外装仕上げが美しいBOSEのパッシブスピーカー「Model 121V」を入手したので、整備してみた。
意外と少ない縦型121
もともとは90年代前半発売の「121」の外観に惹かれていたのだけど、121は横置きであり、設置スペースを確保できず入手を諦めていた。
その後、121の縦置き版である「121V」の存在を知り、中古市場で流れてくるのを狙うことにした。しかし、横置きの121は見かけるものの、縦型のほうは意外にも流通数が少ないようで、外観の状態の良いものがなかなか見つけられずにいた。
先日ようやく手に入れられたけど、その時点で探し始めてから3か月以上は経っている。
改修前の音
フルレンジユニット1基のブックシェルフスピーカー。ユニットの形状が「101MM」系と似ているので、それと同じような性格なのかと思ったら、やや異なっていた。
音自体の傾向は101MM系と同じく中音域寄りのいわゆる"かまぼこ"。ただ、121Vのほうが平坦というか、凹凸が抑えられていて癖が無い感じ。
定位やパースは101MM系同様。音場は横に程度よく広がる。高音域の分離感はこちらのほうが上かな。
低音域はそこそこ出るものの、音像がややボヤけ気味。音自体はタイトで好みだけど、もうちょっと整理されているといいんだけどな。
これは、前面下部にあるスリット状のバスレフポートの影響があるのかもしれない。
分解
音のキャラクターがわかったところで、中身を見ていく。
エンクロージャー
見たところ、ドライブユニットとスピーカーターミナルのほかに、バスレフポートもネジでエンクロージャーに固定されている。
クリーム色のそれは、ダクト部と一体で成型されており、ポリプロピレンに近い材質をしている。パネルからダクトごと分離できるスピーカーって、意外とめずらしい気がする。
エンクロージャーへの固定に使われるネジは、すべて特殊ネジ。ヘックスローブかと思ったら、なんとなく歯車に近い角張った形状なので、「トルクスプラス」か?
101MMに使われているようないじり防止付きのものではない。
トルクスプラス専用のドライバーは手持ちに無いし、買い揃えるにも高価。普通のヘックスローブのビットで回すことに。
スピーカーユニット
ユニットを外すと、なにやらエンクロージャー内にマグネットが取り残されていて驚く。
このスピーカー、ドライブユニットの固定は前面パネルだけど、なぜかキャンセルマグネットのみエンクロージャー内の左右に渡した木材に、太めのタッピングネジ一本で支持する設計となっている。
エンクロージャーの中でユニットを固定する方法は、昔のパイオニアのスピーカーが採用していたのを知っていたので、それほど新鮮味は無かったけど、マグネットが分離するシステムは初めて拝見。
ネジが中心部に一本だけ。よって、マグネットはケースごと手で簡単に回転する。こんな形でも機能するのか。
ネットワーク
背面のスピーカーターミナルユニットを外すと、ネットワーク基板がくっついてくる。
ただし、101MM系に無いものとして、黄色のフィルムに包まれた見慣れないパーツが存在する。
電子設備に明るくないため、これは何ぞやとインターネットにお伺いを立てると、どうやら「サーミスタ」と呼ばれるものらしい。
搭載されているのは「PTCサーミスタ」であり、閾値である温度を超えると急激に抵抗値が上がるものらしい。つまり、何かのはずみでスピーカーに大きな電流が流れた場合、その電流を抑えて回路基板やユニットを保護する仕組み。
基板上ではネットワーク回路の手前、フューズランプと並列に配置されていることから、過電流保護の役割として設けられていることで間違いなさそう。
どちらかといえば業務用途向けの101MM系に対し、121、121Vはホームユース。安全面により気を遣ったとみえる。
その後ろで、RCL並列回路が組まれている。これは、「共振回路」というらしい。
クロスオーバーネットワークにおいては、再生周波数特性の山となる部分を抑える際に用いられる手法。
パーツの容量値から計算するに、このスピーカーは2kHz辺りを狙って音を均しているようだ。
配線
101MM系では、内部配線はすべて細い単芯線が使われているけど、こちらは撚り線。
特徴的なのが、ネットワーク基板とスピーカーユニットの結線にはんだも端子も使わず、スタッドを設けてそこにグルグルとスプリング状に巻きつけているだけであること。
外れることはないにしても、電気的にはどうなんだろう。これ。
整備
表面がやや粉吹き状態のバスレフポートを取り外し、風呂場に搬送。中性洗剤で洗浄し、乾燥させる。
その間に、ネットワーク基板上のコンデンサーの交換を行う。
既存と同一の静電容量だけど本体が巨大なため、リードを適当にフォーミングしてからはんだ付け。
ケーブルは、すべてOFCスピーカーケーブルに引き換える。最近よく使う車載用の細いケーブル。
既存のスタッドに巻き付けるだけでなく、しっかりはんだ付けする。
今後整備しやすいように、ネットワーク基板近辺にギボシ端子を設けたけれど、これは余計だったかもしれない。
そのほか、エンクロージャーのバーズアイメープルを磨く。
UV塗装されてツヤツヤの仕上げ。ただ、手垢などで曇っていた。アルコール系洗剤で拭いてやるだけでも、だいぶ綺麗になる。
バスレフポートを元に戻し、完了。
改修後の音
改修前と比べて、音の変化はほとんどない。
交互に聴き比べてみて、若干ボーカルの定位が良くなったかなと感じる程度で、聴感では一緒。
ザワついている低音域もそのまま。これをなんとかするには、バスレフポートか吸音材を弄るくらいしか思いつかない。
今回はオリジナルの音から遠ざけたくなかったので、手を加えるのはここまでとする。
まとめ
いくつもスピーカーを取っ替え引っ替えしていると、「なんでも無難に聴かせるスピーカー」がいかに貴重かわかる。BOSEのフルレンジスピーカーは、そのジャンルの一翼を担っているといえるのではないか。
美観面でも上質で、所有感がある。クラシカルなデザインなのでインテリアに合わせやすそう。天吊りにするのはもったいないな。
終。
(以下資料)