いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

KENWOOD LS-11ES をメンテナンスする (後編)

ケンウッドの3ウェイスピーカー「LS-11ES」が手に入ったので、音の是正がてら音質の向上を狙ってみたりした。その所感。
 
この記事は、前後編の後編にあたるものです。
前編は下のリンクから。
 
 
 

整備

本体内部にアクセスしやすい構造なので、今回は最近はあまりやっていなかった、構造面における音の是正を行うことにする。
 

ウーファーの支持材新設

分解の段階で見ているとおり、前面バッフルのネジ孔付近が脆そうなのと、エンクロージャー内での作業がしやすいことから、重たいウーファーユニットを筐体内部で支えるための桟を設けてみる。

吸音材を取り払った底面部
ホームセンターでアカマツの材木を入手。それを適当な長さに切り落としてから、筐体内でコの字型になるように固定する。

木材も最近高騰しているな
固定のさいは、ウーファーユニットを前面バッフルに固定した状態で、キャンセルマグネットに密着する位置に桟を渡すようにする。
ここで、ウーファーと桟は直接緊結しない。あくまで接触しているだけだ。

密着具合は、割とルーズでもなんとかなる
接着剤の硬化のため、24時間放置する。力が加わり続ける部材のため、筐体への固定は2液性エポキシ系接着剤としたけれど、鋲を併用できることに気づくまでそれなりの時間を要したのはここだけの秘密だ。

使う頻度が極端に少ないから忘れていた……
マグネットが接触する部分には、以前購入して余っていた薄手のフェルトシートの切れ端を貼る。

100均で入手したベルベットシート

これがあるから、ある程度ルーズでもよかったのだ
これで、ウーファーをバッフルに固定するさいに、桟にほんの少しテンションがかかる形になるという算段だ。バッフル側でネジを締めていくと、キャンセルマグネットが桟をグイグイ押していくイメージ。当然ながらバッフル側にも力が加わるので、外径が大きめのワッシャーを挟んで力を逃がすなりして対処する。
 
また、側面を渡っている桟はエンクロージャーの補強も兼ねられる。これで、音が締まって少しクリアになるといいのだけど。
 

吸音材の再配置

これは自分の単なる嗜好の話なのだけど、ウーファーの周辺にはあまり吸音材を密集させたくないというのがある。そこで今回は、既存の吸音材を天面側に移設させ、底面側は少量の吸音材新設に留める形に変更する。
 
先の作業で木材が余ったので、側面を渡るウレタンフォームを固定するための支持材としてみる。やはり先と同じような感じで、筐体内に固定する。

板材の補強にもなるかと思ったけれど、ほとんど意味がなかった
既存のウレタンフォームの長さを調整して、支持材の上に乗せるようにして接着剤で固定する。位置は既存とほぼ同等だけど、オリジナルのような傾斜は付けず、底面と並行としている。

ここの施工方法に関しては、必要性も含めてかなり迷った
ただ、ここのウレタンフォームは取り除いてしまってもよかったとも思う。木材の追加で容積が若干減っている分、ウレタンフォームの撤去で帳尻を合わせてもよかったかもしれない。
 
底面にあった既存のフェルトシートは、天面側に移設。天面と両側面に沿わせている。
空いた底面側は、2cm厚のウレタンフォームを適当な大きさに切り出し、底面以外に貼り付けておく。

整備後の筐体内
 

バスレフポートの加工

あとは、バックパネル側の作業となる。
 
バスレフポートのノイズを低減させるため、開口部を削ってフレア加工する。
ここは、D-200IIで実施したことの再現となる。ただし、板厚が薄く、ルーターで削る部分が少ない。そのため、フレア加工は程々にして、バックパネルの開口部とダクトの接合部にある段差を削り落として滑らかにすることに尽力する。

もちろんフリーハンドだ
 

バインディングポストの換装

扱いにくい背面のコネクターユニットを、近代化させておく。
バナナプラグに対応する、大型キャップ搭載の真ちゅうロジウムめっき製ポストを用意。

これがあまりに小さいとみすぼらしいからね……
ここについても、目指すものはD-200IIの仕上げ。MDFを用意して既存の孔を塞ぎ、そこに新しいポストを直付けする形だ。

ちょうど余っていた5.5mm厚のMDF
ただし、今回は切り出したMDFには下地処理としてしっかりサンディングシーラーを塗布。黒色の塗装も組み立て前に個別に実施している。

サンディングシーラー塗布後

アクリル塗料をチマチマ筆塗り
また、今回はバックパネルの物理的なスペースに余裕があるので、MDFはやや大きめに切り出し、固定はパネルの裏側からタッピングネジとする。既存のネジ穴にはダミーのネジを挿し入れて、それっぽく見えるようにしている。

試着。この後の作業で邪魔になるので、いったん取り外す
 

可変アッテネーターの換装

既存のポテンショメーターは壊してしまったので、新しいものを用意する必要がある。
別件で秋葉原千石電商に寄ったさい、オリジナルと同じ東京コスモス電機製のポテンショメーターを見つけたので確保。「RA30Y型」というもの。

左:オリジナル 右:新ユニット
既存の公称全抵抗値は8Ωだけど、新しいものは10Ωで、これより低いものはラインナップに存在しないようだ。でもまあ、そのくらいならいいでしょ、ということでこれをチョイス。そこに逡巡は無かった。

動作も問題なし
ついでに、大径のツマミと、メーターのシャフト長を延長するパーツも併せて購入。

6mm径シャフト用
埋込型のツマミが使いづらいので、どうせなら露出させてしまおうという魂胆である。

延長シャフトを取り付けた図

イメージはこんな感じ
当初は既存の樹脂製スリーブを再利用することを念頭に置いていて、そのためにはどんな加工が必要か考えを巡らせていた。

延長シャフトを固定するネジにアクセスするための孔あけの様子

そのネジがスリーブ内で擦れるため、スリーブの内径を削って拡幅した図
しかし、ここまで加工を進めてようやく、バックパネルに取り付けられないことに気づく。

「これどうやって取り付けるんだ?」
自身のアホさ加減に嫌気が差してくる。
 
結局、スリーブは廃することとし、手間だから避けたかった架台の構築を始めることになるのだった。
MDFを適当な大きさに切り出し、これをベースとする。

今回は木材を切ってばかりだな
ツマミとバックパネルの表面とのあいだにわずかな隙間を残した状態でメーター本体を固定したい。そのためには、MDFをバックパネルから約6mm程度浮かせる必要がある。
ホームセンターに赴き6mm厚の木材を購入。これを切り出し、スペーサーとする。ここでまた2液性エポキシ系接着剤の出番となる。

面倒なので、固定はすべて接着剤とする
あとはこれを、バックパネルに固定するだけ。
ここでも先の接着剤を使用する。特性として、硬化が始まるまでの時間的猶予がかなりある。よって、パネルに印字されている目盛りとツマミの位置関係の調整は、両者を貼り合わせてからでも十分に行える。
そして、またもや24時間待つ必要がある。

ツマミ、ちょっとデカかったな
 

ネットワーク基板の調整

接着剤の硬化を待つあいだ、ディバイディングネットワークの基板の改修を行っておく。
ポテンショメーターの調達に予算を割かれてしまったので、当初目論んでいたツイーター回路の空芯コイル化は見送る。コンデンサーの交換のみとするうえで、新しいものもなるべく安価なもので済ませる。

新しいコンデンサーたち
両極性電解コンデンサーを搭載しているものは、基本的に新しいものも同様に電解コンデンサーとする。今回は、ニチコンの「MUSE ES」が主軸となる。本来はパークオーディオ製を使用したいところだけど、先の理由で妥協せざるを得ない。

MUSEが小さいのではなく、オリジナルが大きすぎるのです
ただし、ツイーター直列のコンデンサーのみ、パナソニック製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー「ECQE」とする。音色的に、フィルムコンデンサーのほうが合いそうだと感じたからだ。

ネットワーク回路(改修後)
 
各ドライバーまでの配線は、手持ちのJVCKENWOOD製OFCスピーカーケーブルを引きまわす。

3スピーカーなので、その分総ケーブル長も増える
ブランドを揃えられるほか、径が既存と同程度のケーブルであり、基板のスルーホールへの挿入もまったく問題ない。ただし、ミッドレンジに関しては、例の白いカバーへの通線があるので、先にカバーにケーブルをくぐらせてから平型端子を圧着する必要がある。

孔の径が小さく、平型端子が付いた状態だと非常に通しづらいため
また、配線はウーファーからミッドレンジとツイーターに分岐する方法を採らず、バインディングポストから各基板まで専用線による直結とする。

バインディングポストはこんな感じになった
宙に浮いていたツイーター用の基板は、可変抵抗器を別置きとすることで、ほかの基板と同様バックパネルに固定させる形にする。もともとポテンショメーターが付いていた位置にマウンティングホールのようなものがあるので、固定に利用させてもらう。樹脂製スペーサーを使って、基板を浮かせてネジ留めする。
切り離された可変抵抗器までの配線が必要となるので、手持ちの単線を引っ張っておく。

コンデンサー交換を済ませた基板たち

コイルの方向性を考慮して、この向き
さらに、オリジナルは基板にはんだ付けされて着脱不可だったウーファーの配線についても、バックパネルの分離が容易になるように平型端子による接点を設ける。ウーファーの基板は、バインディングポストのある直上に移設する。ここでもやはり、樹脂製スペーサーを活用する。
 
ミッドレンジの基板は、そのまま既存のスタッドに戻すだけ。

整備後のバックパネル

パネルを戻すさいケーブルをある程度束ねて、結束バンドでまとめておく
 

改修後の音

整備後の音は、およそ意図したとおりの変化を感じ取れる。

小型スピーカー用のスタンドに無理やり乗せている
低音域は、量感が増えたというよりは「聴こえるようになった」印象だ。特に最低音がちゃんと鳴っている。これは、整備前はおそらくノイズにかき消されて聴こえてこなかった音だ。
エネルギーそのものが増えたような感じはしないけれど、結果として低音が増えたように聴こえる、という理解。
 
中音は、雰囲気は変わらないものの、ややスッキリしたようだ。夾雑物が取り除かれたような感じ。換装したMUSE電解コンデンサーだけどフィルムコンデンサーっぽい特性を持っているので、その影響かもしれない。もともと持つ自然な張り感もちゃんと残っているし、これはこれでアリ。
 
高音域は、可変アッテネーターの新調の影響がモロに出ている。まず、不快なノイズがいっさい無くなっている。当たり前だけど、背面のツマミを回してもバリバリ言わず、極小のしゅう動ノイズもほぼ出ない。
フィルムコンデンサー化の影響と合わさって、ややクリアになり落ち着いている。金属臭さが身をひそめて煌びやかさはなだらかになっている。主張は控えめだけど、耳に障ることはないし、あくまで自然に高音を添えている。
 
周波数特性を見る。

周波数特性(整備前とほぼ同条件)
中高音に関しては、整備前との違いが一目瞭然といえる。妙なディップが無くなり、直線的な右肩下がりとなっている。ここでディップがまだ残っていたら、前面バッフルの改修に手をつけるつもりだったので、とりあえずその必要が無くなりひと安心。
 
高音は、ポテンショメーターの挿入損失の違いからか、出力としてはオリジナルより少し落ちている。派手さが減ったのはこのあたりが要因かもしれない。とはいえ、バランスとしては問題ない。聴感上はもっと出ているように感じる。

拡大(1kHz以上)
低音は、共鳴していると思われる50Hz前後は少し下がり、70Hzから150Hzくらいまでの音域は逆に少し増えている。エンクロージャーの容積が変わっているので、共振周波数がズレたのだろうか。
聴感の印象とは少し異なる。最低音は、むしろ増えている感じだからだ。
 

まとめ

音を聴いていて思うのは、もっとちゃんとしたアンプで、しっかりしたベースに置いてドライブさせてやりたいな、ということだ。
音は確かに改善したけど、なんかスッキリしない。なんとなく力を持て余している感がある。「低音があまり出ない」のも、ウーファーの特性ももちろんあるのだけど、アンプとの相性も影響している気がする。中高音だって、さらに旨味や艶っぽさを繰り出せるんじゃないか。
もっと音を快活に、プログラムを能動的に、空間を揺り動かすようなドライブをできる環境が、きっとあるはずだ。このスピーカーがそのポテンシャルを持ち合わせているのは、これまで見てきたとおりだ。

整備後の姿
生憎、自分のリスニング環境は、狭い空間で、テーブルトップでもギリギリ邪魔にならないようなサイズのスピーカーを、セッティングに程々に気を遣いながら、ちょっとしたAVレシーバーに繋げてニアフィールドで聴き続けられる程度のものしか用意できない。だから、体積的にも性能的にも価格的にも、本機のサイズ以上のスピーカーはあまり手を出そうとしないのだ。

1本49,800円です! とか言われても普通に信じちゃいそう
たとえエントリーモデルだとしても、分不相応だ。ちょっと出しゃばっちゃったな、とも思うのだった。
 
終。