ヤマハの小型ブックシェルフスピーカー「NS-10MM」を整備した。その所感。

このNS-10MMというスピーカーは、過去2回ほど整備したことがある。繰り返すなかで作業内容がある程度定まってきたので、いったんここでまとめておく。
テンモニ「ミニ」
このスピーカーの梱包に用いられる箱のデザインからも推測できるとおり、NS-10MMの最後の「M」は「Mini」の頭文字。ヤマハの大ヒット長寿スピーカーの「テンモニ」こと「NS-10M」の小型版として登場したらしい。

それを設計思想として意識しているのかわからないけど、幅と高さの寸法が、NS-10Mの半分となっている。正面から見比べれば、前面の面積が四分の一に縮小されていることになるから、ミニというよりミニマムである。

いささか小さすぎる気もする体積もそうだけど、実質的なテンモニ最終形態「NS-10MT」が登場した1995年の翌年に発売したことからも、ステレオコンポからホームシアター向けにシフトしたいこの時代のメーカーの思惑が垣間見える。


ただ、やはり寸法がオリジナルのテンモニと違い過ぎる。同じような音が出てくるとは考えにくい。
改修前の音
ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで音を出してみる。
本来想定する用途ならばサブウーファーと併用してそちらに任せるため、そこは割りきっているともいえる。
問題は、ボーカルを含む中音域に元気が無いことだ。やや奥まって聴こえる。NS-10Mのような前面に押し出すような感じはない。
テンモニの名を冠するなら、せめてここは継承してほしかった。
分解
シンプルな構造のスピーカーのため、改修も容易。インターネットで検索をかけると、このスピーカーの改造に関する先達の記事が多くある。
よって、いまさらの感もあるけど、そちらも参考にしながら整えていく。
内部にアクセスするには、各ユニットを固定している六角穴のネジを緩めるだけ。


防磁型のウーファードライバーは、かなり大径のマグネットを搭載しているのが印象的。

ツイーターの背面部にあるクロスオーバーネットワークは、6dB/octのシンプルな構成。

ツイーターは逆相。

ウーファー直列のコアコイルは、0.8mHが搭載されている。クロスオーバー周波数が5kHzの設計にしては、インダクタンスが大きすぎる気がする。
たぶん、周波数特性をフラットに近づける意図があるのだろうけど、他所でもよく指摘されているとおり、これが中音域を必要以上に下げているようだ。
スピーカーターミナルは、プッシュスナップ式。

これはバナナプラグ対応品に換装したいけど、同サイズの汎用ユニットが手に入らないので、ベースを自作するしかない。
整備
ネットワーク
このスピーカーの定番の整備として、ウーファーのフルレンジユニット化がある。コイルをスルーして直結化するのである。
このウーファーをネットワークから切り離し、単独で鳴らしてみると、7kHzあたりまでフラットに鳴らし、そこから上は急激に落ちる。クロスオーバー周波数に忠実に組みなおすならコンデンサーをひとつ足して12dB/octにするところだけど、このユニットの特性ならばたしかにフルレンジにしてしまっても支障は無さそうに見える。
というわけで、内部にある既存のコイルとコンデンサー、縦型ラグ板を撤去する。ベースとなっているベニヤ板は剥がすのが大変なので、残置。

ウーファーはスピーカーターミナルから直結。


位相は同相にしたいところだけど、シアターシステムに組み込んだ際にほかのスピーカーと干渉して音が打ち消されてしまうことを考慮し、あえて逆相のままとする。

ウーファー
ウーファーのコーンを漂白する。方法は、テンモニで行っているものが流用できる。

比較的新しい製品のため、ホワイトコーンはそこまで黄ばんでいるわけではないけど、それでも漂白するとかなり白くなる。

スピーカーターミナル
このスピーカーのスピーカーターミナルユニットは形状がやや特殊で、同形の汎用のユニットを入手するのが難しい。
扱う木材は5mm厚の欅材。やや硬めで加工がしづらいけど、反りが比較的少なめで、エンクロージャーのチェリーの外装と色味が近いことから採用。

切り出す寸法は、長辺72mm、短辺49mm。角は紙やすりでRを適当に付ける。
クリアーで塗装すると、色味が濃くなってちょうどよい塩梅に。

エンクロージャーへの固定は、M3の低頭ネジを使用。既存のネジ穴を貫通させ、内部からナットで固定する。トルクに注意。

吸音材
このスピーカーは、もともと吸音材は充填されていない。
自分がとりあえず試してみる定番の方法として、体積の上半分にウールを充填してみるも、あまり良い傾向にならない。

ここはまだ検証が必要な部分だけど、実のところオリジナルのまま吸音材は不要なんじゃないかと思っている。箱鳴りをうまく生かせるほうが音が潰れない気がする。
改修後の音
コイル撤廃による音への影響はかなり大きく、整備後の音は同じスピーカーとは思えないほど張りがある。

周波数特性を見てみると、4kHzを中心に不必要ともとれる盛り上がりがある。メーカー側は、これを最小限のパーツで抑えることをしたのだと推測できる。しかし、それが仇となって、中音域の勢いを削いでしまった。
これをどうにかするにはディッピングフィルターを設けるか、それが難しいようならクロスオーバー周波数を下げて、痩せた音をツイーターにカバーさせてバランスを取ることも必要だろう。
ツイーターに繋げるコンデンサーを、オリジナルのほぼ倍の2.2μFで試したことがある。その場合でも聴けないことはないけど、高音域がやや煩雑になる感じがした。1.5μFくらいがベストではないかと思う。
中音域の改善の副作用として、低音不足が目立つ形になる。
これをどうにかするには、能率調整くらいしか対策が思い浮かばない。そもそも、密閉型エンクロージャーでは改善が厳しい気もする。ネット上にはバスレフポートを設ける改造の記事を見かけるけど、気持ちはわかる。
まとめ
あくまでもホームシアター向けスピーカーのひとつで、ステレオスピーカーとしてそのまま鳴らすのは厳しいものを感じる。少なくともNS-10Mの代替にはなり得ないだろう。
デスクトップスピーカーとしては扱いやすい大きさなので、小型の安いデジタルアンプと組み合わせてノートパソコンの横に置くくらいなら邪魔にならないだろう。ただ、それならほかのアクティブスピーカーで事足りる感もある。

扱いの難しいスピーカーだ。
(追記) コネクター部の調整
上記の整備のあとの2年半で、数回NS-10MMが手元に届き、同じように作業した。そのなかで、バインディングポストのベースとなる木板にネジ孔を施すさいに割れることがあり、成功してもネジを締めるさいに欠けたりする経験があった。また、ある程度質量のあるケーブルを長時間接続する運用では強度に不安があった。
ここはいっそネジ留めではなく、木板を筐体に接着してしまうほうが間違いないのではないかという気がしていた。今回はその施工方法を試してみる。
木板は上記と同じく5mm厚の欅。ただし寸法は長辺72mm、短辺50mmとする。四隅を布やすりで適当に削ってRを付ける。

表層もやすりで整えたのち、クリアラッカーを数回吹き付ける。この部分は筐体の仕上げに合わせて杢目を見せたいからクリア塗装にしている。いっぽう、筐体のカラーがブラックの場合は真っ黒に塗りつぶしてしまうので、基材をMDFにしてもよい。

エンクロージャー側のザグリの部分に2液性エポキシ系接着剤を塗り、木板を嵌めるようにして貼り合わせる。

一日しっかり静置すれば、以降木板が外れてくることはそうそうないだろう。わざわざ低頭ネジを使うなどするよりは、見た目も野暮ったくなくていい気がする。

終。
(周波数特性)

(写真資料)






