オンキヨーのスピーカー「D-102AXLTD」を入手した。
整備してみた所感。
リアルウッド突板に艶有のニスを塗ったような質感
背面はビニールシート仕上げ
怪しいラバーエッジ
押し込むと簡単に崩壊する
「リミテッド感」がある
俯瞰
底部にはウーファー用
天面にはツイーター用。かなり奥まった位置にある
これも干渉対策だろうか
この固定方法は初めて見た
モルトフィルターではない
10円玉程度の大きさ
取り出したネットワーク基板一式
ウーファー並列に付されるWIMA
基板OUT側のコンデンサー
接着が緩いところを見つけて、そこからゆっくり作業
樹脂製リングを外した状態
気力が尽きた
木材は、9mm厚の赤松
板の中心部には、なるべく軽いパーツを乗せる
線の内側のスペースに嵩増し用の木材が来る
これは現行製品の真似
この上から接着剤を塗りたくる
某オークションサイトで入手
張り替えた直後
色味的にも違和感なくて良き
洗浄後のターミナル
孔がD形の角ワッシャー
ターミナルのシャフトも、断面がD形
結束バンドで固定
メンテができないけど、致し方なし
ツイーターユニットは、今回は弄らない
改修後の姿
延命されたウーファー
仕上がりが美しいと所有感は高まるけど、ニッチなのは変わらない
しばらくメインスピーカーとして鳴らしていくことにする
シリーズ3代目
「D-102」シリーズは息が長く、機種が豊富で把握しきれていない。
今回入手したD-102AXLTDは、「D-102A」、「D-102AX」から続く3代目にあたる小型スピーカー。1997年に登場した高級コンポーネント「INTEC 205」シリーズのスピーカーとして発売され、単品としても売られていたらしい。
ONKYO D-102AXLTD
「らしい」としたのは、この頃はまだオーディオに入り浸っておらず、このスピーカー入手にあたってインターネットに尋ねこんで仕入れた知識だから。
でも、INTEC 205については、家電量販店のオーディオコーナーに行くとよく見かけた製品で、「いつか一式揃えたいな」とは思っていた。結局、後年リニューアルされてからも遠目で眺めるだけで、なにひとつ未入手のまま今に至ることになったのだけど。
このD-102AXLTDは、お尻に「LTD」と付くとおり、元となるモデルD-102AXの限定モデルらしいのだけど、そもそも元のモデルをよく知らないし、何がリミテッドなのかよくわからない。
そのうちD-102AXのほうも入手してみて、比較してみたいところ。
改修前の音
音を出してみる。
いわゆるカマボコである。オンキヨーのスピーカーらしい中音域が明瞭かつ濃密な音。
やや硬めだけど、音の「響き」をしっかり拾ってニュアンスを重視するような鳴り方だ。
しかし、高音域が弱いのはバランスとしてわかるけど、低音が出ていないのは違和感がある。バンド音源だとベースの音がまったく聴こえてこない感じ。
"小型"スピーカーといえど、それなりの容積は持ち合わせている。不釣り合いで不自然である。
分解
「こんなもんなのか?」と訝しみながら、内部を見ていくことにする。
背面からはアクセスできないので、正面から各ドライバーユニットを取り外していく。
ウーファーエッジ
よく見ると、ウーファーのエッジが粉を吹いている。
このスピーカーは、某フリマサイトで入手したものだ。その際、商品説明文のなかから「エッジ交換済み!」の文字列を確認してから購入のボタンを押した。
それでいて、この有様である。
要は騙されたのである。
急きょ交換用のエッジをインターネットで探し、発注する。
低音が妙に出ていなかったのは、パリパリのエッジのせいだったわけだ。悪質な出品者には辟易するけど、試聴したときの音は本調子でなかったことがわかったので、そこは良しとする。
配線
気を取り直してユニットを外す。使われている配線は一般的なものだけど、すべて布巻きが施されている。共振対策だろうか。
エンクロージャー
エンクロージャーはMDF製。
内部には補強材が2点ある。左右を渡るものがひとつと、天面と左右をコの字型にひとつ。
このスピーカー、前面バッフルは20mm以上の厚みがあるものがあてがわれているのに、左右は10mmあるか無いかの薄いもので組まれている。端材で補強するくらいなら、初めから厚めのMDFでしっかりしたハコを造ってしまったほうが手間が少ない気がするのだけど、そういうものでもないのだろうか。
ネットワーク基板
クロスオーバー用のネットワーク基板は、底面と天面の2か所に分かれて固定されている。
ここも、コストをかけている。ウーファー用とツイーター用で、それぞれ干渉しないようにあえてこうしているのだろうか。
ウーファーのほうには、コアコイルが2つあり、一方は基板から切り離されるように、かなり前方に寄った位置に単独で配置されている。
基板自体の固定方法も独特である。MDFのベースの上に樹脂製のスタッドを接着し、そこへ基板を潜らせて固定している。スタッドには「かえし」が付いており、そこに基板がひっかかって抜けないようになっている。
一般的なネジ固定がしづらい位置であるための措置だろう。
吸音材として、正方形のウレタンフォームがツイーターの後ろ側に置かれている。
特に固定はされておらず、手で簡単に引き抜ける。
謎の金属片
また、左右それぞれの真ん中あたりに、謎の金属片が接着されている。
これは、意図がまったく解らない。
ネットワーク回路
ネットワーク基板を取り出す。
基板を固定しているスタッドは、「かえし」の部分を押し込むことができるようになっている。しかし、狭い筐体内でそれを行うのは至難。
幾度か試し、結局スタッドごと切断し取り出すことに。
このスピーカーのクロスオーバー周波数は、1.7kHzという低めの設定となっている。
そのため、ツイーター直列のコンデンサーは静電容量10μFという大きいものが付され、ウーファー側も12dB/octのフィルターのほかに、共振回路を組んで指定の周波数をめがけて半ば強制的に落とし込むような設計になっている。手の込んだ仕様である。
さらに、ツイーター側基板のOUT側(ツイーターユニットの入力手前側)に、容量的にかなり小さなフィルムコンデンサーがケーブルに隠れるように付いている。
整備
主な改修は、
- エッジ張替え
- ネットワーク回路の整備
の2本。並行してやっていく。
古いエッジの撤去
ウーファーの前面にある樹脂製の化粧用リングを、金属フレームから外す。
固定は接着剤。接着剤はある程度劣化しているので、フレームが割れないようゆっくり慎重に剥がしていく。
その樹脂製リングの下にある古いエッジの"耳"の部分を剥がす。
ここの既存の固定は両面テープのようで、綺麗に剥がすのは困難。ゴムを剥がすと紙製の台紙のようなものが残るけど、それはある程度撤去するに留めた。
完全に剥がすなら、溶剤を使う必要がある。
クロスオーバーネットワークの再構築
新しいエッジが届くまで、ネットワークのほうを組み上げる。
既存と同じようにユニットごとに分離してもいいけど、手間が惜しいので、面積を広めにとった薄いMDF一枚の上にパーツをすべて配置することにする。
ただ、困るのはその固定方法である。既存のスタッドは、切除してしまい使えない。
結局、MDFの下に木材を敷いて下駄を履かせるようにし、筐体内の空いているスペースに接着剤で固定することに。
MDFと適当な木材を切り出し、パーツの配置を決める。
MDFは10cm×14cm、木材は8cm×12cm程度。
ただし、今回は接着する面積を広くとりたいので、結束バンドを通す孔はなるべく板の外側に逃がして設ける。孔のない部分に接着剤を塗る想定だ。
すべてのパーツを、なるべく離して配置。ただし、件の小さなフィルムコンデンサーのみ、ファストン端子圧着時に一緒に挟む形にする。
15μFの電解コンデンサーは、同じアキシャルのJantzenAudio製にする。ケースが小さくて扱いやすい。
コイルも、0.39mH以外は新しく用意したもの。
ケーブルは、BELDENの「STUDIO708EX」をチョイス。
新エッジの配置
交換用のエッジが届く。今回はクロスエッジにしてみる。
張り方は、以前「JBL Control 1」で行った方法と一緒。
エッジの接着には、今回もスーパーXを使用。
ちなみに、樹脂製リングには塗布しなくても問題ない。ユニット固定時に、一緒にネジ留めされるためだ。
この状態で、丸一日放置。
その他
スピーカーターミナルは、酸性洗剤に十数分浸けてから、念入りにゆすぐ。
ターミナル自体を新しくしたかったのだけど、このスピーカーに付いているものは特殊で、汎用品がそのまま付かないため、再利用することに。
正直に言えば、ワッシャーを撤去するのが億劫だった。
エンクロージャー内の左右に渡っている補強材に、化繊ウールを巻いておく。
これは吸音というより、ここにケーブルが当たってもノイズにならないようにするためだ。
スピーカーターミナルにケーブルを固定したら、ネットワーク基板を接着する。
ここには2液性のエポキシ系接着剤を使用。堅固に留める。
改修後の音
組み上げて、出音を聴いてみる。
気になっていた低音は、問題なく出てくるようになった。ただ、それでも量は少ない。
まったく聴こえてこないわけではないし、音自体は結構下まで出ている。それでもやはり、物足りなさは否めない。
どうやらもともと低音域はあまり出ない機種らしい。個人的には問題ないけど、全体のバランスや筐体の大きさからしても、もう少し出ていてもいい気もする。
中音域は、艶っぽさが増している。横方向に広い音の中、ボーカルの定位がピタリと中心に来る。このあたりは、クロスオーバー周波数が低いことの恩恵を受けていると思われる。
輪郭がハッキリしていて、かつ硬くなり過ぎない。心地がいいので、長時間聴いていられる。
まとめ
不足気味の低音域を改善するのに、まず思い当たるのはバスレフダクトだ。内部スペース的に延長の余地がある。
先月、自己破産したばかりのオンキヨー。終止符が打たれた原因はいろいろ言及があるけど、高級コンポスピーカーのひとつを分解してみて思うのは、「音」という無形のモノを売ろうとするとき、スピーカー内部の、これまた目に見えない部分に拘りを注力するのは、悪手ではないにしろ売り上げにつながるかというと厳しいものがあるよな、と感じた。とはいえ、見てくれを整えても、視覚的な満足感は盛り上がるにしろ、良音の出音という本質につながるわけでもなし。
世界の情勢で身の周りのものがどんどん値上げしていく。その渦中で、スピーカーないしオーディオというのは、人様にお金を出してもらうのが難しい代物だなと思わずにはいられない。
ONKYOブランドは継続するらしい。「オンキヨーのDNAを維持する」とも。
「ユーザーに満足してもらうためには、品質こそがもっとも重要です。コストを優先して品質を犠牲にするようなことはしてはいけないというのが我々の哲学なのです」
たとえそうだとしても、今手元にあるような製品は、今後世に出てくることはないんじゃないかな。発売されたとしても、価格は倍くらいになっていると思う。
終。