いつか消える文章

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YAMAHA NS-B330 を鳴らしてみる

ヤマハのブックシェルフ型スピーカー「NS-B330」を入手したので、音を聴いてみたり少し整備してみたりした。その所感。

 

素性

この記事が上がる時点において、ヤマハ製スピーカーの現行機種のひとつ。
ヤマハのブックシェルフ型スピーカーは、2020年ごろまで「NS-BP200」と「NS-BP401」というものが存在していた。現在はどちらも生産を終えているけれど、NS-BP200については未だにアマゾンで新品の在庫が確認できたりする。
本機NS-B330は、NS-BP401と同時期の2015年11月に登場し、現在も継続して販売している製品。カラーは「ブラック(B)」のほかにブラウン系の「ウォルナット(MB)」もある。
NS-BP401とはサイズ感や価格帯も似通っており、どちらもハイレゾ再生に対応するとしていて、商品展開的に両者の住み分けがイマイチよくわからない。
といっても現在NS-BP401の入手は困難なので、ヤマハ製でエントリークラスのブックシェルフ型パッシブスピーカーを新品で欲しいとなると、NS-B330とNS-BP200が選択肢となる。
 
ところで、NS-B330がリリースされたひと月後に、シアター向けのシステムからサラウンドスピーカーとして「NS-PB350」という製品が登場している。このスピーカーは、見た目がNS-B330にそっくり。
おそらくNS-B330の設計をベースにしていると推測するけれど、実質的に価格が下がるので、なにかしら仕様が異なると思われる。そこは未入手のため不明。
→ 後日、NS-PB350を入手してみた。
ちなみに、このNS-B330は以前ヨドバシAkibaに行ったときに試聴したことがあり、それなりに好印象だった記憶がある。
今回、動作時間の短い中古品が手に入ったので、手持ちの環境で鳴らしてみる。
 

外観

手元にあるのはブラックモデル。まだ比較的新しいモデルということで、使用感はほとんど無い。

YAMAHA NS-B330(B)

前面ネットを付けた状態
エンクロージャーの外装は、木目調の黒単色のPVC化粧シート張り。ただし、前面バッフル部のみ光沢のある黒塗り調の仕上げとなっている。

六角穴付きのダボ
この光沢ブラックはNS-BP200でも「ピアノブラック」と謳われて採用されていたけれど、こちらは厚い塗膜のような質感となっていて、安っぽさがだいぶ低減されている。

側面と背面
また、特徴として、天面側から見ると両側面がわずかに膨らむような曲線を描くフォルムとなっている。

両側面が湾曲している
これはメーカーいわく、筐体の剛性確保と内部の定在波の低減を狙っているとのこと。価格帯を鑑みて、ここにコストをかけているのは他所ではあまり見られない。
 
そして目を引くのが、バッフル面積の上側半分の大半を占めている、シャンパンゴールドに近いシルバーのホーン型プレート。

ツイーターのウェーブガイドホーン
これは、「ウェーブガイドホーン」と呼ばれるもの。以前「NS-4HX」を入手したときに搭載を確認したものと同じで、ツイーターの出音の指向特性を整えるものとされる。
ドライバーは、3cmドーム型ツイーター。色は黒いけど、アルミ製の振動板らしい。
 
その下部には、13cmコーン型ウーファーを備える。

ウーファー。独特の風合い
こちらは、1999年に登場したシアター向けシステム「MCシリーズ」のスピーカーに搭載されていた「PMD(Polymer Injected Mica Diaphragm)コーンウーファー」の進化形にあたるものらしい。以前整備した「NS-100」のものと比べると、質感は似ているけれど振動板の不透明度が高く、たしかになにかが異なるようだ。配合されている雲母の違いだろうか。

コーン拡大。内部のダンパーが薄っすら透けて見える
背面に行くと、バスレフポートとケーブルコネクターユニットがある。
ネクターユニットは埋込ボックス型で一般的なもの。バナナプラグ対応のバインディングポストを備える。

金属製キャップのポスト
樹脂製のバスレフポートは開口面積をやや広めにとっていて、低音以外に中音もそれなりに出てきそうな感じ。
内部のダクトは途中から紙製に切り替わっているのがわかる。

フレア状のポート
 

出音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。主にCDとパソコンから「DIRECT」出力。
一聴してワイドレンジ、高解像度。音場も広く、現代機らしい性能だなという感想。
以前試聴したときと印象は変わらない。中高音が煌びやかで、それでいて刺激になるようなこともない。
やや解析的で、細かい音をそれなりに拾うけれど、精巧すぎないディティールに留めていて硬い印象はほぼ無い。情報量が多いプログラムでもそつなくこなす感じで、ストレス無くどこまでもクリアに聴かせてくる。
 
意外なのは、低音の出方である。量感を伴いながらけっこう下まで聴こえてくる。この体積とウーファー径にしてはがんばっていて、個人的には必要十分。
ソースによってはやや"バスレフ臭さ"を感じることもあるけれど、おそらく背面が壁面と近いためであり、本体の設置位置に気を遣うことができる環境ならば改善の余地はあるだろう。
予想していたバスレフポートの中音は気にならない程度。
 
広い音場のなかにボーカルが自然に中心に居る。特に女性ボーカルはそこから少し前に出てくる感じで、張りと伸びが美しく心地よい。このあたりはヤマハっぽいなという印象。
 
ソースの粗まで引き出すような分解力や、エネルギーをぶつけてくるような能率感は備えていない。どちらかといえば音の響きと雰囲気を重視するスピーカーである。メーカーが謳う
「スムース&ナチュラルな聴き心地と緻密な情報量」
は、まさにそのとおりの形容といえる。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性(前面バッフルから30cmの収音)
音域的なレンジ感の広さやクセの無さは、特性にも現れている。ドライバーどうしの繋がりも自然。優等生といえる。

周波数特性(前面バッフルから75cmの収音)
 

分解

中身を見ていく。
分解は、見えているネジを外していくだけ。すべてタッピングネジである。
 
ウーファーユニットは、大きなマグネットが背負われている。

ウーファーユニット
このフェライトマグネットは直径90mm、厚みが20mmある。当然それなりの重量がある。
ここで気づいたのだけど、このスピーカー、最近整備したELACの「Debut B5」と似た性格の造りをしている。単発の大型マグネット、広口のバスレフポート、ガイド付きのツイーターなどだ。設計の思想が近いのか。それとも良い音を出そうとすると設計が似通ってくるのか。
 
また、ダンパーがコーン径に匹敵するほど大径のも特徴的。

柔軟性を上げる工夫か
大型マグネットに対し、フレームは金属プレスの平均的なもので、フランジ部に一体となっている化粧リングもややチープ。必要最小限の仕様。このあたりはコストを磁気回路に集中させた結果かもしれない。
 
ツイーターも大きなフェライトマグネット。こちらは、さらにキャンセルマグネットを搭載している。

ツイーター
メイン側は直径70mm、厚み15mm。キャンセル側は直径60mmに厚み10mm。
ホーン型プレートは、プラスチック製。「PS」の刻印があるので、スチロール樹脂だろうか。

ホーン型プレートを分離
このパーツは、NS-4HXではアルミ鋳造だったので、こちらはエントリークラス仕様ということだろう。ただ、タッピングネジ4本のみでドライバーユニットを背負っているのは、若干頼りない。

樹脂用のインサートナットにしてほしかった
そこからさらに、ドーム部を分離できる。ここまで接着剤はいっさい使われていない。

ダイヤフラム部分離
磁気回路に磁性流体は敷かれていない。
アルミのドームは、内側まで真っ黒。これはいわゆるアルマイト処理で、アルミの表面に酸化被膜を作って硬度や耐食性などを増強させている。ただ、色が黒である必要はないように思うので、ここは意匠面も兼ねているのかもしれない。

個人的に磁性流体は使われないほうが好み
ドーム内側の吸音材は、二種類の少量のフェルトが使われている。

リング状のフェルトもめずらしい
 
続いて、ディバイディングネットワーク部。背面のコネクターユニットを外せば取り出せる。

けっこうギチギチ
ネクターユニット自体は一般的なものだけど、背負っているのは銅箔の基板ではなく、9mm厚のMDF。その上にパーツ類を直結結線である。この仕様も、ヤマハのスピーカーならではといえる。

フィルター部

ネットワーク回路
回路の構成は12dB/octの基本形。電気的にもっといろいろ細工をしていると思っていたので、固定アッテネーターすら皆無なのは意外だ。
コイルはHF側が空芯コイル。
使われているコンデンサーはすべて電解コンデンサーだけど、NS-BP200でも見られたニッケミのスピーカーネットワーク用両極性コンデンサー「SNX」シリーズが採用されている。

これ、メチャ欲しい……
この群青色のコンデンサー、自分の整備にも使いたいのだけど、どこで手に入るのだろう。一般には卸されないのだろうか。
 
ちなみに配線は、すべてオーナンバ製のVFF0.75sq。
 
最後にエンクロージャー。

俯瞰
構成材は、前面と背面は15mmのMDF。そのほかの面はわからないけれど、だいたい同じくらいだと思う。

前面の光沢面も、じつはMDF製
両側面の湾曲しているMDFのみ、そのほかの面と色味が微妙に異なるので、もしかすると厳密には別の素材なのかもしれない。
 
吸音材は、底面にニードルフェルト。それにバスレフダクトが遠い側の側面と天面にそれぞれエステルウールが配されている。
ヤマハのスピーカーにしてはけっこう吸音材を入れているな、という印象。最近の製品にはこのくらいは入れるようになったのかな?

筐体上部

筐体下部
 

整備

まだ新しい製品なので、現状どうしても手を入れなければならないような不具合は見あたらない。よって今回は、マテリアルのグレードアップを中心に行う。
 

コンデンサ

ツイーター直列のコンデンサーの静電容量が許容範囲を若干はみ出ていたため、交換しておく。
 
新しいコンデンサーは、パークオーディオの電解コンデンサー「DCP-C001」3.3μFと、メタライズドポリプロピレンフィルムコンデンサー「DCP-FC001」0.68μFの合成とする。

新しいコンデンサ
オリジナルが電解コンデンサーで、その音質は整備後でも残す形にしておきたいため、交換品も電解コンデンサー主体の構成とする。
 

配線

測定やコンデンサーの交換で結線をいったん切り離すことになるので、そのついでにケーブルを新しくしてしまうことにする。
ケーブルは、オヤイデ電気の「EXPLORER V2」の0.75sq。
国産OFCケーブルにしておきたいという以外で、ここのチョイスに理由は無い。手持ちの在庫状況からこのケーブルが抜てきされただけ。
 
またバインディングポストとネットワークのあいだは、スウェーデンはSUPRA社製「CLASSIC 1.6」とする。ここも端的に言って、端材がちょうどよい長さで残っていたためだ。
さらに、バインディングポストにある既存のタブはケーブルがはんだ付けされているため、それを除去するか新しいタブを用意して交換する必要がある。
手元にタブが余っているので、今回は後者を選択。

左が交換後のタブ
 

MDF加工

当然ながら、コンデンサーは既存のMDFに乗せることになる。
乗せられるスペースを設けるため、既存のコンデンサーを撤去し、接着剤を除去する。そこに、新しいコンデンサーふたつを接着することになる。

途中で面倒になって、リードをジョキジョキ切り始める図
コンデンサーがMDFから物理的に少しでもはみ出ていると、エンクロージャーに収めるさいにそこが突っかかってしまい、にっちもさっちもいかなくなる。そのため、MDFのベース内にキッチリ収まる位置を見つける必要がある。

なんとかはみ出ずに乗せられそう
また、既存のケーブルは、MDFをいったん貫通して裏側をまわってから各ドライバーまで渡るようになっているので、新しいケーブルもそれを踏襲すべく、貫通孔を拡張する。

外径が太めのケーブルをとおすために必要な所作
既存のリードにケーブルをはんだ付けして延長させるなどしながら、なんとか結線完了。

改修後のネットワーク回路
 

まとめ

整備後の出音も無事確認。

整備後の姿
自分はヤマハの音が好みであるため、ほかと比べてどうしても贔屓目になってしまうのだけど、それを抜きにしてもよくまとまっているスピーカーだなと感心するものだった。
中身を見て感じたのは、得てして、製造コストの重みづけの偏りが如実で、それが上手いこと音に反映されている製品だということだ。
 
世の中には「銘機」と呼ばれるようなスピーカーがあり、それはそれで魅力のあるものが多いのだろうけど、ことHiFiな音を鳴らすことに関しては、やはりそのニーズの渦中で揉まれている最新モデルのスピーカーにアドバンテージがある。このスピーカーは、その最たるもののひとつといえるだろう。

あとは意匠の好みくらいしか選定要素が無くなってくる
小型2ウェイの音で、これ以上なにを望むんだい? と問われている気がする。
 
終。