いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

DENON SC-ME2 の音の変化を確かめる

デノンの変わり種スピーカー「SC-ME2」の音を調整してみた。その所感。

 

小型なのに4ドライバー

このところ大きめのスピーカーばかり入手していて疲れたので、しばらくは可愛らしいサイズのものを中心に整備していくことにする。
さりとて、手元にあるのはあまり見かけない品番のスピーカー。DENON「SC-ME2」というもの。

DENON SC-ME2
いわゆるブックシェルフ型で、ミニコンポに付属するパッシブスピーカーなりの質感の、端的に言えば安っぽいスピーカー。
しかし、前面にはドライバーが3つある。

いちばん上はスーパーツイーターかな?
それだけでもめずらしいのに、背面側にもコーン型振動板のドライバーが付いていて、やや小さいながら埋込ボックス型のコネクターユニット、さらにはバスレフポートまで備わる。

背面側
ウーファーが前後にひとつずつあるのは過去にパイオニアの「S-J7」というスピーカーで見かけたことがある。また、同じデノン製でも「SC-E727R」は、ウーファーがふたつあるモデルだ。ただしあちらは、背面を向いているウーファーはエンクロージャーのなかに隠れている。
どちらも低音増強を目指した製品。しかしこちらは、前者2モデルよりも小型。しかもツイーターもふたつある。この振動板の面積で高音域を担うドライバーが2つ要るのかというのはさておき、どんな音がするのか気になるのが心情。

背面側にも専用のネットがある
ちなみに、インターネットにお尋ねしてもこの製品の情報はあまり無い。2005年ごろに発売された「D-ME2DV」というミニコンポに付属していたもののようだ、というくらいで、スペックもわからない。
これはメーカーに相談して、取扱説明書を取り寄せるくらいしかできないか。そのうち気が向いたらやろう
(追記) デノンのカスタマーサポートに相談して、取扱説明書を入手。記事の最後にスペックを記載。(追記ここまで)

限定品っぽい?
それと、似たような外観で「SC-MX5500」というスピーカーも確認できる。モノとしては同じだろうか。
 

外観

個人的な偏見として、近代のデノンのスピーカーは、外観がチープなものが多い印象だ。各所パーツの素材が安っぽい。まあ、コンポ用スピーカーにクオリティを求めるものではないのだけど、さりとてデノンはほかのメーカーと比べてとりわけ素材の選定がヘタな気がする。
このスピーカーも仕上げは木目調だけど、PVCシートはツルツルとしてビニール質が強く、印刷も粗い。

木目調でないほうが良さげ
ドライバーが4つあるため、質量はそれなりにあるけれど、特別重いわけでもない。

横置き
見たところ、筐体の前後を除く4面は板厚が9mmで、これがMDFであれば平均的、パーティクルボードだと薄いものとなる。ツイーターもフェライトマグネットではなくネオジウムマグネットを使っていそうだし、重量はウーファー2基分が占めるのか?

ダルマ型のプレート
その2基のウーファーは、背面側のエッジのロールが逆になっている。
この風貌は、背面側は磁気回路を背負っていないパッシブラジエーターに見えなくもない。音を出してみないことにはなんともいえない。

SANSUIのJ11もこんなかんじだったな
バナナプラグが挿さるバインディングポストが乗ったコネクターユニットは、ウーファーにスペースを追いやられて高さ方向が狭められている。

凡例的なものも付けられそうな面積だけど……
初見では、汎用的なサイズのものでなければコストが上がるだろうに、それでもちゃんと埋込型のボックスにしていてエライな、と思ったけれど、よく考えたらたぶんここの裏にディバイディングネットワークを背負わせることが必要で、仕方なくこうしているのだろう。
 
この記事冒頭から「ツイーターがふたつある」と記すとおり、現時点では前面のソフトドームとその上の銀色のコンポジットドームは、おそらくどちらも高音域のみを担う"ツイーター"だろうと予想している。上のほうはスーパーツイーターかもしれないけど、下のほうはいわゆるミッドレンジではないだろう、ということだ。
 

備前の音

さて、ひととおり外観を眺めたところで、音を聞いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インピーダンスは6Ωとあるので、その設定にして接続。インシュレーターは黒檀サイコロ3点支持。
低音に特徴があるのだろうと思っていたけど、意外と大人しめ。むしろ、高めの中音が厚め。
前面もそうだけど、背面のウーファーからも高めの音がかなり出てくる。というかこれ、フルレンジに近い動作なんじゃないか?
 
バスレフは40から50Hzあたりで最大風速になる。小径かつ長めのダクト長で、量感の増補よりは低音方向の伸長に使われている感じがする。控えめでも、けっこう低い音まで聞こえる。
いっぽう、中音から上にエネルギーが寄っているのは間違いないのだけど、定位があいまいで明瞭感は薄い。主張しているのに音自体はスカスカなのが妙な聴感となっている。
高音域は意外と抑えられている。バランスがちょうどよく、ひずみ感の無い綺麗な音。個人的にはもう少し特徴があるほうが好みだけど、これはこれで良い。なお、上のツイーターの出音は聴感ではほぼ聞き取れず、最高音域のみ担うようだ。

予想していたものとは雰囲気が違う音
妙な中音もしばらく聞き続けていると耳が慣れてくるものの、違和感は常に付きまとう。ナレーションではそれが顕著となり、常にディレイがかかったようなボワボワした曇った声で不自然極まりなく、致命的。
位相がおかしいのは明らか。ただ、調整するにしても背面にドライバーがあるかぎり難儀しそうだ。

周波数特性

元波形
周波数特性は、全体のバランスとしてはやや右肩上がり。
低音域は、バスレフ型スピーカーとしてみると理想形の伸びかたをしている。ここは自然である。
中高音はもう少し抑えて低音を相対的に持ち上げたい気持ちがある。
一応、背面側の音も測定してみる。

背面側の周波数特性
聴感のとおりで、ほぼフルレンジドライバーのそれであり、中高音がガンガン出ている。少なくともパッシブラジエーターではないようだ。
この背面の発する中音が前面に回りこんでくるためにディレイがかった音になるのだろう。コイツをなんとかするだけでもだいぶ良くなるんじゃないか。
 
 

内部

ザックリと内部を見て初見の印象の答え合わせするとともに、音のチューニングに入りたいところ。
 

ドライバー結線部

ヘックスローブに見えなくもない六角穴キャップのタッピングネジを外すと、ドライバー類は簡単にバッフルから外れる。
ただし、ウーファーのフレームはABSで作られており、一体成形されたケーブルの接続点であるターミナル部が例によって脆いので、タブから引き抜くさいは慎重になる必要がある。

あるいは紙のベースが外れるか

やっぱり背面側にも磁気回路があるようだ
また、ツイーター部も、小さいほうのツイーターのタブが根元で折れており、一部は割れてかろうじて繋がっている状態。いつ落っこちてもおかしくないので、あとで必ず修理しておく。

はんだで埋めて、接着剤かな
 

エンクロージャー板厚

エンクロージャーは、背面が18mm厚のパーティクルボード、前面バッフルは21mm厚のMDFと、小型のコンポ付属品にしてはそれなりの厚みのものが使われている。しかしそれ以外の4面は先述したとおりで、やはりMDFであった。

前面

背面。もしかすると、国外では単品販売とかされてたのかな

ネクターユニットはプラスネジ
 

エンクロージャー内

筐体内に吸音材がいっさい使われていないのが印象的。ここまで空っぽだと逆に清々しい。

天面側

背面から覗く底面側

黒い塗料は間違って塗っちゃったのかな
 

ドライバーユニット

ドライバー類は、型番らしきものがいっさい記されていない。4つのドライバーをひとつに束ねるためか、個々のインピーダンスの値はやや高めであることがわかるくらい。
ウーファー
ウーファーは、化繊のコーンにラバー製エッジの組み合わせ。

ウーファー。型番不明
先にも見たとおりで、前後でエッジの付けかたが異なるものの、それ以外は同じものに見える。

振動板拡大
化繊で編まれたコーンは、裏張りなども成されていないシンプルな単層のシートで作られているようだ。これ自体は軽そうだけど、ストロークは重め。

けっこうスカスカ
フェライトマグネットはダブルで、大きさは標準的。

ABS製フレームって、この荷重を長時間支えられるのだろうか
ツイーター
ツイーターユニットは、ふたつのドライバーがひとつのプレートで一体になったもの。

ツイーター。型番不明
ネオジウムマグネットだろうと思っていたけれど、どちらもフェライトマグネットだった。

フェライトのほうが、品質が安定していて好み

振動板拡大
配線も直列ではなく、ネットワーク基板に各々専用のフィルターが用意されているのも、ちょっと意外だ。
 

ディバイディングネットワーク

そのネットワーク基板も、オールフィルムコンデンサーに空芯コイルと、構成としては最小限なれど存外にちゃんとしている。

ケーブルはAWG22
コンデンサーはすべてBENNIC製で、メタライズドポリプロピレンフィルム。0.1μF以外は「SMPT」シリーズ、許容差も厳しめのほうが採用されている。

ネットワーク基板表裏
シルク印刷では、コーンドライバー「WF」、ソフトドームは「TW」、コンポジットドームは「STW」となっている。そこから意図を汲んで、ここからはこの記事でも各々「(前面/背面)ウーファー」「ツイーター」「スーパーツイーター」と呼称していく。

ネットワーク回路図
ふたつのウーファーも基板からケーブルが生えているけど、銅箔を通過しているだけでフィルターレスだ。
 

整備

やることは決まっていて、背面ウーファーの中音より上を削ぐ、すなわち本来の用途としてのウーファー化を主体として音を調整する。波形を見ながらの整備となる。

ケーブルを直で挟むには難儀する狭さ
 

フィルターの付加

手持ちに1.5mHのコイルがあるので、それを利用する。本当は2.0mH以上のコイルでガッツリ削ぎ落したいのだけど、このスピーカーにそこまで予算を注ぎこみたくないので、手元にあるものでなんとかする。

以前はブレッドボードを使っていたけど、最近は実機に直接組むことが多い
副作用として、削ぐことで中高音が痩せるかなと気がかりだったけれど、そこまで影響はないようだ。ツイーターとスーパーツイーターは基本的に弄らない。ただし、ツイーターは逆相にするほうが良さそうなので、配線のプラスマイナスををひっくり返しておく。

ツイーターを逆相にした状態の波形

基板上にちょうどいい具合にスペースがあったので、利用させてもらう

コンデンサーはここでいいかな

ネットワーク回路図(整備後)
 

前面プレートの加工

上記に掲載している波形において、位相を逆転することで生まれている11kHz付近の大きなディップは、フルレンジ動作の前面ウーファーとの共振で、自分の測定環境で起きる固有のものだ。マイクやスピーカーなどを物理的に動かすと、共振点がズレたり谷が浅くなったりする。

はじめはスーパーツイーターとの干渉かと思ったら違った
とはいえ、聴感でも影響を確認できるので、多少なりとも小さくしておきたい。ツイーターとウーファーのあいだに数センチ前面に飛び出すパーティションを設けて音を遮ってやると完全に埋まるのだけど、さすがにそれはできないので、吸音してお茶を濁す
以前JBLの「J216A」でも使った、5mm厚のフェルトをそれっぽいかたちに切り出して、プレートに貼る。

外円80mm径、内円42mm径のドーナツを作る
六角穴キャップのネジを低頭のプラスネジに交換したのち、両面テープで貼りつける。

ちょうどピッタリのものが手持ちにあった

DENONのロゴが隠れちゃうけど、仕方ない
 

測定

特性上は先述の兆候が多少残ってはいるものの、現状では十分だろう。これでダメならウーファー側も調整しないといけなかったから、とりあえず安堵。

周波数特性(整備後)

元波形

備前後の周波数特性比較

インピーダンス特性(整備後)
ちなみに、前面ウーファーにもフィルターを設けてディップを消すこともできる。波形的にはこちらのほうが良さそうだけど、音の性格がオリジナルから離れすぎていたので不採用としている。

前面側にもフィルターを設けた特性
 

吸音材の新設

吸音材は、天面に「固綿シート」、バスレフダクトの開口部付近に先のフェルトの切れ端を貼っておく。

これ切る専用のハサミ買うかな……

接着剤でペタリ

フェルトは両面テープ
吸音材については配備をもっと検討するつもりだったけれど、先の調整で思いのほか時間を食ったので、暫定の配置としてここまで。
 

整備後の音

音が素直になっている、という印象だ。定位の改善が著しい。低音の伸びも明確になっていて心地良い。

整備後の姿。ゴム製エッジにはラバープロテクタントを塗っている
備前との差異は明々白々だけど、それでも音源によっては低めの中音がややくどく感じることがあるので、やはり当初目論んだとおり、挟むコイルはもう少しインダクタンスが大きいものを使うのがベターだろう。並列のコンデンサーを無くして6dB/octにしてもいい。

もっとしっかり作るなら、こんなかんじか
あとは、ツイーターのコンデンサーをあえて電解コンデンサーにして中音の存在感を上げてみるなど、さらに詰められるところはある。
 

まとめ

イオニアのS-J7が、背面側のウーファーにかなり大きなコイルを採用していた理由が、今はなんとなくわかる。主軸となる前面バッフル側の音への影響を最低限にするため、余計な音を抑えていたのだ。

ユニットの使いかたに関しては、思うところはある
このスピーカーが前後共にフルレンジ動作となっているのは、コスト面以外の理由があるのかわからない。しかし、意欲的ではある。そもそもこの仕組みを余所のブランドではなかなか見かけないのは、背面側の音の扱いが、チューンにしても配置にしてもとにかく難しく、製品として如何ともしがたいのは想像に難くない。

間違いなくユニークだけどね
デノンのスピーカーは、その音色にひとたび耳が慣れてしまうと、ほかのスピーカーの音では物足りなく感じてしまうような、楽しく聴かせる製品が輩出されている印象だ。このスピーカーが、その末端になってくれたらいいのだけど。
 

(追記) 主な仕様

D-ME2DVの取扱説明書に記載のSC-ME2のスペックは以下の通り。
形式 3ウェイ・4スピーカー  
  バスレフ型 防磁設計、P.P.D.D.方式
スピーカー ウーハー 12cm コーン形x2
  ツィーター 2.5cm ドーム形x1
  スーパーツィーター 2.5cm バランスドーム形x1
入力インピーダンス  
クロスオーバー周波数 4kHz、10kHz  
最大入力 50W(EIAJ) 100W(PEAK)
最大外形寸法 (幅) 160mm
  (高さ) 270mm
  (奥行き) 231mm(サランネット含む)
質量 約4.2kg  
 
ふたつのウーファードライバーは、P.P.D.D.(Push-Pull Dual Driver)方式らしい。
P.P.D.D.方式は、SC-E727Rにあるような、位相を互い違いにしてあることをプッシュ/プルのドライブと呼んでいるのだと思っていたけれど、このスピーカーのように同相であってもいいようだ。このあたり、定義がよくわからない。
なお、再生周波数帯域については明記が無い。
 
終。