いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Pioneer S-X11 をメンテナンスしてみる

 

経緯

純粋に"見た目"である。

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Pioneer S-X11
最近思うのは、どうやら自分の場合、1980年代の日本のメーカーのスピーカーが、外観も音も好みのものが多い気がしている。古めかしいけどどこかモダンで、音のレンジは狭い分中音域が厚く、丸みがある。だから、YAMAHAの「NS-10MX」とかJBLの「Control 1」あたりを、未だに手放さずに保管しているのだろう。
このS-X11も1987年発売のスピーカーで、各ユニットを縁取るシルバーのフレームにグッと来てしまったわけである。
 
フリマサイトでペア3,000円くらいで放出されていたのを入手。相場より少し安いのは、ウーファー用の前面グリルが欠損しているから。
先日メンテした「JBL Control Wave」もそうだったけど、このテのスチールグリルはかなり「ヤワ」で、中古で流通しているものは大抵ベコベコに変形していたり穴が開いていたりする。
このスピーカーもグリルを撤去した跡があったので、前オーナーが出品に際しあえて取り外してしまったのかもしれない。

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意匠的には、グリルが無いほうが好み
とはいえ、ツイーターのグリルは奇跡的に綺麗なままだし、グリルが無くても全然違和感がない。欠損していても問題ないのだった。
 

改修前の音

想像では、当時のコンポにありがちないわゆる"ドンシャリ"な音なのかなと思っていた。しかし逆で、中音域が迫り出してくるバランスだった。能率が高く元気な印象で、鳴らせる範囲を無理なく鳴らすタイプ。
この前に置いていたスピーカーが密閉型で低能率の「YAMAHA NS-M325」だったので、余計にハキハキ聴こえる。
 
背面にバスレフポートがある。低音増強というよりは共鳴を調整して全体のバランスを整えているような感じ。

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背面
高音は質があまり良くないものの、しっかり出ている。ウーファーとのクロスも違和感なし。
 
音場は割とフラット。パースもあまり感じられないけど、安心して聴いていられる。好みの出音だ。
 
特徴のひとつとして、前面に「NORMAL」と「SURROUND」を切り替えるロータリースイッチがある。
「SURROUND」にセットすると音響効果が加わるのかと思ったら、ツイーターの出力が下がった。つまり高音域が弱まる。

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サラウンドとは……
自分の知っているサラウンドとは異なる。どういうことだろうか。別途ツイーターを用意してシステムを組むときのためのモードなのだろうか。
好みはデフォルトの「NORMAL」のほうなので、弄らないでおく。
 

分解

約35年前のスピーカー。コンデンサーの交換を中心に、リファインしてみたい。
 
初見ですぐに開口できそうな箇所として、まずは六角穴のネジで留まっているツイーターユニットから手を付けてみる。

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対辺4mm
ネジ類は錆が見えるので、錆び落としの溶液に浸けて可能な限り綺麗にする。

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ツイーター。「DT-028A」
前面のグリルは、ユニットの溝に嵌め込まれているだけ。先の細いものを目に引っ掛けて、グリルが変形しない範囲で力を加えて少しずつ持ち上げていく。

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接着剤は付いていないようだ
ドームツイーターは3点ネジを外すとマグネットと分離できる。
ドームの裏に油分が染み込んだ綿が仕込まれていた。

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どういった効果があるのだろうか
 
つぎに、ウーファーを外す。
このスピーカーの特徴として、ウーファーユニットは前面パネルに固定されておらず、筐体内部に設けられたスタッドに固定する「ミッドシップマウント」なる方法が採られている。
この固定はボルト一本。アクセスは、背面のプッシュ式ケーブルターミナルユニットのある孔である。
判りづらいけど、ユニットの上下にわずかに溝がある。そこにマイナスドライバーなどをあてがい、てこの原理で持ち上げてユニットを外す。

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こちらも嵌め込まれているだけ
孔の奥に六角穴が見える。回すには、ややリーチのあるレンチが必要となる。
外す際、アルミダイキャストフレームの重たいウーファーユニットがエンクロージャーから不用意に落下しないよう注意。

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対辺6mm

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ミッドシップマウント」の様子

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ウーファー。12-750A
フェルトの吸音材は、ウーファーのマグネットを一周するように置かれていた。そのほかには一切無い。

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本体上面より俯瞰
ネットワークを構成するパーツ類はすべて厚紙の上に乗せられ、ファイバーボード製のエンクロージャーに直接タッカー留めされていた。

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メンテ前提の設計ではないようだ
どうやら、ファイバーボードに回路を固定してから筐体を組み上げたらしい。
見たところエンクロージャーは、補強材を含めてすべて接着剤で組まれている。これを不用意に解体するのは、ボード自体を破損する可能性が高いと判断。筐体はこのままにして、ウーファー孔から手を突っ込んで作業するしかない。
この撤去に大変苦戦した。
 
小型のドライバーなどを駆使し、なんとか取り除いた。

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ネットワーク回路
今回新しく設けるネットワーク回路は、コイルと抵抗器を再利用とし、それらを含めたすべてのパーツをMDFに搭載して、木ネジで固定することにした。
 
なお、ロータリースイッチについては真裏からタッカー留めしてあることは確認できたものの、手が届かず作業不可であるため、諦めた。
 

改修

ネットワーク

ネットワークの回路構成は、ツイーター用に直列で3.3μFと6.8μFの電解コンデンサー、並列で0.27mHのコイル。ウーファー用に直列で0.25mHのコアコイルのみ。
ロータリースイッチは、単純にバイパス回路の開閉をしているだけ。固定の4.7Ωの抵抗器と並列で接続され、スイッチの切り替えで回路の抵抗値を増減させている。

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ネットワーク回路
ちなみに、既存のニッケミ製アルミ電解コンデンサーの静電容量は、3.3μFのほうはほぼ規定値、6.8μFのほうは二つとも8.0μF前後まで増えていた。
 
基板として用意したのは、100均ショップで購入したMDFパンチングボードと木の棒。
ボードをだいたい10cm角に切り出し、短く切り落とした棒を脚代わりにして浮かせる。前回分解したNS-M325のやり方を参考にしている。
 
既存はラグ板だけど、代わりに先日秋葉原のコイズミ無線で買ってきたモールド端子を設ける。固定は100均の木ネジ。

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1個154円
コンデンサーは、3.3μFのほうはJantzenAudio製のメタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「CROSS-CAP」。6.8μFはニチコンの「MUSE ES」。

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新品コンデンサー類
MUSE ESシリーズのラインナップに6.8μFのコンデンサーがないので、2.2μFと4.7μFを並列接続する。
ただ、安価に済ませるために電解コンデンサーにしたけど、どうせ二つ並列にするなら、2.2μFのほうだけでもフィルムコンデンサーにしておくべきだったな。そこまで頭が回らなかった。
 
パーツとケーブルの接続は、なるべく圧着端子を使用していく。

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各パーツの配置決めは、ボード固定用のネジが一番最初
パーツの固定はホットボンド。パンチングボードなのでケーブルタイにするつもりだったけど、手持ちを切らしていたらしく見あたらなかったので。
 

バインディングポスト

プッシュ式のターミナルをバナナプラグ対応品にしたかったので、新しいものを用意した。

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雰囲気に合わせて、あえて樹脂製キャップをチョイス
しかし、エンクロージャーの既存の孔の径が2mmほど小さいことが判明。そのまま嵌めることができない。
孔を拡張する工具など無いので、引回しノコギリで地道に切り広げていく。これが意外と手間。

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木屑の掃除が大変だから、外で作業するべきだったな
100均の皿ネジで固定するけど、その前にウーファーユニットを固定するのが先。

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孔は歪でも、隠れるので問題ない
 

各ユニットの清掃

ウーファーのエッジと振動板、キャップ、ツイーターのドームには、なにやらコーティングがされていたようで、それが劣化してドロドロになっていた。さらにそこに埃などが付着していくため、かなり汚く見える。
 
中性洗剤を浸み込ませたウエスや綿棒でゆっくりとこそぎ落とし、シリコンオイルで再コーティングしておく。

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コーティング剤はなにがベストなのか、よくわからない
 

改修後の音

すべての作業を終え、再構築。

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改修後。やっぱり、グリルが無いほうがカッコいいな
メンテナンス後の音は、高音域が改善された影響か、輪郭がくっきりした。かといって繊細に寄ったわけではなく、定位が整理され聴きやすくなったという印象。
 
高音のチープな感じは変わらない。これはツイーターの性能が支配的なのだろう。しかしそれでも、張りが出て瞬発力が上がったようには感じる。
サラウンド機能が不要であれば、ロータリースイッチと抵抗器をスルーするとさらに良くなるだろう。また、すべてPPフィルムコンデンサーにすれば雰囲気が多少異なったのかもしれない。
 
クラシックやアンビエントなどの艶っぽい余韻は苦手だけど、それ以外はそこそこオールラウンダーである気がしている。単音にキレがあるので、ジャズをハイスピードで明るく聴かせたりするのが得意。
 

まとめ

工作面では、とにかく既存のネットワークの解体に苦労した。後々メンテナンスすることを前提とした設計になっていないのだろう。
しかし、以前メンテしたJBLの「4312M」もそんな感じだったし、基本的にユーザーは手を入れないものだという前提に立てば、思想自体は間違っていないのかもしれない。

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メーカーの旧ロゴもカッコイイ
自分の耳は、多少ナローでも「塊感」というか、エネルギッシュに前へ前へと出てくる音を心地よいと感じる節がある。併せて、現代のワイドレンジな音にも慣れている。
1980年代の製品は、その中間の音を鳴らしてくれるから惹かれるのかもしれない。アナログからデジタルへの過渡期、HiFiを目指しつつも垢抜けない、良く言えばいいとこどり、悪く言えば中途半端な音。
もちろんそうでないスピーカーもあるけど、いわゆる「その時代の音」というものの存在を、なんとなく認識した気がする。
 
終。
 

(参考)発売当時の雑誌レビューなど

ここでは、製品発売当時の雑誌のレビューから、音に関する部分を抜粋しています。

ステレオ 1987.2.

今月の新製品を聴く
藤岡誠
(前略)音質はなかなかの低域感がある。小型だが意外性がある。ウーファー振動板はなかなかの代物のようだ。高域はなめらか。ソフトドームだがエナジー感が損われず、ウーファーとのつながりもスムーズ。小型だからといってあなどれないのが本機であり、ボーカル帯域にも妙なクセはない。
 
(以下資料)

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