ビクターのブックシェルフスピーカー「SX-300」を整備してみた記録。
現在のお気に入り
「Victor SX-300」は、以前、何とはなしに手に入れたスピーカー。
ウーファー、ツイーター共にアルニコマグネットを使用したユニットを積んでおり、かつ密閉型。これも以前整備して気に入っているヤマハの"テンモニ"こと「NS-10MX」とサイズ感も近い。机のパソコン用ディスプレイの横にギリギリ置けるということで、手にしてみたのだった。
ところが、未整備のポン出しでも思いのほか好みの音で、たちまちメインスピーカーに昇格してしまった。
たぶん、机の上に置ける密閉型パッシブスピーカーで、これより上のスピーカーに巡り合えることはそうそうないんじゃないだろうか。それぐらい気に入っている。
今後もつきあいが長そうなので、このたび整備に踏み切った。
改修前の音
音の質としては硬めで、どちらかといえば解析的。だけど、密閉型エンクロージャー特有のタイトで自然な響きと、湿度とパースペクティブを感じる空気感で、飽きることなくずっと聴いていられる。ペーパーコーンが音を適度に和らげている印象だ。
凹凸の無い無垢な音が耳にしっかり残る。純粋に音楽鑑賞を楽しめる。
音自体にあまり悪いところを見つけられない。
強いて挙げれば、レンジがやや狭いところか。高音域がもう少し上まで出ていてもいい。
分解
中身を見ていく。
特徴的な円形の前面パネルは、灰色のゴムリングがパッキンとなり、嵌め込まれている。
ツイーター側の小さいほうは、指先で簡単に外せたけど、ウーファー側の大きいほうは、かなりガッチリ固定されていて、ビクともしない。
そこで、ゴムリングの裾から細い金属ヘラを挿し込み、てこの原理で持ち上げることに。
前面パネルは、金属製の皿形パンチングパネルの上にサランネットを巻いているもの。音質的にはあまりよろしくなさそう。
各ユニットの固定は、いずれもタッピングネジ。ウーファーは黒のナベ頭。ツイーターはバインドネジ。
ツイーターのネジは、一部錆が見られる。ステンレス製に交換したい。
ウーファーユニットにある特徴として、中心部から外側に伸びる4本の金属フレームに、ブチルゴムらしき黒いシートが貼られている。これが、劣化してベタベタしている。
また、コーンの裏側にも「くの字」に切り出されたゴム製らしきシートが、エッジとの境目近辺に接着剤で貼り付けられている。
ただしこちらは3か所。等間隔で4か所ありそうなところ、1か所だけ無い、みたいな配置で貼られている。
おそらく音質調整の一環なのだろうけど、詳細は不明。
吸音材として、ウールのシートが2枚織り込んで詰められている。
底部にひとつと、その上にひとつ。さらに、上部に少しだけタッカー留めされている。
化繊ウールじゃなくて、天然ぽいな。100%ではないだろうけど。
クロスオーバーネットワークは、フェルトを挟んだファイバーボードの上に組まれている。
そのすぐ横に意味深に立っている木片も、音質調整のためだろうか。
ネットワークは、シンプルなもの。
パーツの電気的な接続はすべて圧着で行われ、ボードに接着剤で固定する方法を採っている。
特徴としては、ツイーター回路のHPF用のコンデンサーに、電解コンデンサーとフィルムコンデンサーを並列接続している点。大きなELNA製のバイポーラコンデンサーが、U-CON製の小さな黒いフィルムコンデンサーを背負っている形だ。
メーカー製のスピーカーでは、意外とめずらしい措置である気がする。これも音作りに一役買っているようだ。
なお、コイルはすべて有芯。
整備
見たところ、かなりしっかりとした造りをしている。出音も現状の音が気に入っているので、リファインは慎重にしたい。
スピーカーターミナル
まずは、使いづらいスピーカーターミナルをなんとかしたい。
既存の埋め込み型ユニットを交換するには、筐体の孔の拡張が必要となる。
ノコギリを引っ張り出し、冬空の下、屋外作業。ただ、突板積層合板が結構頑丈で、細い引き回しノコギリではなかなか難儀。
ノコギリを引く際、刃が突板を引っ掛けて剥がさないよう、細心の注意を払った。この工程だけで1時間かかってしまった。
ピンバイスでネジの下穴を開けて、皿ネジで固定。ポストは真ちゅう金メッキ製をチョイス。
ネジ
ツイーターに使われているネジは、すべてステンレス製に交換する。
筐体固定用のタッピングネジと、プレートとヨークを留めているミリネジ。
既存はいずれも4mm径のバインド小ネジだけど、同形のステンレス版が手に入らなかったので、トラスネジで代用する。
タッピングは首下20mm、ミリネジは15mm。
ネットワーク回路
ネットワークについては、コンデンサーの交換をするのみ。ただ、この整備が本機では一番迷うところだ。
ツイーターのHPFに組み込むコンデンサーは、高音域の周波数特性の良いフィルムコンデンサーを選択するのがセオリーみたいなところがある。だけど、音色に既存と同じ性格を出すなら、同じように電解コンデンサーを併用するのがベターだろう。
どうするか。
既存の3.9μFの電解コンデンサーが劣化し、単独で5.6μFまで上昇していたのも後押しした。
フィルムコンデンサーのほうは異常なし。
こういうことがあるから、どうしても電解コンデンサーの使用を避けたくなるのだった。
単体で4.3μFというめずらしい静電容量のラインナップがある、JantzenAudioの「CrossCap」を入手。
ただ、これはあとになって失敗だったかもと思い始めた。どうせ組み込むなら、抵抗値を下げることと、コンデンサーの"色"を消す目的で、容量の小さいものを雑多に並列で付けるべきだったかもしれない。
コイルは既存再使用。とはいえ、配線は引き換えたいので、ついでにファイバーボード上のパーツをいったんすべて撤去し、配置替えをする。
既存と同様、結線は圧着とする。さらに、新たに端子台を括りつけて中継点を設け、整備性を確保する。
ウーファー回路の0.56mHのコイルを撤去してスルーにしてみたい誘惑を退け、とりあえず既存と同じ構成で組んでみる。
このチョイスに特段の意図はない。PVCケーブル以外であれば、なんでもよかった。
パーツの固定は接着剤を基本とし、補助でホットボンドを使用。
付け終えたら、筐体内の元の位置に戻す。
エンクロージャー
明るいカラーのリアルウッドの突板仕上げとなっているエンクロージャーの美麗化にも着手する。
というかむしろ、これが今回のメインとなってくる。
この製品は、角部の突板が非常に割れやすいというウイークポイントを抱えている。手元の製品にも、目立たないながらも割れが見受けられる。
しかし致命的ではないので、今回はパテ埋めなどの補修はせず、そのままとする。
以前も使用した「ワトコオイル」によるオイル仕上げとしたい。
下地作り。以前の作業の反省から、やすり掛けは紙やすりの400番を軽くなでる程度にしておく。中性洗剤やらアルコールやらで表面を拭き取っても、やすりを掛けると砥ぎ面が真っ黒になる。
その後は、
- オイル塗布
- 400番油研ぎ
- オイル塗布
- 800番油研ぎ
- オイル塗布
- 1500番空研ぎ
- 一晩置く
- ウエスで拭き取り
の順で仕上げる。すべて手作業。
たとえ厚さ1mm未満の薄っぺらい突板でも、塗布したオイルが時間経過で表層に浮き上がってくることがあるため、一晩置いて様子を見る工程は必須とみている。
時間はかかるけど、ウレタンニスの重ね塗りよりは短いし工程も楽、かつ仕上がりも良好なので、オイル仕上げはお気に入りだ。
吸音材
組み上げる前に、吸音材を追加しておく。
材料は、多機能断熱材の「サーモウール」を用意。
エンクロージャー内の空いている部分に詰める。
これで、封入量は5割増しとなる。あとは、リスニングを続けながら、必要に応じて量の増減をする。
改修後の音
さて、再度組み上げたスピーカーの音の変化を確認する。
コンデンサーの劣化でクロスオーバー周波数がだいぶ下がっていたツイーターは、理論的には正しい出音になっているはずだけど、聴感上は改修前とさほど変化が無い。
高音域の変化より、中音域に透明感が付加されたようだ。
PPコンデンサーの音に、耳が慣れていないこともあるかもしれない。しばらく試聴してみることにする。
全体の雰囲気として、やや硬さが増した感じもある。
BELDENの白黒ツイストケーブルにすると、理由は不明だけどそういった傾向の音になることがある。ただ今回は、吸音材が増えた影響のほうが大きい気がする。
まとめ
まだ、いくつか詰めたい点もあれど、とりあえず整備完了。またパソコンディスプレイの横に鎮座している。
現代ソースもいいけど、やはり年代が近い90年前後のポップスが心地よく聴かせてくれる。70年代ソウルミュージックやアグレッシブなピアノジャズなどもよい。
中身を見てもわかるとおり、基本に忠実かつ堅実な造りをしているスピーカーだ。
堅牢なエンクロージャー、嵌合の一切無い結線、シンプルなネットワーク、そして、豪勢なアルニコマグネットの磁気回路。
Made in Japan。音に拘った芯のある設計思想を窺い知ることができるものの、現代で同じ仕様のものを造ったら、市場価格はいったいいくらになるのかわからない。
ヒット作「SX-500」の陰に隠れて知名度が低いSX-300だけど、ここまで良質なスピーカーは、なかなか無いんじゃないかな。贅沢な逸品だ。
終。
メモ:
(以下資料)
