いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL J520M をメンテナンスする

JBLのブックシェルフスピーカー「J520M」を入手し、整備してみた。その所感。

Jシリーズ

J520Mは、1995年に登場したJBLの民生機スピーカー。「Jシリーズ」という廉価グレードの製品展開で、そのひとつであるJ520Mはペア3万円という、かなり手の出しやすい価格に設定されていた。

JBL J520M
近代の製品ということもあり、中古市場では割と容易に入手できる。
ただし、ウーファーのエッジがJBL製品でよく見られるウレタン製で、これが加水分解により数年でボロボロになるため、流通品はたいてい動作不良品として販売されている。今回入手したものも、例に漏れずカサカサに朽ち果てている。

触れると粉状になるウーファーのエッジ
幸いそれ以外に関しては良好。エンクロージャー表面も汚れているものの、傷や打痕も見当たらない綺麗な状態だ。

背面。ブラケットの跡なども無い

全体的にベタベタする
ツイーターもとりあえず鳴動する。
ただし、ユニットの前面パネルは以前整備したそっくりさん「JBL J2050」と同質のもの。

ツイーター正面。ぱっと見は綺麗
この樹脂製のパネルはネジ孔周辺部が脆弱で、クラックが入りやすい。J2050の整備ではその補修を行った。
こちらは一見して問題無さそうだけど、どうせならJ2050と同じ処置を施して延命したい。
 

分解

まともな状態ではないので音を聴けない。まずは手を入れて普及させないことには始まらない。
 
分解の詳細に関しては、J2050と同じなので割愛。
 

ウーファー

ただし、品質的に気になる点はいくつかある。
ウーファーユニットに繋がっているケーブルは、接続に一般的なファストン端子が使われているけど、端子に対してケーブル径が異様に細く、正しくかしめてあるのかは怪しい感じ。

使われているのはAWG22だったかな

ウーファーは、金属プレスのフレームの一般的なもの
 

ツイーター

ツイーターユニットを固定しているタッピングネジを外したら、1本だけ長さが異なるものが使われていることが判明。この経験は初めて。

こんなことあり得るのか……
これは片方のスピーカーだけだった。もう片方は問題ない。

ツイーター裏。こちらにもクラックが。
そのツイーターユニットもなかなかのもの。
前面パネルとドライバー部が嵌合式で、ドライバー部を捻ってパネル側の爪に引っ掛ける方式。この嵌合がユルユルで、振動でドライバー部がカチャカチャ動いてしまう。

ドライバー部を外した図
背面カバーの「+」と「-」の表記もおかしい。「-」の位置が90度ズレている。

この程度の設計ミスは構わないということか
これだと、プラスマイナスの表記自体が合っているのかも疑わしくなってくる。一応今回は合致しているプラス側の表記を信じることにする。
 
ツイーターのドームは10mmコンポジットドーム。よく見ると、ドームのてっぺんに少しだけ水色のなにかが付着しているのを発見。

前面パネルを付けるとちょうどフレームで隠れる位置
これは他方のスピーカーにも同様に施されているため、なにかしら意図があるのだろう。
とはいえ、見つけてしまうとあまり気持ちの良いものではない。拭ってしまおうかとも思ったけど、よくわからないのでとりあえず弄らないことにする。
 

吸音材

エンクロージャー内の吸音には、3枚のグラスウールのシートを使って前面以外を覆っている。

グラスウールがぎっしり
ネットワーク基板を貫通させるためシート中央に切込みが入った1枚を背面にあてがい、残り2枚はそれぞれコの字型にして天面部と底面部に配備。国外メーカーのスピーカーによく見られる、箱鳴りを極力抑える設計のようだ。
吸音材の固定は接着剤だけど、固定はなぜが底面部の1枚のみで、残り2枚は置かれているだけ。

ペロンと簡単に外せる
 

ネットワーク

スピーカーターミナルは埋込型ユニットのスナップイン式。筐体背面の孔に嵌り、内部から接着剤で固定されている。

ウーファー孔から俯瞰

ネットワーク基板表裏
ネットワークを眺めていると少し違和感があり、J2050を整備したときの記事を見直す。すると、基板に乗っているパーツの定数が以前調べたデータと微妙に異なることがわかった。

ネットワーク回路比較
ツイーター直列の抵抗とウーファー並列の静電容量に差異がある。
コイルのインダクタンスは表記がないのではっきりしないけど、手元の計器での測定値はデータと近いので、おそらく同じものではないかと推測する。

測定値は少し低め
あとからパーツを乗せ換えたようには見えない。不思議がって基板を見ていると、隅に品番の印字があった。「301931-002」とある。

解体中に発見
前回調べたものが「301931-001」。今回搭載されているものは、末尾の数字がひとつ進んでいる。
さて、どういうことだろうか。末尾数字3桁の前にハイフンで区切られていることから、末尾はバージョン管理用の番号にも見える。J520Mに「マーク2」は存在しないはずだから、販売期間中に設計変更されて、ある時期を境にサイレントで301931-002搭載モデルに切り替わったのだろうか。
あるいは、流通する国やエリアにより異なるチューンを施していて、その措置の一環なのか。
 
真相はよくわからない。J520Mを整備するのは今回が初めてでほかの個体と比較できないし、情報も足りない。
ひとまず置いておいて、今回は301931-002をベースとして整備することにする。
 

整備

なにはともあれ、ウーファーの音がまともに出てくれないことにはほかに何をしても意味がない。エッジの張替えから行う。
 

エッジの張替え

作業は、「Control 1」や「ONKYO D-102AXLTD」と同じ。古いエッジの除去から始める。
溶剤としてライターオイルを少しずつ垂らしながら削るように剥がす。

時間のかかる地味な作業
今回のウーファーは、フレームに塗装が施されているからか、シンナーなどを使わずライターオイルのみで綺麗に剥がすことができた。接着剤の劣化具合が比較的小さいこともあるかもしれない。
コーンの縁に残るものも切り落とす。コーンの裏側にあるものも忘れずに。

"耳"を切るのは神経を使うけど、意外と楽しい工程

左:既存 右:撤去後
新しいエッジはラバー製とする。これも、ウーファー径が同じControl 1と同じものが使える。今回はオークションサイトで入手。
エッジ自体はロールの内径が合えばなんでもいいのだろうけど、最外径125mmという幅広のものを使うとフレーム内にピッタリ収まり、芯合わせを実質省略できるのでそちらを使うことが多い。
その代わり、エッジにネジ孔部の「逃げ」の加工する手間が発生する。今回はその処置を忘れたままエッジを張ってしまったので、ユニットを固定する段階になってどのように収めようか検討する時間が発生した。

接着前の仮装着
オリジナルはエッジ外周部にガスケットが付いているようだけど、幅広のラバーエッジの場合はそのまま露出していても違和感無さそうなので、省略する。
そしてこれは、作業中になるべく傷つけず、余分な接着剤などで汚さないようにしなければならない部分が大幅に増えることを意味する。
 

ネットワークの刷新

J520Mはオリジナルの音を聴いたことがない。そのため、音質決定に大きな影響を与えるクロスオーバーネットワークは、オリジナルの設計を維持し、各パーツのグレードアップに留めてなるべく原音復旧に努める整備としたい。

ネットワーク回路(301931-002)
既存の基板を加工して再利用しようかとも思ったけれど、撤廃し、いつもの通り一から組み立て直すことにする。

新たに用意したパーツたち
いつもなら、ツイーターのHPF用のコンデンサーはフィルムコンデンサーにするところを、オリジナルと同じ両極性アルミ電解コンデンサーとする。使用するのは、PARK Audio製のネットワーク用コンデンサー。ウーファー側も同じシリーズを用いる。
コイルは基板から剥がしたものを再利用。
抵抗器は同容量で新しいものをあてがう。ツイーターの抵抗器を酸化金属皮膜抵抗としたのは、たまたま手元に余っていたから。
これらを、10cm×5cmに切り出したMDFの上に乗せる。

コイルの方向性を保ちながら配置を決める
MDFは板材の端材から適当に成形したのだけど、もう少し大きくしておけばよかった。部材を乗せて固定するだけならこれでもいいけど、エンクロージャー内にネジ留めするために十分なスペースを確保しようとするとけっこう手狭。

何とか無理なく組み込めた
当然ながら配線も引き直す。J520Mでは、ウーファーユニットの+側の接続にファストン端子のメス#250が必要となる。

あまり使わないので、いざ必要となると在庫状況にドキリとする
MDFの固定は、スピーカーターミナル孔の直上の空いているスペース。
 

スピーカーターミナルユニット

スピーカーターミナルは、J2050の整備と同様にバナナプラグ対応の汎用品に換装する。
筐体の既存の孔を利用する。しかしJ2050と同じものを用意したものの、孔の径がほんのわずかに小さいのか嵌らない。

ギリギリ収まらない。モノによるのだろうか
試しに手持ちの円形ユニットを装着してみると、すんなりと収まるのでこちらを採用。角型ユニットのほうがデザイン的に様になるので使いたかったのだけど、加工の手間が惜しいので諦める。
 

ドライバーユニットの固定

分解前は気付かなかったのだけど、件のツイーターの前面パネルはすでにネジ穴にクラックが発生していたようだ。
とりあえず、ネジで固定する際にナイロンワッシャーを挟んでおく。

目を凝らすと、クラックがあるのがわかる
これもJ2050で行った処置だけど、対応策としてはあまり良い施工ではない。そもそも、脆い樹脂板にネジを通すことがナンセンスである。メンテナンス性を考慮しないでよければ、パネルとバッフルの間に接着剤を流してしまうのが一番確実である気がしている。
 
また、ウーファーユニットを固定するネジの処理に関しても良い案が浮かばない。こちらは、見た目と実用の両立に苦慮する。
本来であれば、事前にエッジ自体を加工したうえでウーファーユニットのフレームに接着させるのがベターだろう。その上からフォームガスケットを貼り付ければ、多少の施術跡ならば隠せる。
しかし今回は、ラバーエッジ全体が前面意匠の一部となる。見た目を損なうことなくエッジを加工する術を必要とする。ここがネックで、いくつか実践してみるも、うまくいかなかった。
結局、エッジ側はネジ孔を作る程度の加工に留め、ポリカワッシャーを用意し、フレームに合うように少し加工したうえでエッジの上から挟み込んでネジ留めする、という方法に落ち着いた。

違和感は無いはず
エッジが撚れることなく、かつある程度のトルクをかけて固定できる方法としては、今のところこれしかない。
 

一通り整備を終えて、ひとまず問題なく音が出ることを確認できた。
さっそくいつものアンプに繋いで、しばらく聴いてみる。ヤマハの「RX-S602」である。

整備後の姿
体積は異なるけど、スケール感や造りがほぼ一緒のJ2050の音を聴いて知っているので、J520Mもそれと似たような感じかな、と思っていた。
現に、中音域はその印象を受ける。明るく元気で前のめりな中音域は、このスピーカーがコンセプトとしていた「アメリカンサウンド」を表現しているのだろう。
 
しかし、特筆すべきは低音域だと思う。J2050や同じ径のウーファーを持つControl 1よりも、低音の伸びが良い。スペック的には再生周波数の下限は70Hzらしいけど、聴感的にはもう少し下まで出ている印象を受ける。量感は体積なりのものしかないので物足りなさはあるものの、全体のバランスとしてみればアリだ。これはおそらく、先述した2機種よりも筐体が奥行き方向に伸びていることが影響しているように思う。
 
高音域に関しては、中音と同じように明るい印象ではあるけど、音数が多くなってくるとやや騒々しくなってくる。
2kHz前後に若干歪み感がある。これは、10mmコンポジットドームツイーターと4.7μF(実測では5.0μF)のコンデンサの組み合わせでは、抵抗を噛ましているとはいえ低めの音の再生が十分でないことのように思う。つまり、ユニット側がギリギリ故障しない範囲内を狙って鳴らしているのではないか。ここに余裕を持たせてあげると、音が整理されて聴きやすくなるだろうと予想する。
 
周波数特性を見る。

周波数特性(301931-002)
元気な印象の中音域とは裏腹に、特性的には目立つ特徴の少ないフラット寄りのものとなっている。騒々しさの要因が音圧でないとすれば、やはりクロスオーバーか。あるいは、ツイーターのHPFを電解コンデンサーからフィルムコンデンサーにするだけでもスッキリする可能性がある。
 
80Hzあたりから200Hzまでのふらつきの少ない綺麗な波形は、「TANNOY mercury mXR-M」と似ている。どうやらこの波形を持つスピーカーを、自分の耳は好むらしい。意外と低音聴こえるな、と感じるのである。
mXR-MもJ520Mもフロントバスレフである。バスレフポートの位置が関係しているのだろうか。
 

まとめ

音に関しては、エントリークラスであることを鑑みれば十分なものを持っているのではないだろうか。J2050のときもそうだったように、乾いた歯切れの良い中高音がパシパシ出てくるスピーカーは、やっぱり聴いていて気持ちがいいものだ。この音を日本国内メーカーが販売価格ペア3万円で作ってくれといわれても、なかなかできないだろうと思う。そこは老舗JBLの強みだ。

洗浄して綺麗になった前面ネット
とはいえ、見てきた通り、製品の品質面から見れば厳しいものがあるのも否めない。作り込みが甘いというか、そも設計不良といわざるを得ない点が数多くあった。コストを極限まで削ぎ落してなんとか形にしたスピーカーともいえる。細かいことは気にしない、MADE IN USAならではといえばそれまでではあるけど、そこは先述とは別の観点で国内メーカーは真似できないところなのだろうと思う。

ちゃんと整備すれば良い音を出します
ウーファーが鳴らず故障したまま仕舞われているのが惜しいスピーカーである。
 
終。