いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

SHARP OPTONICA CP-M50 をメンテナンスする

シャープの古いスピーカー「CP-M50」を手に入れたので、整備してみた。

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オプトニカ

インターネットでこのスピーカーを見つけるまで、かつてシャープがオーディオブランドを展開していたことを知らなかった。

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社名と併記の「OPTONICA」
この「オプトニカ」ブランドに関して、情報がさっぱり無い。
シャープの100年史を覗いても、ブランドに関することは一切記載がない。年表に名前すら出てこない。
インターネットをつつく限り、結局、1970年あたりから85年くらいまで「オプトニカ」ブランドでスピーカーやアンプ、カセットデッキを世に打ち出していたこと、高級アンプのラインナップは70年代半ばで撤退したようだ、という程度しか判らなかった。
 
シャープは、オプトニカ以前にもオーディオ機器を発売していたようだ。しかし、パッとしない。
想像するに、その後も製品は依然として評価されず、70年代の不況も相まって高級路線から方向転換。展開は細々と続けるも、オーディオ時代衰退とともに潰えた。そんなところではないか。
 
2000年あたりだっただろうか、「1ビットデジタルアンプ」をシャープが揚々と展開していた頃にも、オプトニカの名は目にしなかったと記憶している。
メーカーとしてはたぶん、黒歴史なんだろうな。
 
変遷をもっとちゃんと知るなら、あとは古本を漁りに出掛けるくらいしかできることはないのだけど、今はそこまでする気力も興味もないので、この辺にしておく。
 

改修前の音

そんなことを調べる前から、音に関してはあまり期待していなかった。形がいかにもAV機器然としていて、外装もチープだからだ。
ただ、ツイーターがペーパーコーンであるのが気になってもいたので、どんな音なのか楽しみだった。

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SHARP OPTONICA CP-M50
いつもいろんなスピーカーを繋いで試聴しているヤマハのAVレシーバー「RX-S602」につなげる。

スピーカーターミナルがゴツいプッシュスナップインタイプで、時代を感じる。

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これは交換する
長期間動いていなかったのか、鳴り始めてしばらくは団子状の眠たい音が続く。
その後落ち着いてくると、やや低音寄りのカマボコであることがわかってくる。
全体的に「スピーカーの奥で鳴っている」雰囲気がある。
高音はあまり目立たない。キラキラした音が得意なツイーターではないなと思っていたので、そこは予想通り。
張りと定位感のある中音と、決して低くはないけどしっかり響かせる低音。音場も広く、それでいて中心に居てほしいものはちゃんと集まる、といったキャラクター。
 
意外だったのは、音の分離が割と良いことだ。もっと煩雑なのかなと思っていたけど、ある程度見通せるクリアさを持つ。
 
高級機と比べなければ、これ、案外いいかも。
 

分解

高音が出ないのは、おそらくツイーターの性格だろうから、ちょっとやそっとじゃどうにもならないだろう。
ただ、クロスオーバーに使われているコンデンサーはたぶん電解コンデンサーだろうという気がしたので、そこのフィルムコンデンサー化でどの程度改善するか確認する。
 

ウーファー

各ユニットは、前面でネジ留めされている。ウーファーは六角穴、ツイーターはプラスネジ。

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ウーファー。コーンは黄ばんでいる
ウーファーの前面フレームは見るからに塗装された樹脂。安いスピーカーによくある化粧プレートかと思いながら外してみると、なんとこの灰色のプレートがウーファーユニットを支えていた。

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嘘だろ……
ウーファーの金属フレームは、エンクロージャーに固定されていない。樹脂プレートの裏にある4つの突起がウーファーにある4つの孔を貫通し、エンクロージャーにあるほぞ穴に嵌る仕組み。
つまり、樹脂プレートとエンクロージャーの間にウーファー前面が挟まれているだけ。

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こんなのアリなのか
ウーファーって、支持物への固定が少しでも緩んでいるとそれが原因でビビりだしたりするものだ。だからどのスピーカーも、最低でもタッピングネジやらを使って4点留めくらいのことはする。
省力化だろうか。それにしたって、重量物の支持に樹脂はないだろう。さすがにこれはいただけない。
 
そんな固定方法とは裏腹に、16cm径ウーファーユニットは造りがしっかりしている。

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ユニットは良いもの造ってるな
腐食も無く、ダンパーの動作も良好。威風堂々とSHARPの大きな印が押されている。
 

ツイーター

ツイーターのほうもやはり化粧プレートだけど、こちらは金属製で、ユニットと一緒にエンクロージャーに緊結する、安価なスピーカーの一般的な固定方法。

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金属プレートはペラペラ
両ユニットとも鬼目ナットを使っていて、変なところだけ几帳面な印象。
 
そのツイーターは、分解を始めてから気が付いたけど、センターキャップが無くなっていた。

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中心部にコイルが少しだけ突き出ている
コーンにある接着剤の跡を見る限り、もともと取れやすい構造のようだ。ネット上に流れている中古品を見ても、同様にこの部分が無いものも多い。
ただし、今回手元にあるのは左右両方ともだ。劣化して剥がれた以外に、音響上の理由から前オーナーがあえて外している可能性もある。
どちらにせよ、この状態だともしかしたらオリジナルの音とは異なるのかもしれない。

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そのほかは、ごく一般的なユニットだ
 

ネットワーク

エンクロージャーを覗くと、ウーファーの真後ろにネットワークが組まれていることがわかる。

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俯瞰
パーティクルボードを円形に切り落とし、バックプレートとしている。その上にパーツを置いている。
バックプレートは、細いボルトナット2点で固定されているのみ。それを外すとエンクロージャーから簡単に分離できる。

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なんでわざわざ円形にしたんだろう
立ちラグを中継点として各パーツをはんだ付けする、古いスピーカーでよく見かけるタイプ。
ただ、配線はなにやら複雑な様相。
 
まず見慣れないのは、ひとつのコアから4本腕が伸びている、ツイーター回路のコアコイル。

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なんだこれ
いずれの腕もラグ板にはんだ付けしてあるけど、内2本は捩ってある。
そして、コアへ巻かれた銅線が、途中からガタガタしている。

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やってんなこれ
よもやと思い銅線をほどいてみると、案の定途中で切断し引っ張り出した後、再度コアに巻き付けていた。

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こんなのアリなの?
おそらく手作業だろうけど、こうする意図はわからない。単にもうひとつ単体でコイルを用意するのを省くためか、電気特性上何か有利なのか。
前者のような気がするけど。
 
この鉄のボビンに印字された数字から察するに、もともとは0.69mHのコイルだったようだ。そこから上記の作業を施し、一組から0.02mH、もう一組から0.25mHを取り出していた。
 
ちなみに、ウーファー回路に直列に設けられたコアコイルのインダクタンスは、同様に読み取ると0.54mHと推測される。しかし、計ってみるとちょうど半分の0.27mHしかなかった。

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LR両方とも同じだった
これも、もしかしたら意図的に減らしているのかもしれない。
だとしたら、なんでわざわざこんなことしているのだろう。0.25mHあたりのコイルを用意するのではダメなのか?
 
ネットワークの接続も不思議なやり方をしている。

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ネットワーク回路
ツイーターのプラスとマイナスが回路内で接続しているので、一見ショートするように思える。
電気回路に詳しいわけではないので、どうしてこれでツイーターユニットが故障せず鳴動するのか、自分にはわからない。クロスオーバーの設計やインピーダンスの計算は、どうやっているんだろうか。
 

整備

メーカーの意図がわからないところが多いながらも、整備できるところは手を加えていく。
 

ネットワーク

回路の正体が判らない以上、大幅な変更はできない。今回は、先述のコンデンサーの換装と、コイルの新規配置に留める。
 
円形パーティクルボードから、ラグ板を含め既存パーツをすべて撤去。ただし、コアコイルは再利用する。
 
ツイーター用に用意したコンデンサーは、JantzenAudioのメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー「MKTCap」。容量は既存と同じ2.7μF。
コイルもJantzenAudio製の空芯コイル。0.025mH。

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コイル、高いから買いたくないんだけどね
この空芯コイルを0.02mHのコアコイルと置き換え。残った元0.69mHコアコイルは0.25mHのコイルとして単体運用する。
 
ついでに、セメント抵抗器も新しくしておく。
 
配線の接続は、スピーカーターミナルのポストに接続するケーブル以外は、すべて圧着とする。

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仮組して、正常に音が出ることを確認
 

スピーカーターミナル

プッシュスナップイン式のスピーカーターミナルを、バナナプラグ対応のものに換装する。
こちらは、単純に付け替えればいいだけだろうと考えていたのだけど、互換品だろうと思って買ってきたユニットの外形が、既存の寸法と微妙に合わないことが判明。

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若干大きくて、ザグリ穴に収まらない
おまけに、ネジ穴の間隔もほんのわずかに合わない。

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左:新規 右:既存
時間がかなりかかるけど、バックプレートのザグリ部をパテで埋めて、ネジ穴を新規に開けたあと、硬化したパテ上に乗せることにする。
パテは、以前エンクロージャーの補修に使ったエポキシ樹脂系パテが大量に残っているので、それを使う。

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いちばん間違いないけど
硬化に数時間かかるので、日を跨ぐことになった。

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カチカチになる
硬化を確認後、暗めのカラーのアクリル塗料で塗装して、また乾燥。
ピンバイスで下穴を開け、3.5mm径のステンレスタッピングネジでターミナルユニットを固定。

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ポストは、雰囲気に合わせてあえて樹脂製キャップ
裏返して、仮組していたクロスオーバーネットワーク回路の各パーツをバックプレートに固定し、完了。

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瞬間接着剤、スーパーX、ホットボンドを駆使
 

吸音材

このスピーカーの吸音材は、底部と背面上半分にフェルトシートがタッカー留めされている。

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ツイーターとバスレフダクトの後ろにあるフェルト
低音域の締りを良くしたかったので、追加してみることにする。
試聴しながら数パータン試した結果、背面上半分のフェルトを半減し、両サイドにウール系手芸綿を追加することで落ち着いた。

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JBLの配置に似ている
 

改修後の音

肝心の音の変化。
高音域は、やはり相変わらず主張は無いものの、音自体がだいぶクリアになった。ザラついた感覚が消え、より自然に聴こえる。
 
併せて、中音域のヌケが良くなり、定位感が増した。こちらも高音同様、ノイジーな感じが減った。ディレイの掛かった音の余韻が綺麗。
フィルムコンデンサー化の良いところがしっかり出ているといえる。

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改修後の姿
低音は、吸音材を追加した影響で、箱鳴りっぽいボワつきが減りよりタイトになった。人によっては物足りないと感じるかもしれないけど、低音域はスッキリしているほうが好みなので、問題なし。
 

まとめ

非常に不安なウーファーの固定は、ツイーターと同じように鬼目ナットを仕込んでボルト留めする方法を採ったほうがいいかもしれない。ただ、それには材料が足りないので、気が向いたときにする。
 
ペーパーコーンツイーター、聴いた限りだとそんなに悪い感じはしない。キンキンせず、むしろ聴きやすい。
この製品はウーファーもペーパーコーンなので、同時に鳴らした際の音質の相性が良いのかもしれない。

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不思議なスピーカーだった
コイル本体に記載のインダクタンスと実測値が大幅に異なるスピーカーに、初めて出会った。
今までは、多少の誤差はあれど、本体に印字された値が当然回路に組み込まれていると思っていた。しかし、おそらく手作業であろう巻き数の変更を施したコイルがサラっと紛れているとなると、中身を覗く立場からすれば、すべて取り外して専用機器で測定するまでは正しい容量が不明である、という前提に立たなければならなくなる。
こういう所作はシャープだけにしておいてほしいものである。それとも、自分が知らないだけで、割と一般的な手法なのだろうか。
 
ネットワークの設計が複雑だったり、ウーファーの固定がおざなりだったり、丁寧なのかそうでないのかよくわからないスピーカーだった。
 
終。
 
(以下資料)

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