ケンウッドのミニスピーカー「LS-XK330」を入手した。若干の調整をしつつ、音を聞いてみた。その所感。
手のひらサイズ
某大手中古物品販売店に立ち寄ったさい、ジャンクコーナーに「現状品」として什器に置かれていたスピーカー。
ジャンクといっても、外観は新品同様で非常に綺麗。出音も問題ないそう。それでいてなぜこれがジャンク品なのか理由はよくわからないけど、致命的ななにかがあるのならそのまま廃棄するなり別のドライバーを換装するなりできるしな、ということで確保。
自宅に戻ってインターネットで型番を調べてみると、2015年ごろに発売した「Kシリーズ」のミニコンポ「XK-330」に付属するスピーカーであることがわかる。この記事を作成している時点で、現行品のようだ。
見るからに小型のこのスピーカー、
スピーカーの横×高さが、新書サイズと同等新書と同等サイズ
と謳っているとおり、2ウェイシステムでありながらまるでサテライト用スピーカーのような風体である。
現代のニーズに合わせ、省スペースをウリにしているようである。それにしても、NS-10MMもかなり小さいと思っていたけど、まさかそれを下回るとは。
外観
製品は「ブラック」と「ゴールド」の2カラーで展開されているようだ。今回手に入れたのはゴールドのほうに付属するスピーカー。エンクロージャーは全身木目調の化粧シートに包まれたものとなっている。
やや明るめのブラウンのシートは、背面まで覆われているのがていねいで良いのだけど、化粧シート自体はよく見るとけっこうチープ。表層には天然木の導管を模したようなエンボスがあるのだけど、溝というよりはドットが並んでいるような加工で、不自然ではないにしろ、決して美しくはない。
ドライバーは、8cmコーンのウーファーと、2cmほどのソフトドームのツイーター。フランジ部はいずれもメタリックな色調の樹脂製で揃えている。
ウーファーは、表面がツヤツヤしたコーンとラバー製エッジの組み合わせ。
エッジは標準的な柔らかさで、硬すぎず柔らかすぎず。大きめのセンターキャップは、おそらくポリエステル製。ゴム製のドームとは異なる柔らかさがある。
ツイーターは、一般的な化繊のドームに見える。かなり柔らかめ。
バッフルプレートは、中心部が楕円形にくぼんでおり、振動板の位置が若干奥まっている。
バスレフダクトは紙製。エンクロージャーの体積の割には径が大きく、ダクト長も長めにとってあるのが印象的。ただ、内部を覗くとエステルウールのようなものが見え、それが開口部を完全に塞いでいる。あえてそうしているのだろうか。
ちなみに、片方のバッフルプレートには、内部のフォームシートがちょこっとだけ前面にはみ出ている。もしかすると、なんらかの理由でいちど分解されているのかもしれない。
整備前の音
試しにテスト用のアンプで鳴らしてみると、音は各ドライバーから問題なく出てくるようなので、そのまま普段使いしているアンプに繋ぎ直してリスニング開始。ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に「DIRECT」モードで鳴動させる。
能率が低い。普段聴いている設定のボリュームだと、音が全然聞こえてこない。とりあえずちょうどいい塩梅になるまで出力を上げる。
ほぼ一日鳴らしていたら、インシュレーターとして置いていた黒檀サイコロのひとつが自然にズレているのを発見。
意外にもアコースティックな雰囲気に仕立てられてある、というのが一聴の感想。小型スピーカー特有の明快で勢いのあるものとは対照的に、ある程度の温度と湿度を蓄えたゆったりとした鳴りかたなのがユニーク。
まず、低音はバスレフを効かせて頑張って鳴っているのがわかる。小さいのによくここまで、と思うけれど、バスレフポートからは低めの中音もそこそこ出てくるようで、曲調によっては特定の音域で潰れて汚くなってしまうこともある。致し方ないところだろう。
中音や高音では、特定の帯域が目立つようなことはなく、自然な質感で鳴らす。安っぽいシャラシャラした感じがあまりしないのはすばらしい。
ハイレゾ対応のツイーターということで、高域方向にしっかり伸びている感がある。ただ、存在感としては程々になっていて、質感もソフトドームの一般的なそれ。全体のバランスを鑑みれば良い具合に抑えられているとは思う。
奥行き方向の定位感はほとんど無いけど、横方向の広がりはかなり広めに聞こえる。音域的なレンジ感も相まって、手のひらサイズのスピーカーであることを忘れる。
個人的には、以前整備した同じKシリーズの「LS-K711」よりも好みの音だ。
周波数特性を見ておく。
およそ聴感と合致するけど、高音域に関しては波形ほど主張はしてこない感じ。
インピーダンス特性も残しておく。
分解
一聴してなんともなさそうではあるけど、先に見たとおり改造されている可能性も無きにしもあらずということで、スピーカー内部を確認しておく。
ネジ
ドライバーを固定するネジの一部は、前面ネットを4点で固定するダボを兼ねる。それらは六角穴である。
緊結はタッピングネジ。
平型端子
内部配線の接続は平型端子。205型のほうのみカバー付き。
整備の最後にもちょっとだけ出てくるけど、このウーファーの平型端子用のタブは、台紙を固定しているアングルが貧弱で、破損しやすい。取り扱いには注意が必要。
コネクターユニット
背面のコネクターユニットは、例によってディバイディングネットワークの基板を背負っている。
吸音材
ウーファーの後ろ側と両サイドにかけてコの字型になっているものと、ツイーターの真後ろに折り畳まれたものがある。また、底部には薄いニードルフェルトも貼りつけられている。
小型の、しかもバスレフ型スピーカーでも、かなりしっかりと吸音する設計のようだ。ここまでしているのは、日本のメーカーの製品にしてはめずらしい。
エンクロージャー内部
ウールを取り払うと、パーティクルボードの端材のようなものがいたるところに接着されているのがわかる。
これはLS-K711でも同じようなことをしていた。なんらかの音質調整なのだろう。
エンクロージャーはMDF製。前面のみ約15mmの厚みが確保され、そのほかの面は9mmとなっている。表面に見えている繊維質は疎らかつ大きめで、インシュレーションボードっぽい雰囲気がある。
前面バッフルのツイーターとウーファーのあいだの部分に補強材が貼られている。
ウーファー
ドライバーを見る。
ウーファーは、ABS製のフレームに組まれたもの。フランジ部と一体で、必要最低限の剛性を確保している印象。
あとに見るツイーターも同じく、磁気回路部は防磁設計となっていて、マグネットにカバーがかけられている。
ブラウン管テレビの流通は終息しているはずの2010年代半ばにおいて、ドライバーユニットをあえて防磁型にする意図はなんなのだろうか。ネットワークのコイルへの影響を少なくするためとか?
コーンは、メーカーによると100%パルプらしい。表層になにかがコーティングされていて、樹脂製のような質感がある。
ツイーター
ツイーターについても、マグネットはそこそこの大きさであることが予想できるものの、造りは簡素なものとなっている。
両端に付いている平型端子用のタブは、タブを固定しているメンブレンがあまり頑丈ではなさそうなので、端子を引き抜くさいには注意を払う。
バッフルプレート、メンブレンいずれも固定に接着剤は使われておらず、ネジを外すだけでマグネット部から分離できる。
ギャップには、磁性流体がたっぷりの敷かれている。
また、ドームの内側にあたる部分には、ドームの形状に合わせるように盛られた樹脂製のなにかが貼りつけられている。
中心部にはフェルトのような繊維質が山頂に降り積もった雪のごとくあるけど、その周囲の茶色い部分は硬質であり、吸音材とするには趣きが異なる。先日整備したサンスイの古いスピーカー「J11」に似た物体だ。
硬質な部分は吸音せずに、反射して音を拡散させる意図なのだろうか。それとも、もともとはすべてフェルトであったものの、漏れ出た磁性流体を外周部から吸いこんで固まり、結果このような質感になったのだろうか。よくわからない。
ディバイディングネットワーク
フィルター回路を見ていく。
HF側LF側ともに12dB/octとし、クロスさせている。
出音を聞いていてなんとなくそんな雰囲気は感じていたのだけど、ウーファーは高音をかなりしっかり濾波している。これも、ミニスピーカーではあまり採用されない手法だ。能率の低さは、主に1.2mHのコイルに起因するもののような気がする。
ツイーター並列の0.39mHのコイルは空芯である。この狭小の面積であっても、HFにしっかり空芯コイルを充てているのはエライ。
整備
見たところ、中身についても誰かが手を入れたような痕跡は見あたらなかった。よって、今回は単に"掘出し物を拾った"と見てよさそう。
あまり手を入れたいと思うところもないので、整備は軽めに済ませる。
ツイーターのバッフルプレートの接着
筐体の気密にそれなりに気を配っているようだけど、先に見たとおりツイーターのメンブレンとバッフルプレートはネジで緊結されているだけ。そのため、ドーム最外周部にわずかながら隙間ができる構造になっている。これを、接着剤をシール代わりにして塞いでしまう。
メンブレン側のドームの外周にあるわずかな縁の上に、接着剤のB7000を乗せる。
あまり多めに乗せても接着剤が振動板まではみ出てしまいみっともなくなるので、少量に留める。あとはバッフルプレートを元どおりにするだけ。
B7000としたのは、これ以降再度分離する機会があるやも、との考えから。硬めのゲル状に硬化するので、あとから剥がしやすいためだ。また、先端のノズルが細いので塗りやすいというのもある。
コンデンサーの交換
既存のコンデンサーは、許容誤差の範囲内ではあるものの、音色が好みではないので換装してしまう。
ケースの小さい電解コンデンサーのほうを基板のはんだ面に設けるかたちではんだ付けする。
なお、LF側のコンデンサーはそのままとする。
配線の引換え
ちょん切ってしまっているケーブルも、いわんや新設する。
JVCKENWOOD製のOFCスピーカーケーブル。
ケーブルのチョイスに関しては、最近はほとんど拘りが無くなっている。取り回しがしやすいものであればなんでもいいかな、くらいの感じ。
それよりも、物価の上昇でスピーカーケーブル自体の購入がシビアになっているのが気がかり。今後は、さらに安価なものを入手していかなくてはならない。
吸音材の変更
吸音材は、既存のエステルウールを撤去し、ほとんどを「固綿シート」に替えてしまう。
配置は、以前整備したLS-K711と似たようなかたちにする。ツイーターの背後、すなわちバスレフダクトの両サイドの位置に、シートを接着する。
さらに、各ドライバーのマグネットのカバーにも吸音材を貼りつけておく。
ウーファーにはチップフォームを貼ってみる。
しかし、これは失敗。中音を沈めすぎてしまうようだ。
最終的には、ここも固綿シートに乗せ換えることで落ち着く。
迷うのがツイーター側だ。オリジナルでは、ツイーターの後ろのウールはバスレフダクトの開口をガッツリ塞いでいた。
これを取っ払って開放すれば、単純に低音域の出力は増えるだろうけど、LS-K711でも出たようにいわゆるバスレフ臭さも目立ってくるだろうことを予想。そこで、ウールよりも密度の低い1cm厚のウレタンフォームを貼りつけることで、ある程度のヌケ感を出しつつ、オリジナルの質感からは極力離れすぎないことを期待してみる。
結果として、これはある程度意図したとおりに機能している。ただ、どうしてもバスレフダクトの「紙っぽさ」は強調されてしまう。量感とのトレードオフのような印象だ。
これは、ダクト自体を樹脂製のものに付け替えてしまうのがいいのだろうけど、今回はそこまで手を加えたくない。ある程度のバランスをもって完成とする。
ウーファーのタブ板の修理
平型端子をウーファーのタブに挿しこんでいたところ、タブを固定するアングルが折れてしまった。
2液性エポキシ系接着剤で固めるよりほかない。
これにより、作業の完了が一日延びることに……。
整備後の音
大した整備をしていないのでそこまで大きな変化は無いだろうと思っていたけど、整備後は多少印象が変わっている。
低音は、少し下のほうまで伸びるようになった。特性的には、180Hzから下が少し増強されている。ウーファーはフィルター回路をいっさい弄っていないので、この変化は吸音材の変更のみによってもたらされたものとなる。
これよりもさらに増やすこともできるけど、先に述べたとおりあまり増やしても音が不自然に感じるようになるので、このあたりに留めておく。
聴感で思いのほか変化してみせたのは高音である。
透明感と伸びやかさが明らかに改善されている。HPF用に搭載した新しいコンデンサーとツイーターユニットとの相性がたまたま良かったものと思われる。
不思議なのは、特性で見ると高音域は若干ながら下がっているにもかかわらず、聴感ではよりクッキリと聞こえていることだ。これはおそらく位相の変化が関わっているのだろうけど、もしそうなら難しすぎて自分の手に及ばないものだ。
まとめ
ここまで小型のドライバーでも、マルチウェイにしてクロスオーバー周波数を下げ気味にしてやれば、"それっぽい"雰囲気の音を醸すのだな、というのを確認するに至った。
ただ、それはすなわち、音質はネットワークで決まる、ということになってしまわないか。無論、オンリーではないけど、音質を形作るのは電気信号、フィルターの定数が大枠となると言えるのではないか。
それまで、ツヤとか寒暖差とか、密度といった、音におけるオーディオっぽさの諸々の要素は、磁気回路や振動板の大きさに比例してきめ細かく発現されるものだと思っていた。でも、この見た目も中身もお世辞にも高級とはいえない仕様のスピーカーの音を聞くにつれ、そうとも限らないのではないかと揺さぶられるのである。
音の良いスピーカーって、どういうものを指すんだろう。
終。