オンキヨーのブックシェルフスピーカー「D-200II」を入手し、内外ともにチューンしてみた。その所感。
素性
1987年に発売したスピーカー「D-200」の改良版として、1989年に登場。「Liverpool」の名を冠する2ウェイブックシェルフ型スピーカーである。
本機は同期の「D-500」とともに、小型2ウェイスピーカーとしては異例のヒットだったようで、当時のオーディオ雑誌を覗いても、レビューの論調がとりわけ好評なのも印象的だ。
発売翌年にはスピーカーと組み合わせる前提のコンポーネントシステムを発表していたりする。
相当数売れたらしく、中古市場でもよく目にする。にもかかわらず、価格はそれなりに高値を維持している。
外観
D-200とD-200IIはいつかは入手してみたいと思っていた機種で、状態の良いものを狙っていた。今回購入できたものは、前オーナーがウーファーのエッジを張り替えているものだ。
オリジナルのエッジはラバー製のようだけど、本機にはウレタン製が取り付けられている。あえてそうしたのだろうか。
コーン型振動板は平織りされたカーボンファイバー。軽量高耐久であるカーボンを振動板に採用しているのは、意外とめずらしい気がする。センターキャップはビニールっぽい材質。
ダンパーが柔らかめなのか、表面を指で押すとかなり深く沈む。エッジ自体が柔いのもあって、内部のボイスコイルが割と簡単にマグネットに接触する。
もちろん普段使いする分には異常ないのだけど、たぶんオリジナルのラバー製エッジはそれなりに硬いものを採用して、安定した振幅となるようにバランスを取っていたんじゃないだろうか。
柔軟が過ぎるのも支障が出てしまう好例だろう。
対して、ツイーター。2.5cmのドーム型振動板は「プラズマカーボナイト振動板」というものらしい。
名前からしてこれもカーボンっぽいなと思いきや、表層に処理が成されたチタンのことらしい。特殊な処理を施して、未処理のものよりも硬度を引き上げているのだとか。当時のオンキヨーがよく用いていたマテリアルのようだ。
よく見ると、ドームの外周部の二か所を黒いなにかで抑えるようなことをしている。
レベル調整? 共振の抑制? いずれにしても、これでもちゃんと音が出るものなんだなと思う。
エンクロージャーの外観は、前面以外は暗めの木目調となっている。ユニットを両側面からサンドイッチするような構造で、クラシカルなデザイン。
バスレフポートは背面にある。
前面バッフル部は、ブラックのシートに切り替わる。全体的にスベスベツヤツヤしているなか、この面だけ梨地のシボが施されたザラザラした手触り。
暗色かつ同系統のツートンカラーに加え、各ユニットのフランジ部にも暗い色味の金属パーツで化粧されているので、重々しい面構えをしている。ただ、実際の重量も公称6.8kgとあり、重め。
背面の埋込ボックス型のコネクターユニットは面積が広く、ポストも大型のものが搭載されている。
このポスト部は、回転させてもノブ自体が前後することはなく、内部の抑え金具が開閉する仕組みとなっている。地味ながら凝った機構だ。
いわゆるバナナプラグはそのままでは刺さらない。
改修前の音
音を出してみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。音源は主にパソコンから。
自分の好みの音だ。
バランスとしては、中高音重視。明朗でありながら、勢いだけではなくパースを感じる。密度と解像度が高く、アルニコマグネットのドライバーっぽい空気感がある。
低音域は量感は無いものの、そこそこに高速である程度低い音も出ている。バスレフ型としてはやや物足りない印象だけど、ポートの大きさから想像はできていたし、量を求めなければ問題ない。
それよりも、バスレフポートはダクトの内径より若干狭くなっており、吐き出し時にバサバサというノイズを発生させている。これはなんとかしたいところ。
音域的なレンジ感は平均的。音場は、横方向の広がりは割と狭めである代わりに奥行き方向が広い。
あまりクリアではないし、解析力もそれほどでもないように感じるんだけど、いろんな音が埋もれることなく聴こえてくる。音源内を余すことなく聴かせようとしてくる。クセっぽい感じもほとんどない。
音自体がツヤっぽく潤いがある。ここは別の表現をすると、中音域が重たく、くどく感じるかもしれない。
音楽的で、どんなソースも楽しく聴かせてくれる。こういう質感の音は久しぶりだ。
周波数特性を見てみる。
こうしてみると、特性上はフラットに近い。中高音寄りだと思っていたので、この結果は意外。
2kHz前後に若干乱れがあるように見えるけど、聴感では耳につくような感じはしない。
また、バッフルの真正面からある程度角度をつけていても、中高音域にそれほど変化が見られないのも特徴だ。
いっぽう、なにげなくインピーダンス特性を計測してみたら、バスレフポートの解放時と閉塞時で異なる結果となった。100Hz以上の音域で、大きいところでは2Ωほどの差が見られる。
たいていは低音域以外の稜線はほぼ重なってくるはず。こういうこともあるのか。どういった原理なんだろうか。
また、ここでも2kHz前後にひずみが見受けられる。なにかしら音に影響が出ている可能性はありそう。
分解
この時点でいくつか改善点の候補が挙がっている。内部を見て、確定していく。
分解は、見えているネジを外していくだけだ。
ドライバー類
ウーファー外周部の化粧プレートは、樹脂製のベースに金属パーツが付いているもので、やや脆弱な印象。これを挟む形でドライバーユニットを固定するので、トルクによってはこれがネジ孔から破損してしまうかもしれない。
ウーファードライバーは、金属プレス製のフレーム上に組まれている。
フェライトマグネットは、平均的な大きさのもの。防磁設計となっていて内部は見えない。
カーボンファイバー製のコーンは、内側に紙のよう別素材のなにかが張られている。
特徴的なのが、その一部に塗装と、重りのようなものがくっつけられている点だ。マイナス側のリードが延びている位置に、白い塗膜がある。
その反対側には、四角く切り出されたスポンジのような柔らかい素材のものが接着されている。
もういっぽうのユニットにも、同じ位置に同じように施されている。
オンキヨーのスピーカーユニットには、こういった小技を搭載しているものをたまに見かける。おそらくこれについても、先に見たツイーターのドームと同じように、特定の周波数の共振を抑えるギミックだと推測する。だとしても言わずもがな、原理はさっぱりわからない。
ツイーターのほうは、大きめのマグネットを背負っていて、手に持つとズッシリ重たい。磁気回路はかなり強力そうだ。
前面プレートにあるネジを外すと、ダイヤフラムがくっついた状態でプレートを分離できる。
メンブレンは接着されていて、割と容易に剥がせそうな雰囲気だけど、なんか嫌な予感がするのと、特に用事もないので、今回はそのままとする。
ドームの内側にも細工が施されており、中心部に薄いゴムシートの切れ端のようなものが接着されている。さらに外周部にはファブリックテープのようなものがグルリと一周貼られている。
これだけ徹底していると、いったいなにを制御しようとしているのか、その正体が気になってくる。
エンクロージャー内部
次は、エンクロージャー側を見ていく。
まず目を引くのは、厚さ5mmのウレタンフォーム製の帯が、背面底部の角から前面天面部の角にかけて、空間をぶった切るように渡っていること。
たしかに、定在波の抑制には効果的なのかもしれない。だけど、素材が薄いウレタンフォームというのは頼りない。そのうち経年劣化で落っこちそうな気がする。
空間の真ん中で吸音できればこれでも事足りる、ということなのだろうか。吸音材が極端に少ない点で、国産スピーカーらしいといえばそのとおりではある。
ちなみに、片方のスピーカーには、ウレタンフォームが一枚貼られていなかった。
音質調整としてあえて付けていないなんてことはないだろうから、おそらく施工不良、付け忘れだろう。
筐体は、両側面がMDF、そのほかの面がパーティクルボードで組まれている。厚みは前面が約20mm、そのほかの面が17mm強。
本機のエンクロージャーは前面の左右にRが付けられており、その加工がパーティクルボードでは難しいために側面の板材のみMDFが採用されていると推測する。
ネットワーク回路
本機のディバイディングネットワークは、HF用とLF用に分かれた個別の基板で実装されている。
このスタッド、固定は基板のマウンティングホールに嵌めるだけなので簡便なのだろうけど、取り外すとなると一苦労。手間なので、再利用しない前提で突起を切り取ってしまう。
このHF用基板は、コネクターユニットとは平型端子で接続されている。一見それを抜くだけで容易に切り離せるような感じだけど、その平型端子は別のケーブルも伸びていて、LF側の基板にはんだ付けされているので、抜いただけでは基板を取り出せない。背面からコネクターユニットごと引き抜かなくてはならない。
基板の面積はけっこう広めだけど、乗っているパーツ類はそれほど多くない。シルク印刷も無いことから、このスピーカー専用に設計されたPCBではなく、ある程度汎用的に使う想定のもののようだ。
フィルター回路は、いずれも18db/octを基本とする構成である。ツイーターは逆相接続。
抵抗器は金属皮膜抵抗が用いられている。上記の回路図の定数は、カラーコードを読んだ値をそのまま記載しているけど、測定してみるとすべて0.3Ωほど高い数値であった。
また、ウーファー直列のコイルのうち三段目はインダクタンスの記載がないため、手持ちのテスターでの実測値となる。
コンデンサーの扱いにちょっとした特徴が見られる。
もうひとつは、三段目より一段目のほうが静電容量が大きい点。18dB/octを作る場合、一般的には一段目のほうに小さいものを用いるはず。あえて逆にしているのは、このほうがユニットの特性上適当だと判断しているのだろうか。
整備
さて、整えていくわけだけれど、ウーファーのエッジはすでに張り替えられているし、音のバランスも申し分ない。気になる部分の調整のみにしてゆくことにする。
ネットワーク
ディバイディングネットワークの構成材は、基本的に弄らないつもりでいた。しかし、コンデンサーの容量が、一応規定数値内ではあるものの誤差がそれなりにあり、それが基本的に狂いの小さいフィルムコンデンサーにも見受けられたため、新たに組み直すことにする。
また、既に見てきたクロスオーバー付近の特性的なゆがみを、電気的な調整で改善できないかという目論見もある。
弄らないといっても、30年経過しているであろうコンデンサーは新しいものに交換する。そのさい、ツイーターのHPF用の一段目と三段目を入れ替え、併せて一段目を電解コンデンサーからフィルムコンデンサーに変更してみる。
ウーファー側の回路は定数が若干異なるものの、オリジナルから大きな変更はない。
コイルと抵抗器は基板から取り外し、再利用する。
オリジナルの静電容量は5.75μF。ただ、新しいものは在庫の都合で3.3+2.2+0.47の三つを並列させることになる。合計で約6.0μFとなり少し大きくなるわけだけど、既存の実測値はこれよりさらに大きいくらいなので、改修前と比べて実質的にそこまで差がないし、まあいいかという感じ。
ウーファー用には、パナソニック製の両極性電解コンデンサーと東信工業製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーを組み合わせる。経験として、ウーファー並列のコンデンサーは電解コンデンサーのほうが好みの音になることが多いのだけど、今回はオリジナルの構成をそのまま引き継ぐ形にしておく。とりあえず、ツイーター側のみ変更してみてどうなるかを確認したい意図もある。電解コンデンサーは8.2μF、フィルムコンデンサーは3.3μFとしている理由も、手持ちにあるものから利用しているためだ。
各ドライバーユニットに渡らせるケーブルも新しくする。
ツイーター用にはZONOTONEの「SP-330Meister」。
取り回しが容易で愛用しているケーブルだけど、残念ながら最近値上がりしてしまって、やや手を出しづらくなった。代替品を探しているところだ。
国産のケーブルであり、SP-330Meisterの代替候補として購入したものの、シースが硬く、平型端子の圧着に少しコツが必要とあって扱いにくいため、今後は避けるかもしれない。
2.5mm厚のMDFに組み上げていく。
結線は基本的に裸圧着Pスリーブやリングスリーブによる圧着とする。最近裸圧着端子専用の圧着工具を導入したので、それを使った作業に慣れるため、積極的に利用していく。
端子には念のため熱収縮チューブを被せているけど、不要だったかもしれない。
ネットワーク回路が組み上がったら、いったんここで別の作業に移る。
バインディングポスト
背面のコネクターユニットは大型であるものの、現代であればやはりバナナプラグ着脱の利便性は欲しいところ。というわけで新しいポストに交換する。
オリジナルの埋込型ボックスユニットを加工して使えないかと思ったけど、新たにベースを用意するほうが施工の手間的に簡便そうだったので、辞める。
4mm厚のベニヤ板を切り出し、筐体の内側から固定する方法を採る。
ここにバインディングポストと固定用のネジを通すための孔を開け、塗装を施す。筐体の開口部にマスキングテープを貼り、パーティクルボードの断面にも塗りこむ。
写真ではベニヤ版をエンクロージャーに仮設置してから塗装しているけど、単体で塗装するほうが乾燥が早いし、工程的にもそれで問題ない。あまり意味のない所作だった。
塗料が乾いたら、バインディングポストを取り付ける。
今回用意したのは、透明樹脂製キャップの大型のもの。エンクロージャーに取りつけたときに、オリジナルと見劣りしないように大きめのものをチョイスした。
その後、先に組み上げたネットワーク回路を接続させておく。
バスレフポート
バスレフポートから発するノイズがもったいないので、少し加工してみる。
ダクト部はそのままで、エンクロージャーの開口部をフレア状に少し広げる。直径3cmから、最外周を4cmとする。
適当な紙で型紙を作り、それをガイドとして削っていく。
初めは写真のようにダイヤモンドビットを使って荒削りから始めていたけど、いきなり研磨用のサンディングバンドで削っていけることに気づいてからは、それひとつだけで仕上げている。
削り終えた断面は、バインディングポストのベースと同じように塗装しておく。
組込み
組み上げたネットワーク回路を乗せたMDFとバインディングポストを乗せたベニヤ板を、筐体内に固定していく。
順序としては、まずMDFを固定し、そのあとにベニヤ板となる。
ベニヤ板の固定は、長さ25mmのM3ネジで行う。既存のネジ穴を拡張し、ネジを通せるようにする。
MDFは、タッピングネジで固定する。少し浮かせるため、ネジ孔部に樹脂製のスペーサーを設けている。
ベニヤ板と干渉することを想定して設けたものだけど、うまく譲歩し合える場合はこのスペーサーは不要である。
吸音材
今回はけっこうガッツリ吸音したかったので、吸音材はグラスウールとする。
本来は車やバイクのマフラーの消音材を想定している製品。これは繊維がある程度編み込まれてシート状になっているため、筐体の内壁に接着する場合は都合が良さそうだと思い入手してみた。
厚みは5mmくらい。本当は1cm以上あるものが欲しかったのだけど、シート状だと選択肢がほぼ無かったので妥協。
これを前面と背面以外の面にグルリと張る。
ちなみに、既存のウレタンフォームは撤去せず、そのまますべて残している。
改修後の音
ひととおり作業を終えて、組み上げて音を出してみる。
電気的に手を入れたのはツイーターのほうだけど、思いのほか低音域が改善されている。
まず、バスレフポートからノイズがほぼ無くなっている。また、低音方向に伸びている。ポートのフレア化と吸音材追加の相乗効果だろうと思う。
対して、中高音は目論見どおり、音がクリアになっている。
電解コンデンサーからフィルムコンデンサーに変更すると、高音方向が透き通るいっぽうで中音域の実在感が減少したりするのだけど、このスピーカーにおいてはもともと中音域が充実しているので、フィルムコンデンサー化による弊害が小さいのかもしれない。とはいえ、今回の整備では電解コンデンサーも一部残しているから、それもフィルム化した場合はまた異なることだろう。
また、今回は国内メーカー品に拘ってPARC Audio製をチョイスしたけれど、音をさらに追及するならコンデンサーを別のものにしてみてもいいかもしれない。Solenあたりが良さそうな気がする。
データ的なもの見てみる。
周波数特性では、中音域に現れていた上下に大きく触れる振幅が小さくなっている。これは経験的に、フィルムコンデンサー化すると見られる現象で、音の透明感とか滑らかさに影響がある。
ただ、小さくなってはいるものの、1.5kHzやクロス周波数付近の2.5kHz付近には依然としてゆがみが残っている。ここはウーファー側の調整も必要になる部分なのだろう。
インピーダンス特性は、バスレフポート解放時と閉塞時で発生していた差が無くなっている。これは、イマイチ釈然としない。なにが影響した結果なのだろうか。吸音材の追加か? それとも、整備前の測定はなにかが狂っていたのだろうか。
そして、やはりここでも2kHz付近のひずみは残っている。ユニット固有のものである可能性もあるし、ウレタンエッジに変更している影響もあるのかもしれない。いずれにしても、改善の見込みは今のところない。
不可解な点は残るけど、実害はないので良しとする。
まとめ
非常にコストパフォーマンスの良いスピーカーだと思う。
決してワイドレンジな音ではないけれど、鳴らせる音を品良く、ヌケ良く、有機的に奏でる。これで当時一本3万円でお釣りがくるのならば、文句をつけるほうが難しいのではないか。
インターネット上には「低音が出ない」という評を見かけるけど、それは中高音域と比較すればそうであるという話で、音自体はけっこう下まで出ている。
それが、バスレフポートの静粛化と吸音材の増加によって、ある程度深みを持つ形で改善した。効果てき面とわかったので、ほかになにも弄らずともこの二か所の調整だけは最低限行っておくほうがよいだろう。
手放したくないスピーカーが増えてしまった。
あと、自分はやっぱり1980年代から90年代前半くらいまでに発表されたスピーカーの音が好みなんだな。その時期はオーディオにあまり馴染みがないはずなのに、なんとも不思議なものだ。
終。