JBLのコンパクト2WAYスピーカー「Control 1」の整備をしたので、まとめておく。
サブ機ながら
JBL Control 1は、自分が小型ブックシェルフスピーカーに拘るようになったきっかけのスピーカーだ。
そもそもこのスピーカーに興味を持ったのは、前面にロゴペイントが施された専用オプション品「プロフェッショナルグリル」が「カッコいい」と思ったから。
見た目に惹かれて手に入れたのだけど、音が思いのほか良かった。
低音の量は求めず、代わりに中高音が明瞭に聴こえる再生バランスが好みである自分には、1980年代発売の古いスピーカーながらこれがベストマッチだった。
しばらくメインのスピーカーとしてAVアンプに繋がれた後、作業スペースの机の上に移って、簡易なアンプとパソコンを使って作業中にBGMを流し続けていた。今は同じ場所に、自身で整備した上位機種「Control 3 Pro」が鎮座している。
しかし、メインのスピーカーは、新たにスピーカーを仕入れると聴き比べのために頻繁に交換されるため、スピーカー単品の設置期間の長さからすればControl 1が圧倒的に長い。サブ機扱いされているけど、実情はメインに近い。
修繕箇所の確認
大ヒットロングラン製品ゆえ、中古品が潤沢にある本品。だけど、「プロフェッショナルグリル付き」という条件が付くと途端に数が減り、レアになる。今回も、ジャンク品扱いのものがたまたま手に入っただけ。
ジャンクの理由は、エッジの破損だ。
非常に薄いウレタンでできたウーファーのエッジは、日本の気候では加水分解が進みやすく、数年でボロボロになることが知られている。この製品も例に漏れず、残っているエッジに少し触れると崩壊してバラバラになっていく状態だ。
また、よく見るとグリルのほうも様子がおかしい。
ロゴの色味が左右で若干異なる。
これ、初めは左右で経年による変色具合が違うだけかと思っていたけど、どうやらそうではなく、そもそもカラー自体が異なるものらしい。
ネット上にある古いカタログによると、一方は「ホワイト」、他方は「ライトグレー」のようだ。
このスピーカーはペアで、シリアルナンバーも同一だけど、なぜわざわざ色の異なるグリルを付けられていたのか。前オーナーの意図は不明。
分解
以前Control 3 Proを分解整備したことがあるので、こちらも構造は一緒だろうと気楽に分解開始。
前面パネルを外す。
前面6か所に六角穴のネジがある。
それらをすべて外しても、パネルは接着剤でくっついているので取れない。
接着剤は、下部から両サイドに伸びるスリットのどん詰まり部に、L字型に付けられている。
なお、付近にいかにも何か突っ込めそうな溝があるけど、突っ込んだところでエンクロージャーに傷がつくだけで、何もない。
小さめのマイナスドライバーを倒して挿し込み、接着剤を切るように剥がす。
剥がした後であれば、あっけなく外れる。
クロスオーバーネットワークの基板は、スピーカーターミナルユニットに背負わされている。
しかし、これが結構な小面積。
回路構成パーツの物量に対して、基板が小さすぎる。
空芯コイルのボビンの中に電解コンデンサーを配するレイアウトは、初めて見た。これ、有芯コイルになっちゃう気がするのだけど。
ここまで小型にした理由は、どうしてもスピーカーターミナルユニットの裏側に設けたかったからだろうか。
エンクロージャー内には、ツイーターユニットの裏にあたる位置に、穴の開いた4つのスタッドがある。
設計では当初、ここに基板を固定する想定だったのではないか。
あと、あまり覚えていないけど、Control 3 Proのほうはもう少し回路がシンプルだった気がする。
整備
以下を並行して進めていく。
クロスオーバーネットワーク再構築
スピーカー内部を覗くまでは、ネットワーク回路は基板を再利用し、コンデンサーの交換程度に留めておくつもりだった。しかしながら、物理的にあまりにも窮屈で作業が難しいことがわかったので、新規に組み直すことにした。
回路構成はオリジナルとほぼ同じにするけど、基板の設置場所は、もちろんツイーターの後ろに変更だ。
厚み2.5mmのMDFを適当に切り出す。
ネジを通すための4つの孔の間隔は、長辺79.5mm、短辺60mm。M3ネジで固定するため、3.2mm径の刃がついたピンバイスを使用。
コイルと0.01μFのコンデンサー、ヒューズランプは、基板から取り外し再利用する。
並列接続する個数が増えるなら、0.01μFのコンデンサーは不要かもしれないけど、一応。
ある程度熱を発する想定のヒューズランプの配置は、既存のセメント抵抗器のリードを切断し、それを台座とすることで、MDFやほかのパーツと空間を設けられる。
配線の結線は基本的に圧着だけど、ランプ周辺ははんだ付けとする。
固定についてもナイロン製のバンドは使わず、シリコン系の接着剤で台座に固着させるのみ。その代わり、ランプ自体が外れた場合に支えられるよう、ケーブル側をMDFに固定しておく。
エッジ交換
なんにしても、ウーファーのエッジを復元しなければまともな音にならない。
新しいものに交換していく。
前面パネルからウーファーユニットを外す。
ここでも、前面からネジ4本を取り除くだけでは外れず、内部の金属フレームにたっぷりと塗られた接着剤をある程度まで除去する必要がある。
PEかEVAかPORON製か、外周に貼り付いているリング状のフォームガスケットを剥がす。
これは再利用するので、丁重に取り外すのが無難。とはいえ、切れてしまっても大きな問題にはならない。
外した後は破棄せず保管しておく。
その後、フレームに残った接着剤やウレタンなどを除去する。
溶剤としてライターオイルを少量垂らしながら、ウエスでひたすら擦りまくる。
作業時の注意点としては、コーンになるべく触れないようにすること。コーン自体が結構丈夫なので多少擦れるくらいなら大丈夫だけど、先の尖ったものでフレームをゴリゴリ削ったりする場合は、手が滑って突っつかないよう特に注意を払う。
新たなエッジが乗る部分なので、残滓はできるだけ取り除いておきたいけど、キリがないので適当なところで止めておく。
ただし、後々接着剤が乗る部分のため、溶剤は綺麗に拭き取っておく。
既存のウレタンエッジは、コーンの裏側にも接着されている。こちらも擦り落とす。
フレームの隙間から綿棒を挿し入れて擦る。溶剤は使わず、コーン表面を軽く撫でて落とせる範囲でかまわない。
コーン紙の外周部にも、接着剤でブヨブヨになった古いウレタンエッジが少し残っているので、落としておく。
ウレタン部のみをハサミで切り落とす。当然、コーン紙まで切らないよう慎重に。
ここをていねいに除去しておくと、新しいエッジを配した際に馴染み、補修の痕跡が見えづらい自然な仕上がりとなる。ただし、繰り返すようだけど、切り過ぎにはくれぐれも注意。
新しく取り付けるエッジは、定番のラバー製をチョイス。
幸いにも、エッジ自体は純正品に拘らければ、修理専門店のECサイトやオークションサイトなどで互換品が比較的安価に手に入る。今回使用するのも、購入時期を覚えていないほど前にフリマサイトで確保しておいたものだ。
エッジを取り付ける前に、ダンパー部に落ちたゴミを除去しておく。
この部分には大抵、清掃時に出た古いウレタンのカスなどが溜まっている。エッジを付けた後だと掃除しづらいので、今のうちに綿棒などで払っておく。
また、接着する前に、エッジを仮置きして作業工程と仕上がりをイメージしておく。
この後、エッジの内円の耳を、コーン紙の裏側の接着剤がついた位置に滑り込ませる工程がある。これを幾度もやり直していると、接着剤が要らぬ箇所に付着する可能性があり、その除去の手間が加わり、美観も損ねてしまう。なるべく一発で済ませたいところなので、軽く練習しておく。
エッジの固定に使用する接着剤は、手持ちのスーパーXクリアを使用する。
ゴムを接着できるものであればなんでもいいのだろうけど、
- 失敗しても接着剤の色味が目立たず
- ある程度の粘度があり
- 硬化までに時間的猶予がある
接着剤にしておくのがベター。
安価に済ませたいなら、G17あたりでもいいのかもしれない。
ただし、この接着剤はよく練った納豆のごとく糸を引くので、綺麗に扱うには技術を要する。
接着剤を綿棒に付け、コーンの裏、元はウレタンエッジが付いていた部分に塗っていく。
薄く、かつ満遍なく塗る。塗りムラがあってもいいけど、まったく塗られていない箇所は無いようにする。
今回使用したスーパーXは硬化が遅いため、焦ることなくゆっくり作業できる。
塗り終えたら、新しいエッジを先ほど練習した通りに配置する。
コーンのキャップ中心を軽く押してみて、引っ掛かることなくスムーズにダンプすることを確認する。
今回用意したエッジは、フレームにピッタリ収まるため、芯合わせの必要は基本的に無い。調整するなら、この段階で内部のボイスコイルがどこかに擦れるガサゴソという音が出ない位置に、エッジを少しずつ動かす。
ここでいったん、接着剤が完全に硬化するのを待つ。もう片方のウーファーユニットにも同様の作業を施し、丸一日放置。
コーンの表側には、接着剤は塗らない。汚らしくなるうえに、接着の面ではあまり意味がないから。
コーンにエッジがくっついている状態で、接合部にもう一度接着剤を上塗りする。
これは、補強というより、エンクロージャー内の密閉度を上げるための作業だ。必須ではない。
今度は、ユニット前面側のエッジの固定をする。
エッジをめくり、接着剤を垂らしていく。
ここでも、薄く満遍なく塗る。この段階で、エッジ自体はコーン側にしっかりくっついているはずなので、大胆にめくっても問題ない。
最後にもう一度キャップ中心を軽く押して、綺麗にダンプすることを確認。
エッジの耳がユニット固定用のビスが通る孔を塞いでいる場合は、ここで孔を開けておく。
カッターの刃の先や錐などで開けてもいいけど、手っ取り早くはんだごてで溶かす。
あとは、いったん取り外していたフォームガスケットを貼り付けて、エッジ交換作業は完了となる。
グリルのペイント補修
左右で色の異なるグリルは、塗料を上塗りして色味を揃える。
今回は、スピーカー本体がシルバーなので、それと似た色にしてみる。
シルバー系のアクリル系塗料を、筆を使ってチマチマと塗っていく。
広い面積を一遍に塗ると、塗料がグリルの網目を埋めてしまうので、格子一本ずつに筆先を走らせる必要がある。
左右の2枚とも塗り終えると、色味の差はほとんどわからなくなった。
スピーカーターミナルの換装
スナップイン式のスピーカーターミナルについても、今回はそのまま流用するつもりでいた。しかし、背負っているネットワーク基板を弄るのなら、ついでにユニットごと交換してしまいたい。
バナナプラグに対応する、埋込型のユニットを用意。
寸法的には同等のものを選んでいるけど、既存のユニットは四隅のRが大きい仕様で、角型の汎用品ではそのまま取り付けられない。
適当な番手の紙やすりに擦りつけて、目分量で角を少しだけ丸めてから設置する。
組み立て
各々の修繕が終わったので、エンクロージャーに組み込んでいく。
ウーファーを固定していた古い接着剤を削り落とす。
なお今回は、ウーファーのフレームに接着剤を塗布しない。4本のビスの抜け止め用に、G17を軽く塗しておくのみとする。
スピーカーターミナルとネットワーク基板をインストール。
基板の固定はM3ネジ。基板は少し浮いた状態で固定されるので、その隙間にウール系の吸音材を詰めて塞いでおく。
完成
元通り組み上げたのが、以下の図。
ウーファーのラバーエッジも、違和感の少ない佇まい。もちろん、動作時のビビりも無い。
プロフェッショナルグリルのロゴは、正面から眺めると綺麗だけど、少し斜めから見ると上塗りした際の塗りムラが判る。
意外なのは、直近で見るより、1m以上遠くから眺めるほうがムラが判りやすいことだ。光沢のあるシルバーだから、なおさらなのかもしれない。
今回は手持ちの塗料を使ったけど、違和感を減らすならホワイト系かグレー系のベーシックカラーにするべきなのだろう。
まとめ
久しぶりに、Control 1がメインスピーカーに戻ってきた。
縦置きにして、YAMAHAのAVアンプ「RX-S602」に繋いでいろんな音楽を試聴している。
やっぱり、好みの音だな。
音場は決して広くないけど、明るく奥行き感のある中高音は名機と呼ばれるだけある。
とはいえ、ウレタンエッジを採用しているのは、定期的なメンテナンスを前提とするPA機器仕様だからかな、とも思う。
エッジの交換自体はそれほど難しい作業ではないけど、相当な手間だ。そもそも「スピーカーのメンテナンスをする」こと自体が、一般的に馴染みが薄い。性質を理解していないと、このスピーカーを常用することはできないし、知っていると今度は購入を避けるんじゃないだろうか。
そういう意味では、マニアックな製品と捉えられる。それでもロングセラーを果たし、リニューアルモデルが最近まで発売し続けたのは、ブランド力と、音質の面が優れていたからなのかなと思う。
もうしばらく聴き続けていよう。
(追記) ツイーターの脱落
別の機種で、ツイーターユニットの固定方法が異なっているものを見つける。2本の単品具ネジで固定している。
どうやら前オーナーが修理したもののようだ。ネジ孔の部分が樹脂製であり、それが劣化で破損したため、適当な金具をこさえてあてがい抑えつけている模様。
初代Control1はいくつか整備しているけど、このタイプのものをたまに見つける。そして、たいていはこのようにツイーターユニットが脱落している。
おそらくはこのタイプが初期型で、この不具合が把握されたのち、どこかのタイミングで接着剤で固定するかたちに変更となったのだろう。
(追記ここまで)
終。