ケンウッドのスピーカー「LS-1001」を整備してみた。その所感。
高級コンポスピーカー
このLS-1001は、1993年にケンウッドの「K'sシリーズ」という高級ミニコンポのスピーカー部として登場した。また、同時期に「LS-300G」という型番でスピーカー単品販売もされた経緯がある、ちょっと異質の製品のようだ。
ケンウッドに関しては手元に資料が一切無いので、インターネットで当時のコンポシステムの写真を検索してみる。すると、「1001」の名を冠するものの外観は、いかにも"ピュアオーディオ"然とした、ゴツくて冷たい金属製の筐体をしていて、気軽に扱えるミニコンポとしては少々毛色が違う気がしてくる。
詳しい性能はわからないけど、それなりのアンプにはそれなりのスピーカーを、ということで造られたのがこのLS-1001なのだろう。
前面バッフルのデザインだけ見れば、なんとなくコンポ付属スピーカーにありがちなそれだけど、単品販売できるほどのポテンシャルを秘めたスピーカーと受け取れる。
改修前の音
よくあるプッシュスナップ式のポストではなく、バナナプラグ対応の汎用埋込型スピーカーターミナルユニットが背面に備えてある。このあたりもコンポスピーカーらしからぬ仕様だ。
いつものように、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋げて鳴らしてみる。
すると、低音が「ズモモモ」と盛大に出てくる。バスレフポートから出ている最低音のボフボフする音がよく聴こえる。このスピーカーを接続する直前まで中高音特化であるヤマハの初代テンモニ「NS-10M」を置いていたので、なおのこと低音域が目立つ。
背面と壁との距離を可能な限り遠ざけることである程度解消した。設置環境を選ぶスピーカーらしい。
このことからも分かるとおり、低音重視のスピーカーである。
ロールが大きく柔らかいラバー製エッジが張られたよく前後するウーファーも相まって、低音域を伸びやかに聴かせてくれる。
唸るような低音ではなく、あくまで柔らかく、エンクロージャーの共鳴もうまく使って鳴らしている印象だ。嫌味が無く、安定して聴こえる。
中音域はやや奥まっているものの、それなりに聴こえてくる。高音域はソフトドームツイーターらしいトゲの無い鳴り方。
周波数特性を見てみると、45Hzから70Hzあたりまで大きな山がある。
低音域をあまり重視しない自分にとって、こういう波形のスピーカーが手元にあることが珍事である。
また、3kHzから上が抑えられている感じは、聴感と一致する。
定位感や音場は並。ソースの持つ空気感をやんわりと伝えるような鳴らし方をする。
テンモニとは真逆の性格だ。耳に優しく、どんな音源もずっと聴いていられる。これはこれで良い。
分解
手元に届いたものはエンクロージャーの状態がすこぶる良く、洗浄する程度で済ませられそう。
また、今回は音のバランスを弄るつもりはないので、内部の電気的な改修も保守を中心に実施する。
各ユニットは六角穴のネジで留まっている。ウーファーは対辺4mm、ツイーターは3mm。
ウーファー
ウーファーユニットは、堅固なアルミダイキャスト製フレームが採用されている。コンポスピーカーに搭載のユニットには見えない、豪勢なもの。
キャンセルマグネットによる防磁設計となっている。これだけでもけっこうな重量。
そして、これを支える前面バッフルも、かなりの厚みを誇る。MDFとやや特殊な繊維板の二重構造となっており、ネジが通る薄いところでも40mm以上ある。
これだけ堅牢な構造なのに、ユニットを固定するタッピングネジは4本しかない。6本くらいは欲しいところ。
ツイーター
ツイーターユニットも金属製のフレームが使われている。
よく見ると、ドーム周辺に濡れたような跡がある。これはおそらく、内部に使われている磁性流体が染み出てきたものと思われる。
磁性流体が使われているユニットは、以前JBLのスピーカーで見たことがある。だけど、あちらは比較的近年の製品だ。
90年代前半ですでにツイーターに使われていたことを初めて知った。
ただ、磁性流体の増減により音質にどの程度影響があるのか、よくわからない。
もし流出しているのだとしても、構造上新たに追加してやるのは容易であることはわかっている。まあ、無いよりはマシだろうという気骨で、磁性流体を発注しておく。
ケーブル
注意すべきは、各ユニットに使用されているケーブルの色である。
ウーファーは青と黒、ツイーターは赤と灰で配線されている。
これまでの経験で、ウーファーに使われるケーブルは赤が、ツイーターには青が多いため、再接続する際に勘違いしてしまいやすい。
地味な点だけど、要注意。
吸音材
吸音材として、筐体底部に不織布に包まれたグラスウールのシートが折り畳まれて置かれている。
バスレフダクトの上、天面部にもう一枚くらい欲しいところだけど、今回は弄らないことにする。
ネットワーク
スピーカーターミナルの裏にクロスオーバーネットワーク基板がある。ターミナルユニットを取り外すと一緒に引っ付いてくる。
フィルターの構成は、両ユニットともに6dB/octによる緩やかな減衰。
コンデンサーが4つ並んでいる。これらはすべてツイーター直列用で、合計で約8.1μFとなっている。
公称のクロスオーバー周波数は1.5kHzで、低め。以前整備したオンキヨーの「D-102AXLTD」も低かったけれど、それよりもさらに低い。それをコンデンサーのみでフィルターするのだから、だいぶ下まで鳴らせるツイーターなのだろう。
ちなみに、既存のコンデンサーの静電容量は、実測で約9.0μFまで上昇していた。
コンデンサーのすぐ後にある抵抗器は7.4Ω。-6dBの減衰と、けっこう抑えている。周波数特性を見ても、また聴感上でも、その影響が出ている。
音作りの一環として、あえてそうしているのだろう。今回は、ここのバランスはそのままとする。
ツイーターは逆相接続となっている。
整備
ひとつずつ整備していく。
ネットワーク
ネットワーク回路は、ツイーター側のみ改修する。
コンデンサーと抵抗器を新しくする。
コンデンサーは、電解コンデンサーとフィルムコンデンサーを、それぞれひとつずつに変更。電解コンデンサーは手元にあったニチコン製「DB」4.7μF。フィルムコンデンサーはJantzenAudio製のPETフィルムコンデンサー「MKT Cap」3.3μFとする。
抵抗器は同じくJantzenAudio製の酸化金属皮膜抵抗に変更する。既存と同じ抵抗値が無かったので、6.8Ωとした。
既存を撤去して、新たにはんだ付けするだけ。
しかし、基板をスピーカーターミナルにはんだで固定する際、誤ってはんだごてをフィルムコンデンサーに当ててしまい、そのコンデンサーはオジャンになってしまった。急きょ別のコンデンサーを用意して付け直すことに。
ケーブル
内部配線も引き換える。
ウーファー、ツイーターともにSHARKWIREの「SNZ1.0」を採用。
コストパフォーマンスが良く、引きまわしやすいため、自分の改修では頻繁に登場しているけど、今回は基板のホールに貫通できる細さであることを鑑みてのチョイスとなった。
ツイーター
ネジを外して分離すると、ボイスコイル周辺がオイルで塗れていた。やはり漏れていたようである。
綿棒で適当に拭き取る。
ちなみに、ボイスコイルのリード部が濡れているように見えるのは、リードを固定するための接着剤である。
マグネット側も、可能な限り拭き取る。
適当な紙を溝に挿し込み、古い磁性流体を浸み込ませる。
オイルが乾燥したからか、紙にはドロリとした粉状のものが付着することがある。こういうのを見ると、本当に磁性流体が必要なのか疑問に思ってしまう。
磁性流体の磁力により、マイクロアプリケーターをユニットに近づけると自らスルリと滑るように溝に入っていく様は、なんとも不思議な感覚になる。
だいたい6滴から8滴くらい垂らす。拭き取った量よりもやや少ないけど、多くてもまた染み出てくるだけだろうと思い、この程度にしておく。
スピーカーターミナル
既存のスピーカーターミナルユニットは、ポストがだいぶ汚れていたため、丸々交換する。
プラスとマイナスの端子間の距離が近いため、金属製から樹脂製キャップのものに変更する。ショート予防である。
サランネット用ダボ
前面にあるサランネットを固定するためのダボは、めっきが劣化して少し錆が浮いている。これを軽く研磨してみる。
といっても、酸性洗剤に少しの間浸け置くだけ。
改修後の音
整備を終えた後の音は、中音域が若干明瞭になったものの、基本的に傾向は整備前と変わらない。
一応、フィルムコンデンサーの容量増加と酸化金属皮膜抵抗の搭載で、歪み感が減ったことによる音の変化はあるように感じるけど、微々たるものだ。
当然ながら、周波数特性も整備前後で大きな変化は見受けられない。
3kHzから5kHzまで少し窪んでいる。これは、やや増え気味だったツイーター直列のコンデンサーの静電容量が、新しくしたことにより少し下がった(本来の値に近づいた)ことが影響しているかもしれない。だけど、聴感上はそこまで気にならない。
ここを平滑にするなら、ツイーターのフィルターを12dB/octにしてみるといい具合かもしれない。
あと、高音域の波形の上下の振れ幅が少し小さくなったように見えるのは、磁性流体を補充した影響だろうか。
定位が安定して、じゃりじゃりした感じがだいぶ減った。
まとめ
この記事を制作している最中も、LS-1001からBGMをかけ流している。シティポップやメロウジャズなど、通算6時間くらいノンストップで聴き続けているけど、聴き疲れする気配がない。気張らずゆったりとしていられる。
このスピーカー、思いのほか気に入ってしまった。置き方がシビアではあるけど、それが解決できればこういうスピーカーもいいな。
ちょっと資料を集めてみたくなった。
(追記) マイナーチェンジ?
しばらくして、別の機種を入手した。しかしなぜか、以前と同じ型番でも、細かい仕様が異なっている。
スピーカーターミナル
まず気づいたのが、背面のスピーカーターミナルのポストだ。以前のものはキャップが金属製だったけど、今回はよくある六角ナット型の樹脂製。
プラスとマイナスのポストどうしの距離が近いため、ショート予防のためにわざわざ金属製から樹脂製のものに変更したくらい気になっていた部分なので、むしろこちらのほうがいい。
ポスト部のみ換装された可能性もあるけど、このスピーカーのポストを外すには、背面に背負っているネットワーク基板を取り外さないとポストを固定しているナットにアクセスしづらい構造をしており、さらに基板の取り外しにははんだを溶かす必要があるので、なかなか手間がかかる。今回入手したものは、それらの整備をした痕跡は残っていなかったので、もとからこのポストなのだろう。
ウーファーコーン
次に、ウーファーのコーン。色が違う。
やや青みがかったグレーに、艶のあるコーティングが成されている。
これも以前のものと明らかに異なるのだけど、内部のマグネットに印字されている識別番号らしきものは同じだ。
「JAPAN」の右横にある五桁の数字は、こちらのほうが若い。これが製造番号であれば、こちらのほうが先に製造されたことになるだろう。でも、それも定かではない。
ちなみに、こちらのスピーカーのほうは低音が抑えられているように感じられるけど、以前のものはすでに手元を離れており、ちゃんと比較できない。
三角形のシール
ツイーターユニットの金属製化粧プレートの下部に貼られていた三角形のシールのようなものも無い。
そもそも、これがシールだったかどうかも覚えていない。それくらい気に留めていなかった。あったところで、どういう意図があるのかよくわからないけど。
ツイーターユニットの分離
そのツイーターは、化粧プレートとダイヤフラム部が接着されていたはずだけど、今回のものはネジを外すと分離できる。
ダイヤフラム側には、プレートと接触する全面にわたって薄いビニールっぽいシートが貼られている。これをめくるとコイルのリードがむき出しの状態になるので、措置としては無難である。メンテナンス上も都合が良い。
意図はなんなのか
これらの細かな仕様の変更は、なんのためなのかイマイチよくわからない。
製造コストを抑えるためにしても、出音の調整をするためにしても、逆にコストが上がるようなことだったり、電気的な影響がないものばかりだ。なにか手を加えているようなのに、背面にあるラベルの管理番号らしきものが同一なのも不可解。
部材の調達先が変わったとか、そのあたりだろうか。
終。