パイオニアのブックシェルフ型スピーカー「S-CN301-LR」を入手し、音を聴いてみたり分解してみたりした。その所感。
小型シンプル2WAY
インターネット上の情報ではやけに評判が良く、以前より気になっていたスピーカーシステム。
このたび中古で購入。この記事が上がる時点ではすでに生産を終了しているけれど、2012年に登場した比較的新しい製品である。
横幅135mmの省スペース設計。ただし1本あたりの重量が3kg弱あり、手で持ち運ぶと身の詰まった感じがわかる。なにやらタダモノではなさそうな「それっぽさ」がある。
外観
エンクロージャーは直線が主体の直方体で、なんの変哲もない、いかにもスピーカーといった風体である。
前面バッフルのみ黒。それ以外の面ではわずかに緑がかったブラウン系の色味。
やや前方に窄められた前面バッフルは、手触りは樹脂っぽいけれど、おそらく塗装されたMDFだろう。ケンウッドの「LS-300G」に似た、サラサラした風合い。
ただ、ユニークなのがそれ以外の仕上げである。木目調のPVCシートだろうと思っていたけど、よく見ると縞模様を形成しているのがわかる。これ、メーカーいわく天然木らしい。
自然に形成された柾目や板目ではなく、非常に細かくかつ等間隔で積層造形されたようなピンストライプとなっており、その上に5分つや程度の上塗りが施されている格好だ。
天然木を規則的に貼り合わせて塗装する新しい製法にしたことで、エンクロージャーとして採用できる木材の幅が広がり、従来のように多くの木を伐採する必要が無くなるなど、環境にも配慮した製品です。
メーカーのこの文言から想像するに、おそらく従来は突板に採用されないような品種だったり質の低い材木なども一緒くたに練りこんで、合板としたのちに薄くシート状に成形したものなのだろうと思う。
これだと、突板仕上げにおいて発生し得る、色味や杢目の流れ具合のバラツキを軽減できそうだ。品質管理上は天然木そのままより有利かもしれない。技術の進歩が実現させた新製法といったところか。
これはこれでアリだと思うけど、「リアルウッド仕上げ」と称しているのにはちょっとモヤっとするところが無くもない。
背面には、バスレフポートとバナナプラグ対応のバインディングポストがある。
バスレフポートは、開口部がフレア状となっている。
これは外側だけでなく、内部の開口まで同様となっているらしい。なお、ダクト部は紙製。
コネクター部は、汎用的な樹脂製のボックス型ユニットを設けず、ポストを筐体直付け。
バナナプラグを利用するには、ポストにある樹脂製のブッシングを取り除く必要があるのだけど、これがけっこうしっかり嵌っていて、外しづらかったりする。
前面に戻って、各ドライバーユニット。10cmコーン型ウーファーと2cmソフトドーム型ツイーター。
ツイーターは、ポリエステル繊維っぽい透明の樹脂製シートの振動板。
エッジはラバー製。少しブルームが見られる。
エッジ自体は割と柔らかいものの、振動板を押してみてもそこまでダンプしない。
音
出音を聴いてみる。
アンプはいつものヤマハAVレシーバー「RX-S602」。パソコンからの出力を「DIRECT」設定で再生。インシュレーターは黒檀サイコロ三点支持。
まず感じたのが、能率の低さ。いつもよりボリュームを上げる必要がある。
その上で、音のバランスとしてはドンシャリ気味。音域的な意味でのレンジ感は広く、とりわけ低域方向のエネルギー感は小型ながら頑張っているなという印象を受ける。ただし、再現性はサイズなり。
高音域は、金属系の表現が上手で、程よい煌びやかさがある。ドラムセットのシンバル系のザクザク感や鉄琴の単音の余韻など、潰れることなく聴こえてくる。
対して、中音はドライに鳴らす。これは女性ボーカルが顕著で、伸びやかではあるもののやや薄味に聴こえる。男性ボーカルではそういった雰囲気は薄れる。
音自体はクリアであるものの、見通しはそれほどでもない。音場は、横方向の広がりはそこそこある。ただ、パースペクティブはあまり感じない。空間表現がややあいまいに聴こえることがある。
全体的には、淡々と鳴らす印象だ。一言で表すなら"クール&スムース"。また、寒色ゆえ曲調を選ぶ傾向があるように思う。
取り立てて致命的な弱点は無いものの、得意とするものはと訊かれると返答しづらい。リスニング中終始頭に浮かぶのは「無難」の文字。だけど、特筆するならば、それが長所。ちゃんと現代機らしくハイファイだし、違和感なく安定した鳴りかたをしてくれる。
個人的には、中音にもう少しヌケ感があるほうが好み。アンプとの相性もあるかもしれないけど、多少ナローレンジになってもいいから能率感も欲しい。
周波数特性を見てみる。
聴感と一致する。
ただ、こうしてみると、やはり中音域を持ち上げたくなってくる。
分解
本機は現状なにかが故障しているわけではないので、中身の確認はサラリと済ませることにする。
ウーファー
取り外せそうなものは、ウーファーユニットのフランジ部にある六角穴のネジ頭のみに見える。
とりあえずそれらを取り除いてみるも、ユニットはバッフルに吸着しているかのようになかなか外れてくれない。
フランジ部を指先でひたすら押し、付いているであろうパッキンシートをユニット越しに揉み解すようにして、ようやっと外すことに成功。
バッフル
ツイーター側は、バッフル面にネジが見当たらない。ネジが隠れているであろう樹脂製の反射板は接着剤固定かと思い、ウーファーと同じようにしてみるもビクともしない。
試しにバッフルのウーファー孔から筐体内部に手を突っ込んでみると、ツイーターのある位置にネジ頭が4つあることが判る。ということは、バッフルを筐体に固定するより前の段階でドライバーユニットをバッフルに固定したのか?
よく見ると、前面ネットを固定する金属製のダボは、六角柱っぽい形状をしている。
六角のソケットドライバーで回したいところだけど、ちょうど手持ちに合うものが無く、100均ショップで手に入れた小型モンキーレンチをあてがう。
前面バッフルは外せるだろうと踏んで作業しているけど、接着剤を併用している場合は作業が手間なので、ここで諦めるつもり。
バッフルに傷をつけないよう、ウーファー孔の内側のキワからマイナスドライバーを挿し入れて、ゆっくり持ち上げる。
幸い、接着剤は使われておらず、綺麗に取り外せた。
ウーファーと同じように、バッフルとの接合部に空気漏れ防止としてパッキンがグルリと貼られているのみ。
バッフルは、やはりMDF製。厚みは21mmで、ザグリ加工されて薄くなっている部分でも13mmある。体積からして必要十分といったところ。
ちなみに、そのほかの面については12mm厚のMDFで構成されている。
ツイーター
さて、ツイーターの周辺部は、指先の触覚で感じ取れた4つのネジ頭のほかに、タッピングネジの先端のようなものも3か所あるのが確認できる。
4つのネジは、前面の反射板を固定しているものだろう。どうりで表面から外れないわけである。
あとは、表出した3つの皿ネジを取り除けば、ツイーターユニットは晴れてバッフルから分離できる。
メンブレンの固定も4つのネジが使われているけど、ここは接着剤も併用されている模様。今回は用事が無いので分解はせず、ここまでとする。
エンクロージャー
エンクロージャー側を見ていく。
前面バッフルをダボ付きのネジで固定するためのMDFが、前面側に接着されている。しかもただ接着しているわけではなく、筐体側に溝を設けて、そこに引っ掛けるようにして嵌るようになっている。棒状のMDF自体も、ウーファーユニットを逃げるような加工が施されていたりする。
それなりに厚いバッフルをネジで堅牢に固定しようとすれば、たしかに必要な措置であることはわかる。それでも、ちゃんとコストをかけて設計しているのは好印象。
背面のバインディングポストには、ネットワーク基板から伸びる配線を丸形端子で処理して、ナット留め。ケーブルは16AWGの一般的なダブルコード。
いったんポストを筐体側にナットで固定して、その上から丸型端子を被せて固定している。
ディバイディングネットワーク
ディバイディングネットワークの基板は、樹脂製のスペーサー付きで、背面側にタッピングネジで固定されている。基板のはんだ面には、薄手のフォームシートが貼られている。
回路は12dB/octを基本とするシンプルな構成。
ただし、ツイーター直列の2.7μFのフィルムコンデンサーには、「+custom tuned」の文字がある。
パイオニア特注仕様ということか。スピーカーのフィルターに使われるコンデンサーについて、古いオーディオ雑誌には、箔の巻きかたや巻く硬さによって音が変わるのは常識、みたいに書かれているけど、ここではどんな調整が入っているのかは当然わからない。
コイルはすべて空芯コイル。
ウーファー直列側についても、直流抵抗値の低減で有利な有芯コイルとせずあえて空芯としているのは、なにか理由がありそう。そのあたりを考慮してか、導線が太めのものが採用されている。
固定抵抗器は、いずれもセメントの無いセラミック製のケースを架台として用いて、自身を浮かせるようにしているのが特徴的。なるべく基板と距離をとることで、放熱の効率を上げようとしているのだろうか。
整備
今回は、今すぐ整備しなければならないような故障は無い。コンデンサーも規定値内であることを確認している。
よって、一応、内部配線をOFCケーブルに引き換えるものの、ほぼ原状で組み直すことになる。
ウーファーユニットの取り外しは、先ではうまくいったものの、もういっぽうはいつまで経っても外れる気配が無く、結局前面バッフルの取り外しを先に行うこととなった。
エンクロージャーに傷がつくのがイヤでウーファーから外すようにしていたのだけど、ウーファーよりもバッフルを慎重に取り外すほうが、じつは容易で短時間で済ませられることが判明。というか、本来はこの順序が正攻法であるようにも思う。
今回用意する新しいケーブルは、SharkWireの「SNZ1.5」。
SharkWire製でよく使用するのは、ワンサイズ下の「SNZ1.0」なのだけど、既存のケーブルが16AWGで、それに合うように基板のホールがある程度大きく設けられているので、16AWG相当のこのケーブルでも支障は無い。
まとめ
コストパフォーマンスが高いな、という印象を持った。
ヤマハの現行機を見たときにも思ったことだけど、現代のスピーカーはエントリークラスでも製品としてだいぶしっかりした造りをしていて、音も申し分ないものになっている。技術面で成熟して、コスト投入の取捨選択が煮詰まっているからで、このスピーカーもそれを体現している一角だった。
とりわけこのモデルは、拘る要素のチョイスが絶妙だな、と思った。そこはオーディオメーカーなので言を俟たないわけだけど、素人から見ても「これ知ってる人が作ってるよね」と見て取れる設計をしている。そして、これを税込3万円台の末端価格に落としこもうというのだから、敬服の念を抱かずにはいられない。
終。