いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL J2050 をメンテナンスする

JBLのスピーカー「J2050」を入手したので、整備してみた。
また、よく似たスピーカー「J520M」とのスペックの比較を、併せてしてみた。

J520MとJ2050

手ごろな値付けと、オーク調仕上げの明るいエンクロージャー、さらにあまり見かけない型番に惹かれ、入手してみたくなった。

JBL J2050
前オーナーは、アメリカで購入したとのことだった。
見た目はかつて民生機のエントリークラスとして展開していた「Jシリーズ」の「J520M」と瓜二つであるため、入手当初は型番の付され方が日本と国外で異なるだけの同一機種だと思っていた。しかし、手元に届いた現物と資料を比較していくうち、ふたつはまったくの別物であることがわかった。
 

見た目の違い

それに気づくきっかけとなったのは、ウーファーのエッジだった。
J2050は、クロスエッジである。
これは、J520Mだとウレタン製で、例によって経年でボロボロになり補修必須となる部分だ。ラバー製に修復するつもりでいた。それが、破れもなくしなやかな状態を保っているクロス製だった。
国内外でウーファーだけ、それもエッジの部分だけ別仕様で展開していたとは考えにくい。となると、前オーナーがクロス製で補修したのか。それにしてはずいぶん綺麗に張り替えたものだな、などと思っていた。
 
次に、エンクロージャーのサイズである。J2050は、奥行き方向が妙に短い。

上面
横幅は200mmくらいあるし、わりとヤマハのテンモニっぽい感じなんだなという意外性があった。しかし、違和感こそあったものの、この時点でもまだ気付かず。
 
三点目、J520Mと明らかに異なっている点を見つけて、ようやくそれとは別品であることを確信した。
ウーファーコーンにハトメがあるのである。
これは、J520Mだと見えない。改造するにも難儀だし、そもそもする意図がわからない。
さすがにここまでくると「どうも様子がおかしい」となり、調べないわけにはいかなくなる。
 

スペックの比較

インターネット上の情報をもとに、J2050とJ520Mの規格をまとめてみた。
主な規格・搭載品 J2050 J520M
公称インピーダンス
推奨入力 10~80W 10~75W
再生周波数帯域 70Hz~23kHz 70Hz~20kHz
出力Lv 88dB 87dB
クロスオーバー周波数 4kHz 4.5kHz
エンクロージャー寸法 W203 x H315 x D165mm W190 x H305 x D216mm
重量 3.6kg 4.1kg (ペア8.2kg)
ウーファー 305G-3A-1 P205G
ウーファー 130mm (5-1/4in.) 130mm (5in.)
ウーファーコーン ハイポリマーラミネート ニトリルポリマーファイバーコーン
ツイーター 74447 305062-001
ツイーター形状 14mmピュアチタニウムドーム 10mmコンポジットドーム
クロスオーバーネットワーク NJ2050 301931-001
こうしてみると、積んでいるドライバーユニットが別物で、クロスオーバーネットワーク基板もそれぞれ専用品。共通しているのは公称インピーダンスくらいのもので、見た目は似ていても両者はまったく異なるスピーカーであることがわかる。
 

アンプに繋いで鳴らしてみると、「小気味良い」という言葉がしっくりくる音を出してくる。
レンジ感はコンパクトで、低音域はあまり聴こえてこない。音場もそれほど広くない。
ただ、このスピーカーの特徴は迫り出してくる中高音だろう。明瞭で元気な印象だけど、意外と解析的で、細かな音まで聴き取れる。
同社の「Control 1」シリーズに似た傾向の音である。
 

分解

内部を見ていく。
 
このスピーカーのツイーターには、「J216 PRO」でも見られた樹脂プレートのクラックが発生していた。材質が同じのようだ。

ネジ穴8か所すべてこの状態
ただ、こちらはJ216 PROのものよりも厚めに作られており、直ちに崩れ落ちるような状況にはなっていないようだ。とはいえ、固定に使用されているタッピングネジは慎重に取り外さなければならない。
 
背面のスピーカーターミナルは、ユニットをエンクロージャーの孔に嵌め込んでいるだけ。固定に接着剤は使われておらず、指で簡単に引き抜けてしまった。

背面

造りが甘め
吸音材として使われているのは、グラスウール。前面以外の5面にあてがわれている。

俯瞰
エンクロージャーに使われているファイバーボードは、厚みが薄いところでも12mm程度確保されており、そこそこしっかりしている。その上で化繊ウールやフェルトではなくグラスウールを採用しているのは、奥行きが短い筐体である分吸音に気に掛ける設計なのだろう。
 
鋳鉄のフレームを使ったしっかりしたウーファーとは対照的に、ペラペラの樹脂プレートがチープな印象のツイーターユニット。このあたりは価格なりか。

ドライバーユニット裏面
クロスオーバーネットワークの基板は、スピーカーターミナルユニットの裏に垂直に固定させる方式。スピーカーターミナルユニットには無かった接着剤は、こちらにはポストの真裏付近にたっぷり塗布されている。

ネットワーク基板表裏
ネットワーク回路は、6dB/octで組まれたシンプルなもの。まるでプロ機のような潔さである。
ツイーターは逆相接続となっている。
参考まで、J520Mの回路図も併せて載せておく。

J2050のネットワーク回路

J520Mのネットワーク回路
 

整備

前オーナーがかなりていねいに扱っていたようで、劣化は最小限かつ損傷も少ない。
このレベルのものが国内で手に入る機会はそうそうないであろうということで、今回は音に関する調整はほぼ行わず、補修と扱いにくい点の改良に努めることにする。
 

ツイーター樹脂パネル

ツイーターの樹脂製パネルのクラックは、裏面から接着剤を流しておく。
とはいえ、材質が何なのかわからない。とりあえず、プラモデルに使われるようなABS用のアセトン含有接着剤を使用してみる。

付け焼き刃である
一応、塗った箇所は溶剤により溶けだしたので、しないよりマシ、程度の効能はあるのだろうけど、長期運用はできないだろう。
J216 PROのときのように、新たにプレートを作るのが間違いないのだろうけど、資金的に厳しいのと希少性の観点から、今回はやらない。
ネジの装着も、ワッシャーを噛ます形にする。
柔めのウレタンワッシャーを用意。M4用。

これも長期運用には向かないだろう
ネジはトルクを最小限に留め、固定。
 

クロスオーバーネットワーク

ネットワークは、ツイーター側回路のパーツを一新する。ウーファー側は手を入れず、パーツは再使用。既存のプリント基板は破棄し、MDFに乗せ換える。

これだけ
切り出したMDFの寸法は6cm×10cm程度で、名刺サイズ。
コンデンサーは、Jantzen Audio製のポリエステルフィルムコンデンサー「MKTCap」にする。既存の静電容量である2.5μFが作りづらかったので、2.7μF単発で代用。
抵抗器もセメント製から酸化金属皮膜抵抗に変更する。こちらは、コンデンサーの変更に合わせて、1.8Ωから2.0Ωに微増する。容量変更が微小なので音質的な影響も微々たるものだろうけど、一応。

コイルが長細いタイプなので、スッキリ収まった
これは、スピーカーターミナルの傍にネジ留めする。
 

スピーカーターミナル

スピーカーターミナルは、既存の孔を利用して埋込型のバナナプラグ対応品に換装する。

新たに用意した樹脂キャップのスピーカーターミナルユニット
エンクロージャー側の開口寸法は、直径49mm強。汎用品がピッタリ入った。もちろん、ネジ留めする。

違和感ない
 

バスレフポート

フロントバスレフのダクト内に、埃のように細かくなったグラスウールが付着しているのが気になった。空気の流れで内部から少しずつ吐き出してくるようなので、対策を施す。
 
マスクを手作りする際の材料となるガーゼを入手。100均ショップで売られていた。

ガーゼの端切れ
ガーゼを適当な大きさに切り出し、ポートの内側の開口部に被せておく。

固定は連結した結束バンド
この措置は、厳密には低音域の周波数特性が変わるのかもしれないけど、安全を重視するため妥協。
ここはグラスウール自体を別素材に替えてしまうのがセオリーだけど、前述した通り、既存からの音質の変化を最小限にしたかったので、それを避けた形。
 
吸音材を既存と同じように再配置し、各ユニットを固定して、完成。

完成の図
 

まとめ

出音を確認。フィルムコンデンサーの影響で、高音域の歪みが取れてスッキリした感じがあるけど、基本的には整備前と同じ。懸念していた低音域も、違和感は無い。
 
バスレフダクトの尺が短めなので、光の当たり方によっては内部のガーゼが見える。

このくらいだと気にならないが……
白いのでそこそこ目立つ。黒色のガーゼがあれば、そちらを使うほうがより締まって見えるだろう。
 
見た目がそっくりのJ520Mとは同時期の製造であるだけで、エンクロージャーで使用する素材を共通にしたのみの、まったくの別品であることがわかった。
異母兄弟姉妹という言葉が頭に浮かんできた。
 
Made In USA。西海岸サウンドを安価に堪能できる、良い製品だと思う。
 
終。
 

なかなか気に入った