
想像するに、もともとの音が中音域を落とし気味にしてドンシャリになっていたのは、特定の汚い音を現出させないためだったのだろう。あるいは、CDレシーバーのR-K711と合わせるとちょうどよい感じになるのだろうか。
なんにしても、面倒くさがらず耳で音を聞くことがいかに重要であるかを再認識するしだい。
吸音材の変更
これも個人的な趣向なのだけど、ウーファーの真後ろに大量の吸音材を置くのが、あまり好みではない。ここも調整しておきたい。
底面のフォームを除いて、既存の吸音材を撤去。ここに、吸音材として最近よく使用しているポリエステル繊維でできたシートを切り出したものを配置する。
座布団などの中材として使用される「固綿シート」である。吸音材として使えることに気づいてから、手芸用品店で定期的に手に入れるようになった。
これをツイーターの裏の側面、バスレフダクトを挟むかたちで貼りつける。
既存のエステルウールは、ダクト周りだけ元に戻す。そのあと、特性を見ながら、少量の固綿シートをネットワーク基板周りに置いていく。
吸音材の配置の変更の結果、周波数特性としては80Hzから150Hzくらいまでが持ち上がることとなる。
こりゃいいやと思い音をしばらく聴いていると、たしかに量感は上がっているのだけど、いわゆる"バスレフ臭さ"も強調されて、音自体がボンつくようになりチープになってしまっていることがわかる。質感については、オリジナルのほうが断然良い。
そして、ネットワーク基板の正面、つまりウーファーの後ろ側に吸音材を増やして、ある程度抑えることで対処する。これも結局、オリジナルの配置に寄せるかたちになったのだった。
改修後の音
妙にセンシティブなツイーターに手こずったものの、ひとまずやりたいことはできた。フィルターの変更により、中音の定位感が向上している。
ネットワーク回路についてはもっと詰められそうだけど、気力が尽きてしまった。ツイーター並列のコイルの容量を吟味すれば、さらに滑らかな音にできそうな気がしなくもない。
ウーファーのフィルターレス化
とりあえず参考に見ておくか、くらいの気持ちで周波数特性を測定していたのだけど、結果は思いのほか悪くないな、という印象だ。
これなら、ウーファーは直結配線で、そこに1.5μFくらいのコンデンサーでフィルターしたツイーターを被せるくらいでもいいんじゃないか。もしツイーターの調整が思うようにいかないようなら、その案に切り替えてもいいかもしれない。そんなことを思いながらウーファー単独で音を聴いてみる。
すると、こちらでもツイーターのひずみと同じような違和があり、あまり長時間聴いていたくはない音であった。小さめのコイルで高域方向を落としたい感じだ。でも、それだと当初想定していた整備方法と大差はないから、あまりやる意義はないかなということでウーファー側の調整は取りやめとなった。
まとめ
じゃじゃ馬だな、という印象。特性上も外観上も、ユニットの性能に余裕があるように見えて、実際はシビアな調整を施して鳴らしている、というのが整備をしてみた感想だ。
言い換えれば、このピーキーなスピーカーの制作陣は上手いこと手なずけていたのだ。自分のようなシロウトが付け入る隙なんてないといえる。
別のスピーカーの整備の合間にやろうとしたのが間違いだった。シンプルな見た目に驕り侮るなかれ、ちゃんと鳴らそうと思ったら、それなりに腰を据えなければならない代物だった。
終。