懐かしいスピーカーが手に入ったので、メンテナンスしてみた。その所感。
KENWOOD LS-VH7 とは
曰く付き
もとは1999年に発表されたKENWOODの「Avino VH-7」シリーズのAVレシーバーセットに付属するスピーカー。
ただ、この製品を認知したのは、2001年あたりにSOTECから発売された"AVパソコン"こと「AFiNA AV」シリーズの「VH-7PC」だった。
まだPCで本格的なオーディオを楽しむ文化が現代ほど浸透していない時代、PCとAVレシーバーを組み合わせた異色のデスクトップパソコンとして、満を持して登場。レシーバーとPCをUSBで繋ぐという、今や当たり前となったシステムは、当時は本当に珍しかったと記憶している。
この頃、ちょうどパソコンを新調したかった時期で、かつ自身のオーディオ環境に拘りだしたこともあり、異彩を放っていたこのPCに惹かれていた。高くて買えなかったけど。
AVパソコン、時代を先取りしすぎたのか需要がニッチすぎたのか、製品自体の売れ行きは芳しくなかったようで、シリーズはすぐに途絶え、終いにはミニコンポ部だけ切り離され叩き売りされたらしい。
AVパソコン「ではない」Avino VH-7の標準セットは、発売当初は定価66,000円。ミニコンポとしてはそれなりに高価だ。実質型落ち品になるとはいえ、それと同じ造りをしたものが新品で10,000円ほどで手に入るとあっては、いわゆる"祭り"にならないはずがない。
要は、曰く付きの製品なのである。
安価な既製PCをウリにしていた当時のSOTECのブランド的に、20万越えの高価なAVパソコンは合わなかったのかもしれない。
高性能
とはいえ、肝心要のオーディオ部分は老舗KENWOOD製の、元高級コンポ。そこは当然造り込まれており、音もちゃんと「オーディオ」していたらしい。発売停止後も界隈ではハイコストパフォーマンスなシステムとして知られ、PCオーディオとするには十分な性能を誇っていたようだ。
中古市場で瞬間的に高騰したようだけど、今はそれも落ち着いている。今回入手したのも、動作品が3,000円程度で売られていたので、懐かしさもあり購入したのだった。
出音(改修前)
3,000円なら何かしら不具合があるだろうと思っていたけど、届いたものはかなりの美品。前面のサランネットも綺麗なまま。
このスピーカー、バナナプラグ対応のバインディングポストを積んでいて、確かに本格的。
そのままいつものようにAVレシーバー「YAMAHA RX-S602」に接続してみたら、音も難無く出た。
このスピーカーはなかなかの低能率で、普段より音量をかなり上げないといけない。
音のまとまりの印象は、意外と柔らかい。音自体は低域以外が硬めだけど繊細になりすぎず、でも分析的でもない、程よいメリハリで"面"で鳴らす感じ。それが柔らかい印象を与えているのかもしれない。
音場は広めながら定位感はあまりなく、その影響かリスニングポイントが広めでラフに聴きやすい。
音域ごとの傾向としては、低音の量が多く、かつ結構下まで出ている印象。
さすがに体積なりの最低域にはなるけど、前面にある広めのバスレフポートと長めの奥行き、ひとつで約4kgある本体重量から繰り出されているであろうしっかりした低音が主張してくる。
中音以上もちゃんと出てはいるものの、やや引っ込み気味。特に中音域が物足りない。もっと厚みが欲しいところ。高音も刺さることなく綺麗だけど、もうちょっと響いてほしい感はある。
低音重視の音は、あまり自分の趣味ではない。とはいえ、決して安っぽくはなく、「やりたいことは判る」といった音作り。
分解
前オーナーがどの程度鳴らし込んでいるのかは定かでないけど、製品としては製造から20年経つ。ネットワークのコンデンサーは劣化しているだろう。
ということで分解していく。
スピーカーユニットの取り外し
まずはスピーカーユニットから取り外す。
前面保護のサランネットを支持する4本のスタッドが、杢目調の化粧パネルを固定するネジになっている。穴は六角。
このネジ、穴に接着剤まで使って強固に固定されていて、外すのに苦労した。力を込めやすい持ち手が太めのドライバーがあると便利かもしれない。
化粧パネルを外すと、各ユニットを固定しているビスにアクセスできる。プラスドライバーで外していくだけ。
ユニットの配線接続は、ファストン端子。今回はそのまま再利用。
ネットワーク基板の取り外し
ウーファーを取り外すと内部にアプローチできるけど、メタリックブルーの樹脂製のパネルも外すと、開口部が少し広がるので作業がしやすくなる。これもプラスネジ4つ外すだけ。
使われている吸音材は、柔らかめのスポンジ材。ツイーター背部と筐体底部、ネットワーク基板周りに置かれ、それぞれ接着剤で固定されている。
ツイーター用の赤黒ケーブルを引き抜くため、吸音材を剥がす。
ウーファー側から手を突っ込んで、ケーブルをゆっくり引き抜く。貫通している通線孔にもスポンジがあるので、それごと外す。
筐体背面のバインディングポストユニットの真裏に、ネットワーク基板がネジ留めされ一体となっている。プラスネジ4つを外し引き抜くだけ。
ネットワーク基板
ツイーターは直列のコンデンサー3.9μFと並列のコイル0.47mH。
クロスオーバー周波数は2.5kHzの設定らしい。
バインディングポストから伸びるターミナルが基板中央を貫通して、はんだ付けされている。
基板四隅にあるネジを外し、ターミナル部のはんだを除去してポストから分離させる。
改修
バインディングポストの交換
もともとバナナプラグ対応のしっかりしたポストが付いているけど、せっかく分解したので真ちゅう金メッキ製のものに換装する。
既存のポストは、六角ナットひとつ外すだけ。
ターミナルの基板に貫通する部分を、基板の孔の径に合わせてすぼめる。ニッパーとラジオペンチで適当に曲げた。
ダブルナットとし、既存と同様に接着剤で補強しておく。
コンデンサーの交換
既存の電解コンデンサーの静電容量を計測すると、それぞれ約0.5μFずつ増えていた。
というわけで、これらも交換して正規の数値に戻す。
さて、コンデンサーのケースが大型化して、既存の位置には乗せられなくなった。ただ、基板を拡張するような手間のかかることはしたくない。
なんとか既存のホールにリード線を通せないかと、フォーミングを幾度も試行錯誤し、無理やり乗せた。
この位置なら、バインディングポストユニットにも、筐体内に仕舞いこむときにも物理的な干渉はない。むしろこの位置しかないともいえる。
固定はたっぷりのホットボンド。ここはスーパーXでもよかったかもしれない。
筐体内に再び収める。コンデンサーが大きくなっているので、被さる吸音材を少し押し広げて空間を確保する必要があるかもしれない。
以上の作業を、対となるスピーカーにも施す。
以上の作業を、対となるスピーカーにも施す。
出音(改修後)
改装後、50時間くらい鳴らしたときの、音の印象。
引っ込み気味だった中音以上の音が前に出てくるようになった。低音域はほぼ変わらず。
ボーカルがしっかり真ん中に定位するようになり、聴きやすくなった。特に低い男声は、迫力はそのままで曇りが取れてスッキリした印象。
スネアのヌケが良くなり、バンド編成の音源はバランスがよく聴こえる。これはフィルムコンデンサー化の影響だろう。
ただ、包括的には、それほど大きな変化は無いようだ。さらに鳴らし込むと変わる可能性もあるけど、中音域の厚みや定位感は、おそらくそのままだろう。
とはいえ、定価20,000円のスピーカー以上の音は十分出ていると言える。ポップスやEDMなどよりも、音数の少ないジャズやアンビエントをしっとりと聴くのに適していると思う。
唯一にして最大の弱点?
ミニコンポ付属のスピーカーとは思えない贅沢な音を出してくれるのはその通りなのだけど、オーディオ機器として意識した場合、見た目が釣り合っていないのは、巷で言われているとおり。
端的に言えば、ダサい。
せっかく重厚な杢目調の前面化粧プレートを使っているのに、それ以外のいかにもプラスチックな淡いブルーがまさにミスマッチで台無しだ。本当にもったいない。
当時のSOTECとKENWOODの意向は知る由もないけど、このスピーカーのカジュアルなデザインは、パソコンの付属品であることを前提に練られている気がしてならない。SOTECのパソコンがシルバーとメタリックブルーを基調にしていたと記憶しているので、それに合わせているんじゃないだろうか。
なんにしても、攻めた意匠過ぎて好みが分かれる。だけどそれが、このスピーカーのアイデンティティでもあると思っている。ひと目見て「あ、コレか」とわかる。このデザインだから、後年話題になったのではないかとすら感じる。
インテリア的にはともかく、その辺も含めて自分は結構好きなんだけど。
まとめ
ご縁があって安価に手に入った話題のスピーカー。音自体は自分の趣味ではなかったけど、有名になるだけのポテンシャルは確かに持っていることがわかった。
低音がしっかり出て下支えする音が好みで、低能率を補える環境を持ち合わせているのなら、一考に値するスピーカーではないだろうか。
終。