いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

BOSE for NEC S-101VM をメンテナンスしてみる

 

偏見

BOSEの音としてどうしてもイメージするのは、「何を鳴らしても低音ボンボン」だった。それは、昔PC向けスピーカーで聴いたものしかり、最近だとイヤホン「Earbuds」やBluetoothスピーカーしかり、低音域が強調されたものばかり聴いてきたため。俗に言う「BOSEサウンド」とはそんなものなのかと思っていた。

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BOSE製品はブラックのイメージがある
今回手に入れた「S-101VM」の試聴も、その心積もりでいた。しかし、良い意味で裏切られた。
 

改修前の音

いつものように、YAMAHAのAVレシーバー「RX-S602」に繋ぐ。アンプは「DIRECT」再生。
ロゴの向きに合わせて横置きしたかったけれど、設置スペースの都合でバスレフポートを下側にした縦置きとする。インシュレーターは、1cm角の黒檀サイコロ三点支持。

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ロゴのプレートは接着されていて、向きを任意には変えられない
この大きさでしっかりとした低音が出る。小さくても低音が出ること自体は、以前JBLの「CAS-33」に出会っていたので、それほど驚くことではない。
ただ、全然ボンつかない。
量感はあっても嫌味がなく、フルレンジユニット一発の定位感も相まって、安心して聴いていられる。ほかの音域が掻き消えることもない。
 
上下左右の音場は狭いけど、ある程度奥行きがある。低音域以外は少し前のめりで、どちらかといえば硬い音。その辺りはPAスピーカーらしいといえる。
 
高音域が苦手で、詰まった感じはある。されども、聴けるぞ。そういうキャラクターだと思えば全然問題ない。
 

分解

このスピーカーの最大の特徴だと個人的に思っている、「フルレンジなのにネットワーク回路内蔵」を確認すべく、分解してみる。
 
前面のグリルは樹脂製のフレームに嵌め込まれているだけで、力を加えれば簡単に外れる。以前分解した「JBL Control Wave」のようなゴムは無く、前面パネルと嵌合されているだけだ。

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メンテしやすくて非常に良き
101VMは、「101MM」をパーソナル向けに改修したものだ。もちろん通常使う分には問題ないけど、PA機器と捉え直すと、現場で何かのはずみにポロリと外れてしまったりしないのかなと思ったりもする。
 
前面にはバスレフポートと、11.5cmのフルレンジユニット。

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前面パネル俯瞰
前面パネルと筐体を留める6本のネジは、穴が特殊。初めて見るタイプだ。

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なんだこれ
いじり防止付きのヘックスローブっぽいけど、Ribe CV規格のような角張った歯車型をしている。いじり防止付きのRibe CVなんてあるのか?
 
なんにしても対応するドライバーは手持ちにないので、ヘックスローブ用のドライバーで無理やり外す。
ちなみに、ユニットを留めている3点のネジは、よく見るプラスネジ。
 
吸音材は、ユニットの真裏に正方形のスポンジ1枚のみ。

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吸音材
このスピーカーのケーブルの接続は、すべてはんだが使用されている。よく見る平型端子は一切使われていない。

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このファイバーシートの使い方は、今後真似したい
個人的には、スピーカーの内部配線はこちらのほうがいいと考える。スピーカーのメンテナンスをするようになってから、平型端子が緩まってガタガタになっているものを割とよく見かけるからだ。
スピーカーの分解なんて、それこそ修理時以外にすることは基本的にないのだから、はんだ付けでガッチリ固定してしまっていい。
 
ユニットの真裏に例のネットワーク回路がネジ留めされている。

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コンパクトにまとめられている
ここで初めて、エンクロージャー背面にある穴はブラケット固定用のボルト穴ではなく、フォンジャックであったことを知る。

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材質は不明だけど、かなり硬質で重厚な樹脂製筐体
ネットワーク回路は、セメント抵抗器、電解コンデンサー、空芯コイル、ヒューズランプそれぞれ一つずつで構成されている。基板プリント、抵抗器、電解コンデンサーには「BOSE」の銘がある。チューブラ形コンデンサーはELNA製。

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ネットワーク基板
回路は一般的なマルチウェイのそれと似ていて、こちらはミッドレンジユニットに対するイコライジングのような使われ方をされている。

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ネットワーク回路
端的には、コイルとコンデンサーで低音と高音を抑えようとする部品配置だ。
わざわざ抵抗器を噛ましているのは、許容入力値を上げるためか。
 
スピーカーネットワークにフューズランプを用意するのは、ユニットの過電流保護用だと思っていたけど、少なくともこの回路においてはその効果は無さそう。とすれば、このランプもイコライジングに一役買っているというのか。
 
シンプル過ぎる。それ故、メーカー側の音作りに対する自信というか、スピーカーユニットとの特性を十分に吟味し裏付けがあっての原構成であることが、この小さな基板から感じ取れる。
 

改修

ネットワーク

上記のこともあるし、元の音が気に入っているので、あまり大げさに弄りたくない。
ネットワークは、コンデンサーの交換のみに留めることにした。
いつもならヒューズは真っ先に撤去するところだけど、それはしない。筐体内部に空間的な余裕があり、パーツ点数が少ないのでプリント基板を撤去し直結させることもできるけど、それもしない。
 
コンデンサーは、既存と同容量のパナソニックのPETフィルムコンデンサー「ECQE」。

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ECQEは最近よく使う
色付けが少なそうだという理由から。単に電解コンデンサーからフィルムコンデンサーに交換したいだけなら、PPではなくPETを使うことが多い。安価だし。
 
リードをちょっとだけフォーミングしてからはんだ付け。

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弄るのはこれだけ
ちなみに、既存の10μF電解コンデンサーの静電容量は、ひとつは約11μF、もうひとつは14μF弱まで上がっていた。
 

バインディングポスト

プッシュ式のケーブルターミナルユニットをバナナプラグ対応品に交換する。
背面のネジ2本を外すと簡単に取れるのかと思いきや、さらに接着剤で固めてあった。

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ネジを外してもビクともしない
筐体内部からはんだごてでケーブルターミナルを熱して、接着剤を柔らかくして取り外す。

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新しいバインディングポスト
このスピーカーのケーブルターミナルは背面のやや奥まった位置にあるため、パーツをそのまま取り付けると裸線を直接ネジ留めすることが困難な状態になり、実質的にバナナプラグ専用ポストとなる。ベースに何か挟んで底上げしてもいいのだけど、それはそれで背面から出っ張ってみっともない気もするので、あえてそのまま取り付けることにする。
 
新しいバインディングポストは、ポスト同士の間隔は既存と同じだけど、背面にあるケーブルバインド部として設けられた薄い銅板の高さが異なる。

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左:新品 右:既存
といっても差異は小さいので、筐体のスリットにそのまま無理やり押し込んでしまい、ネジ留めする。
 
また、プラスとマイナスが左右逆に取り付けることになるので、キャップを左右入れ替える。

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作業が容易で助かる
この作業は、今回たまたまキャップがポストから完全に外れる製品を選んだから可能だったこと。外れないタイプのものは、ケーブルバインド用の銅板を上下ひっくり返すことで対応する。

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金メッキ製ではなく、あえて樹脂キャップにすれば雰囲気が出たかも
ついでに、内部配線もすべて引き換える。
使われているケーブルは撚線ではなく、すべて単線被覆線だった。これも何か意図があるのだろうか。
ここは構わずPVCケーブルに引き直す。一部はOFCスピーカーケーブルとした。
各部の接続は、もちろんすべてはんだ付け。

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ケーブル長が短くて済む設計なのも良い
 

改修後の音

大した改修をしていないので、音の変化は少ない。10時間ほどは眠たい音しか出てこなかったけれど、しだいに性能を取り戻してきた。
 
中音域の音像が明確になった反面、低音域はやや落ち着いた。
 
ボーカルの定位が少し良くなったか。パツパツと出る張りと、安定感のある厚みの両立がとても上手い。
 
メンテ後も絶対的な高音は出ていないので、全体的に下振りした音なのは変わらないけど、気になるものではない。
 
バランスとしては、改修後のほうが明らかに良い。だけど、元のキャラクターが薄まったともいえる。電解コンデンサーをフィルムコンデンサーに変えた影響だろう。
 

JBL Contol 1 との比較

対を成すと言ってもいい同世代同サイズの製品「JBL Control 1」と音の印象を比較する。
どちらもPA用途に使われるスピーカーだ。

morning-sneeze.hatenablog.com

Contol 1は2WAYで、ツイーターが高音域を受け持つので、中高音についてはControl 1が有利。華やかで、いわゆる"オーディオ的"な鳴り方をする。
とはいえ、101VMが聴くに堪えないかというとそういうわけでもない。高音単体として聴くとやや詰まった感じはあるものの、ミュージックとしては中音域に速度があるからか、違和感が小さい。
 
逆に、低音域は101VMに分がある。どちらもバスレフポートが前面にある仕様だけど、Control 1は量感不足が否めない。
ここは割り切っていて、シリーズには別途サブウーファーが用意されていた。AV機器として低音が欲しいならそれを併用してね、というスタンスのようだ。
たしかBOSEにもサブウーファーはあったはずだけど、少なくともデスクトップスピーカーとしてステレオで使う分には不要であると思う。
 
現代の音として好まれるのは、「据わっている」感のある101VMのほうだろうな。高音の伸びを求めるなら、Control 1を選ぶだろう。
 

まとめ

聴いていて飽きないスピーカーだ。初めのほうにも書いたとおり、BOSEのスピーカーを見直さなければならない。

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組み上がり、筐体をある程度清掃した状態
設計についてはド素人だけど、分解してみた印象として、スピーカーを解っている人が作った製品だと感じた。ネットワークをはじめ、ケーブルの繋ぎ方、巨大なマグネット、エンクロージャーの堅牢な材質など、小さな箱のいたる所に出音に関する意図をうかがえた。
もちろんPA製品であるからには、ある程度堅固な造りにしなければならないのはわかる。それでも、音に愚直というか、追い求めるものを一製品にここまで落とし込めるのは、頭が下がる思いである。
名機と呼ばれる所以なんだろうな。
 
改修後は誰かに譲る予定でいたけど、手放したくなくなってきた。
終。