いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL XTi20 をメンテナンスする (前編)

JBLの2ウェイスピーカー「XTi20」が手元に届いた。ウーファーのエッジを復旧するなどして音を出せるようにしてみた。その所感。

※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
 

久々のJBL

ここ最近は日本のオーディオメーカーの国産品ばかり見てきたので、ここらで舶来品をひとつ。JBLから2000年に発売されたスピーカー「XTi20」である。

JBL XTi20
JBLのスピーカーと相まみえるのは、「JBL2600」以来だから、約1年ぶり。ちなみに、JBLはコレと同時期に手に入れた別の機種もある。そちらもそのうち手をつけよう。

前面ネットを付けた状態
さて、2000年に発売されたホームシアター向けの機種であること以外の事前情報はシャットアウトしている。また、ウーファーのエッジが見る影もない状態なので、音も今のままではどんなものかわからない。

無論、この状態を承知のうえで購入している
一応、当時の販促用リーフレットを取り寄せている。ただ、この記事掲載時点でもまだ手元に無い。
このスピーカーの仕様に関してはそちらを参照するとして、サラリと外観を眺めてから整備していくことにしよう。

デンマーク製らしい
 

外観

XTiシリーズに属するスピーカーは、どれも両側面が折れ曲がった、六角柱のようなエンクロージャーを持っている。シリーズ最大の特徴といえる。
 

外装

天面

側面
筐体は、チークやチェリーのようなやや黄色がかった塗装の施された突板張り。

塗膜が薄いので、ラッカー仕上げだろうか
ただ、このペアはシリアルナンバーが連番でありながら、杢目は左右でまったく揃っていない。

見た目、天面は突板というより挽板みたいだな
これは、なんちゃら合板やMDFに突板を張ったものを切り出して組み上げたものだからだろう。天然木なのにあまり高級感が感じられないのは、仕上がりに拘りの無い、まさしくこういった部分から来るのだろうと思う。
 

側面と背面
側面の折れ曲がっている部分には、黒いラインが走っている。これ、ゴムのようである。

これもまた、チープな印象を与える要因となっている
板材どうしを"くの字"に突き合わせるとできる隙間に流しこんで埋めているものと思われる。見栄えはともかく、こうすることで、この部分の板の木端の加工を省略できる。良く言えば省力化。製造コスト削減。
 
底面部は樹脂製の板が一面に張られている、あまり見かけない仕様だ。そのボードにゴムの脚が4つ貼りついている。

底面
一応、下にもなにかしらの板材があるようだし、このボードにはどういう意図があるのだろうか。
 

背面の機能

背面には、バイワイヤリングに対応するコネクターユニットと、大きく口をあけたバスレフポートがある。

JBLのロゴがある埋込ボックス型のコネクターユニット
ホームシアター設備については知識が全然ないのでわからないのだけど、シアター用スピーカーとしてシステムに組みこむ場合、バイワイヤリングをしたい場面ってあるものなのだろうか。
 
その上のバスレフポートは、開口の直径が70mm、ダクト長が約190mmもある、ちょっとしたサブウーファーに用いられるような大きさのもの。

背面が窄まっているので、余計に大きく見える
ドライバーの振動板の面積に対してダクトの径があまりにも大きいと、音がちゃんと共鳴してくれなくなる気がするのだけど、この径でも機能を果たすものなのか。むしろ通気孔のノリで設けられているのかもしれない。
 

ドライバー類

ウーファーは先に見たとおり、コーン外周のエッジが朽ちて穴が開いたようになっている。

朽ちたエッジ
オリジナルのエッジはおそらくウレタンフォーム製。ただ、粉状にならずゴム片のように崩れているので、ウレタンエラストマーかもしれない。以前オンキヨーの「D-202ALTD」で見かけたものと似ている。
コーンを押しこんでみた感覚では、ダンパーの弾性はそこそこ硬めのようだ。
 
ツイーターは、縦に2本のアーチが渡っているドーム型。

ツイーター正面
銀色の表層は、JBL製のスピーカーでよく見かける金属蒸着かと思っていたけど、かなりツルツルしていてフィルムのような触覚である。
 

内部

そのまま流れで分解していく。

横に倒してみる
 

ネジ

エンクロージャーとの緊結のために使用されるネジは、背面のコネクターユニットを含めてヘックスローブで統一されている。また、ツイーターのドーム周辺に見えるプラス穴のネジは、欧州製らしくポジドライブ。

現代機らしい

なんだこのウレタンフォームは……
 

ウーファー

いいかげんちゃんとしたヘックスローブ用のドライバーセットを買わないとなと思いつつ取り除くと、ウーファーユニットがポロリと落ちるように外れる。スピーカー1本あたり7kg強の質量は筐体が占めていたようで、ウーファーの重量がやたら軽くて拍子抜けするのだった。

ウーファー。A2106A-L
フレームは樹脂製で、フランジ部が前面の化粧も兼ねた一体成形品。背負っているフェライトマグネットもかなり小さいものだ。

JBLは、エントリークラスだと小径のマグネットを使いがちではある
フレームの樹脂はかなり柔らかく、指先の力だけでわりと簡単にゆがむ。これは非常に貧相と言わざるを得ない。コスト偏重ここに極まれり、といったところか。

ドライバーはフランス製とある
振動板は、ドットのエンボスがギッシリ散りばめられた紙製のコーンで、表層になにかがコートされているもの。

振動板拡大
よく見るとセンターキャップにも同じようにドットが浮いているのがわかる。振動板と同じか、近い材質なのかもしれない。

コーン裏面
 

ツイーター

続いてツイーターを見ていく。こちらも化粧板がオール樹脂製。ただし、磁気回路についてはいたって標準的なもののように見える。

ツイーター。A2101A。こちらもフランス製

振動板拡大
4つのPZネジを外せば、簡単に磁気回路内部にアクセスできる。接着剤の類は使われていない。磁性流体も無い。

わかりやすい構成のユニット
センターポールの中心部には、吸音材としてウレタンフォームが詰められている。

ここもウレタンなのか……
これもたぶん加水分解が進んでいるんだろうな、と思い突っついてみると、予想どおり突いたそばから砂になってゆく。
先延ばしにする理由もないので、ここを先行して作業。すぐそばのギャップ内に入りこまないよう注意しながら、古いウレタンフォームを掻き出す。

けっこう詰まっていた
別のスピーカーから拝借したニードルフェルトが余っているので、それを適当な大きさに千切り、ウレタンフォームのあった位置に詰めこんでおく。

かなり柔らかめのニードルフェルト

丸めて指で押しこむ
ドームを中性洗剤で軽く擦りながら洗い流し、ツイーターの作業は終了。

まだ比較的新しい機種なこともあって、清掃するだけで綺麗になる
 

筐体内部

ツイーターのドームを元に戻してから、エンクロージャーのほうを見ていく。
底面には、樹脂製のスペーサーで浮いているネットワーク基板がある。

てっきりコネクターユニットに括りつけていると思っていた
ウーファー孔から電動ドライバーを突っこんで固定したであろう3つのタッピングネジは、いずれも斜めに打ちこまれている。

まあ、こうなるのはわかるけど、もうちょっとていねいにだね……
見上げると、バスレフダクトと、そのすぐ上に覆いかぶさるように吸音材のウレタンフォームがある。

鍾乳洞みたい

背面からダクトを覗いた図
吸音材はこの波型のウレタンフォームのみ。このスピーカーの筐体は両側面が平行になっておらず、定在波を小さくできるため吸音の必要がない、という判断なのかもしれない。
ただしこのフォームシートは、まるでウーファーの背後とツイーターの背後の空間を隔てるかのように、背面までキッチリと渡っている。

ツイーターの背後。奥のラベルはなんだ?
シート自体もけっこう厚みがあるし、わざわざ波型をチョイスしているのもなにか理由がありそう。六角柱型ならではのデメリットがあるのか?
 
なんにしても、今回は吸音材を弄るつもりはない。そのままにして、ディバイディングネットワークのほうを見ていく。
おそらくコネクターユニットと基板を結線してからエンクロージャーに組みこんでいると思うので、背面のコネクターユニットと同時に外す。

ここからケーブルを外すのは、スペース的に難しい
ここのネジもポジドライブ。手を突っこんでネジを回そうとするとバスレフダクトが邪魔になるけど、ショートビットや柄の短いドライバーなどであれば問題とならない。

この構図、なんの写真かわからなくて面白いな
底面の四隅に、穴が開いていることに気づく。

なんだこれ
これ、インサートナットがあるわけでもなく、単純に穴が開いているだけである。ちょうど底部のゴム脚が貼りついている位置であり、それが穴を塞いでいる状態だ。
元の設計ではスパイクの類を筐体内部から固定するために設けたもので、のちにこれもコストダウンのためにゴム脚に変更された跡とかなのかな、とか想像するとテンションが下がっていく。ただ、開けっ放しなのも妙なので、もしかすると別の意図があるのかもしれない。
 

板材

エンクロージャーは、前面がMDFで厚みが約20mm。背面が15mm。それ以外の面は測定できないけど、だいたいそのくらいありそう。

俯瞰
板厚は体積に対してやや薄いし、内部での補強もいっさい施されていない。ここも必要最小限ということか。
全面MDFの筐体かと思っていたけど、断面を見るかぎり、少なくとも背面の板材はパーティクルボードだ。

ネクターユニットの孔
背面側の側面を叩くと、内部でけっこう反響している。どうやら、いくつかの面にはパーティクルボードが採用されているようだ。あえて材質を切り替えているのだろうか。それともやはり、コスト面なのか。
 

ディバイディングネットワーク

取り外したネットワーク基板も、なかなかに粗雑な感じだ。

ネットワーク基板表裏
基板にはんだ付けされているケーブルは、専用のスルーホールが設けられておらず、なんと銅箔に直付け。しかもそのいくつかははんだの乗りが明らかに不十分で、今にも基板から外れそうになっている。

Made In Denmark
ここまでよく外れずにいたもんだ。というか、よく銅箔が剥がれずに済んだもんだな……。
濾波するパーツ自体は、良いものを使っている。HPFのコンデンサーにSCR製のメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサーがあてがわれている。コイルも空芯だ。

今だとSOLENブランドになるのかな

LPF側はBENNIC製電解コンデンサ
回路の設計も、無難な感じ。

ネットワーク回路図
SCRとなれば、ネットワークもフランス製の可能性もある。「メイド・イン・デンマーク」とは、アッセンブリーをデンマークで実施した、ということなのかもしれない。
なんにしても、シロウト目からして品質があまり良いものではないことがわかる。
 

ウーファーのタブ(破損)

さて、もうひとつのほうもバラしてしまうか、と作業を進めていったところ、ウーファーユニットのタブから平形端子を抜こうとして、タブごと抜けてしまう事態に見舞われる。

Oh......
樹脂製フレームにただ刺さっているだけの金属製のタブ。テンションがかかって、フレームの脆い部分が割れてしまったことで外れたようだ。

割れるに決まってるでしょこんなの……
ここまでくると、もうなにも考えたくない。すぐさま2液性エポキシ接着剤を練り始めることに躊躇がない。

硬化に時間がかかるから、というのもある
 

後編に続く