いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Pioneer S-N901-LR の音の変化を確かめる

イオニアの3ウェイブックシェルフスピーカー「S-N901-LR」を入手し、音を自分の好みに調整しようとしてみた。その覚書。

 

素性

1998年に同社システムコンポ「FILL」シリーズのスピーカー部として登場した。当時流行りのいわゆる"高級ミニコンポ"で、コンポーネントはそれぞれ単品でも購入できた。
このFILLシリーズには、プリメインアンプは「A-N901」と「A-N701」、スピーカーは本機S-N901-LRと「S-N701-LR」、それぞれ2種展開され選択できた。型番に"901"と付くもののほうが上位に相当するようだ。
 
S-N701-LRは2ウェイ2スピーカーで、13cm径のウーファーと2.5cmドーム型ツイーターを搭載。対して本機はミッドレンジドライバーが加えられた3ウェイ3スピーカーで、ウーファー径も16cmとひと回り大きいものが搭載されている。

PIONEER S-N901-LR
3ウェイらしくワイドレンジをウリにしており、定格の再生周波数帯域は広め。上は60kHzまでとなっており、いわゆるハイレゾ再生もこなす。下も35Hzと、このクラスでは必要十分。
 
ちなみに、アンプのほうはというと、PHONO入力の有無と、内部に使われているパーツの一部が異なる程度で、両者で基本性能はほぼ変わらない模様。外観も瓜二つ。
 
なかなかインパクトのある見た目をしていて、いつか音を聴いてみたいと思っていた。中古市場ではたまに流れてくることがあるけど、ミッドレンジのドームが潰れているものをよく見かける。今回ようやく状態の良さそうなものを手ごろな値段で入手できた次第。
 

外観

エンクロージャーは、背面を含めたすべての面が木目調の化粧シートで覆われている。

背面と側面
このシートは表面に特有のスベスベ感があるのだけど、あまり安っぽい感じはしない。同じパイオニアの「S-UK3」に使われているものと同じものっぽい。

赤褐色気味の、チークのような色合い
 
S-N701-LRより体積が大きいとはいえ、前面バッフル部は一般的な小型ブックシェルフスピーカーと変わらない面積。しかも、両サイドはR処理が施されている。ここによく3ユニットも収めたものだ。

ミッドレンジとツイーター
ミッドレンジがソフトドームなのが特徴的。3.5cm径という、大きめのものだ。中音域を担うのならここは安価なコーン型ユニットでもいい気がするのだけど、あえてこちらを採用しているのだろうか。
また、ツイーターとミッドレンジには、バッフルにフェルト製のリングが貼られている。

なかなか手間がかかっている
ヤマハの「NS-10M PRO」なんかは、高音域の抑制として同じように付されているけれど、それなりに厚みのあるものだった。対してこちらは、手で触れるかぎりかなり薄そう。意匠的な意図だけであれば、ただでさえ狭い前面の面積を割いてまで用意しないだろうし、やっぱりなにかしら音質的な調整を行っているように思う。回折の対策だろうか。
 
重量が1本あたり7.9kgと、ミニコンポに組まれるスピーカーとしては重い部類。前背面が小さい分、奥行きにある程度余裕を持たせている。
ただ、叩いてみると反響音がそれなりに聴こえてくる。ここは、そろばんをはじいている箇所なのかもしれない。
 
背面にはバスレフポートと、バナナプラグが挿さるタイプの埋込型コネクターユニットがある。

シングルワイヤーのコネクター
 

改修前の音

音を聴いてみる。オーソドックスな3スピーカーを鳴らすのは久々だ。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。これもそれなりの期間使い続けているので、そろそろ買い替えたいところ。
一聴では、なんというかあまり3ウェイっぽくないな、という印象。無難だ。
 
低音は、けっこう低いところまで出ている。量感も十分。ただ、エンクロージャーに触れると、けっこう振動していることがわかる。函側がエネルギーを受け止めきれていないようだ。
中音域はやや引っ込み気味で、ちょっとフワフワしている感じ。もう少し輪郭があって、張り詰めた感じがあるといいかな。
高音は線が細く、クリア。特定の音で刺さるようなこともない。こちらももう少しツヤっぽい感じというか、瑞々しさがあるほうが好みではあるけど、これはこれで。
 
再生周波数帯域という面でのレンジ感でいえば、たしかに広くカバーしている印象がある。ただ、音の厚みやパース感は際立つものが感じられない。音数が増えてきたときに各ドライバーユニットが連携してそつなく分解してゆく、あの感じがあまり無い。
おそらく6dB/octのゆったりしたクロスオーバーなんだろう。クセが少なく、柔らかい音といえばそうなのだけど、あやふやともとれる感じ。
あと、ツイーターはかなり高い音のみ出しているようで、ほとんど聴こえてこない。これもおそらく、ミッドレンジドライバーが実質的にツイーターも兼ねていて、ツイーターユニットは人間の可聴領域外を担うスーパーツイーター的な位置付けなのだろうと予想する。ヤマハの「NS-1000MM」で見たものと同じでは、と。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(前面バッフルから30cmの収音)
およそ聴感のとおりといったところ。いわゆるドンシャリ気味の音。
聴感的には中音域がもう少し落ちているような印象だけど、波形的にはそこまでではないようだ。

周波数特性(前面バッフルから75cmの収音)
 

分解

もう少しなんとかならないかな、と思い巡らせながら、内部を見ていく。
 
このスピーカーのドライバーユニットはすべてタッピングネジで固定されているのだけど、見てのとおり前面のネジ頭はすべて隠されている。ウーファーは樹脂製のキャップ、ミッドレンジとツイーターはフェルトのリングを、各々取り除かないことにはアクセスできない。
ウーファーは、比較的容易である。ネジがある部分のザグリに嵌っているだけなので、先の尖っているものでサイドを引っ掛けるようにして持ち上げる。

接着剤などは使われていない
リングのほうは、いずれも両面テープで固定されている。このリングは再利用したいので、切れたり伸びたりしないようにゆっくりと剥いでいくしかない。

剥げやすそうなところを見つけて、持ち上げる

ミッドレンジのリングを取り除いた図
これをクリアできれば、あとはネジを外すだけだ。ちなみに、ウーファーのみ六角穴で、そのほかはプラスネジ。
 
各ドライバーを見ていく。
ウーファーユニットは、プレスの金属製のフレームに樹脂製のバッフルプレートを乗せるような構造をしている。

ウーファー。B16LR92-52C
マグネットの大きさは標準的。防磁カバーにより内部は見えない。
細かなドットが浮き出た振動板は紙製のようで、表層になにかコーティングが成されている。エッジはラバー製。しなやかだけど、ロールが小さいためか、コーンの前後方向の振動自体はやや渋め。

コーン拡大
ミッドレンジは、こちらもなにかが塗られているソフトドーム。ベースはファブリック系のようだけど、コーティングのおかげで手触りはビニールっぽい。

ドーム拡大。鏡面に近いツヤツヤ感
3.5cm径ドームということで、背負うフェライトマグネットの径もそれに見合う大きさである。

ミッドレンジ。FADF87-51C
磁気回路はこちらもカバーで覆われているけれど、ケーブルを接続するタブがある部分はカバーが逃げられていて、内部のマグネットが見える状態となっている。

チラリと覗くマグネット
前面側にある三つの小さな六角穴ネジを外すと、振動板とマグネットを分離できる。

ミッドレンジユニット内部
ここで初めて、ドーム内部に大量のグラスウールが詰められていることが判明する。この"詰められている"は言葉のとおりで、ボビンやドームに接触するほどパンパンに存在する。

ギャップ内の磁性流体を吸ってしまっている
ここまで大量にあるのは初めて見る。ギャップの中にまで入りこむほどの吸音材。いくらなんでもやりすぎなんじゃないの? と、このときは思っていた。

中心部の溝内にもある
 
ツイーターは、メーカーによって呼び名が異なるタイプのもの。パイオニアのこの製品では「ドーム」型みたいだけど、ダイヤトーンのとある製品では「コーン」型だし、「セミドーム」とか呼ばれたりもする。

ツイーター。FK26AP02-67C
ここではドーム型と呼ぶことにする。なんにしても、この形状のツイーターは低い音は端から出ない印象だ。
ネオジウムマグネットだろうか、かなり小型。背面に小さな銅テープが貼られている。
 
筐体側を見ていく。

俯瞰
エンクロージャーは、前面がMDFで、そのほかの面がパーティクルボードで組まれている。
MDFは一番厚い部分で30mm、ウーファーのフランジ接合面の一番薄い部分でも20mm以上あり、このクラスのスピーカーでは厚めのものが採用されている。

約21mm
ただ、そのほかの面では14mm程度となっており一般的。特に補強などもされておらず、やや頼りない感が否めない。低音再生時に筐体が振動するのは、重量のバランスが前面に寄りすぎているからかもしれない。同じ厚みなら、こちらもMDFにしたほうがいい気がする。
 
吸音材は二種類のニードルフェルトが使われている。底面と背面に柔らかめのものを、バスレフダクトと内壁の間に挟まるような位置に硬めのものを、それぞれタッカー留めしている。

天面側

底面側
背面のコネクターユニットの配線の接続は、平型端子にはんだ付けされている。

端子のサイズが合っていないため?
ドライバー類の接続も平型端子だけど、そちらは嵌合されているだけ。なぜここだけはんだが流されているのだろう。
 
ディバイディングネットワークのパーツ類は、紙製のベースにまとめられ、底面の吸音材と一緒に固定されている。

見た目がなんだか古臭いディバイディングネットワーク
コンデンサーとコイルがそれぞれ2個ずつしかなく、一瞬NS-1000MMで見たようなミッドレンジとツイーターを一回路が兼用する2ウェイ構成の回路が頭をよぎったけれど、実際はちゃんとセパレートされているものだった。

ネットワーク回路
出音を聴いたときに想像したとおりで、フィルター的には必要最低限といった感じ。それでも、ツイーターのコイルは空芯コイルだし、ウーファー直列の有芯コイルは径が太めの導体のものが使われている。コンデンサーはU-CON製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーだ。さすがにある程度は音作りを意識したものとなっているっぽい。

日本製ではないのかもしれないけど
 

整備

最近の整備では、音のバランスの変更をほとんどしていなかったけれど、今回はけっこう大々的に手を入れてみる。もうちょっとなんとかなるんじゃないかという気になったのだ。
 

ミッドレンジユニット

ミッドレンジは、磁性流体の引換えと吸音材の減量を試す。
ギャップの中に平筆を突っ込み、古い磁性流体を掻き出す。オリジナルの磁性流体はかなり重めで、しかもこれまた大量に封入されている。

掻き出すのもひと苦労
シンナーを使って綺麗にしたのち、新しいものを流す。ほかのスピーカーの整備にも使っている、ほどほどの粘度のヤツだ。

マイクロアプリケーターでトロトロと
これを、目分量だけど既存の半分程度の量をギャップに流しこむ。
そして吸音材のグラスウールは、振動板と接触しないように円の外周を切り落とし、中心に詰めておく。

このときは、これでも多いんじゃないかと思っていた
本当ならここはフェルトにしてしまうところなのだけど、ちょうど手持ちを切らしていたのでグラスウールを再利用する形に。
 

ウーファーエッジ

ウーファーのエッジに、ラバープロテクタントと含侵させる。
綿棒に浸みこませて、エッジ表面をなぞるように塗っていく。

しっとりとしたエッジ
 

バインディングポスト

背面のコネクターは特段異常は無いけれど、ポストのキャップにあるゴムリングが朽ちているので、ポストごと交換してしまうことにする。

よく見る汎用のポスト
ネクターユニットの裏面にあるナットを外してポスト本体を付け替えるだけなので特筆すべきこともないけれど、既存はネジの緩み防止剤的なものがいっさい使われていないのは気になった。

交換後のコネクターユニット
 

吸音材

エンクロージャー内の吸音材を追加する。
先日の整備でカー用品のグラスウールシートを内壁に貼り付ける方法が良い結果だったので、味を占めて今回も同様に実施する。ただし、前回よりも奥行きのある筐体なので、それに合うようにグラスウールシートもやや幅広のものをチョイスする。
内部にある既存のニードルフェルトは、いったんすべて取り外す。

吸音材の無い状態の筐体内部
そののち、グラスウールシートを両側面と底面を通るコの字型になるように配置。既存のニードルフェルトは柔らかめのほうを適当な大きさに切り出し、天面に再配置する。

グラスウールシートは無加工でそのまま投入
一面だけ材質の異なるものとし、定在波の抑制を狙う。
接着は、シリコーンシーラントと、一部をG17とする。シリコーンシーラントはヘラで伸ばし、接着面積をなるべく稼ぐ。
購入したグラスウールシートは厚みが5mmで、単体ではやや不足気味だと感じたため、追加でもう一枚貼りつけて10mm厚とする。
さらに、背面の上半分にもニードルフェルトを設ける。

筐体内上側を見る

筐体内下側(ウーファー真後ろ)
写真ではバスレフダクトの下が変に空いているのは、この時点ではどうするか決めかねているためである。各ユニットを組み上げて、音質の最終調整の段階で追加するかどうかを決める。
下半分は、ディバイディングネットワークを固定するスペースとして空けておく。
 

ディバイディングネットワーク

フィルター回路の調整は、いつもならシミュレーションを使いながらアタリをつけていくところから始めるけれど、今回は実際の音を都度収音し、波形を見ながら細かく調整をかけていく方法を採る。
 
ウーファー
ウーファーのLPFについては、オリジナルの6dB/octから12dB/octに変更することは、整備を始める前から決めていた。中音域に張りを持たせるための定番の方法だからだ。
ただ、今回は既存の0.55mHのコイルは再利用したい。本来であれば1mHくらいのものを用意したいのだけど、既存のコイルと同じくらいの径の導体を使っているものを購入する予算がないためだ。直流抵抗を小さくしたい、というメーカーの意図だと汲んでいるため、それはそのままとしておきたい。
コンデンサーを並列で設ける。

ウーファーの周波数特性比較
オリジナルでは、ウーファーからも割と高音域が出ているので、これを抑えたい。10μFのコンデンサーを追加すると、3kHz付近がせり上がり、聴感上も明瞭度が上がることがわかるのだけど、それでもまだ高音のヒリつきが気になる。さらに静電容量を増やして20μFとしてみたところでようやく落ち着くけれど、せっかく鳴っていた3kHz付近が削がれるうえに、音自体にも違和感がある。ここはとりあえず中を取って15μFとしてみる。
 
ミッドレンジ
ミッドレンジは、それなりに低めの音も再生できそうな雰囲気はあり、クロスオーバー周波数を思い切り下げてみたい気持ちがあるものの、先述の条件によるウーファーの再生周波数帯域との兼ね合いで適切とは思えず、今回は見送り。
ここでは、担う周波数帯を明確に区切りたい。

ミッドレンジの周波数特性比較
ミッドレンジについても、とりあえず12dB/octから試す。手持ちに0.4mHの空芯コイルがあり、ちょうどよさそうなので並列で追加してみる。ところが、これだけでは6dB/octのときと大差ないことがわかった。そこで、10μFのコンデンサーを直列に追加して18dB/octとしてみたところ良さそうなので、これを採用する。
特性的には、2kHzくらいまでは問題なく聴こえそう。そうすると、ウーファーの調整のときに見送った20μFコンデンサー追加案でも、ユニットどうしの繋がりは問題無さそうにも思えてくる。でも今は、とりあえずこのままとする。
ちなみに、11kHzから上が下っているのは、直列でコイルを差し込んでいるわけではなく、素でこの特性である。
 
ツイーター
ツイーターのほうは、そこまで気に掛けることはなさそうだ。

ツイーターの周波数特性比較
試しに1μFのコンデンサーを追加してみると、15kHzから下が持ち上がってくれる。ただ、聴感上はそこまで大きな変化は起きない。このまま1μF+1.8μFでクロスさせてみて、耳で判断して問題なさそう。
 
以上の目論見により、パーツを用意し、MDF上に回路を組み上げていく。

ディスクリートで組まれるパーツたち
改修後の回路としては、下のとおり。

改修後のネットワーク回路
ウーファーとミッドレンジにそれぞれある4.7μFと10μFのコンデンサーは、電解コンデンサーとしている。中音域の引っ込み具合はフィルムコンデンサーの影響のような気がしているので、とにかく実在感重視のチョイスとなっている。基本は定番であるニチコンMUSE ES」シリーズを使うけれど、ミッドレンジの一段目のみ「DB」としている。
なお、各位相接続は、違和感のないものを見つけた結果である。

このレイアウトに毎度頭を使わされる
ウーファーの径が大きい分、エンクロージャーに放りこむMDFの面積も広くできる。今回は回路を固定するスペースに余裕があるので、MDFは長辺12cm、短辺11cmと、けっこう広い面積で切り出す。パーツ類を余裕をもって固定できる。

とりあえず完成
固定はウーファーの真後ろ。タッピングネジで固定する。
 

改修後の音

組み上げて音を出してみる。
ただし今回はまず、システムとしての周波数特性の測定から。

改修後の周波数特性
心配していたウーファーとミッドレンジの繋がりは、問題なさそうに見える。2kHz前後の稜線が、オリジナルと比べると少し持ち上がっている。

改修前後の周波数特性
聴感上は、波形以上に中音域が聴こえてくる。パース感があまりないのは変わらずだけど、それでもあやふやな感じがほとんど無い分、全体が安定して聴こえる。こうなると、やっぱり小型スピーカーは明瞭な中音が引っ張ってなんぼなんだな、と思わずにはいられない。

完成後の姿
低音は、整備前後で音の粒感が変わったように感じる。
量感は、整備前のほうがあったように思う。対して整備後は、音自体が重くなったというか、湿度が上がって後を引くような音に変化している。ひずむ音はより泥臭くなり、太鼓類の空気が大きく振動する音はより下のほうから聴こえてくる感じ。
これは吸音材の変更によるところなんだろう。まだ投入の経験が少ないのでなんとも言えないけれど、こういった質的な変化はグラスウール特有のものであるような気がしている。

保留にしていた吸音材の件は、折り畳んだフェルトを追加することにした
 
ところが、そんな諸々の改善点を打ち消してしまう、致命的な変化も同時に現れている。
聴き疲れである。
しばらく音を聴いていると、後頭部あたりが次第にモヤモヤしだして、ストレスとなってくる。中高音域が耳につくような感じはする。
とはいっても、周波数特性的には、どこか特定の音域が突出するようなことがないことは、すでに判っている。おそらく、自分の測定環境では現出しないフェーズでの特定の音の歪みかたが、自分の聴感と壊滅的に合わないようだ。
 
というわけで、原因を特定すべく、再度分解して組み直しとなる。
 

再調整

まずは、ツイーターのHPF。直列のコンデンサーの静電容量を増やしているので、これを元に戻してみる。
しかし、変化は無し。なんとなく12kHzあたりがギラギラしているのかな、と思っていたのだけど、ツイーターは関係ないようだ。
 
次に、ミッドレンジの三段目に追加した10μFの電解コンデンサー。これをフィルムコンデンサーに替えてみる。なにかがひずんでいるのだとしたら、電解コンデンサーの特性とドライバーの相性が悪い可能性があるのでは、と考えた。

MDFを広く切り出していたので、このような大きいPETフィルムコンデンサーでも物理的に収まる
ここの変更は、音の変化は確認できるものの、不快感は依然として残ったままだ。
 
ここで、ウーファーから出ているわずかな高音域が悪さしているのかもと思い立ち、フィルターの特性を少し変えてみる。具体的には、並列のコンデンサーのひとつを電解コンデンサーからフィルムコンデンサーにして、かつ静電容量を増加。そこでさらに、うしろに抵抗器を繋げる。

高音域の波形があるのは、いっぽうはツイーターを接続した状態で測定しているため
これも多少和らぐ程度で、完全に解消までは至らず。
 
ここまでくると、音質的にはむしろ整備前のオリジナルに近づいていて、電気的な対処のしようがなくなってくる。
となるとあとは、ミッドレンジのドームの中にある吸音材の削減くらいしか思いつかない。あまり信じたくないけれど、変更を加えたのはそこくらいしか残っていないのである。
エンクロージャーから取り出したニードルフェルトを円形に切り取り、グラスウールの代わりとしてドームの内部に貼り付ける。

もうここしかないのよ……
オリジナル同様、あえてドームの内側に接触するように厚みを調整する。とはいえ、やはりボビンに擦れているのはいただけないと思うので、元の大きさよりも少し小さくしておく。
 
すると、不快感は嘘のように消え去っていたのだった……
あの大量のグラスウールは、ちゃんと意味があって置かれていたのだ。なんかちょっと腑に落ちないけれど。

再調整後の周波数特性

改修前後の周波数特性(FIX)
フェルト導入後は、ミッドレンジの受け持つ高音域がだいたい1から2dB程度下がっている。あんなに小さな消音材でも、けっこう効果が出るものなんだな。
というか、こんなことするくらいなら、やっぱりミッドレンジはドーム型ではなくてコーン型にしておくべきではないのか、と思ってしまう。

改修後のネットワーク回路(FIX)
これで一安心。ただ、ここまでの調整で、当初整備した状態よりもややオリジナルの音質に寄ってしまっている。だけど、ここからさらに設定を詰めていく気力は残っていない。今回はここまでとする。
 

まとめ

今回の整備では、吸音材について細かな示唆があったように思う。昔ながらのグラスウールの消音は低音域の質に影響がある可能性や、極少量の低密度のフェルトでも状況によっては影響が絶大であること。是非はともかく、それを前提としたユニット設計であることなど。

ウーファーのネジのカバー、無いほうがカッコいいと思うんだけど……
吸音、消音はよくわからないことが多くて、なるべく弄りたくない部分なのだけど、今回の経験も別の製品で生かせるといいな。
 
このスピーカーに関しては、まだ特徴をつかみきれていない。ネットワークの最適化はまだまだ余地があるし、エンクロージャーに内部から補強を施してより堅牢なものになれば、ワンランク上のものに化けそうな感じもする。
 
終。
 

遊び甲斐があるスピーカーだ