いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

POLK AUDIO ES10 を鳴らしてみる

ポークオーディオの小型2ウェイスピーカー「ES10」を手に入れた。音を出したり分解したりした所感。

 

ミドルクラス最小システム

自分が取り扱うスピーカーとしてはかなり新しい部類のスピーカーシステムを手に入れた。ポークオーディオの「ES10」という小型システムである。

Polk Audio ES10
人生初所有のポークオーディオは、この記事掲載時でのミドルクラスにあたる「Signature Elite」シリーズの最小サイズとなる2ウェイシステムとなった。

前面ネットを付けた状態
ポークオーディオというメーカーについては、古いオーディオ雑誌を読み漁るようになってからその存在を知った。ただ、アメリカのスピーカー製造専業メーカーとあって、日本国内では知る人ぞ知るというか、マイナーな立ち位置なんだろうと思っていた。
しかし、いつだったかヨドバシカメラに立ち寄ったとき、高級オーディオの単品システムとしてではなく、カジュアルなミニコンポが並んでいるコーナーで、一体型のAVレシーバーにポークオーディオのスピーカーが添えられているのを見かけたことで、印象が少し変わった。

横置きの状態
自分が知らないだけで、もしかしたら以前からスポットは当たっていて、わりと日本でも知名度はあるのか? アマゾンなんかを見ても、エントリークラスだと手ごろな価格で手に入るようだし……。
というわけで、くすぶっていた興味が少しずつ燃え始めたメーカーであった。
 

製造は2022年8月とある。かなり新しい製品であり、使用感も少ない。いろいろ見ていく前に、まずは音を聞いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インシュレーターは付属のゴム脚は使わず、いつも使用している1cm角の黒檀サイコロによる三点支持とする。
横に広い音場。情報量の多さ。ひずみの少なさ。現代機らしいハイファイな音、という印象。
やや高音に寄ったエネルギーバランスのように聞こえるけど、不自然さや刺さるようなところはいっさい無く、綺麗に乗ってくる。
 
よく整理されていて、いろんな音が聞こえてくるけど濁らせることなく、勢いとメリハリのある音色を奏でる。空気感を上手く伝え、奥行き方向も広めに聞こえる。
高めの中音にやや特徴があって、その音域だけやや前のめりに展開している感じがある。そのためか明確な定位感は小さく、どちらかというと面で押し出すように聞こえてくる。いわゆるスイートスポットが広めな感じ。
 
低音は、最低音はコーン径に準ずる位置にあるものの、聴感としてはけっこう下のほうまで鳴っている印象で、"鳴っている雰囲気"を感じ取ることができる。
低音域の質感としては、クリアで締まった音である。制動がよく効いているようで、身体を揺るがすような量感は無くても、低い音が空間を押し迫る感じはある。このことが量感の不足を感じづらくさせている。
 
どの切り口で見ても隙が無い。よくまとまっている。

あなどっていた
周波数特性を見てみる。

周波数特性
高めの中音から上はもっと出ているような聴感だけど、特性的にはフラットに近い。
普段あまり見ることのない、40Hz付近の低域において位相の変化が大きく出ている。これは後述するコンデンサーの影響であるものと思われる。
 

外観

 

エンクロージャ

音を堪能したあとは、本体外観を見ていく。メーカーが掲げている「ミッドセンチュリーのアメリカンデザイン」を反映させたものとなっている。

側面

天面
エンクロージャーは、底面と天面の両サイドに大きなRが採られた丸みのあるもので、妻面にバッフルプレートが設けられている形状。仕上げは全面木目調のビニールシートで、高級感は乏しいけれど、先述の筐体の形状からモダンな印象を受ける。

見た目チープだけど、価格を踏まえれば妥当

底面のラベル
 

「パワーポート」

背面には、最大の特徴といえるメーカー特許技術「パワーポート」を構築する樹脂製のバックパネルが取り付けられている。

背面

パワーポート
ラジエーターの放熱用フィンのような見た目をしたこれは、内側でリアバスレフのポート部に接近するような構造になっており、これによりポートを通過する風向きを変化させノイズ低減、さらに共鳴音の増幅を図るというものらしい。

ポート内に向けてなにかが延びている
これ、結果としてやっていることは、バスレフポートと壁面の距離が常に一定に保たれることになる。このスピーカーをどのように設置しても、背面を壁にドン付けしたのと近い音質になることのメリットのほうが、個人的には助かる。反面、音質を調整する自由度が減り画一的になることにもなるので、リスニングの環境を緻密に組んで最適化するようなオーディオマニアの目線としては、この技術がどう映るのか気になるところ。

天面にはしっかりとエンブレムまで用意させている
このラジエーター風のプレートの上部には、壁掛用の金具をとおす鍵穴が設けられている。ABSのような柔らかい材質で成型されているので、これはさすがに破損が怖くて使えないだろう。

使うと経年で割れそう
 

ネクターユニット

そのほか、背面には埋込ボックス型のコネクターユニットがある。

一見では汎用品に見える
 

ドライバー

ウーファーはラバー製のエッジに支えられた10cmコーン型。
振動板はマイカ強化ポリプロピレン製とのこと。これと似たような雰囲気の材質を、ヤマハの「NS-B330」や「NS-100」などで見かけている。ただしこちらは、コーン外周部にシルク印刷されたような意匠が施されている。

こういう主張しない印字ってイイよな……
 
ツイーターは、ウーファーの振動板と同じような色味をした2.5cmソフトドーム型。こちらはポリエステル繊維製。

ツイーター正面
振動板自体は変哲もないものだけど、その周囲にあるバッフルプレートが印象的。緩いホーン型になっている弧を描いた面に印字が施されていて、他所ではあまり見受けられないコストのかけかたをされている。

この部分の印字って、どうやっているんだろう
 

前面ネット

最後に、前面ネット。前面ネットの固定はマグネット式となっており、バッフルプレートの上部4点のネジ頭に吸着させるようになっている。
そのマグネットには、上にフェルトが貼られてカバーされている点がていねいで良い。ネジ側の塗装の劣化を遅らせてくれる。

かなり地味だけど、細やかな配慮が光る
 

内部

まだ新しい製品であり、見たところ故障もないので分解はあまり気乗りしないのだけど、一応気になる点もあるので、無理をしない程度に中身を見ていくことにする。
 

背面側

まずは背面のパワーポートの樹脂製プレート。これは、見えている4点の六角穴キャップネジを外すだけで簡単に外れる。対辺4mmのヘックスビットを使用。

わりとあっさり外れる
プレートを外すと、バスレフポートを拝むことができる。

プレートを外した図
開口部はフレア状に加工されたうえに、なにかでコーティングされているようだ。ダクトは紙製。

この加工も、パワーポートを構成するひとつなのだろう
樹脂製プレートの中心部にある直円錐のような部分は、先端部分がもっとダクトの奥のほうまで入りこんでいるものと予想していたけど、実際には開口部付近に少しかかる程度のものであった。

パワーポート用プレート
 

前面側

次に前面。各ドライバーを固定しているネジにアクセスするには、前面のバッフルプレートを取り外さなくてはならない。

バッフルプレートも樹脂製
前面には六角穴のネジ頭が4つ見えているけど、先のパワーポートとは異なり、すべて取り除いても外れる気配がない。

ヘンな位置にネジがあるから、なんとなく予想できていたけどね
樹脂製のヘラをバッフルプレートと筐体のあいだに滑りこませて、ゆっくり少しずつ、筐体から浮かせるようにして持ち上げる。

塗装用のヘラを挿し入れる図
こちらもおそらくはABS製であり、特にウーファーの下部は細く作られているので、誤って割らないように慎重に作業する。接着剤は使われていないけど、さらに時間が経過すると使われているパッキンが溶けて接着剤代わりになってゆく可能性はありそう。

ここまで浮かせたら、あとは外すだけ

外した図
ウーファー下部にはこのバッフルプレート用のダボ穴があり、収まるようになっている。力を加えて折ってしまわないよう注意。

あらゆるものがギリギリの大きさで作られている印象
ドライバーユニットの固定は、すべてプラスネジ。狭い面積に収まるように、フランジ部が必要最小限の大きさに留められて設計されているのが印象的。
ウーファーのフランジは金属製であるのに対し、ツイーターは樹脂製。そのためか、皿ネジが収まる孔のひとつにクラックが見られる。これはちょっと残念。

もうひとつのほうもまったく同じように破損していた
各ドライバーへのケーブルの結線は、着脱機構付きの平型端子が採用されている。メス側に設けられた小さなタブを押すと抜止め機構をリリースでき、簡単に引き抜くことができて便利なのだけれど、ノーマルのものと比べると機械的強度が低いのか、ある程度年数を経たものは破損しているケースが多く見受けられるため、個人的にはあまり使いたくない代物だったりする。

このスピーカーはまだ新しいのでまったく問題ない
 

ネクターユニット

背面のコネクターユニットは、現代では定番のディバイディングネットワークの基板を背負わせたもの。ただし、一般的なものとは様子が異なる。なんと底面に水平に二段重ねとなっている。

見た瞬間「うわぁスゲェ」と呟いてしまった
基板が二枚組みで二階建てになっているのは、別のスピーカーで採用しているのを見たことはある。しかし、ここまで小さな体積の筐体で、かつ底面に水平に固定しているものを見るのは、本機が初めて。
しかも、自分の見間違いでなければ、やたら巨大な電解コンデンサーが積まれているのも確認できる。

よ、よんひゃくななじゅうまいくろ……?
とても気になるところではあるけど、いったん置いておいて、エンクロージャー側を見ていく。
 

筐体内部

エンクロージャーはMDFで組まれている。前面のみ厚みが約12mm、それ以外が9mmとなっている。

俯瞰
腰まわりをぐるりと回るように桟が渡され、さらに背面のコネクターユニットの上部あたりにもMDFが打ちつけられてあったりと、小さな体積でありながらわりとしっかりとした補強が施されている。
吸音材は、ウーファーの両サイドに小さなエステルウールが接着されているだけ。

ウールは、わりと雑にくっつけられている
バスレフダクトの開口部に、紙製のドーナツ状のパーツが貼りつけられているのが特徴的。これも他所ではあまり見かけない措置だ。

これもパワーポートの構成材なのだろうか
 

ウーファー

ドライバー類を見る。どちらも小型だけど、それなりの重量がある。

振動板のカラーを揃えているのが良き
ウーファーは、金属プレス製のフレームに組まれている。

ウーファー。RD9339-1
背負っているフェライトマグネットが大きい。コーンの径とほぼ変わらない直径79mm、厚みは15mm。ヨークもそこそこ大きなものとなっている。コーンのストロークは一般的な硬度。

センターキャップはなにかが塗られたウレタンフォームか
フレームには、ダンパーとマグネットのあいだの位置に矩形の通気口が4か所設けられているのが特徴的。そこからマグネットのギャップに滑りこむボイスコイルが覗ける。

ギャップ内で上下するボイスコイル
 

ツイーター

ツイーターのほうは、ダブルマグネット。こちらもなかなか立派なフェライトマグネットが使われている。

ツイーター。RD9435-1
ホーン型のバッフルプレートは、単にメンブレンの上に重なっているだけで、簡単に分離することができる。
ただし、ドームの乗ったメンブレンに関しては、4つの皿ネジを取り外してもマグネットに貼り付いている。時間をかけてじっくり作業すれば外れそうだけど、そうまでして故障するリスクを負う理由もないので、今回は分解はここまでとする。

ネジ孔部のクラックはバッフル側のみであったのは助かった
 

ディバイディングネットワーク

さて、フィルター回路のほうを見ていく。
ウーファー回路とツイーター回路で基板を独立させて、各々底面と水平になるかたちでコネクターユニットに固定している、というめずらしい仕様だ。汎用的だと思っていた背面のコネクターユニットは、じつはこのスピーカー用に作られた専用品であった。

ネットワーク基板

高域側の基板裏面
底面側が高域回路で、その上が低域回路。ひとつのほうは、高域回路にある空芯コイルの固定が甘かったのか、浮き上がった状態ではんだ付けされており、それが低域回路の基板と物理的に干渉してしまい、低域回路の基板がたわんでしまっている。

設計はすごいのに、作りは雑なことが多いな……
これを直しつつ、なんとかして基板をコネクターユニットから分離してみようと試みるけれど、基板自体が接着剤でガチガチに固められていて、これを分離しても綺麗に復旧させることは不可能と判断。銅箔のパターンが読める程度までに留めて、詳細の観察は諦める。

ネットワーク回路
ウーファー側にはディッピングフィルターが組まれている。正確にはわからないけど、見たところおそらく7kHz付近をめがけて落としているような印象の定数だ。これが、メリハリのある音を繰り出す一翼を担っているのかもしれない。
 
そして、その前段にある470μFという巨大なコンデンサー。少なくともブックシェルフ型2ウェイスピーカーシステムでここまで大きいものはなかなかお目に掛かれないだろう。
こりゃなんなんだということで、試しにこの直列のコンデンサーをスルーした状態で鳴らしてみる。すると、周波数特性としては200Hzから下を削いでいることがわかる。

周波数特性(470μFコンデンサースルー)

周波数特性(オリジナルとの比較)
当然、コンデンサーが無いほうが低音は持ち上がる。40Hz付近に見られた位相の変化もなだらかになっている。
ただでさえ低音が不足する小型スピーカーにおいて、あえて低音域を抑えようとする理由はなんだろうか。サブウーファーとのクロスオーバーを前提とした設計なのか。それとも、低音域の共振がほかの帯域のなんらかの特性に悪さをしていて、それを軽減させているのだろうか。
ユニークな仕様なので、ぜひともこの点の真意を知りたいところだ。
 
それはさておき、このような巨大なコンデンサーを一般的な方法である底面と垂直の状態にある基板に設けようとすると、このスピーカーのように狭いエンクロージャー内においては、高さのあるケースがウーファーのマグネットと物理的に干渉してしまい搭載できない。そこで、基板を90度回転させて底面に水平することでコンデンサーの向きも90度回転させて、この問題の解消を見た。基板の「水平方向二段重ね」は、おそらくこれが理由で生まれたのではないかと推測する。
 
もしもそうであるならば、この大きなコンデンサーを取り除くことは憚られる。直列のコンデンサーは無いほうが低音が有利ではあるのはわかっているけれども、ここはオリジナルの特性を維持しておきたいので、今回は弄らずにそのままにしておく。
 

整備

不具合の無い新しいスピーカーを弄くるのも無粋な感じがするので、今回は信号回路にはいっさい手を入れず、吸音材の配置の是正のみとしておく。
 
既存のエステルウールを剥がし、筐体内の接着剤も削ぎ落とす。

外国のメーカーの製品にしては、吸音材がかなり少なめの印象
新たに似たような質感のエステルウールのシートと、最近よく使用する「固綿シート」を適当な大きさに切り出したものを用意。

右のエステルウールは、オリジナルの約2.5倍ほどの量
これらを両面テープと接着剤を駆使して貼りつける。
エステルウールは天面と両側面に渡りコの字型に、固綿シートは厚みを半分にしてからオリジナルのエステルウールがあった位置に、各々貼る。

無難な感じに
もう一点。ウーファーのラバー製エッジに、ラバープロテクタントを塗っておく。
ラバープロテクタントはいったん適当な容器に移してから、絵筆を使ってエッジの表層に薄く塗っていく。

塗り終えた直後。これだけでも意外と音に違いが出たりする

作業終了
 

まとめ

最近のスピーカーってこんなに小さくてもここまでしっかりとした音が出せるのか。まいったな、というのが正直な感想。

恐れ入りました
内部の品質はさておき、小型システムでありながらかなり本格的な仕様が設計に盛りこまれたスピーカーだということがわかった。これだけの物量を注ぎこめるんだ、というのもあるけど、なによりそれらに費やしたコストがしっかりと音に反映されているのがすばらしい。この記事の掲載時点で、実売価格はペアで3万円前後となっている。その金額に見合うものとして推せるものだ。
ヘタに"銘機"とか呼ばれているような古い中古品を高いカネ出して手に入れたり、手間暇かけて自作スピーカーをこしらえるなどするよりは、なにも考えずこのスピーカーををポンと置いてしまうほうが間違いないだろう。そんな感想も持った。

もうこれでいいじゃん
数は少なくなっても、やっぱりスピーカーもちゃんと進歩しているんだな。
 
終。