ダイヤトーンの古いスピーカー「DS-11XL」を入手し、整備してみた。その所感。
初めてのダイヤトーン
ダイヤトーンのスピーカーを手元に置くのは、この機種が初めてだ。出音をちゃんと聴くのも初。
どうしてダイヤトーンに縁が無かったのだろうか、と考えてみると、自分がオーディオに興味を持ち出した頃にはすでにコンシューマー向けオーディオスピーカーの生産から撤退していたからだった。
手元に資料が一切無いのでインターネット上の情報を鵜呑みにすると、このDS-11XLは1989年に登場したブックシェルフ型2WAYスピーカーとのこと。廉価グレードに位置する。
同時期に一回り大きい「DS-55XL」という製品も発売されていたようだ。
今回は、ウーファーエッジが張り替えられたものを購入している。
外観
外観は暗いブラウンの木目調で、クラシカル。表層はニスが塗られたような吸いつくような触覚と艶がある。こういう質感の仕上げは初めて見るかもしれない。
やや縦に長い直方体のエンクロージャーで、前面下部にあるロゴプリントを除いて飾り気がない。この潔さが好み。
ただ、重量が妙に軽い。この体積なら慎重に持ち上げないと腰に来そうなものだけど、悠々と机の上に乗せられる。
側面を叩いてみると、箱鳴りが結構ある。あまり頑丈な造りではないのかもしれない。
背面にはバスレフポート。表層はファイバーボードにそのまま塗料を塗りつけ塗膜を張ったような質感。
スピーカーターミナルは埋込型のスナップイン式。いたってシンプル。
ウーファーを見てみる。
16cmコーン型ウーファーは、元はウレタン製のエッジらしい。このスピーカーは前オーナーがラバー製に張り替えている。
とても綺麗に張り替えているけど、片方は外周にあるラバー製のリング状のカバーを接着し忘れたらしく、手で簡単に外れてしまう状態だった。一応六角穴のネジで固定してあるので、落下することはない。
コーンの素材は紙に近いもの。表層に鳥肌のようにドットのエンボス加工が施され、その上からコーティングされている。
ツイーターは3cmドーム型。
ダイヤフラムとコイルのボビンを一体成型する「D.U.D.(DIATONE Unified Diaphragm)構造」なるもので造られているらしい。
公称スペックよりも小型に見えるのは、いわゆるセミドームに近い形状だからかもしれない。
改修前の音
ダイヤトーンのスピーカーは、なんとなく鳴らすのが難しいイメージがある。とはいえ、このメーカーのクセみたいなものをまったく知らないので、とりあえず何も考えずいつものアンプに繋いで鳴らしてみることにする。
ヤマハの「RX-S602」である。
一聴では、低めの中音域に寄ったバランスか。
低音域はあまり低い音は聴こえないけれど、バスレフがしっかり効いていてそれなりに量感がある。
しかし、瞬発力があるわけではなく、曖昧でボワつく。自分の苦手とする音だ。セッティングが悪いのかもしれない。
「ボーカルが前に出る」とか「中音域が張り出す」とか評されているダイヤトーンのスピーカー。このDS-11XLに関してもその傾向はなんとなく感じられる。ただし、特別強いかというとそうでもない。ほかのメーカーのスピーカーと比較しても「程よく出ている」印象。
気になるのは、特定の音域がややピーキーで、しばらく聴いていると耳につくこと。これは製品固有のクセだろうか。
高音域は、ほかの帯域と比べると多少大人しいものの、自然な質感で聴こえてきて好印象。もう少し前に出てもいい気もするけど、これはこれでいいのかもしれない。
全体的にウォームで、横方向への広がりが広め。定位感はあまり無く、ゆったり聴くのに適した音質だと思う。
周波数特性を見てみる。
およそ聴感と一致する。
3kHz付近に山がある。これが耳につく原因ではないか。
この時点では、ツイーターのHPFが悪さして共振しているのかな、などと思っていた。
分解
とりあえず中身を見てから、整備方針を考えてみる。
各ドライバーユニットは、前面のネジを外せば容易に外れる。
ただし、ツイーターには向きがある。ユニットの突起と筐体側のくぼみに合わせる。
ウーファーにあるリング状のラバー製カバーには、ネジ孔部に金属製のスリーブが仕込まれており、ネジを取り出す際に一緒に外れることがある。失くさずにとっておく。
エンクロージャーは、目の細かめのパーティクルボードのような材質で組まれている。
厚みは前面バッフルが15mm、背面が12mm。それ以外は10mm程度しかない。
ネット上の情報を見る限り、こうなっているのは容積の確保を優先した設計だからだろう。板厚を薄くすることで内部の空間を広げているのだ。
意図としてはわかるのだけど、なんとなく浮ついた音に聴こえるのは、おそらくエンクロージャーの剛性不足由来だろうから、せめて補強材を流すくらいの施工があってもよかったのではないだろうか、と思ってしまう。
吸音材は分散して5か所ある。
底面に硬めのニードルフェルト。
背面のやや上方にウール状のフェルト。バスレフポートと側面の間に挟まるようにフェルトシート。さらに、両側面の上方に薄く細長いフェルトシートが貼り付けられている。
両側面のフェルトは、左右で貼り付けられている高さが異なる。どういった意図なのだろうか。
ウーファーは、見てくれは普通な感じ。
フレームは金属製。プレスで造られた汎用的なもの。防磁設計のマグネットも標準的な大きさ。
ツイーターもこれといって特徴はない。
だけど、D.U.D.構造の特性上、分解するのは至難の業かもしれない。
スピーカーターミナルも、ネジを外せば取れる。
裏には、ツイーター用にアキシャルリードの両極性電解コンデンサーがひとつ乗っている。2.2μF。
ウーファーはスルー。能率調整の抵抗器も無い。必要最低限といった感じ。
整備
いろいろいっぺんに手を加えても成果がよくわからなくなるため、今回はとりあえずエンクロージャーの補強と3kHz付近の山を抑えることの2点に絞ることに。
エンクロージャーの補強
9mm厚のMDFを用意し、適当な大きさにカット。それをエンクロージャーの内部に貼り付けてみることにする。CORALのスピーカーで行っていた施術を真似る。
厚みが特に薄い天面、底面、両側面に、150mm×100mm程度に切り出したMDFを接着剤でくっつける。接着剤はG17を使う。
固着するまで時間がかかるので、別の作業と並行して行う。
4面貼り終えたところで、筐体を叩いてみる。作業前より反響音が多少落ちた気もするけど、ほとんど変わっていない。もっと満遍なく敷き詰めるように配置しないと効果が薄いのかもしれない。
スピーカーターミナルの交換
既存のスピーカーターミナルをバナナプラグ対応品に変更する。
例によって、エンクロージャーの既存の孔は小さすぎるため、ノコギリで拡張する。
新しいものは、樹脂製キャップの埋込型汎用ユニット。
やや柔らかめの素材の筐体のため、タッピングネジが埋まるときに貫通孔に呼ばれて崩壊しないか心配だったけど、問題なし。
ネットワークの追加
ネットワークスルーで駆動するウーファーには、あまり余計なエレメントを差し込みたくないという整備のポリシーみたいなものがある。だけど、そこをある程度妥協して、今回はディッピングフィルターを導入して特定の周波数帯だけ落とす方法で調整してみることにする。
シミュレーションソフトを使って、-6dBくらいの軽めのフィルターとしてみる。
シミュレーションでは、ツイーターを駆動させた状態で3kHzをフィルターしようとする場合、4kHzあたりを目指したパーツ構成にするとちょうど良くなる。原理はよくわからないけど、ツイーターによる高音域の増幅分を加味して計算してくれるらしい。
というわけで、それを元にパーツを選定して組んでみる。
ここではさらに、コンデンサー側に抵抗器を直列で挟む。コイルと抵抗器を並列で組むいわゆる「PST回路」との複合のような、少し変則的なディッピングフィルターである。この処置によりディップの具合を調節している。
併せて、ツイーター側のコンデンサーも新しいものにする。
ただし、ウーファーとのクロスに関しては、正相でも逆相でもほとんど変わらなかったものの、逆相のほうがわずかながら音のつながりが自然だったので、ここで変更しておく。
ネットワークの固定は、スピーカーターミナルの上部。
これで、試しに音を出して周波数特性を測定してみる。
コイルを通している分、一応フィルターは効いてはいるみたいだけど、想定ほど落ちていない。3.5kHzから4kHzあたりにかけて稜線の傾斜が急になっていることから、ツイーターの影響はシミュレーションほど出ておらず、ウーファーの性能に依存しているようだ。
それならば、素直に3kHzのフィルターを組みこんだほうがいい。回路を少し変更してみる。
手持ちに0.45mHのコイルがあったので、それに交換。コンデンサーは、0.47μFを並列で付加してみる。
再調整したネットワーク
3kHz付近はさらに-2dBV近く落ち、コイルが大きくなった影響で1kHzから2kHzも-1dBV程度落ちている。反対に4kHz付近は上がっているので、調整したフィルターはちゃんと想定通り機能しているとみえる。
あとは抵抗器の値を調節すればさらになだらかになるのだろうけど、聴感上はこれで問題ないので、良しとする。
改修後の音
ただ、低音域ついては改善されていないに等しい。こちらは吸音材の変更や筐体内面にゴムシートを張り巡らすなど、けっこう大胆な調整をしないと変化がないのかもしれない。
ドライバーユニットをしっかりしたハコに収納して鳴らしてみたい気もする。
詰めきれていないけど、今回はひとまずここまでとする。
まとめ
フィルターについて
ウーファーにディッピングフィルターを導入したのは、今回が初の試みである。導入を決意したのは、周波数特性の一部分だけ抑えたいけれど高音域は潰したくない、という案件だったためだ。
これを一般的なLPFでやろうとすると、ツイーターの受け持つ範囲を広げるなどの改修も必要になるだろう。しかし、あまり低い音域をカバーできるツイーターではなさそうな印象だった。それもディッピングフィルターを選択した理由のひとつ。
ディッピングフィルターのコンデンサー側に差し込んだセメント抵抗は、いい塩梅に作用してくれているように思う。5.1Ωという抵抗値はシミュレーションしながら適当に選んだのだけど、今後整備するうえで基準となりそう。
スピーカーについて
DS-11XLの感想としては、現代ソースよりもレコードやカセットテープのアナログなソフトの再生に適していると思った。そこそこのレンジをワイドに、楽しく聴かせてくれる。
ダイヤトーンのほかのスピーカーの音を聴いたことがないため、何とも評しがたいところではあるのだけど、「鳴らしにくい」という印象は今のところ持っていない。たしかに能率はそれほど高くはないので、ある程度パワフルなアンプに繋いだほうがよさそうなのはわかる。だけど、それも数多の製品に埋もれてしまえばとりわけ筆舌するものでもないかな、といった印象だ。
なんにせよ、廉価グレードのスピーカー一本聴いただけでこれ以上適当な感想を持つのは控えたい。今後ほかの製品にもご縁があれば、迎え入れていきたいところ。
(追記)ネットワーク再調整
後日、同じ機種を整備する機会ができた。
整備のついでに、ネットワークの設計をもう少し詰めてみる。
まず、ツイーターの位相を正相に戻した。前回同様逆相とすると、3kHzから7kHzにかけてバスタブのようなディップが発生したためだ。
回路構成は変えていないのに、なぜだろう。
また、抵抗器を約3.8Ωに変更している。
結果、ツイーターとの接続が自然なまま、ウーファーのドライブ感に張りが出ている。うまいことフィルターの効果が刺さってくれたようだ。
前回から小さくした抵抗値も、この程度の減少なら問題ない。ただ、これ以上フィルターを強めると、2.5kHz前後の低下が著しくなって、波形的に違和感が出てくるかもしれない。
このあたりが適当だろう。
終。