ヤマハのシアター向けブックシェルフスピーカー「NS-4HX」を入手したので、音を聴いてみた。
素性
2001年に登場した、ホームシアター向けスピーカーシステム「HX」シリーズのひとつである。
90年代に登場した「MC」シリーズの上位版という位置づけらしい。
NS-4HXはウーファーユニットをふたつ搭載し同時にドライブする「バーチカルツイン」方式のブックシェルフスピーカーである。縦長のエンクロージャーの前面に、ふたつのウーファーがツイーターを挟む形で縦一列に並んでいる。
横置きにすると見た目がセンタースピーカーのようだけど、シリーズには「NS-C5HX」と「NS-C7HX」というセンター用のスピーカーが別に存在する。NS-4HXは縦置きを想定しているのだろう。
NS-4HXとはツイーターの向きが異なっている。また、センタースピーカー2種のみ密閉型だ。
ウーファーをひとつ省いた2ウェイ2スピーカーの「NS-2HX」という製品もある。
ホームシアターのシステムについての知識はほぼ無いのでよくわからないのだけど、トールボーイ型もラインナップに存在するのに、このスピーカーはどこに使われる想定なのだろうか。サテライトならNS-2HXのほうが扱いやすいだろうし。
大型のスクリーンではなく、テレビモニターの真横に置くような使い方になるのかな。
外観
このスピーカー、横幅が190mm未満の細身でありながら、かなり重い。一本あたり10kg以上ある。今まで扱ってきたブックシェルフスピーカーの中で、断トツに重たい。
筐体自体は木製だろうけど、それにしても、と思いながら外観を見てまわる。
エンクロージャーの表層は、突板仕上げ。メープル材らしい。
表面はかなり滑らかで鏡面状態に近いのだけど、光を適度に拡散させ、自然で落ち着いた雰囲気をまとっている。こういった仕上げは、ヤマハのスピーカーならではだなと思う。
3cmアルミハードドームツイーターは、前面にホーン型のプレートが付いている。
メーカーは「ウェーブガイドホーン」と呼んでおり、いわく、中心部のディフューザーと組み合わせてシアター用途に最適な指向性となることを目指したものらしい。
これがHXシリーズの大きな特色となっており、ラインナップすべてに組み込まれている。
ウーファーは、13cmコーン型。カナダ産スプルースを使用したというペーパーコーンだ。
例によって真っ白なコーンは、「WSD(White Spruce Diaphragm)振動板」と呼ぶらしい。
6点のネジで留められているバッフル部は、ツイーターのホーンも含めてシャンパンゴールドに塗装されている。
背面にはバスレフポートと、バイワイヤリング対応のスピーカーターミナルユニットが備わる。
突板は背面まできっちり成されている。
音
試聴してみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。パソコンの音声を「DIRECT」設定で出力。
この直前まで使用していたスピーカーが高音パキパキの「SS-X300」だったため、聴き始めは物足りなかったけど、数日聴いて耳が慣れてきたところで改めて評してみる。
滑らかで歪み感の少ない音がヤマハっぽいといえばそうだけど、もっと汚らしい、えぐるような低音が出てくれてもいいなとも思う。
中音域は、適度な張りとスピード感があるのが、ちょっと意外だ。ステレオでウーファーが4つもあれば、もたついたあやふやな音になるだろうと想像していたのだけど、広がりの中に芯も感じられ、空間的な違和感が少ない。
ただ、低めの音域に少しクセがあるようにも思う。
高音域は、リスニングポイントによって音がけっこう変わる。これはウェーブガイドホーンの作用だろう。
音としては透明感があり、伸びやか。一部の音は若干耳に刺さることがあるものの、ほんのわずかであり、聴き疲れはしない。
さすがにツインドライブだけあって、厚みのある充実した中低音を聴かせてくれる。
また、音がよく広がり、"面"で鳴る印象がある。それでいて高めの中音域の定位感が良い。
反面、分解能や解像度では一般的な2ウェイや3ウェイスピーカーに分があるように思う。
周波数特性を見てみる。
マイクの位置は、2ウェイスピーカーであればいつもだいたいツイーターとウーファーの間あたりの高さで、バッフルから30cmくらい離れたところに置いているけど、今回はツイーターの正面から50cmほど離れた位置で測定してみている。
そうであるがゆえ、やっぱり200Hzから下の下り坂は気になる。もう少し出ていてほしいところ。
とはいっても、そもそもシアターシステムに組み込むことを想定しているのであって、低音域はサブウーファーに任せてしまうから、実用上は問題ないのかもしれない。
分解
内部を見ていく。
アクセス自体は容易。表層にあるネジを外すだけだ。
はじめにツイーターから外してみる。前面のホーン部は樹脂製だろうと思っていたけど、なんとアルミダイキャスト。大きなフェライトマグネットとともに、ゴロンと外れる。
これ単体だけでもそこらのウーファーユニット並みの重量がある。
ホーン部はネジ4点で留まっているだけなので、ドライバー側から簡単に取り外せる。
また、マグネット部との分離もネジ固定。接着剤は使われておらず、メンテナンスが容易だ。
アルミのハードドームの裏側に、細いリング状のフォームが貼りつけられているのを発見。どういった意図があるのだろうか。
ちなみに、マグネットのギャップには、磁性流体は使われていない。
2基あるウーファーも、バッフルが一体となったアルミダイキャストのフレームが採用され、堅固。
13cmのコーンといえど、こんなゴツいものがふたつも付いていたら、本体重量がかさむのも当然といえる。
振動板に使われているコーン紙は、意外と薄い。抄紙の跡だろうか、よく見ると表面に細かな凹凸がある。
また、エッジのクロスはかなり柔らかいものが使われている。
ドライバー類をすべて取り払っても、エンクロージャー自体がけっこう重い。
筐体内は、松脂のような独特の匂いがある。コーン紙のスプルースではないとすれば、板材の原料由来だろうか。
筐体はパーティクルボードで組まれているようで、それなりに厚みが確保されている。特に前面は、ドライバーユニットが収まる一番薄いところでも2.1cm、それ以外では2.6cmほどある。
背面は1.8cm、そのほかの面で2.0cmとなっている。
内部は、天面と底面、両側面に直方体に切られたウレタンフォームを貼りつけて、吸音材としている。
背面部には吸音材はいっさい無い代わりに、バスレフダクトとネットワーク回路を構成するパーツ類でほぼ埋め尽くされている。
埋込型スピーカーターミナルユニットのある位置にも、ベニヤ板に脚を付けて跨ぐようにして固定している。そこには、ツイーター用のコンデンサーと空芯コイルが括りつけられている。
4.7μFのアキシャルのフィルムコンデンサーは、「TI-2101」というもの。初めて見る。「MEXICO」とあるのは、メキシコ製の意だろうか。
コイルの導線は、直径が1mm以上あるやや太めのものが使われている。
8.2μFの両極性電解コンデンサーはニッケミ製。
内部の配線は、この時期のヤマハ製スピーカーでよく採用されている青いシースのALR/JORDAN製ケーブルが引きまわされている。
ただし、「NS-100」や「NS-M325」のような、特定の箇所の配線に部分的に採用されているわけではなく、スピーカーターミナルから各ユニットまで、すべての音声信号部をALR/JORDAN製としている。
整備
特段著しい故障は無いので、整備は外観のリフレッシュ程度に留める。
スピーカーターミナルは分解し、ショートバー共々酸性洗剤で研磨する。
比較的近代の製品ということで、金めっきの劣化が進んでおらず、表層の曇りを取り除く程度で十分綺麗になる。
六角穴キャップのタッピングネジもやや腐食が見受けられるので、ついでに同じように研磨する。
ウーファーのコーンが汚れているので、漂白しておく。
やり方は「NS-10M」と同じ。
バッフルの塗装を侵さないよう、漂白剤を塗したら、すぐにコーン以外の部分の余分な漂白剤を拭き取る。
そのほか、前面ネットのブッシング部とウーファーのラバー製ガスケットに、ラバープロテクタントを浸みこませておく。
ガスケットへの塗布は、いったん適当な容器にラバープロテクタントを移してから、筆塗りで対応する。
まとめ
ホームシアター向け製品ということであまり期待していなかったけれど、実際は並の単品ステレオスピーカーを凌駕する物量を投入した逸品だった。バーチカルツインが決して見かけ倒しになっていないのは素晴らしい。
デスクトップに置くには背が高いためやや威圧感はあるけれど、ツイーターが中心にあるので、一般的な2ウェイスピーカーと同様のセッティングで対応できる。また、横幅が190mm未満というのも、物理的制約を受けづらいといえる。
中音域重視の耳あたりの良いオーソドックスな特性は、映像作品の人声を豊かに聴きたいという点で、マッチしているように思う。
終。