ケンウッドのスピーカー「LS-K731-M」を手に入れた。少し手を加えたら音が化けたので、その内容を記す。
形に惹かれた
「LS-K731」は、ケンウッドの「Kseries」に属されるパッシブスピーカー。同シリーズのレシーバーとの組み合わせを想定されているようだけど、スピーカー単体の販売もされていた。
特徴として、クロスオーバー周波数が高めに設定されている。
公称で13kHzという、ウーファーはフルレンジに近い広域の周波数帯を担っている。
ツイーターは、再生周波数帯域の上が65kHzで、これまた広帯域。メーカーはスーパーツイーターと呼んでいる。用途的には、それで間違いなさそう。
どんな出音なのかも気になったのだけど、単純に「形」が好みだったから惹かれたスピーカーだ。
マホガニーっぽい赤みがかった木目調の仕上げと、何の変哲もない直方体の筐体。いかにもスピーカーっぽい。「音も堅実だといいな」と思いながら、オークションで中古品を落札してみたのだった。
改修前の音
さっそくヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋いでみる。
このスピーカーは、大型のバナナプラグ対応ポストが付いているのも良き。
とはいえ、以前整備した「LS-VH7」ほどではない。
公称50Hzはちょっと怪しいけど、結構低い音も聴こえてくる。シンプルなパルプコーンらしい、柔らかな低音だ。
メーカーが「自然なボーカル」と謳う肝心のボーカルは、ちゃんと真ん中で定位して鳴っている。
たしかに聴こえ方は自然かも。ただ、女性ボーカルのような細い高音の場合は、やや引っ込み気味。男性ボーカルは大体自然に聴こえる印象。
高音域は刺さるような感じも無く、控えめに鳴っている。これはもうちょっと主張してくれてもいいな。
分解
中身を見ていく。
といっても、この製品は2011年発売の比較的新しいもので、経年劣化による機械的な不具合はほぼ無いとみている。
今回メインとなるのは、外装仕上げの塗り替えだ。
各ユニットは、六角穴のタッピングネジ4本ずつで留まっている。それらをすべて外しても、エンクロージャーのザグリ穴にカッチリ嵌っていて、動かない。
背面のスピーカーターミナルユニットを外し、そこから細長い棒状のものを使って、内部からユニットのマグネットを軽く突っついて押し出した。
各ユニットは、アルミダイキャストのフレームで組まれており、意外としっかりしている。価格帯から、ここを平気で樹脂製にしてしまうスピーカーも多い中、拘っているのは単純に嬉しい。
筐体内の吸音材は、下部と左右にウレタンスポンジシートを貼っている。
さらに、背面上部のバスレフダクトの接合部付近に、小さなウール系のシートがダクトに跨るようにくっついている。
ウーファーユニットの真裏に、小さなファイバーボードに乗せられたクロスオーバーネットワーク回路がある。
ボードは、エンクロージャー内部に接着されたMDF片に、バインド頭のタッピングネジ2本のみで固定されている。
ここはせめて3点留めにしてほしかったところ。
ネットワークは、シンプルなもの。パーツは3点しかない。
なお、ツイーターは逆相となっている。
整備
筐体内部で改修するのは、
- コンデンサーの交換
- 吸音材の追加
この2点のみ。
今回は、外装の整備に時間のほとんどを費やした。
コンデンサー
コンデンサーも、元からフィルムコンデンサーなので換装しなくてもいいかとも思ったけれど、とりあえずポリプロピレンフィルムコンデンサーにしてみることにした。前回の整備とは逆で、あえてコンデンサーの"色"を出すことでうまいこと高音が前に出てくれればいいな、という期待からだ。
用意したのは、Solenの「FastCap」。
既存と同値の0.82μFという静電容量で、当時容易に手に入ったのが、Solen製コンデンサーだった。
正直、このスピーカーには高価すぎやしないかとも思ったけど、容量が小さいおかげで他製品との差額が小さいし、自分の改造では採用したことがなかったコンデンサーなので、これを機に使ってみることに。
本体の接着は、最近出番の多いG17。
物体どうしの強固な接着を主目的としない、振動抑制などの補助的な使い方をする場合は、硬化がそこそこ早いこの接着剤を使うことにしている。
吸音材
このスピーカーは割としっかり吸音材を配置していて、それを弄るつもりはない。
ただ、背面上部のバスレフダクトと天井面に、1cm程度の隙間があることに気付いていた。そこには何か詰め物をしておきたい。
手元に15cm角のウールシートが余っていたので、それを軽く折り込み、ダクトに巻くように配置してみた。
結果として、上下左右の四方に吸音材を配することになった。
内部の整備はここまで。
エンクロージャー
ケンウッドのスピーカーには大体当てはまると思うのだけど、外装がチープ。せっかく音質面で優れているのに、外面が追いついていない印象。
本機もそれに該当。これを多少なりとも改善したいのだった。
マホガニー風の赤い木目はいいのだけど、PVCカッティングシートの安っぽい光沢とつるつるした手触りを消したい。同時に、擦り傷もなるべく目立たなくなってほしい。
ホームセンターに足を運んだら、ウレタンニスに「つや消しクリヤー」があったので、これを上から塗ってみることに。
とはいえ、油性ニスなんてほとんど扱ったことがない。手探りで進める。
バスレフポートにあるリング状のフェルトは、塗装前に外しておく。
とりあえず、表面の汚れを可能な限り落とし、刷毛で適当に塗ってみる。
地がペラペラのPVCなので、やすりで擦ることはしなかったけれど、今思えばプライマーくらいは塗っておけばよかったな。
乾燥に時間がかかる。「冬期は5~6時間」とあるけど、その程度だとまだ表面が柔らかい。完全に硬化するまでに8時間は要する。
硬化後、
- 400番で空研ぎ
- 塗布
- 再度400番で空研ぎ
- 塗布
- 800番で水研ぎ
- 塗布
- 1500番で水研ぎ
- 塗布
の順で作業。
完全に硬化していないとやすり掛けができない。そして、塗膜を厚くしすぎた箇所があれば、そこをやすりで削って平滑にする作業も挟まってくる。
とにかく時間がかかる。
つやを出すなら、最後にコンパウンドやらバフ掛けやらをするのがいいのだろうけど、今回はつや消し仕上げなので、乾燥したニスの塗膜をそのまま生かすことにする。だから、余計に誤魔化しが効かないのだ。
結果、プラスチックな質感は減ったけど、今度はハンドメイド感が出てしまった。
まず、改善できない点として、どうしても空気中の埃が付着して一緒に硬化してしまう。
いくらていねいに塗っても無意味であることを、ここで悟らなくてはならない。
そして、均一な塗膜の形成が難しい。塗膜が薄いと刷毛跡が残るし、厚いとムラができる。一度に盛るニスの量の調整が至難。
これは、刷毛ではなくスプレータイプのニスを薄く吹き付けていくことで解決できそうだけど、前述の埃の件があるので、これも無意味。
結局、シロウトが綺麗に仕上げようと思ったら、カッティングシートくらいしかないのだ。
油性ウレタンニスによる仕上げは、たぶん二度とやらないだろう。
乾燥後、外しておいたリング状のフェルトをバスレフポートに戻すことを忘れずに。
各ユニット
ユニットの黒皮のアルミフレームは腐食こそないけど、前面の表層部をよく見るとくすんでいる。
これを、ライターオイルを浸み込ませたウエスと、アルコール洗剤を含ませた綿棒を使って、皮膜が取れない程度に拭き取る。
スピーカーターミナル
スピーカーターミナルのポストは、分解して錆び落としの溶剤で洗浄。
錆びていたタッピングネジも、すべてステンレス製に交換する。
ネジは、なべ頭の4mm径、首下16mm。
改修後の音
今回、音に直接関係してくる改修はほとんどしていない。にもかかわらず、整備後の音はだいぶ改善されていた。
高音域が聴こえてくるようになった。
ツイーターは、ネットワークのコンデンサーの換装しか手を入れていない。ためしに、ツイーターだけ駆動するようにして新旧聴き比べてみても、改修後のほうが鳴動音が明らかに大きい。
よくわからない。
中低音は、こちらもなんとなくスッキリとして解像度が上がって聴こえる。
偶然インシュレーターの最適な配置が見つかって良かった、ということにしておく。
まとめ
音質面の変化は、よくわからない。
今回起こった改善の傾向がほかのスピーカーでも同じように発現するなら、ツイーターのHPFに使うコンデンサーはSolen製に限られることになる。おそらくそうはならないと思うけど、もっと安いコンデンサーがあるなか、YAMAHAのパッシブスピーカーがSolen製をチョイスしていたこともあるし、音質面で優れているのはあり得ない話ではないのかも。
スピーカーについては、コストパフォーマンスに優れている印象を受けた。
低音が下支えする安定感のある出音もさることながら、構造的にもちゃんとオーディオスピーカーのセオリーを踏襲しようとしている。
今は生産を終了しているけど、当時これが新品でペア1万円程度で購入できたのなら、良い買い物だったのではないだろうか。
終。
(以下資料)