CORALのブックシェルフスピーカー「EX-101」を手に入れたので、整備してみた。
今回は内部システムの改修のほか、エンクロージャーのリカラーもやってみた。
ようやく
このEX-101は、以前から手にしてみたいと思っていた機種だ。
密閉型の2WAYは好みのシステムである。先に入手できてしまった後継機「EX-102AV」の造りが良かったのもあり、ぜひとも聴いてみたかったスピーカーだった。
約35年前の、メーカー末期のスピーカー。うまいこと状態の良いものが手に入ればいいなと思いながら、昨年末にようやく手元に届いた。
個人的に使用するメインのスピーカーとするつもりだったけれど、このすぐ後に手に入ったビクターの「SX-300」が自分の好みにカッチリ嵌ってしまい、早々に退いてしまった。
とはいえ、リファインはして音の改善を図ってみることはしたかった。最近になって整備の方針が固まったので、また引っ張り出してきた。
改修前の音
後継機EX-102AVの音を知っているので、そちらとの比較になる。
102AVはややドンシャリなのに対し、101はフラット。聴感上も、周波数特性的にも、凹凸が少ない。
102AVにあったような、中音域が遠くで聴こえる現象も、101では感じない。
102AVはバスレフ型で、そのまま鳴らすと中低音が割とボンついた。こちらEX-101は密閉型で、さすがに締りのよい音が出る。
低音の量感としては、テンモニとSX-300の中間くらいか。最低音付近ではやや物足りなさを感じるはするものの、決して聴こえないわけではなく、ほかの音域との兼ね合いで捉えれば悪くない。
スピード感は102AVのほうが上。ウーファーのコーンの材質の違いによるところかもしれない。とはいえ、101も性能十分で、ハキハキした中音を聴かせてくれる。
高音域は程よく丸みがあって聴きやすいけど、現代のスピーカーに慣れていると、もう少し"ヌケ"感が欲しいと感じるときがある。
分解
中身を見ていく。
各ドライブユニット
構造はシンプル。各ユニットを前面で留めている六角穴ネジを外すだけ。
ただし、ウーファーのほうのネジはやや大きめ。対辺5mmのレンチやドライバーが必要。
ウーファーユニットを外すと、吸音材のグラスウールがどっさりお目見え。
断熱材としても優秀な吸音材が使われているからか、ユニットの金属部分に一部腐食がみられる。
とりあえず表層のみで、致命的なものはなかったのでよかった。可能な限り削り落としておく。
グラスウールは、2束入っている。手袋をして、適当なビニール袋に一時放り込んでおく。
17cmコーンのウーファーは、巨大なマグネットを積んでいて、非常に重い。
コーンはセンターキャップも含めだいぶ変色しているけど、調色はせずこのまま。
軽く清掃するのみ。
前面のスチール製のグリルはかなり柔らかく、少し力を加えるだけでも簡単に歪む。手元に届いたものは、塗装剥げはほとんど無いものの、ベコベコに歪んでいた。
同時に、形の修正も簡単ということでもある。だけど、指先で綺麗にドーム型に成型していくのにも限度がある。それらしい感じになったら、諦めも肝心。
ツイーターは、ハードドーム型。
こちらはウーファーと異なり、多少丈夫なグリルが付いており、取り外すにもパッキンを溶解する必要がある。
エンクロージャー
エンクロージャー自体も堅牢で、重量がある。持ち運ぶのも一苦労。
箱は15mm厚のMDFで組まれ、さらに内側から10から15mm厚のファイバーボードの切れ端を張り付けて、強度を上げているようだ。上下左右、背面、前面のウーファーとツイーターの間にまである。
ネットワーク
クロスオーバーネットワークは、スピーカーターミナルユニットに固定されている。
背面からターミナルユニットを外すと、縦長の基板がくっついてくる。
ネットワークの構成自体は割とシンプルだけど、能率の調整のために抵抗器がいくつかある。
また、ツイーター回路の直列コンデンサーにパナソニックのポリエステルフィルムコンデンサーが使われている。HPFにフィルムコンデンサーという、今ではよく見られる手法を早くから採用しているのも、コーラル製の特徴だ。
整備
いつものようにネットワークの改修を行うほか、今回は外装も手直しする。
ネットワーク基板の増設
今回は、スピーカーターミナルユニットをバナナプラグ対応の大型ポストタイプに換装する。そうすると、既存のように基板をターミナルユニットにそのままネジ留めすることはできない。
基板は、スピーカー内の空きスペースに配備することになる。そのための台座を作っていく。
自分の改修では定番となっている、100均ショップのパンチングMDFボードを切り出す。
このボードは、新設するパーツの固定スペースも兼ねているので、基板よりも大きめのサイズとする。
これに、基板を取り付けるためのスペーサーを設ける。基板にはネジを通す孔が3点あるので、MDFにも同位置に穴を開け、高さ6mmのスペーサーを固定する。
コンデンサー
ネットワーク上では、コンデンサーをすべて交換する。
このシンプルな外装のPPコンデンサーはオーディオ用ではないけど、ずいぶんと安かったので採用してみた。
既存の容量は4.7μF。これを、2.2μFを2個と0.33μFを1個で並列にして構成する。
パンチングMDFの上にコンデンサー類を固定していく。各々基板の所定の箇所からケーブルを引っ張り、結線する。
コンデンサーどうしをくっつけて固定するのは良くないらしいけど、あまり気にしない。
基板の固定方法
この基板を筐体内のどこに固定するか。
今回は、天面裏にする。ウーファーの巨大なマグネットから、なるべく距離をとりたかったためだ。
ネジ留めの前に、パンチングMDFと筐体の間にフェルトを挟む。
パンチングMDF裏のネジ頭と結束バンドの凸部を、フェルトのクッションで吸収するため。この手法は、ビクターのSX-300の真似。
固定は、タッピングネジ4点留め。
無事取り付けられることを確認できたら、いったん外してエンクロージャー本体の加工へ。
スピーカーターミナルの変更
プッシュスナップインのスピーカーターミナルを、バナナプラグに対応するものに換装する。
例によって、エンクロージャーの孔を広げなければならない。
埋込型のターミナルユニットを丸ごと交換しようとすると、既存の孔にそのまま取り付けられることのほうが稀だ。手間だけど、加工は仕方がない。
エンクロージャーのリカラー
エンクロージャーの塗装をしてみる。
前回の反省から、今回はスプレータイプの塗料を使用する。
必要箇所にマスキングしてから、
とした。
一応下地材も塗ったけど、効能がイマイチ判らず。要らなかったかもしれない。
塗料は、GSIクレオスの「Mr.カラー ネービーブルー」。
これ、色見本と実際の塗膜で色味がかなり異なる。
濃いめの紺色をイメージして選んだのだけど、仕上がってみるとだいぶ灰色寄りで、「くすんだ藍色」みたいな感じだった。
イメージと異なってしまったけど、これはこれで嫌いじゃない。むしろ彩度が低いほうが、インテリアとしては馴染みやすい。
トップコートには、半つや消しのクリヤーを二度塗り。多少色味が深くなった気がする。
最後に、ネットワーク基板とスピーカーターミナルユニットを固定して、ユニットの鳴動を確認。
吸音材は、今回は弄らない。
改修後の音
実は、同じスピーカーをもう一組手に入れている。なので今回は、音の比較を録音ではなく、実機で聴き比べられる。
改修後の音は、明らかに高音域が出ている。再生周波数の上方まで伸びるようになった。
これは、コンデンサーの種類をPETからPPに変更した影響ももちろんあるだろうけど、3つ並列にしたためインピーダンスが下がった分出力が上がっていることも考えられる。抵抗器の容量をほんの少し上げてもよかったかもしれない。
音は前に出るようになったものの、"ヌケ"感は増えない。よもやと思ったけれど、ユニットの性能由来だろうから、どうしようもないか。
低音域は聴感上変化を感じられない。
35年が経過している電解コンデンサーの容量に、経年変化がほとんど無かった。そこへ同種のものに交換したのみなので、こんなもんだろう。
まとめ
安いPPコンデンサーでも、PETから変更することで音に変化があることがわかった。
手元にあるもう一組のEX-101には、スピーカーネットワーク用途向けのPPコンデンサー単発にしてみて、そちらとの音の違いも確認してみたい。
エンクロージャーの上塗り塗装は、やはりスプレータイプの塗料が簡単で綺麗に仕上がる。ウレタンニスと違って、多少下地の質感が残るのも個人的には好み。
ただ、筆で塗る瓶詰のものと比べると、単価がだいぶ上がってしまう。今回も左右一組のエンクロージャーを重ね塗りするのに、約3本分の塗料を消費した。それだけで約1,500円。刷毛で塗れば、缶スプレーの3分の一程度で済む。
塗装に関してコストパフォーマンスを詰めるなら、上手になるしかなさそうだ。
仕上がりが思いのほか気に入ったので、しばらくメインスピーカーに据えることにする。
終。
(追記) 別カラー&オーディオ用コンデンサー搭載機
後日、未整備のほうを別パターンで改修してみたので、追記しておく。
ネットワークの仕様変更
ネットワーク基板のパターンが、前回と異なっていることに気付く。
乗っているパーツは一緒。精錬させただけかと思いきや、ウーファー回路にほんの一部だけ違いがみられる。
マイナーチェンジがあったようだ。基板上にある識別番号のようなものを見るに、こちらのほうが後発。
ちなみに、EX-102AVもこの変更後の配置を採っている。
オーディオ用コンデンサー
今回は比較として、オーディオ用途向けのものを用意した。AudiophilerのMKPシリーズ。
メタライズドPPフィルム。容量は既存と同じ4.7μF。
ネットワーク基板の小型化
前回と同じく、パンチングMDFボードの上に既存の基板を乗せる。
結束バンドによるコンデンサーの固定を廃止。接着剤オンリーとした。
また、パーツ配置を見直し、切り出すMDFボード自体のサイズを少々小型化した。
アナザーカラー
スプレー塗料はタミヤのほうが色味が多彩で、イメージを合わせやすい。また、サフ上での塗料の食い付きが良い。
ただ、塗り心地と仕上がりはGSIクレオスのほうが若干良い気がする。噴霧ノズルを押し込む力調整がしやすく、塗面のキメがやや細かい。
この辺の感覚は、気候の影響もあるだろうから、一概ではないのだろうけど。
最後に、半つや消しのトップコートを施して、終わり。
実際に乗った色味は、若干赤みが強いかなという気もするものの、ほぼイメージ通り。自然光が当たると、意外と彩度が高いなと感じることもあるけど、室内のLED灯の下では落ち着いた赤紫になる。
音の比較
前回の「ネービーブルー」と今回の「マルーン」との、出音の比較。
マルーンは明らかに高音域が円やかである。ウーファーとの繋がりも自然で、聴きやすい音だ。
というかむしろ、ネービーブルーの高音は、セラミックコンデンサーを付けたときのような硬い音に聴こえさえする。やはりあちらは、抵抗器の値も一緒に弄るべきだったようだ。
追記ここまで。
(以下資料)
(参考)発売当時の雑誌レビューなど
以下は、製品発売当時の雑誌のレビューから、音に関する部分を抜粋しています。
ステレオ 1984.1.
STEREO試聴室 今月の新製品を聴く
ステレオ 1984.11.
コンポーネント260機種徹底試聴
藤岡誠
(前略)本機は小型だが、出てくる音はまったく意外。値段が安いからといって馬鹿にするととんでもない。十分な明るさを持ち、クォリティも伴っているのだ。本当になまいきなシステムである。とにかくトライーターのクォリティが高い。スケール感は大きくないが、ヴォーカルもナチュラル。小型コンポに最適。
ステレオ 1986.7.
コンパクトスピーカー36機種を聴きくらべる
井上良治
(前略)中域から高域にかけての質感がいい。スピード感もあり、クォリティの高さが伝わってくる。量感のある低域ではないが、タイトにしまり、解像度をしっかりキープ、音像をしっかり定位させてくる。やや高域のエネルギーが優先するが、トータルバランスはいい。