いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

YAMAHA NS-PB350 をチューンアップする

ヤマハの2ウェイスピーカー「NS-PB350」の音をイコライジングして、自分の耳に合うようにしてみようと試みた。その所感。

 

サラウンドスピーカー

前回に引き続き、新しいスピーカーシステムが続く。
ヤマハのブックシェルフ型スピーカー、「NS-PB350」という型番のペアが手元に届いた。

YAMAHA NS-PB350 (MB)
よく似たスピーカーを、自分は知っている。同じヤマハの「NS-B330」というシステムだ。
NS-B330は、自分が欲しいと思っている音を兼ね備えているスピーカーで、お気に入り。以前整備したものは貰い手が付いて手放してしまっているけど、また機会があれば手に入れたい。
そのNS-B330についてインターネット上の情報を見てまわっていたとき、ちょうど同じ時期に登場し、外観もそっくりのこのスピーカーの存在を確認した。ホームシアター向けとして発売された「NS-P350」という2.1chシステムの、サラウンドスピーカー部だそう。
メーカーのホームページに掲載の写真を見るかぎり、外観は細かく異なるもののサイズ感は同等だ。これはもしかすると、NS-B330と同じような音がするんじゃないの? まあ、まったく同じでないとしても似たような雰囲気の音だとしたら、より安価に手に入るし掘り出し物だったりしない? などと期待していたスピーカーだ。

前面ネットを付けた状態
シアター向けの製品だからか、中古市場にはあまり出回っていないようだけど、今回たまたま状態の良いものが手に入った。
 

外観

エンクロージャーの仕上げは、木目調のビニールシート。今回入手したカラーは"ウォルナット"で、やや赤みがかったブラウンの色調となっている。

なんの変哲もない、よく見かける質感のシート
NS-B330では、エンクロージャーの両側面が前面から背面に向かってゆったりとカーブしていたけど、こちらはカクカクとした一般的な直方体の筐体をしている。

天面側

側面と背面
前面バッフルも一枚板のようで、ほかの面と同様にビニールの化粧シートが張られている。NS-B330では光沢の化粧が施されたバッフルプレートが設けられたダブルバッフル仕様だ。

金属製のダボも馴染みのある形状
その前面に見えている2ウェイのドライバーユニットは、ぱっと見ではいずれもNS-B330と違いが無いように見える。ヒンジ部やバッフルプレートのサイズも同じ。おそらく材質も一緒だろう。

各ドライバーユニット正面
背面にはバスレフポートと、埋込ボックス型のコネクターユニット。バスレフポートの形状は最低限の加工で簡素なものとなっている。NS-B330では、ここはポート部のみ樹脂製だ。

ダクトは紙製
専用の壁掛金具は、このセットに付属するもの。ただし取扱説明書によると、タッピングネジの用意と固定は必要に応じてユーザー側で行うこととなっている。よって、これは前オーナーが装着したようだ。
 

備前の音

出音を聞いてみる。アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。音調回路をスルーする「DIRECT」モードでいろいろ再生。
一聴して「アレ?」となった。NS-B330とは音が全然違う、というか、その特徴がことごとく無い。
 
とにかくまず気になるのが、中音から高めの中音にかけて妙にひずんでいて、古臭い音に聞こえる点。聞き始めは、アンプ側の設定を間違えたのかと勘違いしたくらいだ。
 
また、ボーカルが後ろのほうにいて引っこみ気味。これも先述のことが影響しているのだろうけど、セットのセンタースピーカーを置いた本来の扱いかたである2.1chとして駆動した場合を想定したチューンなのかもしれない、とも思う。
 
低音は、あまり下のほうは聞こえてこないものの、体積なりの量感が出ている。ここはNS-B330と同じく、ややバスレフ臭さというか"紙臭さ"を感じる質感で、そこはもったいない感じもするけど許容できる範囲。
 
ヤマハ特有の中高音の煌びやかさみたいなものも、特別感じられない。音場は横方向には広め。音自体はクリアだけど、見通しは平均的。やや遠い位置で展開するのが特徴か。
 
バランスとしてはいわゆるドンシャリに近い。ただ、この音をドンシャリと言っていいのか微妙なところではある。とりわけ中音が足を引っ張っている印象だからだ。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性
およそ聴感と同じといったところ。高めの中音一帯に見えている不安定な稜線は、経験上なんとなく、ツイーターとウーファーの位相が噛み合っていない状態のような印象を受ける。
 
いったいどうしたんだろうこれ、という感じ。なんにせよ、音に関しては聴感も特性も、NS-B330とは似ても似つかないと断じてしまっていい気がする。
意外であると同時に、サラウンドスピーカーならこんなもんか? とも思う。
 

内部

似た見た目をしていても音がまるで別物。なぜか。理由を確認すべく、中身を見ていく。
見えているネジを外してゆくだけだ。

妙に沈みこんだ位置にあるコネクターユニット
 

エンクロージャ

エンクロージャーは、全面MDFで構成されている。

俯瞰
前面のみ厚みが15mm。それ以外は12mmが採用されている。12mmのMDFって平均的な仕様だと思っていたのだけど、9mmのものもわりと存在するなか、サラウンドスピーカーでこれなら頑張っているほうだと思う。

シングルバッフル
吸音材は、底面に柔らかめのニードルフェルト、天面にエステルウールが貼りつけられている。

底面

天面
NS-B330では、ここにさらに正面向かって左側の面にもエステルウールが添えられて、全体でコの字を成している。
 

ドライバーユニット

気になるドライバー類。
ウーファーは、外観はNS-B330のものと見分けがつかない。

ウーファー。JA-13A5
型番が若干異なるので別物と判断できるけど、それ以上のことはわからない。見えない位置の磁気回路にチューンが施されていたりするのだろうか。
背負っているフェライトマグネットの大きさも同じ。

厚み20mmの大きめのフェライトマグネット
マグネットはさすがに小径になっているだろうな、と予想していたのだけど、そんなことはなかったのが意外。
あとは、ダンパーが少し硬めかな? と感じる程度だけど、これもおそらく勘違いだろう。

違いがわからん……
ツイーターにいたっては、NS-B330とまったく同じユニットとみえる。型番が同一だ。

ツイーター。YH386A0
ユニットの内部は、NS-B330の記事で確認できる。ふたつのマグネットに挟まれた位置のヨークの形状が異なるように見えるけど、これは製造ロットによる差異だろうか。

むしろこちらのほうが見た目の差が見受けられるのが不思議な感じ
 

ディバイディングネットワーク

ディバイディングネットワークも、回路の構成は一緒。12dB/octのシンプルなものだ。ただし、各パーツの定数が若干異なっている。

ディバイディングネットワーク

ネットワーク回路図
HF側、LF側ともにフィルターを少し弱めている。つまり受け持つ周波数帯域を少しずつ広げている感じ。HF側の直列のコンデンサーは少し大きめに、LF側のコイルとコンデンサーは少し小さめになっている。
 
PCBを用いずに各パーツとケーブルを直結させる設計は、2015年発売のスピーカーとしてはめずらしいものとなっている。ただ、同じホームシアター向けスピーカーの「NS-4HX」でもディスクリートだったし、銅箔をとおさないのはやはりヤマハの拘りなのだと受け止める。
と言いつつ、NS-B330で使われていた群青色のネットワーク回路向け電解コンデンサーはこちらでは使用されておらず、汎用品となっている点でグレードダウンが見られる。

フィルムコンデンサーではなく、あくまでケミコンの音に拘るようだ
 
 

整備

 

NS-B330に寄せたいけど……

さて、どうしたものか。
入手当初、「多少音が違ってもフィルター回路をNS-B330と同等にすればその音に近づくんじゃないか」と軽く考えていたけど、同一ではないにしろ音に明確に差が出るほど別物と呼べるものでもなく、しかもドライバー類すらも似たような雰囲気。それでいて音の性格がここまで異なるとなると、フィルターを揃えたところでなんの意味もないことだろう。
じゃあ、既存を破棄して、適するネットワークを見つけ出して一から組み上げるのかというと、そこまで手間のかかることもしたくない。
周波数特性を確認したときに感じた、位相の不揃い。これを是正するだけでも改善されるんじゃないかと思い、試しに回路をいっさい弄らずにプラスとマイナスの接続を逆にしてみる。すると、特性的には逆転後のほうが綺麗になることが判った。

青線が位相の変更後の波形
聴感も違和感が減った。ただし、これでNS-B330に近づいたかというと別にそんなことはなく、高めの中音のどん詰まり感が霧散している感じで、あくまで聴感が良くなっただけだ。たぶん自分の技術や発想では、これ以上どうしようもない。
ということで、当初の目論見を捨て、この変更を軸にしてとりあえずステレオで聴いたときに違和感の無いよう調整する方向に舵を取ることにする。
 

コンデンサーの交換

ディバイディングネットワークの調整をどこまでするのか、しばらく思い悩んだ末、今回はHF側の直列のコンデンサーの換装のみとする。組み入れるのは、東信工業製のメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー1.5μFと、ニチコンのオーディオ向け電解コンデンサー「UES」シリーズ3.3μFの併用。

UESの3.3μFの手持ちは、これが最後だ……
LF側の直列のコイルを1.5mHくらいに増設するとさらにバランスがとれるかもなとも思ったけれど、現状でも問題なさそうなので今回はこのまま。
既存の電解コンデンサーを切除し、同じ位置に新しいコンデンサーを乗せて接着する。

乗っかる位置だけ、既存の接着剤を除去

はんだもモリモリ使う
 

平型端子の交換

ツイーターに接続するケーブルは、極性を逆転させるため、平型端子を付け替える。マイナス側に205型、プラス側に110型。

ひとつ金めっきなのは、個人的趣味

ネットワーク回路図(整備後)
 

吸音材の追加

吸音材については、NS-B330と同等にしてみる。
「固綿シート」を適当な大きさに切り出し、正面向かって左側の側面に貼りつける。

固綿シートも高価なので、あまり大量に使いたくはないけど……
ただ、この状態で音を出してみると、中音が整理される反面、中音より上の音域を若干曇らせるようにも感じる。やはりNS-B330と同じにすることには意味がないようだ。要検討の要素である。

この半分くらいでいいのかもしれない
 

整備後の音

改修後の音は、いちばんの懸念点であった中音のひずみ感は解消されている。これは先に見たとおり、位相の変更によるところが大きい。
ただ、遠方で展開する音場は変わっていない。むしろ、ひずみが取り払われたことで、この特徴がさらに際立っているように聞こえる。好みの分かれそうな質感だ。

整備後の姿
高音の伸びや存在感が増している。これはコンデンサーの換装によるものだろうけど、ソースによってはややくどく感じることもある。ポリエステルではなくポリプロピレンフィルムコンデンサーとしたほうが相性がいいのかもしれない。

周波数特性(整備後)
特徴的な音場感は、モダンなジャズやフュージョンなどで遺憾無く発揮される。俗に言うところのスピーカーを感じさせない音であり、包みこむような余裕を感じさせる。
ただ個人的には、もっと前面に張ってくる中音があるほうが好み。ボーカル中心の楽曲ではやたら遠くから声が聞こえてくるようで、「もっと近くにおいでよ!」という気分になったりする。
 

まとめ

NS-B330に化けるんじゃないかという、当初の目論見は外れた。そして、解せないところもある。

うまくいかないもんだな
ウーファーにチューンが施されていると仮定しても、はたしてここまで性質の異なる音になるのだろうか。あるいは、エンクロージャーの形状やフィルターの微妙な差など、一見影響無さそうな細かな差異が積み重なって生まれた結果なのだろうか。
NS-B330のドライバーをこちらに乗せ換えてみると、ここまで与り知らない要素についてなにかわかるかもしれない。

不思議なもんだ
そもそもこの製品、センタースピーカーを含めた3点セットのうちの2本であり、2chのステレオスピーカーとして据えることを想定されていないだろうから、ここでこうしてゴチャゴチャ宣うのもナンセンスな気がしなくもない。それはそれとして、このスピーカーをサラウンドスピーカーたらしめているものはなんなのか、興味深いこともまた事実である。
 
終。