Technicsのコアキシャルスピーカー「SB-RX30」を入手した。ウーファーエッジの復旧を主な作業として、まともに音が出るように調整した。その所感。
※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
平面振動板同軸構造
インターネット上で存在を知ってから、いつかは欲しいなと思っていたスピーカーが、このたび到着した。
このスピーカーを欲しいと思ったのは音が気になったからではなく、見た目が"ど"ストライクだから。真っ黒な直方体のエンクロージャーに金文字。シルバーカラーの正方形の前面プレートに円形のグリルネット。その奥にドライバーユニットが透けて見える風貌は、横置きの筐体も相まってカメラのような雰囲気。
1980年代の日本のスピーカーが持つ、どこか垢抜けないスマートさというか、当世風になりきれていない感じというか、そういったデザインが自分は好みのようなのだ。SB-RX30は、その持ち味がギュッと詰まっているように感じる。
ようやくそこそこ状態の良さそうなものが手に入ったのだった。
システムとしては、いわゆるコアキシャル2ウェイシステムで、ウーファーの同軸上にツイーターが収まる構造になっている。
しかもウーファーツイーターともに平面振動板が採用されているということで、前面の印字にもあるとおり「コアキシャルフラットスピーカーシステム」がウリである。
以前見た同年代のソニー製スピーカーの平面振動板は正方形で、同軸構造ではない一般的な2ウェイシステムだった。あちらとはだいぶ印象が異なる。
外観
欲しかったと言いつつ、机の上に置くにはサイズが大きすぎる。当時の感覚では「小型」の部類だけど、現代とは認識がだいぶズレている。
一応その認識はあったのだけど、いざ実機を前にすると想像以上にデカい。
背面にはバスレフポートとスナップイン式のコネクターユニットがある。
リアバスレフで樹脂製のポートなのは、この時代のエントリーモデルではめずらしい仕様な気がする。中を覗いてみると、なにやらネットが設けられている。その奥に続いているのは、紙製のダクトだろうか。
前面の3分の2を覆おうかというグリルネットの付いたパネルは、フレームが樹脂製。おそらく経年でこうなっただろう細い部分のゆがみによって、バッフル面と隙間ができている。
グリルネットはさすがに金属製。擦れて塗装が若干落ちている部分が見受けられるので、これは再塗装で目立たなくさせる。
内部
動作はするようだけど、購入時にドライバーユニットのエッジが朽ちていることを条件として受け入れているので、今回は音は聞かずにこのまま分解に進む。
前面プレート
やや大きい六角穴キャップのタッピングネジを外し、ドライバーユニットにアクセスする。
ネジは、板材が吸った湿気の影響かどれも少し錆びているものの、特に問題なく動かすことができる。
コアキシャルドライバーは、先とは別のネジによりバッフルに固定されている。
ウーファーエッジ
ここで初めて気づいたのだけど、ウーファーの振動板はドーナツ状だから、ツイーターに近い内周とフランジのある外周の計二か所のエッジに支えられている。
大小二つのエッジはどちらもウレタン製だったようで、どちらも同じように朽ちて無くなっている。
ということは当然、新しいエッジとなる素材も左右で二枚ずつ用意しなければならない。エッジの張替えの作業は、なんとなくほかのスピーカーと同じような心積もりでいたから、手間と出費が増えた事実がいろいろイタイ。
配線
気を取り直して、エンクロージャー内部を見ていく。ドライバーユニットのフランジにある4か所のネジを外すだけ。
ウーファー用のケーブルは、平型端子とドライバーに用意されたタブの嵌合による一般的な仕様であるいっぽう、ツイーターのほうはドライバーから直にケーブルが生えていて、筐体背面のコネクターユニットの裏にあるディバイディングネットワークの基板で脱着するようになっている。
作業がやりにくいけど、ドライバーの構造を踏まえると妥当ではあるか。
ディバイディングネットワーク
先に基板のほうを見ていく。
円形に近い形状の基板を使うのは、Panasonicブランドの現代機「SB-PS800」でも見かけた。背面の板材の穿孔が単純な円形で済むからだと思うのだけど、この措置って松下時代からの慣例だったのかな。当時はパーツの製造まである程度自社で行っていたからこそ可能だったことなんだろうな。
基板をわざわざコネクターユニットから浮かせているのは、あいだにコアコイルを挟みこみ、それごと一本の長ビスで固定したかったからだろう。
また、基板にはホシデンのブレーカー「BC51」がみえる。
ツイーター回路用だ。これはスルーするか取っ払ってしまいたい。
基板とコネクターユニットがある程度離れているために、両者を結ぶタブもそれなりの長さになっているのが、なんだか面白い。
ドライバーユニット
ウーファー
コアキシャルドライバーは金属フレームで、それなりの重量があるものの、中心部にツイーターがあるわりにはフェライトマグネットが想像していたより小さいな、という印象。
ドライバーはマグネットにカバーがあり防磁設計に見えるけど、ツイーター用のケーブルが内部を突っ切る関係か、背面側に穴があけてあるので、密閉されているわけではないようだ。
平面振動板の材質は、金属のようなガラスのような、硬質なもの。表面は粗目の布やすりのようにかなりザラザラしたもので、見た目に反してかなり軽い。
不織布を樹脂で固めたようなものと、粗く編みこまれた繊維を、ミルフィーユのようにいくつかの層にした感じ。
ツイーター
ツイーターも、表層が似たような質感なので、おそらくウーファーとほぼ同じ材質の振動板なのだろう。ただしこちらは、中心部に小さなフェルトが貼られている。また、エッジはクロス製のようだ。
小さいながらも、よくストロークする。
こうしてみるとツイーターユニットは取り外せそうな雰囲気がある。マグネット側にあるボルトを外すだけで簡単に分離できるのだった。
ツイーターは、フェライトマグネットの一部を欠くようにして結線のスペースを設けているのがユニーク。狭所ゆえの無理やりな処置だ。
今であれば、小型にできるネオジウムマグネットがまず間違いなく採用されるところだろう。
このツイーターは、白い樹脂製のフレームに収まるかたちになっている。ウーファーの内周のエッジも、このフレームの縁の部分に接着されている。
この射出成形の樹脂は、磁気回路の内部で接着されているのかビクともしない。古いエッジの滓がウーファーのボイスコイル側に落ちていることもあるだろうから、いったん取っ払って清掃したかったのだけど、ちょっと難しそうだ。