ボーズの小型パッシブスピーカー「BOSE 101IT」を入手したので、観察してみる。
イタリアーノ
ボーズの普及機「101」シリーズの、カジュアル寄りの外観デザインを採用したモデル、という認識。「IT」は「イタリアーノ」のことらしい。
イタリアーノと名付けるからには、イタリア的デザインを取り入れたのだろうけど、芸術的な部分に全然明るくない自分には、どの辺がイタリアンなのかわからない。時代によっても違うだろうし。
なお、同形でアンプ内蔵モデルの「PAM-3」という製品もあったらしい。
101ITには、ブラックのほかにレッドとホワイトもあったようだ。しかし、ブラック以外は中古市場で流通数が少なく、滅多に見かけない。
本当はレッドが欲しかったのだけど、そういう事情で諦め、ブラックを入手した。
積んでいるドライバーユニットは、11.5cmコーンのフルレンジユニット。防磁型らしいけど、以前整備した同じ防磁型の「101VM」とはコーン紙の材質が異なる。ユニットは別物のようだ。
ガチガチPA仕様の「101MM」などとは異なり、外観はオモチャみたいな質感。
傷がつきやすい材質で、無数の打痕や擦り傷が見受けられる。
バスレフポートのデザインが特徴的。
四角い函の1面全域に、ラジエーターのような格子のついたバスレフポートがある。
正面から見るとモダンなのに、サイドのこの一面だけ仰々しい感じなのがユニーク。
古いカタログによると、特許技術EDS(エネルギーディスパージングストラクチャー)による「エアロダイナポート」なるものの開口部らしい。低音域を重視したもののようだ。
音
出音を聴いてみると、たしかに101MMなどよりも低音が出てくる。前述の技術は、恩恵が少なからずあるようだ。
101MMも低音が出ないわけではない印象だったけど、こちらはさらに厚みがある。
自然な中音域と、丸く無理しない感じの高音域。うまくまとまった聴きやすい音は、ほかの101と同じ。
分解
中身を見てみる。
このスピーカーは前面のユニット固定用と、背面に4点ネジがある。まずは前面から。
サランネットは簡単に外れる。ネットはよくある四つ脚だけど、筐体側にゴムブッシングの類が一切無く、単にダボ穴に脚が入るだけの構造。
このままだと、天吊りした場合など、そのうち落下してきそうで危ない気がするのだけど、何か別の固定方法があったのだろうか。
ユニットを外してみると、ボーズのスピーカーでよく見かけるコイルのように巻き付けるだけの結線端子が出てくる。
これ、見かけるといつも思うのだけど、外れることってないのかな。
マグネットの裏側にネットワーク基板をネジ一本で留めている構造。
ボーズのほかのスピーカーと同様、フルレンジスピーカーながらパッシブイコライジング用のネットワーク基板が備わっている。
スピーカーユニットとの接合面には、厚みのある円形のゴムシートを挟んで絶縁している。
フューズランプの横にある黄色いものはPTCサーミスタ。121にもあった。
その後ろにあるのが共振回路。使用されているパーツの容量値が若干異なるけど、こちらも121と同じく、2kHz付近を山頂に捉えて抑えているようだ。
抵抗が被覆の無い巻線抵抗器。
素っ裸のものがネットワーク基板に搭載されているのは初めて見た。
スピーカーのエッジが、一部固着していることに気がついた。
どうやら、製造過程で、スピーカーターミナルを裏から固定するための接着剤が硬化前に垂れて、それがエッジまで流れ下ったようだ。
こういうところがアメリカ品質である。
また、エンクロージャー背面は、構造的には開くようになっているけど、固定していると思っていたネジ4本をすべて外してもビクともしない。
これも、ネジのほかに接着剤でガッチリ固定しているようだ。
一応このままでもスピーカーターミナルには前面からアクセスできるけど、エアロダイナポートそのものには背面部を開かないと手出しできない。
ショックレスハンマーで叩いても、外れる前に筐体自体がバラバラになりそうだったので、ここを覗くのは諦めた。
整備
スピーカーターミナルも、バナナプラグ対応ポストにはせず、同一形状のプッシュスナップイン式を用意。
ほぼ原状復旧である。
エンクロージャーは吸音材をいったん撤去し、液体せっけんを使って丸ごと水洗い。
サランネットも同様に洗い、陰干ししておく。
ケーブルはPVCからすべてOFCスピーカーケーブルに変更。
スピーカーターミナルの向きは、R側スピーカーがなぜかプラスが上側だったので、上下ひっくり返してマイナスが上になるように設置。
配線の接続も一般的な平型端子とする。
以上を施し、組み上げ後の出音に異常が無いことを確認。
まとめ
小型かつ直方体に近い形状で、デスクトップに置きやすいスピーカーだ。低音が安定しているので、伸びのある高音域を求めなければ聴きやすいスピーカーだと思う。
セッティングフリーのスピーカーであるものの、やはり特徴的なデザインのバスレフポートが見える横置きができるとカッコいい。それでも置いてみた感じ、どの方向に開口部を向けても音にそこまで違いを感じなかったので、幅を取らない縦置きでも問題ない。
ボーズの101系の音の個人的な印象は界隈とは真逆で、「万能系」だと思っている。なんでもそれなりに鳴らしてしまう感じ。
特段分析的でもないし、広い音場も持ち合わせていない。それでも、音楽を違和感なく無難に聴かせてくれる。それって、なかなかできないことなんじゃないかと、スピーカーを聴き比べていると思うのだ。
この101ITも、その傾向を改めて感じるのだった。
(追記1) イタリアンレッド
外観
ようやくレッドカラーを手に入れた。状態の良さそうなものを探していたら、前回から1年と半年が経っていた。
こちらも以前と同じように整備するのだけど、まったく同じなのもつまらないので、少しだけ仕様を変える。
周波数特性
久々に出音を聞く。この小さな体積でよくここまでスケール感を引き出せるものだと感心する。古いスピーカーだけど、現代でも十分通用する。
前回は設備が無くて測定できなかった周波数特性をここに載せておく。
200Hzから下は下り坂だけど、バスレフの特殊な形状のためか、60Hzあたりを中心に幅広く持ち上がるようだ。これが低音に量感を与えているらしい。
コンデンサー
配線
ネットワークから背面のコネクターまでのケーブルは、JVCKENWOOD製のスピーカーケーブル。細くて柔らかく、施工しやすいので採用している。
既存のコネクターユニットのシャフトが貫通していた孔をドリルで拡張し、そこに新しいケーブルを通す。
ケーブルの貫通部は、適当なものでシールして隙間を埋めておく。今回は余っている液体ゴムをたっぷり流す。
バインディングポスト
背面のコネクターユニットは、今回はバナナプラグ対応の金属製ポストにする。
オリジナルと同じスナップイン式のコネクターは、もともと奥まった位置にあってやや扱いにくい。それを解消するため、浮かせて取り付けたい。どうせコネクターが出っ張るのだったら、ということで現代的なバインディングポストにしてしまう。
ただし、平型端子が刺さるタブは、ベースを浮かせても干渉してしまうので取り外す。代わりに、ケーブルに丸形端子を圧着して、ポストのシャフトにくぐらせることにする。
スペーサーを高さ19mmぶん用意して、M3相当のタッピングネジ40mmで固定する。
完成
念のため周波数特性を見て、整備前後で変化がないことを確認して、作業完了。
しばらくメインスピーカーに据えておこう。
(追記2) ホワイト
外観
イタリアンレッド入手からさらに一年後。ホワイトカラーを入手した。
これで知るかぎり、全カラーを入手できたことになる。
特徴的なバスレフポートも、白いとその形状がわかりやすい。
仕様の相違
このスピーカー、眺めていると、ちょっと違和感がある。それがなぜなのかしばらくわからなかったけれど、今まで見てきたものとは外観が少し異なっている箇所があることに気づく。
内部のリブの入りかたも異なる。樹脂成形の金型を新たに起こしたようだ。
吸音材は、ニードルフェルトから柔らかいエステルウールに変わっており、配置もドライバー周りからバスレフダクト周りに詰めるかたちになっている。
信号周りも設計変更がある。イコライジング用のネットワーク基板は、回路は以前のものと同じだけど、基板は別物。
マイナス側の配線は基板をとおらずにドライバーとポストが直結となっており、合理化が図られている。
また、裸の巻線抵抗はセメントでケーシングされ、コイルと電解コンデンサーとともに接着剤をたっぷり盛られて固定されている。
なんか、仕様の相違が存外にあるな、と訝しみながらインターネットを突っつくと、どうもこのホワイトカラーのモデルは1990年代にラインナップに追加された後発品らしいことがわかる。おそらくこのモデルが登場するタイミングでマイナーチェンジが行われたのだろうと推測する。
終。