タンノイの小型スピーカー「CPA 5」を手に入れた。音を出したり分解したりした所感。
タンノイのフリーセッティング
縦でも横でも直でも空中でもどうとでも置ける、いわゆるフリーセッティングスピーカーの類のようだ。
タンノイにもこういった製品が過去発売されていたんだな。知らなかった。老舗メーカーであり、どちらかというとクラシカルな高級路線で展開しているような印象だったのだけど。
ボーズ「101MM」シリーズやJBLの「Control1」が形成した一ジャンルに、この製品で殴りこみをかけたということか。日本のメーカーでもブームに便乗して同じような製品が作られていたようだし、このコンパクトな樹脂製キャビネットのシステムは相当売れたんだろうな。
このスピーカー、入手時はフルレンジ1基のなんてことないスピーカーだと思っていたのだけど、メーカーの当時のカタログを眺めていると振動板中心にツイーターを備えた同軸型2ウェイドライバーであることが謳われている。しかもこれは、「ICT(Inductive Coupling Technology)」なる独自の仕組みでもって、一般的なフィルター回路を介すことなくツイーターを動作させているらしい。そんなことが可能なのか……。
音
聴感
小気味良く音を飛ばしてくる。能率感が高い。
また、特筆するほど広いわけではないものの、一般的なフルレンジドライバーとは異なるレンジ感を持つ。正直、音を聞くまで疑っていたのだけど、やっぱりマルチウェイだった。
高音が特徴的な質感をしている。澄んでいるのだけど、なにかクセがある。特定の音域でケロッとひっくり返っているような感じ。
といっても、最近整備したリングツイーター搭載のオンキヨー「D-NFR9」のような聴き疲れする音ではなく、長時間のリスニングも問題ない。かといって、同じ同軸2ウェイドライバーのティアック「LS-301」のような自然な音とは性格が明らかに異なる。自分の聞いたなかでは、ヤマハの「NS-1000MM」に近い印象。
煌びやかで趣きがあるけど、好みの分かれそうな音ではある。
前面にバスレフポートがふたつ開いているものの、バスレフによる低音の量感は控えめ。最低音が高めで、低音域が音全体を下支えするような感じは無い。ただ、音自体はドライバーの振動板の径が繰り出せる平均的な音域までちゃんと出ている模様。
これらの点で、101MMやControl1とは異なる音質だ。バランスとしてはフラットに近い高音寄りか。
アンプはRX-S602よりもA-H01で鳴らすほうがまとまりが良い気がする。
また、前面にグリルネットを取り付けると能率感が若干落ちる反面、直進的な音が上手く拡散されるようで耳に馴染む。
周波数特性
周波数特性を見てみる。駆動はA-H01。グリルネット無し。
低音域は、やはりあまり出ていないようだ。ここは同じサイズ感でも101MMやControl1のほうに分がある。
件の高音域は、最近の製品ではあまり見かけない稜線をしている。位相も妙にガタガタだ。先にあげたICTの特性がここに出ているのかもしれない。
インピーダンス特性
インピーダンスも見ておく。特に意味はないけど、なんとなく
- ノーマル(バスレフ型)
- 片方のバスレフポートを閉じた状態(バスレフ型)
- 両方のバスレフポートを閉じた状態(密閉型)
の3パターンで測定。
共振周波数は、ノーマルでは100Hz付近、片方のバスレフポートを閉じた状態だと90Hz付近になるようだ。音を聞くかぎり、バスレフポートはひとつでもいい気がする。
また、高音域はややギザギザしているものの、フルレンジドライバーのような右肩上がりになっているのに対して、1kHzから2kHzに谷が見受けられる。これはなんだろうか。
外観
しばらくリスニングを続けたので、システムの外観を眺めながら中身を見ていくことにする。
エンクロージャーは、前面バッフルを含めて合成樹脂製。その外周の前面側と背面側の二か所に、硬質のラバー製のリング状のものが付けられている。背面側のみ着脱可能。
これ、なぜ背面側だけ外れるようにしてあるんだろう。取扱説明書でも見てみないかぎり意図がわからないかもしれない。
ドライバーの前面にはバッフル全体を覆うしっかりとしたグリルネットのほか、それを外した状態であっても、ベンチレーターのルーバーのような見た目のフィンが並んでおり、けっこう物々しい雰囲気がある。
バスレフダクトもバッフル一体で成型されており、ふたつ存在する。
背面には、スナップイン式のコネクターユニットと、なにかのマークのようなものがある。
内部
筐体
分解自体は容易い。見えているネジを外すだけだ。ただし、前面はヘックスローブ、それ以外の十字穴はポジドライブのネジが採用されている。
前面バッフルの固定に接着剤は使われておらず、6つのネジを外せば筐体から簡単に分離できる。
配線はすべてはんだ付けなので、溶解するか切断するかして切り離す。
前面バッフルを外すと、前面側のリング状のラバーパーツがスルリと取り外せるようになる。
ドライバーユニットは、4点のネジを外すだけ。ここにも接着剤は使われていない。
JBLのControl1などに見られる接着剤でガチガチに固めたものとは対照的に、このスピーカーにはそれらしきものがほとんど使用されていない。フォームシートのようなパッキンの類も最小限であるのが印象的。
ドライバー
金属フレームに組まれた同軸型ドライバーユニットは、一見すると汎用の防磁設計のそれと変わらない身なり。
カバーがあって見えないけど、背負っているフェライトマグネットもおそらく一般的なサイズのものだろう。
ケーブルの接続点も一か所だけ。しかし、これが外観を"普通"たらしめているものであり、かつこのスピーカー最大の特徴でもある。
ウーファーコーンは樹脂製。表層はザラザラした加工が施されている。
エッジはゴムっぽいけど、フォーム材のような質感をしている。発泡ゴムかもしれない。
手前の黒いものはキノコの傘型のフェーズプラグで、中心に中空のシャフトのようなものが貫いている。その下の外周に覗く銀色が、ジュラルミン製25mm径の振動板。
この振動板は、フェーズプラグの下と振動板の内側外周にある計2つのガスケットにより支えられているだけで、電気的にどこにもつながれていない。振動板それ自体がコイルの役目も担っており、周囲にあるウーファーのコイルの磁束の変化に追随するようにツイーターの振動板も振動する、というものらしい。
言わば"ワイヤレス駆動"。「ツイーターが焼き切れる」という概念が無いので、高い許容入力を設定できる。また、ディバイディングネットワークを用意して信号を切り分ける必要もないなどのメリットがある。
……理屈としてはなんとなくわからなくもないけど、それでも実感としてやっぱり、なんでこれで鳴動するのか不思議でならない。フェライトマグネットの磁束の影響は? とか、クロスオーバーはどうやって設定しているの? とか、いくつか疑問もある。
分解がしづらそうなのでこれ以上はしないけれど、フェーズプラグの取り外しくらいは試してもよかったかもな。
整備
とりあえず鳴動しているし、物理的な損傷もないようなので、清掃と、ユーザビリティの改善のみとする。
吸音材のエステルウールを少しだけ追加する。
既存のウールはニードルフェルトに替えたかったのだけど、あいにく手元の在庫を切らしていたので、そのままにしておく。追加するシート状のウールは幾度か置きかたを変えてみて、ダクト間を渡らせるようにするかたちで落ち着く。
まとめ
そもそも容積が小さく、低音の再生を望めないことが自明であるからか、低音域については端からバッサリ切り捨てているような感さえする。ここは内部のダクト長を調節すれば多少改善しそうな雰囲気があるけど、このスピーカーでそれをする意義もあまり無い気もする。
終。