同軸2ウェイ
先日の「LS-XK330」に続き、近代に製造されたスピーカーとの邂逅が続く。
今回手元に届いたのは、ティアックのコアキシャル2ウェイシステムであるLS-301というパッシブスピーカーである。
今のようにスピーカーをとっかえひっかえする生活の前は、同じティアックの「S-300NEO」を長期間机の上に据えていた。その後続モデルにあたり、より廉価になったのがこのLS-301のようだ。
S-300NEOは当時、意匠面、音質面ともにかなり気に入っていた機種で、ドライバーが劣化して能率が自然に下がってしまうほど鳴らしこんでいた。
その後釜に据えられた本機は、個人的に"ハズレ"はしないだろうという予想のもと手に入れた。カラーも以前と同じ「チェリー」だ。
製造はすでに終了していて、しばらく経過している。2年前、S-300NEOから別のスピーカーに乗り換えるときにこのスピーカーがまだ販売していれば、まず間違いなく迎え入れていただろうし、今のようにいろんなスピーカーの音を聞いてみようとも思うことはなかっただろう。
なんだかちょっと感慨深いな。
外観
ドライバー
2ウェイシステムだけど、ウーファーのセンターを貫くようにしてツイーターが配置されている、同軸2ウェイユニットを備える。マルチウェイの長所を生かし、また短所を削りながら、フルレンジ一発のスピーカーの利点も得てしまおうというのが特色となる。
汎用なウーファーではセンターキャップがある位置に樹脂製のポールが貫いており、その上にツイーターユニットが乗っかっている。
ドームの外周の樹脂製のホーンは、なんとなく取り外せそうな構造に見えるけど、材質がけっこう脆そうなので今回は弄ることはしないでおく。
エンクロージャー仕上げ
ユニットをバッフルに固定するフランジ部は金属製となっており、最外周が面取りされていて高級感があるのが良い。
ただし、突板に上塗りを施した光沢仕上げの美しいエンクロージャーだったS-300NEOとは異なり、LS-301は木目調の化粧シートとなっている。
一般的な仕上げではあるけど、S-300NEOと比較するとどうしてもチープに感じてしまう。そもLS-301は、S-300NEOをさらに廉価にした製品のようなので、妥当ではある。
側板のR加工
筐体の側面は、前後ですぼめるようにR加工が施されている。
背面
背面には樹脂製キャップの乗った埋込型コネクターユニットと、バスレフポートがある。バスレフポートはダクト一体の樹脂製で、開口部は少しだけフレア状に成型したものが採用されている。
S-300NEOには、底面に取りつけられる専用のスパイクが付属したけど、こちらにはそれが無い。代わりに、コルク製のシールが付属する。
整備前の音
とりあえずそのまま音を出してみる。アンプは、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
ちなみに、S-300NEOもこのアンプで鳴らしていた。ただ、当時さんざん聞いていた音でも、現在はとうに忘れてしまっているので、比較はできない。
一聴して、「うーん」という感じ。高めの中音のヌケがあまり良くなく、古いスピーカーのような質感をしている。また、高音域が少しザラザラしている。
能率がやや低めのようだけど、それとは比較にならないほど低能率のLS-XK330を直前まで据えていたためか、あまり気ならない。
帯域的に出しゃばるところはなく、フラットに近い聴感である。コーンの径に見合う低音に、ソフトドームらしい高音。一言でいえば無個性。
ただ、たまにズシリとくるような低めの低音が聞こえてくることがあって、ハッとすることもある。これは設置する環境にもよるところだろう。
同軸ユニットらしい自然な定位感はさすがである。ただ、定位がハッキリするような感じではなく、ある程度あやふやに展開している。これは、先述の中音の質感も関係しているように思う。
音場は横方向、奥行き方向ともに標準的。
決して悪くはない。が、もしも「S-300NEOの代替とするか」と訊かれた場合、首肯はしかねる、といった感じ。やっぱり、スピーカーの選定は実物を鳴らしてみないことには判断できないんだなと、改めて。
周波数特性を見てみる。
概ね聴感と一致する。
といっても、これまでコアキシャル2ウェイシステムの類をあまり手にした経験がなく、データとして残しているものはさらに少ない。よって、ここで評することができない。こんなもんか、という感想。
分解
本体内部を見てみる。
ドライバーユニットの取外し
ドライバーユニットのフランジに見える6点のタッピングネジを外す。
ただ、かなりピッチリ張りついているらしく、これだけではユニットが外れる気配がない。背面のコネクターユニットを取り外して、その孔に腕を突っこみ、ユニットを内部から鷲づかみにしてグラグラ揺らすようにして少しずつ剥がしていく。
配線を接続するタブの位置が天面側にある。これがバッフルの裏に隠れる位置にあるため、ユニットの着脱時に物理的に引っ掛かって作業しにくい。取り外す場合は底面側、つまりフランジの下部のほうから行うことを意識すると、バッフル面を傷つけにくい。装着時は、その逆の手順となる。
ドライバーユニット本体
コアキシャル2ウェイドライバーユニットは、金属プレス製フレームにダブルマグネットを積んだ仕様。
このユニットのフランジ部は、実際は樹脂製で、前面バッフルに見えている金属は化粧用のリングであることがわかる。
フェライトマグネットは、直径がやや控えめであるものの、厚みはそこそこある。
ツイーター用の配線経路としては、いったんウーファーと同じ並びにあるタブでケーブルを受けたあと、ヨークまで渡り、中心からウーファーのボイスコイルのボビンの内側に侵入、先に見たポールを経てツイーターの磁気回路まで到達する模様。
エッジと振動板
ウーファーのエッジはクロス製。
振動板のコーンもエッジと似た質感の織物に見えるけど、こちらはベースは紙のようで、表層になんらかのコーティングをしたもののようにも見える。ストロークはやや重め。
メーカーによると、
特殊樹脂コーティングを施したパルプコーン
らしい。
コネクターユニット
続いて、先に取り外していたコネクターユニットを見る。
ユニットとしては樹脂製キャップのバインディングポストが付いた、汎用的なもの。
ディバイディングネットワーク
その裏には、例によってディバイディングネットワークがある。パーツ点数が少ないからか、専用の基板は用意されておらず、パーツ本体がコネクターユニットに直で接着されている。
LF側は6dB/oct、HF側は12dB/octのフィルター。
一見無難な構成に見えるけど、ユニークな点もある。ひとつは、ウーファー直列のコイルに空芯を、ツイーター並列にコアコイルを採用していること。
定石としては、低域回路に有芯を、高域回路には空芯を添えるけれど、これもなんらかの理由であえてこうしているのだろう。ただ、自分にはその意図を汲めない。
ここはメーカーいわく、
ツイーター用コイルから発生する磁界の影響を受けないように
とのことらしいけど、個人的には「え? そこ?」という感がある。
さらに、ウーファーに実測値で0.16mHというかなりインダクタンスの小さいコイルを繋いでいるのも独特だ。これが小径のフルレンジスピーカーであれば、高音を抑えるために噛ましているのもわからなくはないけど、ことこちらにいたっては、高音を担う振動板の中心部がくり貫かれている。そこからなにをフィルターしようとしているのだろう。
エンクロージャー
謎の回路はひとまず置いておいて、エンクロージャーを見る。
約15mm厚のMDFで構成された筐体は、先に少し見たとおり、前面のバッフル板の裏側にサブバッフルを設けて、厚みを増している。
ザグリ加工されて薄くなったぶんをサブバッフルで補っているのだと思うけれど、初めからザグリを加味した厚みのMDF板材を前面バッフルとして採用するのではダメだったのだろうか。ケーブルを接続する位置だけ削れば事足りるような気がする。
吸音材
筐体底部には、吸音材として不織布に包まれたグラスウールが置かれている。
整備
ウーファー単独の周波数特性
さて、いろいろ不思議な仕様を見たわけだけど、どうにもウーファーに繋がれた小さな空芯コイルの必要性がわからない。
フィルターをスルーした状態のウーファーとオリジナルとの周波数特性を比較する。
やっぱり、コイル要らないんじゃないの? これ。
しかも、聴感ではグラフの稜線の差以上に、フィルタースルーのほうが能率感が断然高い。前面に掛かっていた遮音カーテンが取り払われたかのような明確な差がある。
ネットワーク回路の調整
そして、使われなくなる空芯コイルは、ツイーター用として再利用させてもらう。有芯コイルは撤廃。
静電容量を若干増やしたのは、インダクタンスが下がったぶんのバランス調整のため。ただ、聴感上での差異は微妙なため、ここのコンデンサーは再利用してもよかったかもしれない。
樹脂製キャップのバインディングポストは、分解して研磨してもいいけど、今回は金属製キャップのものに交換してしまうことにする。
配線は、オリジナルと似た雰囲気であるゴールドとシルバーのダブルケーブルを用いて、すべて引き換える。
コンデンサーの固定は、2液性エポキシ系接着剤とする。
今回、ネットワーク回路の素子の選定のさなか、宙ぶらりんのコンデンサーが特定の帯域で振動してノイズになる現象に出くわしたため、ガッチリ固定したい。……というのは建前で、固定方法を考えるのが面倒になったためである。
吸音材の追加
中高音の能率感向上に伴い、吸音材を少し追加して響きを調整する。最近の自分の整備ではレギュラー化している、手芸用の「固綿シート」の切れ端を天面に貼る。
また、ドライバーユニットのマグネットの背面にも、小さく切り出したシートを貼る。これは最近試している方法。
吸音材はもう少し増やしてもよさそうだけど、今回はとりあえずこの程度に留めてリスニングに向かう。
今回、作業はこれだけ。
整備後の音
分解前に聞いていた音の不満点が、だいたい解消されている。先のとおり、能率感が改善され古臭さが薄まったほか、見通しが多少良くなった。
自分で音を聞きながら整備したので当然なのだけど、だいぶ好みの音に寄っている。
特性的には、1kHzから上が全体的に少し持ち上がっている。高音域は能率調整の余地があるけど、このくらいでも全然問題なく聞ける。
LF側でコイルを撤去していても、位相特性が整備前とほぼ変わらないのはなぜだろう。
まとめ
メーカーの意図が汲みきれなかったけれど、とりあえず聴ける音になって良かった。
真意はもちろんわからないのだけど、メーカーの謳い文句で、
AI-301DAに最適な同軸2ウェイスピーカー
とあるので、おそらくはプリメインアンプ「AI-301DA」のドライブに合うようネットワークでイコライジングしているシステムだと予想できる。一見意味無さそうなウーファー直列のコイルもその一環なのだろう。
ただ、その措置によって不利に働く要素のほうが、自分の環境では顕著になってしまっているのだと思う。
特性と見るのか、不具と捉えるのか。
趣味でやっているとはいえ、手を入れるならあまり粗忽なことはしたくないし、難しいところだ。結論は永遠に出ない気もする。
終。