ヤマハの有名なブックシェルフスピーカー「NS-10M」を入手したので、整備してみる。
テンモニ
ヤマハの「テンモニ」こと「NS-10M」は、以前に後継機である「NS-10MX」を入手し、噂に違わぬ良音に感心するとともに、手を加えて延命処置を施したことがある。
今回、ひょんなことから初代テンモニが手元に届いた。オークションサイトでたまたま落札できたものだ。
【中古】YAMAHA NS-10M モニタースピーカー 左右ペア
- 価格: 34230 円
- 楽天で詳細を見る
初代と以降の改良機「NS-10M PRO」、そして防磁型の10MXは、各々音が微妙に異なるという言説を、インターネット上でたびたび目にする。音としては10MXで十分満足しているものの、初代の音も一度はじっくり耳に留めておきたいと思っていた。
これも整備していくけど、今回は以前10MXでやったこと以外の作業を中心にまとめておく。
改修前の音
出音は、手持ちの10MXとの比較になる。
環境
ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで鳴らしてみる。
ケーブルは「BELDEN 8460」に棒型端子を付けたもの。
インシュレーターは黒檀サイコロ3点支持。3cm厚の花こう岩プレートの上に乗せる。
要するに、いつもの環境。
音像
張りのある中高音域、タイトな低音は10MXと同じ。
しかし、10MXよりも音像がボヤけている。特に低音は、アタックに粒感がなくモヤっとする。
定位感も若干低め。こちらは、中音域が顕著。
防磁型ユニットを積んだ10MXのほうが、メリハリがあって迫力がある、という印象。
高音について
「高音が喧しい」と評される初代テンモニだけど、自分が聴く限り特別酷いとは感じない。
耳をつんざく感じかなと思っていたけど、別にそんなことはない。こういうバランスの音もあるよな、という感じ。
といってもこの辺の評は、自分が割と高音域が出るスピーカーが好みであることも多分に影響しているだろう。ただ、長時間のリスニングでは聴き疲れする音かもしれない。
整備内容
今回手を加えるのは、以下の通り。
整備
エンクロージャー
今回入手したものは、サランネットは綺麗なものの、エンクロージャーには目立つ塗装剥げがある。
これを補修して、なるべく目立たないようにしてみる。
まずはやすり掛け。
最近、ランダムサンダーを購入した。
これを使って、600番、1000番、1500番の順で、表層を全体的に削っていく。
10Mの筐体の仕上げは突板なので、天然の木目が残るよう、あまり深くは削りたくない。黒の塗装が剥げ出したあたりで止めておく。
あとは、黒の顔料とオイルで仕上げる。
オイルはワトコオイルのナチュラル。
作業としては、
- 塗布
- 2000番で油研ぎ
- 拭き取り、再塗布
- 3000番で油研ぎ
- 拭き取り一晩寝かせる
- 浮き出た余分なオイルを拭き取る
塗料の溶け出しが怖かったので、オイルは薄め液で薄めることはせず、原液のまま塗布。
顔料による塗装面の上にオイルを乗せたことがなかったので、ちゃんと染みていくのか不安だったけど、なんとかそれなりの仕上がりになった。
もしかしたらここは、顔料を単独で塗さずにブラック系のオイルステインなどを使うほうがいいのかもしれない。ただその場合、さらに深く研磨しなければならないだろうから、加減が難しそうだ。
ウーファー
修理部材
このスピーカー、左右でウーファーのコーンの色が異なるのが気になっていた。
R側が黄色いのではなく、L側がやたら白いのだ。
初めのうちは、こういう劣化の仕方もあるんだな、片方だけ日に焼けたのかな? という感覚で考えていた。しかし、内部を見てみると、様子がおかしい。
どうやら、改修歴がある製品のようだった。
ネットワークはそのままで、ケーブルをすべて引き換えられている。
この製品は息が長かったことで有名だ。修理部材も潤沢で、スピーカー本体が製造を終えてからも、純正パーツの入手は結構な期間容易だったらしい。
このスピーカーも、前オーナーが独自に保守しただろうことは想像に難くない。
ペアの左右で製造時期が異なっていても、聴感上は音に違和感が無かった。
試しに周波数測定をしてみても、L側とR側で有意な差は無さそうだった。当然といえばその通りだけど。
漂白
今回は、コーンの調色をしてみる。
基本的に、ホワイトコーンが多少黄ばんでいる程度なら気にならないから、わざわざコーン紙を痛めることはしないのだけど、今回に限っては左右で色が異なっているので、揃えたくなったのだ。
ホワイトコーンを本来の"ホワイト"にする方法は、インターネット上にいくつも情報があるけど、大別すると「塗装」と「漂白」になる。どちらにするか。
軽量がウリのホワイトコーンに白の塗料で塗膜を張るのは、性能面で支障が出そうだし、手間。
よって、漂白を選択することにした。
漂白、以前はコーン紙を痛める気がして避けていたのだけど、考えてみればコーヒーのパルプ100%ペーパーフィルターは漂白しているものもあるし、それと同じ材質であればアリなのかな、という気もしていたのだ。
漂白方法にもいろいろあるようだけど、一番簡単でシミになりにくそうな「霧吹き」を使う方法を採用。
100均ショップの霧吹きと、キッチン用塩素系漂白剤を用意。
ウーファーユニットを風呂場に持っていき、漂白剤を水道水で3倍希釈程度に薄めて、コーン全体がしっとりするまで吹き付け続ける。
コーン紙が全体的に湿ったら、即座にコーン紙以外の部分の漂白剤を拭き取る。
あとはユニットを上向きあるいは下向きにして、乾燥を待つ。
注意点は、
- 作業は換気できる場所で
- マスク、手袋の装着、脱色しちゃってもいい服装
- 漂白剤はなるべくコーン紙以外にかからないようにする
- 余分な漂白剤はユニット裏側にも付いていないか確認する
- 濡れたコーン紙には触れない
100均の霧吹きは、何度か空吹きしないと細かい霧状にならず使いづらかったので、ホームセンターなどで売られているそれなりのヤツを買ったほうが間違いない。
また、漂白剤の希釈には浄水器を通した水道水を使ったけど、気になるなら代替として精製水を用意したほうがいいだろう。
ある程度乾燥した後、新しいほうのウーファーと比べてみる。
また完全に乾いていないのもあるけど、見違えるほど白くなった。
完全乾燥後も、特にシミなどは出ていない。一部に黄ばみは残っているけど、これだけ白くなれば十分だ。
この後、色味を揃えるため、新しいほうウーファーも同じように漂白しておく。
ツイーター
ツイーターユニットには、前面に金属製のグリルパネルがある。この内部が結構汚れているので、清掃のためグリルを取り外す。
ライターオイルを溝に流し込み、少しずつ持ち上げる。
グリルが嵌っていた溝内に残る古い接着剤も除去。これが、意外と手間だったりする。
そのついでに、ツイーター周りにフェルトを貼り付けておく。要は、次世代機種と同等の仕様にする。
適当なフェルトを、コンパスカッターを使ってドーナツ状に切り出す。
寸法は外円が直径7.7cmくらい。内円は4.5cmとした。
黒色に染めて、ツイーターユニットに貼るだけ。
このフェルト、騒がしい高音を抑える効果があるとのことで、改良版である10M PROから付けられるようになったもの。
だけど、どの程度効果があるのかよくわからない。いずれちゃんと聴き比べてみたい。
前面グリルパネルを戻す。
このグリルは、接着しなくてもマグネットの磁力である程度吸い付く。今後のメンテナンスを考慮するなら、あえて接着しない手もある。
クロスオーバーネットワーク
ネットワークの改修を行う。
物理的なアクセス方法は以前の記事を参照。
スピーカーターミナル
スピーカーターミナルをバナナプラグ対応のものに換装する。
10MXではバックパネルを加工してポストを直付けしていたけど、初代10Mの場合は少し構造が異なり、スピーカーターミナルユニット自体を交換する形をとる。
単に外部から2本のネジで留めているように見えるスナップイン式のポストは、実はポスト自体を内部からネジ留めされている。内側のネジを外さないと、撤去できない。
ポストが外れると、エボナイト製っぽい小さなプレートが残る。
これは、2本のネジを外してあればとれるはずだけど、接着剤でくっついているので、内側から押し出す必要がある。
撤去後は、新たに取り付けるスピーカーターミナルのケーブルバインドの形状に合わせて、パネルに貫通部を設けた後、ネジ留めする。
コンデンサーの交換
フィルターに使われているコンデンサーを新しくする。
ツイーター用には、元は2.7μFのMPコンデンサーが2つ並列で繋がっている。合成値5.4μFということで、それに近い値の5.6μFというラインナップがあるPulseXを採用してみた。
また、配線は既存のラグ板を撤去し、ほとんどを圧着で結線する。
これも、10MXの際にはやらなかった改修だ。
改修後の音
以上の整備を施し、再度音を鳴らす。
音の変化は、改修前とほぼ同等。
ウーファーの漂白で音色が大きく変わっちゃうかもと心配していたけど、今のところ問題は無さそう。
高音域が若干大人しくなったかな、という気もする。だけどこれは、ツイーターに追加したフェルトの効果なのか、コンデンサーの数が一つ減ったことによるインピーダンスの変化の影響なのか、判断できない。聴感での変調が微細すぎる。
実のところ、"高音の煩さ"と呼ばれているものは、ツイーター側の影響ではなく、1kHzから2.5kHzの間、つまりウーファー側が担う高めの中音域の主張によるところなのではないか、という気がしている。
まとめ
とりあえず、目玉だったウーファーコーンの漂白が上手くいったので、一安心。
ただ、コーン紙の耐久的に繰り返し行える施術とも思えないので、またコーンが黄ばんできてもそのままとなるのだろう。それはそれでいい気がする。
吸音材、エッジのダンパー材、ツイーターのフェルトの大きさなど、テンモニの整備について、まだ詰められそうな箇所はある。
しかし、これ以上追い詰めても、音に関して大きな改善は見込めそうもない、とも感じる。それよりもむしろ、外観の美麗化に努めたほうが、モノとしての所有感を高められると思う。
綺麗な音に見合うスピーカーにしてみたいものである。
終。
(以下資料)