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YAMAHA NS-10MMT をメンテナンスする

ヤマハの小型パッシブスピーカー「NS-10MMT」を入手し、整備してみた。その所感。

NS-10MTの小型版?

このNS-10MMT(以降MMT)は、「NS-10MM(以降MM)」の後継となる機種。手乗りサイズの2WAYスピーカーで、外形寸法はMMと同じ。

jp.yamaha.com

正面
ホームシアターのサテライトスピーカーとして使われる想定で、かなりの小型かつお手頃価格。中古市場でもそれなりに流通しており、比較的入手しやすいのも先代と一緒。
ただし、音はMMとは別物といっていい。いくつか改良が施されているためだ。
大きな変更点は、密閉型からバスレフ型になっているところ。

背面
背面にバスレフポートが設けられている。ミニサイズゆえ致し方ないことでもあるのだけど、先代は低音が不得意だった。それをバスレフで補う形を採用している。
ご先祖にあたる"テンモニ"こと「NS-10M」も密閉型で、低音が弱いとされていた。それを、後代の「NS-10MT」においてバスレフ型になり、だいぶ改善された経緯がある。
その点、この機種はNS-10MTの小型版といえるのかもしれない。
 
ツイーターユニットはMMと同じものが搭載されている。
対して、ウーファーは別物となっている。

名物「ホワイトコーン」は本機も採用
メーカーが謳うところでは、サスペンションが強化されたとのこと。なにやら改良が施されたらしい。
 
スピーカーターミナルは、スナップイン式からバナナプラグ対応のポストが搭載されたユニットに変更されている。埋込型を採用しており、多少容積を犠牲にしてでも大型化して使い勝手を向上させたかったという意図だろうか。
 
音質を調整するクロスオーバーネットワークも異なる。しかしいったん置いておいて、音のインプレッションに入る。
 

音の比較

先代のMMの音を知っているとよくわかるのだけど、MMTはバランスがかなり改善されて聴きやすくなっている。
 
低音域は先述した通りで、当然ながらサイズの限界はあるものの一聴して量感が上がっているのがわかる。下支えしている感が出て、安心して聴いていられる。
 
また、MMでは落ち気味だった中音域も、違和感がだいぶ軽減されている。さすがにテンモニオリジナルほどとはいかないまでも、モヤモヤしていたボーカルはちゃんと持ち上がっている。
 
高音域は可もなく不可もなくといった感じ。
 
周波数特性を見てみる。
今回は、MMのものも併記してみる。上がMMT。真ん中が未改造のMM。下がウーファーのLPFを撤去したMM。MMの波線ふたつは意図的に下にずらして表示している。

周波数特性。MMTとMMの比較
「中高域のフラットなレスポンスを実現」とメーカーが宣伝するように、MMTは凹凸の無い真っ平な波形をしている。ちょっと不気味なくらいだけど、これはチューンの賜物といえるだろう。
 
オリジナルのMMではフィルターが悪さして抑えられていた1kHzから4kHzくらいまでの音域を、ネットワークをスルーしてフルレンジ化させることで改善を図った。MMTではそこにしっかりと手が入れられ、整えられている。
 
低音は、70Hzを起点にバスレフが効いているのがわかる。ただし、200Hzから下の稜線が急こう配であるのは先代と一緒で、バスレフ型といえど低音域が不得意であることは変わらない。
 

分解

先代のMMと比較しながら中身を見ていく。
分解は、各ユニットを固定しているネジを外していくだけだ。
 
ウーファーのマグネットはカバーされて見えないけど、それなりの大きさのものが使用されているようだ。
MMに搭載されているものとは品番が異なる。外観では何が違うのかよくわからない。

ウーファーとツイーター

XZ323AO

小さなキャンセルマグネットが可愛らしい
エンクロージャーはいたって平凡。

俯瞰
しかし、MMでは皆無だった吸音材がある。天面に厚さ1cm程度のニードルフェルト。

ウーファー孔から天面側を見る
埋込型のスピーカーターミナルユニットは、例のごとくネットワーク基板を背負っている。

正方形に近い形状のユニットはめずらしい気がする

裏側のネットワーク基板
MMのクロスオーバーネットワークは、木板にラグ板を立ててパーツを繋ぎ合わせたものを背面に括りつけていて、手作り感があった。ここにきて近代化したのだ。

地味ながら、ここがファストン端子だと作業的に助かる
ネットワークは、ウーファー側が12dB/oct、ツイーター側が6dB/octの構成。
MMでは両者6dB/octで逆相でクロスしていた。MMTではウーファー側にコンデンサーがひとつ追加され、正相で繋ぐ形になった。

ネットワーク基板表裏

ネットワーク回路
コイルは0.8mHから0.6mHに減量され、高い周波数帯域まで受け持ち幅を広げる。そこへさらに並列でコンデンサを仕込み、メリハリをつける。これにより、ある程度中音域の音を維持しながら耳につく音を削っているのだろう。
 
ツイーター側は1μFのコンデンサーひとつのみで、ここは先代と変わらない。しかし、ウーファー側が整理されたからか、MMよりも繋がりが自然な印象。あちらの改造ではツイーター側のコンデンサーの静電容量を増やすこともしていたけど、こちらの場合はそのままでも問題ない。
 

整備

このスピーカーの整備は何度か行っているので、作業で迷うことはあまりない。順に進める。
 

ウーファーコーンの漂白

紙製のコーンを漂白剤で綺麗にする。乾燥に時間がかかるので、一番初めに取り掛かっておきたい工程。
今回手元にあるのはやや黄ばみが進んでいるようなので、濃度濃いめで。

乾燥中
テンモニの整備も合わせるとそれなりの回数をこなしてきた作業工程なのだけど、コーンに漂白剤を吹き付ける瞬間はいまだに緊張する。
 

スピーカーターミナルの洗浄

スピーカーターミナルを分解し、酸性洗剤に数分浸して磨く。
金属部分のくすみはそれで落ちるけど、キャップが樹脂の場合はたいてい汚れが残るので、そこだけはウエスなどで擦り洗いする。

意外と手間な作業
 

エンクロージャーの清掃

エンクロージャーも磨く。
明るい木目調の仕上げは、綺麗そうに見えても意外と汚れていたりする。今回は、なにやら赤茶色の汚れがこびりついていて、アルコールや石油系の溶剤を使ってもなかなか落としきれない。

拭いても拭いても汚れが付くぞ……
ようやく磨き終えると艶が出たので、トップコートの塗替えはしないでおく。
 

コンデンサーの交換

ツイーターのHPF用コンデンサーを換装する。
既存は1μFの電解コンデンサー。これをフィルムコンデンサーにする。今回は手元にある東信工業のポリエステルフィルムコンデンサーを採用。

最近よく使うコンデンサ
ツイーターにあてがうコンデンサーは、クロスオーバー周波数が低めに設定されたようなものの場合は電解コンデンサーの使用も検討するけど、今回のようにほとんど高い音しか出さない用途の場合はフィルムコンデンサーを積極的に取り入れていく。

乗せ換えるだけ
高価なポリプロピレン製ではなく、ポリエステル製でもだいぶ音の印象が変わる。
 

ネジの交換

ドライバーユニットを前面バッフルに固定する六角穴ネジが若干錆びているので、新しいものに交換する。
M3相当のステンレス製タッピングネジ。自分の環境では汎用性が高いため、中国製の安いヤツを一定数ストックしている。

長さは16mm
オリジナルのネジは頭の外周にローレットがあって、ちょっと高価に見える。手元にあるのはツルツル頭だけど、取り付けてみるとそれなりに馴染むので問題ないだろう。
 

改修後の音

整備後の音は、高音域の歪みが取れてスッキリする。フィルムコンデンサーの影響が出ている。

整備後の姿。コーンの黄ばみは完全には除去できなかった
MMTの場合、ツイーターのHPF用のコンデンサーの静電容量は、やはり1μFで十分であるように思う。以前1.8μFに上げてみたことがあるけど、高音が強調されすぎてキツくなってしまった。調整するにしても1.2μF、最大でも1.5μFまでに留めておくほうが無難。
 
また、吸音材が配備されているとはいえ、まだ若干箱鳴りしている感も否めない。これを抑えるには吸音材を増やすか、フェルトからグラスウールに変更するなどが考えられるけど、詰めきれていない。というか、そこまでの気力がない。
 

まとめ

これからMMとMMTのどちらかを入手するとしたら、これまで見てきた通り、音質面で後者の優位性が高いので、MMTを推したい。もちろん、改造する場合は別として。

優等生なスピーカー
 
終。