いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

ONKYO D-202ALTD をメンテナンスする

オンキヨーの2ウェイスピーカーシステム「D-202ALTD」を入手し、整備してみた。その所感。

 
 

ハイグレード2ウェイ

前回に続き、オンキヨーのスピーカーが続く。1990年代の高級ブックシェルフ型スピーカーのひとつ。

ONKYO D-202ALTD
1994年に登場した製品。「D-202」というスピーカーの進化形……だと思う。「A」は"アドバンス"のことを表しているのだろう。
この時期のオンキヨーのスピーカーは、似たような型番が連なっていて把握しきれていない。いずれは整理しておきたいところ。

前面ネットを付けた状態
手元に資料がまったくないのでインターネットで知るしかないのだけど、この末尾にある「LTD」は元となる「D-202A」の限定モデルであることを示すらしい。例によって原器を手にしたことがないので、なにが異なるのかは知らない。

どれも外観が似てるしな
そもそも、オンキヨーのスピーカーでLTDが付く製品はなにがリミテッドなのかもわかっていない。このあたりもそのうち調べておきたい。
 

外観

登場前年の1993年に「D-502A」という高級ブックシェルフ型スピーカーが発売されており、外観はそちらをスケールダウンしたような感じ。

なんかちょっと垢抜けない意匠
エンクロージャーは木目調のPVCシートで覆われていて、前面バッフルのみシボ加工が施された暗めのグレーで切り返されている。

天面
このPVCの質感がなんだかチープなのと、角部に径の小さい丸みがあることの相乗効果なのか、見た目の高級感があまりないのはちょっと残念。

側面と背面
ただし、重量が一台あたり9kg近くもある。筐体を構成する板材は特別厚くもなさそうなのに、持ち上げてみるとなにやらただならぬ雰囲気を感じ取れる。

横置き
フロントバスレフタイプであり、前面バッフルには大きな孔がポッカリと開いている。ダクトはやや短めで、内部にはフェルトが張られている。

ダクトは紙製か
例によって、ウーファーのエッジは朽ちている。
入手の当初、このエッジはウレタンフォームが加水分解したものだと思っていたけど、触れても粉状にならず、固形のまま留まっている。どちらかというとラバー製が硬化したような状態に近い質感だ。クラックだらけだけど、この状態でもコーンを最低限支持する程度には機能している。

もちろん張り替える
ツイーターは、表面になにかが薄くコーティングされたクロス製ソフトドーム。

ツイーター正面
こちらの基材はシルク100%製らしい。外観からはそれ以外で特筆すべきことがなさそう。
 
背面には、金属キャップのバインディングポストが板材に直付けされている。

この小型プレートにまとめられたデザインは、嫌いじゃない
D-102AXLTDで採用されていたような、シャフトの断面がD型になっているやや特殊なものだろうと思う。分解時に確認する。
 

分解

動作するといってもウーファーエッジが先述の状態なので、まともではないだろう。各ユニットからとりあえず音が出ることを確認したら、さっさと分解整備に取り掛かる。
 

ウーファー

六角穴のネジ各種を外していくだけ。ただし、ウーファーユニットは後述の理由からかなりの質量なので、バッフルから分離するさいに手を滑らせないよう慎重に行う。
ウーファーユニットのフランジ部にある化粧リングは樹脂製で、だいぶチープ。せめてネジ孔部だけでも金属製にしてほしいところ。

コスト面での妥協点なんだろうな
エッジは、フランジに付いている耳の部分がカチカチに固まっている。
また、コーンはクロス系に近い紙製のようで、外周部とそれ以外でコーティングを切り替えているのが特徴的。

ウーファー拡大。ダンパーは柔らかめ
オンキヨーのスピーカーはこれまでいくつか見てきたけど、コーンに独自の細工を施している製品をよく見かける気がする。
フレームは金属プレス製で、一般的な形状のもの。ただ、磁気回路側がやたら物々しい。

モコモコだ
マグネットの周囲にウールが巻かれている。吸音するにしてもわざわざ振動板の至近距離に設けているあたり、自身が発する筐体内部側の音波からユニット自体を保護するためのように見える。
そして、見た目からしてヨークだろうと思っていた部分が、このスピーカーの肝である。

重さの正体
ウールを剥がしてみると、マグネットを覆うカバーの外側に、さらに金属の物体が乗っかっている。これ自体に磁力は帯びていないようだ。おそらく鉛だろう。

カバーに接着されている
これ、「アコースティックスタビライザー」なるものらしい。ユニットの振動抑制として、重石を背負わされているわけである。中心から突き出たシャフトは内部にあるヨークと接続されており、エンクロージャー内部に設けられた桟に開けられた孔に収まる構造になっている。

シャフトを外した状態
先のウールとの併用で、余計な振動を徹底的に抑えこみたい意図を窺わせる措置だ。
 

ツイーター

ツイーターのほうは、構造的には一般的なそれ。バッフルプレートも樹脂製。

ツイーター。TW3126D
ドームのシミは、漏れ出た磁性流体だろうか。
ダブルマグネットで、ブチルゴムのようなシートが貼られている。

いつも思うのだけど、これってどの程度効果があるのかな
結線用のタブは、マイナス側がマグネットと接触している。プラス側は仕切りとしてシートが挟まっているのでショートはしないのだろうけど、ヘンなところで無頓着なのが逆に気になる。

こういうのはモヤっと来る
設計ミスというよりも、当初想定していたものより大きい径のマグネットが積載された結果のように見える。
バッフルプレートの表面からネジを外して、分離する。

プレートを外した図
ツイーターの分解は神経を使うので、異常がないのならなるべくしたくないというのが心情。今回はドームの洗浄をしたいので手を入れている。
このプレートを外すさいは注意が必要である。リング状のフォームシートを貫通するように極細のリード線が走っているからだ。シートの状態によっては、勢い余ってこれを引きちぎる可能性がある。今回は割り開いてからこの構造に気づき、冷や汗をかいた次第。

こんなのアリかよ……
メンブレンは容易に分離できる。コイル部には磁性流体が使われているだろうと予想していたけど、そんなことはなかった。

磁気回路とメンブレン
 

エンクロージャ

エンクロージャー側を見ていく。

俯瞰
先に取り上げたとおり、ウーファーユニットの背後に桟が渡っていて、シャフトが収まる孔が開いている。

桟。背面側にウールが貼られている
前面バッフルのみで支え続けるにはさすがにキビシイものがある重量物なので、マグネット側で支持するのは必要な措置といえる。振動を筐体側に逃がす意図もあるだろうけど、桟とシャフトは緊結されるわけではないので、どの程度の効果があるのかは不明。
 
吸音材のようなものは、先述したウール以外には皆無である。容積重視ということか。
その代わり、両側面に薄い金属製の板が拘束されている。

厚み1mm強の金属板
この金属板、よく見ると板材との間になにか別素材のシートを挟みこんだ構造になっている。おそらくラバーシートだと思うけど、堅固に固定せずあえてこうしているのは、箱鳴りの調整のためだろうか。少なくとも、板材の補強のためではないように思う。ユニークなギミックである。
 

ディバイディングネットワーク

背面の板には、T字に組まれた棒状の補強が成されている。それを避けるためだろうか、ディバイディングネットワークの基板は天面側にあり、樹脂製のスタッドによって括りつけられている。

天面側
相変わらずこの樹脂スタッドは取り外しがたいへんなので、ちょん切ってしまう。
ちなみに、バインディングポストは6mm径のシャフトで、予想どおりD型の断面を持つもの。
 
基板やケーブルにまでゴムが巻かれている。この黒いゴムはたいてい半分溶けていてタールのようになっており、触れるものすべてを汚していくのであまり好きではない。特に布につくとまず落とすことはできないので、とにかく取扱いに苦慮する。

デスクマットに付着している汚れは、だいたいがコイツである
フィルター回路はツイーターのみ。ウーファーは介さず、バインディングポストから直結である。オンキヨーのマルチウェイスピーカーでダイレクトドライブなのはめずらしいように思う。

ネットワーク基板

ネットワーク回路
12dB/octのシンプルなもの。ユニット側にはパスコンのように設けられた小さいコンデンサーがあるのは、オンキヨー謹製っぽい。
ゴムで覆われた直列のコンデンサーは、「PHILIPS」の刻印があるポリエステルフィルムコンデンサー「MKT373」シリーズ。

汚いけどなんとか印字を確認
この淡いブルーのコンデンサーはインターネットで検索を掛けてみると、今でもVishay BCcomponentsブランドで流通している様子。オンキヨーといえばWIMAのイメージがあるけど、このころはまだ採用されていなかったのかな。
ちなみに、コイルは有芯である。
 

整備

ウーファーのエッジの張替えで音を出せるようにする。ついでに、ネットワーク回路の更新も行う。まずは原音復旧を目指すため、音質の調整はあまり行わないこととする。
 

ツイーターユニットの復旧

とりあえず、分解していあるツイーターユニットを元に戻す。そのさいに、振動板の清掃を実施しておく。
薄めたアルコール系の洗剤と絵筆を使って、ドームの内外の汚れをこそぎ落とすだけ。コーティングを落としたくないので、この程度に留める。

シミは完全には落ちないけど、しないよりマシ
また、組み上げるさいに、フェライトマグネットと接触していたマイナス側のタブの付け根に絶縁テープを貼っておく。

適当に小さく切り出して貼るだけ
 

ウーファーエッジ

なにはともあれ、古いエッジを剥がしていく。まずはフランジ側から大雑把に切り離し、次にコーン側に残ったものをつまんで除去する。
エッジの裏を見ると、山の頂上の裏側に接着剤のようなものがグルリと付けられているのを発見。妙に凝っている。

補強か。それともこれも制振のギミックか
新しいエッジは、クロス製にしてみる。以前整備したD-102AXLTDもクロス製だったのと、別のスピーカーの整備でたまたま取り寄せるタイミングだったこともある。

クロスエッジ

新エッジ張替え後の図
エッジの張替えは幾度か行っているので、作業に関しては特段ここで語ることもないけれど、クロス製のエッジはラバー製とは異なり真円となっていないことがあり、その歪みを矯正しながら接着するため手間取るというのがある。今回はそれが要因となる接着の不良個所があり、組み上げた後の試聴で低音鳴動時にバタバタとノイズが出てしまった。その修正に時間をとられた。
 
コーンとの接着はいつものように「スーパーX」を使用。
ただし、フランジとの接着はここ最近お試しで使っている「E6000」という多用途接着剤に切り替えている。
スーパーXと比較するとややサラサラで伸びが良く、多少糸を引くもののいわゆるG系接着剤ほどではなく扱いも容易。そしてなにより、細いノズルが狭い部分の流しこみに打ってつけで、作業性が高いのが良い。
エッジの張替えについては、今後はE6000を多用していくかもしれない。
また、接着方法も変わるので、エッジの張替えに関する記事の更新も図らないといけないだろう。

先の細いもので馴染ませることもできる
 

フィルター回路

ネットワーク基板は異常がないのでそのまま再利用してもいいのだけど、
  • 分解のさいに基板を固定する樹脂製のスタッドを切り取ってしまったので別の固定方法を考える必要あり
  • シンプルな回路なのでそもそも基板なしで直組みしてしまいたい
  • なによりギトギトになっているゴムをこれ以上触りたくない
などの理由により、思い切って刷新してしまうことにする。
MDFの切れ端を名刺サイズに切り出してベースとする、いつもの手法。

新しいパーツたち
ただし、パーツ類やベース自体の固定はすべて2液性エポキシ系接着剤とする。空間上の都合でネジによる固定が手間のため。
直列のコンデンサーはパークオーディオ製メタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー。コイルは空芯コイルとする。
抵抗器はオリジナルと同じ酸化金属皮膜抵抗を用意。小さいコンデンサーは適当なスチコン。定数はすべて変更なし。
 
また、当然ながら配線も引き換える。ツイーター回路はBELDENの「STUDIO 708EX」とする。久々の採用。

印字がわかりづらい……

特になにも考えず接続
ウーファー側はオヤイデ電気の「EXPLORER V2 0.75」。

なんだかんだ最近出番があるEXPLORER
どうせならということで、すべてソルダーレスで接続する。バインディングポストとの接続は、穴径6mmの丸型端子とする。
新しいネットワークは基本的にMDF上に組み上げるけど、ツイーター並列のスチコンのみドライバーユニット側の平型端子間に設ける。

これはただの趣向

洗濯ばさみは、被着材の仮留めのため
 

吸音材の追加

ネットワークをエンクロージャー内に固定する前に、新たに吸音材を設けておく。
10mm厚のウレタンフォームシートを切り出し、片方の側面と天面に貼りつける。

最近吸音材として試用しているウレタンフォーム
本当はカームフレックスを試したかったのだけど、予算の都合で一般的なエーテル系ウレタンフォームとしている。

設けるのはツイーターユニットの背後のみ
 

ネットワークの固定

既存のネットワーク基板が留まっていた位置に、新しいネットワークが乗ったMDFを固定する。

軽く研磨したバインディングポスト
既存のパーティクルボードに2液性エポキシ系接着剤を塗り、そこに乗せるだけ。

既存のスタッドの無いスペースに接着するため、MDFは名刺サイズにしている
接着剤の硬化を進めるため、24時間寝かせる。時間がかかるのが2液性エポキシ系接着剤のデメリットだけど、今回はネジや鋲などを使わず接着剤のみで筐体内部の天面にくっつけるため、強度を優先したいので致しかたなし。
 

整備を終えて元どおり組み上がったので、音を聴いてみる。

整備後の姿
アンプはいつものとおり、ヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。花こう岩タイルの上に20mm四方のフェルトパッドを置いて4点支持としている。
この体積としてはかなり沈む低音と、ダイレクトドライブ特有の元気な中音、やや控えめだけど透明感と伸びのある高音。懐の深い音は、箱鳴りを上手く利用している印象。
 
まずは低音。かなり下まで出ているようだ。フロントバスレフなのもあってか、レスポンスは上々で、量感とのバランスが良い。よくミュートされたバスドラムの音はリアリティがあって前に出るし、ベースの音階が下る感じも自然。ちゃんと下支えしている。
16cmコーンウーファーでここまでしっかりとした低い音が出せるものなのか。同じオンキヨーの「D-200」や「D-200II」も、聴いた当初はけっこう出ているなと思ったものだけど、こちらはさらに奥行きがあるぶん、より余裕を持ってかましてくる。
 
中音は解像度が高め。モニターライクな硬い音ではなく、音の輪郭を浮かび上がらせて切りこんでいくような鳴りかただ。とはいっても解析的になりすぎず、メリハリを付けて楽しく聴かせる感じ。
高めの中音域にややエネルギーの偏りがある。これはフルレンジ動作のウーファー特有のものだろうけど、妙なピークは無く、むしろボーカルや太鼓類のヌケの良さ、キレの良さに一役買っているように思う。
フィルターレスにしては高音域をよく抑えている。同じウーファー直結の2ウェイシステムではダイヤトーン製スピーカーがあるけれど、あちらほどハイ上がりにならず、自然である。
 
高音は、同じ定数とはいえネットワーク回路を刷新しているので原音はわからない。音としてはクリアで伸びが良い。ファブリック系のソフトドームなので華やかさは控えめで、高域方向の特性を自然に伸長させている。この記事を作成しているときの自分の聴感は、高音をやや過敏に感じ取る体調だけど、それでも耳につくようなことはなく、ストレスなく聴けている。
既存のポリエステルフィルムからポリプロピレンフィルムコンデンサーに変更したのは、ウーファー側がある程度高音も担ってくるだろうと踏んで、音の実在感はウーファーに任せて、ツイーターはあくまでも高音域の特性の改良に注力する方針からチョイスしたものだ。今回はそれが上手いこと合致してくれたのかもしれない。
 
定位感は、やや手前で展開するような印象があるものの良好。音場が広く、パースペクティブも兼ね備える。総じてワンスケール上の音だ。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(前面バッフルから35cmの収音)
低音域の稜線が自然。バスレフの設定が良いのだろう。そのほかも聴感のとおりで、バランスの良さそうな波形をしていること以外で特筆すべきことはない。
 

まとめ

このスピーカーを整備してからプログラムをとっかえひっかえしているけど、最近よく聴くCASIOPEA一十三十一などのファンキーな音がよく似合うな、という印象。
 
一言でいえば、「さすが高級機」ということに尽きる。これをバブル崩壊後の1990年代に排出しているのだから敬服するばかり。現代でも問題なく通用するワイドレンジ。ヘタに舶来品を購入するよりよっぽどいい。

もちろん整備が前提だけど
でも、D-102AXLTDのときも思ったことだけど、どんなに性能が優れていても、今後はこのようなスピーカーは現れないだろうことが残念でならない。要はニッチが過ぎる。なにかの間違いで、じっくり腰を据えてスピーカーと対面して音と対峙することを是とする人間が増えでもしない限り、たとえお金に余裕がある人間でも欲しがらないだろう。

今発売したら10万円越えは必至だろうし
このスピーカーは、たしかに音が良い。感動した。だけど、はたして世間のどのくらいがこの音を求めるだろうか。
昨年の自己破産後「新生オンキヨー」として再始動したメーカーのオーディオ事業に関する更新がなにも無いホームページを見ながら、そんなことを思うのだった。
社名を引き継いだ今のオンキヨーは、「音楽食品」なるものを展開している。
スローガンだろうか、「楽しむ音から役立つ音へ」なんて文句を見て、なんというか、微妙な気持ちになる。
 

日本のオーディオを引っ張ってきた威光も、もはや過去のものか……
 

(追記) エッジの素材について

日本音響学会誌を眺めていたら、振動板のエッジの素材として「ウレタンエラストマー」なるものを採用する場合があることを知る。
このエラストマー、ポリウレタンの一種でありながらゴムに近い弾性を持たせることができるらしい。
備前に付いていたウーファーのエッジは、劣化の見た目は加水分解が進んだウレタンフォームっぽいけど触覚はゴムっぽいので、もしかするとエラストマー製のエッジだったのかもしれない。
 
終。