いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL SV50S をメンテナンスする

JBLのブックシェルフスピーカー「SV50S」を入手した。その所感。

ホームシアター設計

2004年にホームシアター向けの「SVシリーズ」のひとつとして登場した、小型ブックシェルフスピーカーである。

JBL SV50S
シリーズには「SV800」と「SV500」のトールボーイ型と、センター用の「SV400C」があることから、こちらのSV50Sはサテライトスピーカーとして用いることを想定されているのだろう。品番末尾の「S」は「satellite」の頭文字かな。
 
横幅170mm、単体重量3.5kgと平均的。奥行きがやや狭く造られており、デスクトップにも置きやすい。

側面と背面
ウーファーは13.3cm径のホワイトパルプコーンで、SV500と同じもの。紙製なので、経年で少し黄ばんでいる。
エッジはJBLの上位機種に用いられるアコーディオンプリーツクロスエッジが搭載されており、廉価でありながら抜かりない設計だ。

適度な弾性がある
ツイーターは1.9cmセミハードドーム型と、その前面にラッパ型のバッフルを設けたもの。これもJBLでよく見かける、四角いメガホンのような形をしたものだ。

ツイーター正面
また、振動板はJBLお得意のチタンラミネートとなっている。
 

改修前の音

とりあえず、外観上は問題なさそうなので、そのままアンプに繋いで音を出してみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」の「DIRECT」再生。
一応バスレフ型ではあるけれど、低音の最下層は高め。奥行きも短いし、深い低音域を求めるスピーカーではないのだろう。
ただ、その点を除けば、サイズを鑑みれば低音自体はそこそこ出ているほうだと感じる。バスレフ特有のボフボフ感があるので好みではないけど、音全体をまとめるような鳴り方をする。
 
中音域は張り出す感じはあるものの、ヌケ感はない。スピーカー前面の表層から音が出ている印象を受ける。定位もイマイチ。
 
高音はほかの音域と比べるとやや控えめ。ある程度広がりを感じるけど、こちらももう少し煌びやかさか透明感が欲しい。
 
一聴したところ、「ややカマボコ寄りのフラット」といった印象。あまり多くを求めても仕方がないのだけど、JBLっぽくはない。どちらかというと、以前整備したオンキヨーの「D-102AXLTD」に似ている音だ。
あと、リスニングのポジションがシビアだ。
スピーカーと自分自身で1.2m辺の正三角形を作るように配置しているけど、この形が少しでも崩れると音がバラバラになってしまう。ちゃんと聴くには扱いが難しそう。
 
サイン波スイープの周波数特性を見る。

左右それぞれの周波数特性
聴感上は中音域がよく聴こえていたバランスでも、特性上はフラットに近い。
7kHzから10kHzまでの落ち込みは、収音マイクのポジションをいくつか変えても同じように発生した。そういうものらしい。
再生周波数の下限は公称70Hzだけど、この波を見る限りもう少し下で共振しているようだ。ただ、200Hzから下が急降下していることからわかるとおり、低音域を期待するものではない。それでも、サテライトスピーカーとしてみた場合は、このくらいのほうがスッキリ聴こえて都合が良いのかもしれない。
 

分解

中身を見ていく。
分解は、各ドライバーユニットを固定している前面のタッピングネジを外すだけ。六角穴かと思ったら、すべてPH2のプラスネジだ。

これは配線の接続状況を記録しておくためのメモ代わりの写真
おもむろにユニットを外してみると、底面に化繊ウールが敷かれているほかに、バスレフダクトの周囲を回るように配された、めずらしい配置の吸音材と相まみえた。

俯瞰
ウーファー孔の縁あたりに接着剤でくっついた小さなウールがある。
なんとなく妙な感じがしたので、ためしにもう片方のスピーカーを分解してみる。すると、こちらは異なる配置をしていることがわかる。

他方のスピーカー内部
このスピーカーの天面には、前オーナーによって天井吊りにするための貫通孔が開けられている。エンクロージャー内部からボルトを通している格好なので、一度は必ず分解しているはずだ。その際、片方のスピーカーは、どうやら吸音材を一度剥がしたあと、元の位置に戻さず適当に詰めたようだ。ウーファー孔付近の小さなウールは、剥がした際に残ったものだろう。
正しくは、あとから試しに開封したほうの配置だろう。天面と底面、そして両側面をグルリと回るように配する、同社の「A640」や「A120」でも採用されていた方法だ。
ウーファーユニットのフレームは、黒塗りされたアルミダイキャスト。

ウーファーユニット
しっかりしているけど、ケンウッドのようなゴツさはない。必要な分量を必要な箇所にだけ、といった印象。

重量も比較的軽い
マグネットの大きさは特別大きくはない。防磁型で、カバーがされており分解しないと姿は拝めない。
 
ツイーターは、内部の4つのネジを外すとダイヤフラムとマグネット部が分離できる。

ツイーターユニット
ネジを外せばてっきり前面の樹脂製ホーン部が外れるものだと思っていたら、ダイヤフラムと一体になっている構造だった。そのコイル部には、ちょっと塗り過ぎなんじゃないかと思うほど磁性流体が盛られている。
 
今回は、このあたりは弄る必要がないのでそのまま。
 
スピーカーターミナルは、筐体背面の孔に嵌め込まれているだけ。接着剤も塗られていない。
筐体内側からハンマーの柄で軽くノックするだけで外れてしまう。JBLのスピーカーは、ここの構造が割とアバウトなものが多い気がする。

スピーカーターミナルを外してみた図
スピーカーターミナルの背面に、小さなネットワーク基板がはんだ付けされている。
 
そこには、セメント抵抗と空芯コイルがひとつずつ、BENNIC製のラジアルリードの電解コンデンサーがふたつ乗っている。

ネットワーク基板
見ると、ウーファーはネットワークを介していない。ツイーターを18dB/octのフィルターで逆相で被せているのみだ。

ネットワーク回路
JBLのスピーカーは、どれもあまりネットワークで音を作り込むことをしない印象がある。この機種もご多分に漏れず、といったところか。
 

整備

大きな故障箇所がなく、音の改善策もズバリこれというものが思い浮かばなかったので、軽微な整備に留める。
 
外観に大きな損傷はないものの、唯一背面にあるハンガーフックを掛けるような金属パーツを固定している六角穴のネジがかなり発錆していたので、新しくする。
手持ちにステンレス製の同形のものがあったので、交換。

なぜこれだけ腐食しているのだろうか

M4相当のステンレス製タッピングネジ

交換後
ネットワークは、回路をそのままに、コンデンサーのみ交換する。
4.7μFはJantzenAudioのPETフィルムコンデンサー「MKT Cap」、15μFのほうはParcAudioの電解コンデンサーとする。

今回用意したコンデンサーたち
本当なら両方ともフィルムコンデンサーにするところだけど、単に金欠なのと、大容量のフィルムコンデンサー自体が大きすぎて基板に乗せるのが難儀だった。加えて、図体が大きいと組み込む際にエンクロージャーの背面の孔を通過させることができず、余計な手間が発生することも避けたかった。
既存を撤去し、新しいコンデンサーを基板にはんだ付けするだけ。

このくらいならば、筐体の孔をギリギリ通ることができる
その基板が付いた状態のスピーカーターミナルをエンクロージャー背面に戻す。
その際、筐体側に接着剤を塗っておく。使ったのは、ボンドG17。

孔にケーブルを通してから作業
 

改修後の音

実のところ、大した改修をしていないので、組み上げて試聴するまでは音の変化はあまり無いだろうと思っていた。しかし、同じスピーカーかと思うほど改善されて驚いてしまった。

改修後の姿。エンクロージャーを少し磨いた
定位感や音の伸びなどは一緒。変わったのは、透明感と粒感だ。中高音の見通しが利く。音の分離が良くなっている。
これは当然ながらコンデンサーの変更が影響していることになるのだけど、今回導入したオーディオ向けコンデンサーが良いのではなく、元々積んでいたBENNIC製の電解コンデンサーとツイーターユニットとの相性が相当悪かったのではないかと思う。ここはあくまで印象でしかないけど。
 
あと、これは整備後に気付いたことだけど、サランネットの有無でもそれなりに質感が変わる。ネットのフレームが太めに作られているせいか、ネット自体が阻害する音の分量が多いようだ。
 

まとめ

コンデンサーの交換だけで音が大きく変わるスピーカーは久々で、なんだか得した気分である。とはいえ、設置に気を遣うスピーカーである点は変わらないし、ウーファーの高音域や吸音材の配置など、音作りももう少し詰められそうでもある。
あまりJBLっぽくない音色なので、イコライジングしていくのも面白そうだ。

ポテンシャルを引き出すのが難しそう
 
終。