いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-100 をメンテナンスする

ヤマハのブックシェルフスピーカー「NS-100」を入手したので、音を聴いたり分解したりしてみる。

ホームシアター向け2ch

サイズ感が「テンモニ」こと「NS-10M」と近しく、フロントバスレフということで以前より気になっていたスピーカー。

YAMAHA NS-100
1999年に登場したミドルクラススピーカーシステム「MCシリーズ」の製品のひとつで、以降「MC IIシリーズ」、「NS-525シリーズ」と続いていく。いずれもシアター用途を意識したものとなっている。
ペアで68,000円と、お値段もそこそこだったようだ。

サランネットを付けた状態
以前、同じくシアターシステム向けのブックシェルフスピーカー「NS-M325」を整備したことがある。安価でありながら高品位のパーツが使われていたり、リアルウッド突板仕上げであるなど、好印象だった。
世代が違うけど、同じ系譜ということで期待が持てる。
 

改修前の音

まずはそのまま音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。パソコンから「DIRECT」再生。
第一印象は、「ああ、ヤマハっぽい音だな」。中高音の自然な張り出し感と、締まる低音域。
低音は結構下まで出ているものの、バスレフ型の割にはそこまで量感はない。個人的にはこのくらいでちょうどよい。
 
中音域に密集感がある。音場的に中心に集まっているわけではなく、「密度が高い」という意味の凝縮された音だ。聴き取りやすい。
このあたりは、ホームシアターを意識したチューニングなのかなとも思う。
 
周波数特性を見てみると、なだらかな右肩下がりのなか、4kHzを中心に出っ張りがある。

周波数特性
あえてこうしているのかはわからないけど、密集感の要因はここから来ているように思う。
それでも、全体のバランスとしては安定感があり、長時間聴いていられる特性だ。
 

分解

中身を見てみる。
各ユニットは、エンクロージャーにネジ留めされているだけなので、各々外してゆくだけ。

フロントとリア
ただし、フロントバッフルの仕上げは砂をまぶしたようなザラザラしたものとなっており、ドライバーユニットを取り外す際にぶつけると傷が目立つ可能性があるので注意。

梨地とも違う、独特の仕上げ
ウーファー、ツイーターともに、マグネットはストロンチウムフェライト磁石が使われているらしい。

ウーファー。XW230AO

ツイーター。XW232AO
バリウムフェライト磁石とスピーカーの特性上何か優位になるのかはよくわからない。
 
ウーファーのコーンとセンターキャップは、磨りガラスのような見た目をしており、ダンパーのオレンジ色が透けて見える。このデザインは好みが分かれそうだ。

硬質なフィルムのようなコーン紙

横から見るとこんな色をしている
エッジは、やや硬めのラバー製。硬いといってもしなやかさは持ち合わせていて、鋼製のフレームとともにコーンをしっかり支えている印象。

もう少し柔らかくてもいい気もする
ツイーターは無着色のシルクドーム。

3cmシルクドームツイーター
片方が潰れていたので直してみたけど、完全には修復できなかった。

音質的には支障ないだろう
 
エンクロージャー内部を見ていく。

俯瞰
吸音材は、天面側にフェルト、底部に化繊のウールシートを、それぞれ接着剤で固定している。

天面側

底部
天面のフェルトはなんとなくわかるけど、底部のウールは、バスレフポートのノイズ対策だろうか。
そういえば、NS-10MTもバスレフダクトがあるほうにちょっとだけウールを敷いていたな。この頃の流行りだったのかな。
いずれにしても、吸音材としてひとつの筐体内に2種の素材を配するのは、既製品ではめずらしい気がする。
 
クロスオーバーネットワークは、12dB/octの構成。パーツ類をベニヤ板に固定し、背面側にピン打ちしてある。

クロスオーバーネットワーク

ネットワーク回路
ベニヤ板にある印字「NS-200」の2を、上からマジックで1にしている。

それとも流用しただけ?
ネットワークはトールボーイ型のNS-200と共通だったのだろうか。
ツイーター直列のコンデンサーは、ヤマハのスピーカーに昔から使われているオイルペーパー製。90年代が終わろうとする最中、時流に逆らうように採用され続けてきたのは、メーカーの拘りなのか、よほど信頼を置いていたのか。
 
ケーブルは、ネットワークからウーファーにかけてはALR/Jordan製のブルーのケーブルを採用している。それ以外は「OFC for YAMAHA」の印字があるダブルコード。

ケーブルにも拘っている
この組み合わせは、後代の「NS-M325」やテンモニの実質的最終形態「NS-10MT」でも採用されていた。
どうやらシアター向けのスピーカーには、これらのケーブルを採用するのが通例となっていたようだ。ただ、スピーカーの特性に合わせてケーブルを選んでいたわけではなく画一的だったのは、ちょっと残念。同じコンデンサーを使い続けるのと同じく、ケーブルそのものを信頼しているのかもしれないけど。
 
ケーブルのチョイスといい吸音材の配置といい、製造年が近いからか、設計がNS-10MTと似ている。ホームシアター向け製品の設計というより、この時代の「NS=ナチュラサウンド」における共通思想なのかもしれない。
 

整備

手を入れる部分は最低限となる。
 

スピーカーターミナル

バイワイヤリング対応のスピーカーターミナルは、分解して薬剤で洗浄する。

ホームシアター向けでバイワイヤリング対応なのもめずらしい気がする
酸性洗剤に15分ほど浸し、よくゆすいでから乾燥させる。メッキの状態が良ければ、下手にブラシで擦るよりもこの方法が簡便で確実。

洗いあげたところ

キャップの頭のメッキが少し薄いのは、入手当時から
 

ネットワーク、ケーブル

ネットワーク回路は、設計を弄らず、コンデンサーの交換のみ留める。
ツイーターの2.7μFコンデンサーは、NS-M325にも使われていたSolenのメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサーに変更する。近代化である。

コンデンサーもどんどん値上がりしていくな……
また、ウーファー並列の電解コンデンサーは、例によってニチコンMUSE ES」をチョイス。2個並列で6.8μF相当をつくる。
コイルはすべて再利用する。

取付スペースに余裕があるので、ベースのMDFは10cm角に
ケーブルも引き換えとなる。
ツイーター用にオヤイデ電気の「EXPLORER V2 0.75」、ウーファー用にZonotone「SP-330 Meister」をそれぞれ採用。

どちらもエントリークラスだけど
両方EXPLORER V2でよかったのだけど、既存がウーファー側だけブルーのシースなので、なんとなく。
スピーカーターミナルからネットワークまでは、こちらも例によってAMONの0.75sqOFCケーブルで繋ぐ。

シンプルな構成
MDFの固定は、既存と同じ位置に四隅をネジ留めする。
 

改修後の音

今回の整備では、音について支配的なネットワークの改修は最小限のため、整備前後で音の変化は少ない。
フィルムコンデンサーの影響でひずみ感が減っている程度。あと、若干定位が整理された感もあるけど、たぶん気のせいだろう。

改修後の姿
 

まとめ

分解してみて思ったのは、このスピーカーはNS-10MTの後継機にあたるのではないかということ。10MTとは搭載ユニットがまったくの異素材なのでそっくりそのままとはいかないまでも、引き継がれたような構造をしている印象だ。
あくまで自分の想像でしかないけど、製品の見えないところにある設計者の息吹みたいなものが垣間見えて面白いなと感じた。

デザインが無骨で一般受けは難しそうだけど
知名度があまりないのか中古の価格がこなれており、「ヤマハの音」を手軽に楽しむには良い製品だと思う。
 
終。