マランツの2ウェイスピーカー「LS300」の不具合を解消して、音を聞いてみた。その所感。
マランツ製スピーカー
フリマサイトを巡回していたら、あまり見かけない手ごろなスピーカーを見つけたので譲ってもらった。マランツの「LS300」という型番のブックシェルフ型スピーカーである。
マランツと聞いてまず浮かぶのはアンプである。スピーカーのイメージは全然無い。昔はそれなりにラインナップがあったのは知っているけど、今回入手したようなかなりカジュアルに寄ったものは初めて見る。
手元に資料がいっさい無いのでインターネットに尋ねてみるも、あまり情報が無い。どうやら2000年代に発売された一体型のミニコンポのスピーカー部のようだ。
意匠や質感からして「まあ、そうだろうな」という感想。ただ、スピーカーは単品システムとしても発売されていたようだ。それは後に見ていくとおり、チープな見かけでありながらも構造はそれ相応の部分もある点で納得できる。
外観
このスピーカーが気になった理由のひとつが、ドライバーにあるフェーズプラグだ。砲弾型の黒いフェーズプラグが、ウーファーとツイーターの両方に備えられている。ウーファーは見かけるけど、安価なスピーカーのツイーターに設けられている例は余所では見かけない。
フェーズプラグは、いわゆるホーンツイーターにはだいたい設けられているイメージだけど、こちらは振動板がやや奥まった位置にあり、その前面のバッフルプレートがホーンのような形状をしているため、疑似的にラッパ型を成しているということなのかもしれない。
ウーファーも、見た目から気になるところがあった。振動板である。
白い樹脂製のコーンで、半透明。そのため内側にあるダンパーのオレンジ色やリードが薄っすらと透けて見えている。
こちらはマイカが含まれているかはわからないものの、「ポリオレフィン」とあるので近い材質なのだろう。半透明のコーンは見た目があまり好みではないのだけど、樹脂製のコーンのなかではわりと好みの音であることが多いので期待したのだった。
フロントバスレフという点も良い。
ただ、なんとなくポートの径が小さい気がする。あえてそうしているのだろうか。ダクトとバッフルプレートの境に段差ができているのも価格なりだなという印象。ノイズがどの程度なのか気になる。
その前面のプレートは、一面銀色のシンプルなもの。ネジの頭が見えないので、化粧を兼ねているのだろう。
おそらく、ケンウッドの「LS-VH7」のような、内側にサブバッフルがある構造になっているものと予想する。ただし、あちらよりは筐体がしっかりしている。
前面以外のキャビネット部は、明るい木目調のシートで覆われている。背面までしっかりとシートが張られているのは好印象。
単品システムとして見たときに、このライトな色使いの筐体は意外と見かけないものだ。その点でレアである。
コネクターユニットは埋込ボックス型で、樹脂製キャップの付いたバナナプラグ対応ポストが付いている。
安価なスナップイン式ではなく金属製のポストを用意しているのは良いのだけど、プラスとマイナスの配置が一般的なものとは逆になっているのが、ちょっと気持ち悪い。
整備前の音
音を出してみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。
意外と悪くないな、というのが一聴した感想。もっとガサガサしているかと思っていたけど、ヘンに歪むこともなく素直に音が出てくる。
雰囲気としては寒色で硬く、音の輪郭をそのとおり切り取って淡々と吐き出す印象。面白味は薄いけどそのぶん色付けも小さいし、クールに紡ぎ出す音が好みならアリじゃないかな、といった感じ。
低音は必要最低限といった感じ。フロントバスレフの音は、聞こえてくるもののあまり目立たない。体積からしてもう少し出てくれてもいいなと思いつつ、ポートが小さいのでこんなもんかとも思う。
目立たないぶん、気になっていたポートノイズも小さく済んでいるようだ。ただやっぱり、イコライザーで低音域を上げたくなってくる。
高音はなかなか綺麗な雰囲気で鳴っている。伸びもそこそこ良く、耳をつんざくような感じはいっさい無い。
安価な製品でありがちな、奥行き感の乏しい平坦さがこのスピーカーにもあるのだけど、高めの中音から上の音の余韻の残しかたが綺麗で、それが音のチープさをいくらか和らげている。
同じくウーファーにフェーズプラグを持つオンキヨーの「D-NFR9」と比べると、中音の質感がよく似ている。明るく開放感があり、なにかひとつ芯があるような音だ。ただ、あちらほど長時間のリスニングで聴き疲れがない点で優れる。
音場はそれなりに広いけれど定位感はほとんど無い。また、リスニングポイントの位置に敏感で、耳の位置が少しズレるだけでもステレオ感が失われたり中音の勢いが削がれたりする。
なかなかに気難しい。でも、リスニングポイントを見つけてガッチリ合えば、思いのほかちゃんと聴ける。
周波数特性を見てみる。
聴感と同じく、このスピーカーは収音の位置で特性がわりと大きく変わるようだ。今回はツイーターの軸上にマイクを置くことを基準に整備を進める。
低音域は波形ほど出ていないように感じる。クロスオーバー付近だろうか、4kHzや5kHz付近の帯域でひずみが出ているけど、聴感上はあまり気にならない。
また、もうひとつのほうのスピーカーと比べると、稜線が少し異なることが判明した。
もうひとつのほうは、低音域がやや控えめ。逆に高めの中音から上はやや大きい。低音や定位感が不足気味に聞こえるのは、コレの所為か?
このあたりは、いずれも分解時に要因を確認していく。
内部
ブッシング
先述したとおり、前面のネジは隠れて見えないので、そのアクセスから始める。
前面ネットのダボが収まるゴム製のブッシングをほじり出す。フランジの部分に先の細いものを引っ掛けて引き抜く。
計4つのこのブッシングはやや劣化しているようで、少し硬くなっている。いくつかは簡単に引き抜けてしまった。
前面プレート
前面のプレートは、分解するまでは樹脂製だと思っていたのだけど、じつはMDFを削り出して塗装されたものだった。
ただのカバーであればここをプラスチックの成型品にすればデザイン面に幅を持たせられる気がするのだけど、あえてMDFにしているのはコスト面でこちらのほうが安いのだろうか。
サブバッフル
内部には予想のとおり、ドライバーを固定するサブバッフルが設けられている。こちらは樹脂製。
各ドライバーユニットは、ベースとなるMDFの筐体とサブバッフルごとタッピングネジで固定されている。
パーツ点数も増えるし、なかなか凝っていることをしていると思うのだけど、こうすることの利点はなんだろうか。MDFの加工が簡便になるとか?
エンクロージャー
吸音材はシンプルに、背面にエステルウールのシートが一枚貼りつけられているかたち。
エンクロージャーは、前面を含めてすべて12mm厚みがあるMDFで組まれている。パーティクルボードが使われていないのは意外だ。
バスレフダクトは紙製。径は約32mm。全長130mmと、けっこう長めのものが採用されている。
ディバイディングネットワーク
ネットワーク基板は2本のタッピングネジで固定されている。
パーツは基板上に3点。基板に空いているスペースがあるのは、ツイーター並列のコイルを配置できるように確保されている模様。ただし、実装はされていない。
はんだ面にはフォームシートが貼りつけられていて、剥がさないと作業ができない。パターンを確認するためにも、ある程度は剥がす。
回路は6dB/octのシンプルなもの。これだけならPCBは不要な気もするけど、HF側が12dB/octで考えられていた名残かもしれない。
ドライバーユニット
ウーファー
ドライバー類を眺める。まずはウーファーから。
金属プレスのフレームで組まれた、防磁設計のユニット。中心にあるフェーズプラグはおそらく樹脂製。
ツイーター
なぜかヨークが黒く塗られているツイーターのほうは、よく見るといわゆる「バランスドーム型」とか呼ばれることのある小さなコーンの中心にフェーズプラグが接着されている構造だ。こちらは、フェーズプラグごと振動するのだろうか。
前面のプレートは接着剤が使用されており、分解が大変そうなので作業はここまで。
謎の施工
もうひとつのほうも分解しようと作業を進めていると、妙な施工を目にすることとなった。ツイーターユニットのタブに刺さるはずの平型端子が、なぜかプラスマイナス逆に取り付けられているのである。
平型端子のサイズが合わない。そこでなんと、はんだを流して無理やり固定している。
なんだこれ、改造されたのか? と訝しみながらネットワーク基板を見ると、はんだ付けする赤と黒のダブルコードが、逆に取り付けられているという有様。
見たところ、あとからいったんここまで分解して改造した様子はない。おそらく製造時にミスを誤魔化した結果だろう。
不思議なのは、「赤と黒がテレコになっている」と、どうしてわかったのかという点。基板側のケーブルの接続が間違っていることが判っていないとできない所作だからである。そこに気づかなければ、そのまま平型端子をタブに接続してしまい、間違った配線となるはず。接続するさいにわざわざ基板側を目視で確認しているのだろうか。であれば、気づいた時点で不良品の扱いになるはず……。
まあ、なんにしても、音声機器として通常使うぶんには見えないところだし、多少適当でも問題ないだろう、という判断だろう。
このはんだ付けされた平型端子、はんだごてで熱して取り外そうとすると、タブが固定されている樹脂製のメンブレンらしきパーツが先に溶けてしまう。
自分の小手先の技術ではユニット自体を破損してしまいそうなので、そのままにしておくことにする。
ウーファーエッジの硬度
また、ウーファーのラバー製のエッジが、左右で硬さが若干異なることも判明。
低音の出方が左右で異なるのは、おそらくこれが原因だろう。サイン波を流してみても、エッジが硬いほうのウーファーは低音の出力が弱い。
手持ちのラバープロテクタントを流してみてなんとかならないかと試すも、改善せず。あまりやりたくないけど、エッジの張替えもしなくてはならないか。
整備
いろいろ調整したい部分があったのだけど、最後に見てはいけないものを見せられてしまい、やる気が失せてしまった。ここは最小限、原音の復旧を目指すだけにして、とりあえず内外ともにまともな状態にしてみることにする。
清掃
まずは清掃。大きな傷は見受けられないものの、全体的に汚れていて、油汚れのようなベタつきがある。中性洗剤とハヤトール、一部には薄めたシンナーを使って、外装をなるべく綺麗にする。
前面ネットのダボの補修
前面ネットのダボを咥えるブッシングが劣化してカチカチになっており、ダボが外れやすくなっている。こちらもラバープロテクタントを塗して揉んでみたりするも効果はほとんど無し。
おそらくブッシング側のダボ穴が広がっているだろうということで、穴に液体ゴムを流して内部に膜を作ってみる。
少量を穴に落とし、竹串を突っこんでグリグリしながら余分な液体ゴムをかき出す。
そのまま一晩置くと形にはなったものの、ダボを何回か挿し入れるとコートしたゴムが剥がれてきてしまう。あまり上手いこと定着しないようだ。先にラバープロテクタントを含侵させたのもよくなかったかもしれない。
ブッシング側の調整は諦め、ダボを太くする方法を試す。ダボに同じく液体ゴムをコーティングするだけ。
こちらも耐久性はあまり良くなさそうだけど、ブッシング側よりはだいぶマシのようなので、これでお茶を濁す。ここは液体ゴムではなく適当な接着剤のほうがいいだろう。
エッジの張替え
なぜか左右で硬度の異なるウーファーのラバー製エッジ。これは両方張り替えて揃えるしかなさそうだなということで、汎用のラバー製エッジを手に入れる。
幸いなことに、JBLの「Control 1」シリーズでも使われる入手性の良い「WL106A」が合いそうなので、アマゾンで注文。
既存のエッジを剥がす。コーンが樹脂製なのでシンナーが使えるのが助かる。
エッジの内側の耳にシンナーを少しだけ垂らし、剥がれた部分にさらにシンナーを浸みこませる。これをゆっくり繰り返す。
内側が剥がれたら、外周の耳へ。容量は先と同じ。
新しいエッジの固定方法は、内側の耳をコーン外周の裏に回す方法にしようと思っていたけど、半透明のコーンである場合は裏面の接着剤が透けて見えることが判明。
それを見栄え良く調整するのが難しいので、オリジナルと同じく、コーンのおもて面に張ることとする。
エッジの耳に接着剤を塗布。接着剤はB7000。
グルリと一周塗ったら、均等に伸ばす。B7000は表面乾燥時間が比較的短めなので、なるべく手早く済ませられると作業がラク。
同じことをコーン側の最外周にも施したら、エッジを乗せて貼り合わせる。
しばらくは貼り合わせた耳の部分を指で軽くなぞるように押さえておく。B7000を使用した場合は数分でくっついてくれるので、それまでひたすら押さえる。それでも剥がれてくるようなら、やり直し。
内側が終わったら、外側の耳を接着する。
今回は接着不良が1回あっただけで済んだ。紙製コーンと異なり、失敗しても張り直しが容易なのも樹脂製コーンの利点だ。それでもすべての工程でやたら神経を使うから、できればやりたくない作業であるのは変わらない。
バインディングポストの交換
そんなに古い製品でもないはずなのに、バインディングポストの樹脂製キャップのひとつがなぜかやたら傷ついているので、新しいものに交換してしまうことにする。
ポストは金属製キャップの汎用品。これをコネクターユニットにオリジナルと同じかたちで固定するだけ。
フィルター回路の調整
ディバイディングネットワークに関しては、もっと調整してみたいところがあるのだけど、今回はここまでで時間も予算もすでに大幅にオーバーしているので、簡単に済ませる。
HPFに採用されているSunfieldというメーカーの1.5μF電解コンデンサーを交換する。
新しいコンデンサーは、ルビコンと東信工業のポリエステルフィルムコンデンサー。それぞれ0.47μFと1.5μFで、約2.0μFを構成する。電解からフィルムに変わることにより中音域が減衰することを睨んで、若干ながら容量を増やしている。
ウーファーの並列用にと電解コンデンサーも用意したけど、以前フェーズプラグ付きのウーファーに同じことをしたらうまくいかなかったので、今回は見送った。本当はここの試行錯誤をしたかったのだけど、そんな時間はない。
配線は、不良個所は引き換えざるを得ないため、ついでにそれ以外もすべて引き換えてしまう。JVCKENWOODのスピーカーケーブルと、手元に余っていたOFCケーブルを採用。
静電容量が若干増えているけど、まあこの程度ならさほど支障もないだろうと踏んで音を出してみる。すると、高音域がザラザラして喧しくなってしまった。周波数特性を見てみると、3kHz付近がやや隆起しているように見える。
やっぱり手抜きはうまくいかないもんだな、ということで、アッテネーターの調整も行う。ツイーターに並列で7.5Ωのセメント抵抗を設けてみると、ちょうどよい感じに落ち着く。
吸音材の配置変更
最後に、吸音材の調整。
既存のエステルウールは、背面から天面側に移設させる。
底面側には、バスレフダクトの横にウレタンフォームを置く。
当初はダクトの両サイドに置いていたのだけど、中音の勢いが落ちすぎている気がしたので、片方はほぼ撤去している。
整備後の音
定位感がある程度改善しているものの、全体としては整備前と性格は変わっていない。ウーファーのエッジの張替えやフィルター回路の整備で、左右でバラついていた特性が揃っているので、その影響が表出しているのだろう。
上級機には敵わないけど悪いものでも決してない。低音の再生に優れるアンプでドライブすれば、また違う印象になるのかもしれない。
ただ、現代において、あえてこのスピーカーを据え置く理由として物珍しさ以外にあるかというと、なかなかキビシイとも思う。
まとめ
あくまでも個人的な印象だけど、1990年代と2000年くらいまでの中国製スピーカーについては、メーカー問わず品質の良くないものが多く世に送り出されているような感じがしている。もちろん全然問題ないものもある。それも、自分が今までパッシブスピーカーばかりを覗いてきたなかで抱いた、傾向の話だ。
もしかすると今回出会ったものは、その極致だったのかもしれない。
自分は製造業界に携わっていたわけではないし、その筋の一家言持っている人からすればまた違う意見があるのだろう。今自分が抱いている黒い感情は、単なる勘違いなのかもしれない。
しかし、ことオーディオにいたっては「ブランドイメージ命」みたいなところがあって、数万数十万する"謎の機械"をあえて買い求めるエンドユーザーは製品そのものというよりもブランドという信頼に対してお金を払っている感じなのに、コアな部分だけど目に見えないから多少雑でもOK、みたいなことをされるのを知れば、まあ、見放されようが衰退しようがさもありなん、としか思わなくなる。
品質管理が厳しくなってきている今では、こういった憂き目を見ることもないのだろうと信じたいところ。
終。