※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
久々のJBL
一応、当時の販促用リーフレットを取り寄せている。ただ、この記事掲載時点でもまだ手元に無い。
このスピーカーの仕様に関してはそちらを参照するとして、サラリと外観を眺めてから整備していくことにしよう。
外観
XTiシリーズに属するスピーカーは、どれも両側面が折れ曲がった、六角柱のようなエンクロージャーを持っている。シリーズ最大の特徴といえる。
外装
筐体は、チークやチェリーのようなやや黄色がかった塗装の施された突板張り。
ただ、このペアはシリアルナンバーが連番でありながら、杢目は左右でまったく揃っていない。
これは、なんちゃら合板やMDFに突板を張ったものを切り出して組み上げたものだからだろう。天然木なのにあまり高級感が感じられないのは、仕上がりに拘りの無い、まさしくこういった部分から来るのだろうと思う。
側面の折れ曲がっている部分には、黒いラインが走っている。これ、ゴムのようである。
板材どうしを"くの字"に突き合わせるとできる隙間に流しこんで埋めているものと思われる。見栄えはともかく、こうすることで、この部分の板の木端の加工を省略できる。良く言えば省力化。製造コスト削減。
底面部は樹脂製の板が一面に張られている、あまり見かけない仕様だ。そのボードにゴムの脚が4つ貼りついている。
一応、下にもなにかしらの板材があるようだし、このボードにはどういう意図があるのだろうか。
背面の機能
背面には、バイワイヤリングに対応するコネクターユニットと、大きく口をあけたバスレフポートがある。
ホームシアター設備については知識が全然ないのでわからないのだけど、シアター用スピーカーとしてシステムに組みこむ場合、バイワイヤリングをしたい場面ってあるものなのだろうか。
その上のバスレフポートは、開口の直径が70mm、ダクト長が約190mmもある、ちょっとしたサブウーファーに用いられるような大きさのもの。
ドライバーの振動板の面積に対してダクトの径があまりにも大きいと、音がちゃんと共鳴してくれなくなる気がするのだけど、この径でも機能を果たすものなのか。むしろ通気孔のノリで設けられているのかもしれない。
ドライバー類
ウーファーは先に見たとおり、コーン外周のエッジが朽ちて穴が開いたようになっている。
オリジナルのエッジはおそらくウレタンフォーム製。ただ、粉状にならずゴム片のように崩れているので、ウレタンエラストマーかもしれない。以前オンキヨーの「D-202ALTD」で見かけたものと似ている。
コーンを押しこんでみた感覚では、ダンパーの弾性はそこそこ硬めのようだ。
ツイーターは、縦に2本のアーチが渡っているドーム型。
銀色の表層は、JBL製のスピーカーでよく見かける金属蒸着かと思っていたけど、かなりツルツルしていてフィルムのような触覚である。
内部
そのまま流れで分解していく。
ネジ
ウーファー
いいかげんちゃんとしたヘックスローブ用のドライバーセットを買わないとなと思いつつ取り除くと、ウーファーユニットがポロリと落ちるように外れる。スピーカー1本あたり7kg強の質量は筐体が占めていたようで、ウーファーの重量がやたら軽くて拍子抜けするのだった。
フレームは樹脂製で、フランジ部が前面の化粧も兼ねた一体成形品。背負っているフェライトマグネットもかなり小さいものだ。
フレームの樹脂はかなり柔らかく、指先の力だけでわりと簡単にゆがむ。これは非常に貧相と言わざるを得ない。コスト偏重ここに極まれり、といったところか。
振動板は、ドットのエンボスがギッシリ散りばめられた紙製のコーンで、表層になにかがコートされているもの。
よく見るとセンターキャップにも同じようにドットが浮いているのがわかる。振動板と同じか、近い材質なのかもしれない。
ツイーター
続いてツイーターを見ていく。こちらも化粧板がオール樹脂製。ただし、磁気回路についてはいたって標準的なもののように見える。
4つのPZネジを外せば、簡単に磁気回路内部にアクセスできる。接着剤の類は使われていない。磁性流体も無い。
センターポールの中心部には、吸音材としてウレタンフォームが詰められている。
これもたぶん加水分解が進んでいるんだろうな、と思い突っついてみると、予想どおり突いたそばから砂になってゆく。
先延ばしにする理由もないので、ここを先行して作業。すぐそばのギャップ内に入りこまないよう注意しながら、古いウレタンフォームを掻き出す。
別のスピーカーから拝借したニードルフェルトが余っているので、それを適当な大きさに千切り、ウレタンフォームのあった位置に詰めこんでおく。
ドームを中性洗剤で軽く擦りながら洗い流し、ツイーターの作業は終了。
筐体内部
ツイーターのドームを元に戻してから、エンクロージャーのほうを見ていく。
底面には、樹脂製のスペーサーで浮いているネットワーク基板がある。
ウーファー孔から電動ドライバーを突っこんで固定したであろう3つのタッピングネジは、いずれも斜めに打ちこまれている。
見上げると、バスレフダクトと、そのすぐ上に覆いかぶさるように吸音材のウレタンフォームがある。
吸音材はこの波型のウレタンフォームのみ。このスピーカーの筐体は両側面が平行になっておらず、定在波を小さくできるため吸音の必要がない、という判断なのかもしれない。
ただしこのフォームシートは、まるでウーファーの背後とツイーターの背後の空間を隔てるかのように、背面までキッチリと渡っている。
シート自体もけっこう厚みがあるし、わざわざ波型をチョイスしているのもなにか理由がありそう。六角柱型ならではのデメリットがあるのか?
なんにしても、今回は吸音材を弄るつもりはない。そのままにして、ディバイディングネットワークのほうを見ていく。
ここのネジもポジドライブ。手を突っこんでネジを回そうとするとバスレフダクトが邪魔になるけど、ショートビットや柄の短いドライバーなどであれば問題とならない。
底面の四隅に、穴が開いていることに気づく。
これ、インサートナットがあるわけでもなく、単純に穴が開いているだけである。ちょうど底部のゴム脚が貼りついている位置であり、それが穴を塞いでいる状態だ。
元の設計ではスパイクの類を筐体内部から固定するために設けたもので、のちにこれもコストダウンのためにゴム脚に変更された跡とかなのかな、とか想像するとテンションが下がっていく。ただ、開けっ放しなのも妙なので、もしかすると別の意図があるのかもしれない。
板材
エンクロージャーは、前面がMDFで厚みが約20mm。背面が15mm。それ以外の面は測定できないけど、だいたいそのくらいありそう。
板厚は体積に対してやや薄いし、内部での補強もいっさい施されていない。ここも必要最小限ということか。
全面MDFの筐体かと思っていたけど、断面を見るかぎり、少なくとも背面の板材はパーティクルボードだ。
背面側の側面を叩くと、内部でけっこう反響している。どうやら、いくつかの面にはパーティクルボードが採用されているようだ。あえて材質を切り替えているのだろうか。それともやはり、コスト面なのか。
ディバイディングネットワーク
取り外したネットワーク基板も、なかなかに粗雑な感じだ。
基板にはんだ付けされているケーブルは、専用のスルーホールが設けられておらず、なんと銅箔に直付け。しかもそのいくつかははんだの乗りが明らかに不十分で、今にも基板から外れそうになっている。
ここまでよく外れずにいたもんだ。というか、よく銅箔が剥がれずに済んだもんだな……。
回路の設計も、無難な感じ。
なんにしても、シロウト目からして品質があまり良いものではないことがわかる。
ウーファーのタブ(破損)
さて、もうひとつのほうもバラしてしまうか、と作業を進めていったところ、ウーファーユニットのタブから平形端子を抜こうとして、タブごと抜けてしまう事態に見舞われる。
樹脂製フレームにただ刺さっているだけの金属製のタブ。テンションがかかって、フレームの脆い部分が割れてしまったことで外れたようだ。
ここまでくると、もうなにも考えたくない。すぐさま2液性エポキシ接着剤を練り始めることに躊躇がない。