オンキヨーのスピーカー「D-102ACM」のジャンク品が手元に届いた。諸々直して音が出るようにしてみた。その所感。

02Aシリーズの最小モデル
鳴動未確認でジャンク品として某フリマサイトに出品されていたスピーカー。オンキヨーの「D-102ACM」。

ウーファーのエッジが破れていたり、ツイーターのドームが潰れていたりと、外観の状態が良くないということで格安であった。

ちょうど2年前、「D-102AXLTD」という後継のスピーカーを整備したことがある。
コストをかけた凝った構造の代物で、その印象が残っていたので同シリーズのこのスピーカーはどんなもんだろうかと、手が伸びたのだった。


オンキヨーのスピーカーのエポックメイキングだと個人的に思っている「02A」シリーズに、小型版があるのは前から知っていた。ただ、それは「D-102ACompact」で、今回手に入れたものもそれだろうと勘違いしていたのだけど、入手後に別物であることを知った。このD-102ACMはD-102ACompactの後継機にあたるらしい。
それにつけても、このあたりがややこしくて自分にはさっぱり。各々なにが異なるのかもあまり知らない。102Aを名乗るシステムは手に入れたことがほとんど無いので、そのうち縁があればほかの機種も手に入れて違いを確認してみたい。
外観
小型であるのはバッフルを正面から見たときの印象であって、奥行き方向に伸びているエンクロージャーなので、設置面積はそれなりに必要だったりする。


エンクロージャーの仕上げは、背面を除き木目調のPVCシートとなっている。

あと、これも手元に届いてから気づいたのだけど、このスピーカーはバスレフポートがフロントのほかにリアにも設けられている。


ポートが二連だったりするのはほかにもあるけど、前後にひとつずつ設けられているのは初めて見る。
ポートの直径は、前面が33mmで背面が48mm。ダクト長は前面側が約55mmなのに対し、背面側は200mm超。筐体の体積にしては背面側のダクトはかなり大きいものが採用されている印象。
ただ、自分の経験上、ダクトをふたつにすると単発の場合よりも共振周波数が上がる傾向にあるので、この特徴的な見てくれほど下方向のレンジ感は無いのかもしれない。
そしてこのふたつのダクト、内部にフォーム材のようなものをグルリと一周貼りつけられているのがユニーク。ビニールのような触覚で、少し弾力がある。

背面の長大なダクトには、中間付近にのみ貼られている。
フェルトを用いるのはたまに見かけるけど、この素材も見るのは初めて。けっこう手間だと思うのだけど、どういったチューンなのだろうか。
ウーファーの朽ちているエッジは、薄いゴム製のようだ。当然、このまま音を出せないので、あとで新しいものを張る。

ツイーターはソフトドームで、化繊シートのようだ。表面にはなにかが塗ってあるようにも見える。

内部
表層もあまり綺麗とはいい難い状態のため、さっさと修理してしまうことにする。
ケーブル
各ドライバーユニット本体は、前面のネジを外すだけで比較的簡単にバッフルから離れてくれる。

内部で使われているケーブルが一種類のみのようで、すべて同じ色のダブルコードとなっており見分けがつきにくい。一応、青いテープが貼ってあるのがウーファーで、ツイーターには赤いテープが貼ってあり、それらが目印にはなる。

筐体内部
内部の吸音材は、天然のウールのようだ。極少量で、ウーファーのマグネット周りと、ツイーターの真後ろに少量天面から吊るされるようなかたちで固定されているのみ。
しかしこのウール、かつては虫の苗床だったようで、ちょっと素手では触りたくない惨状である。手袋をして引きちぎる。
ツイーターユニットを外すと、背面のダクトがツイーターのマグネットギリギリまで伸びていることがわかる。


前面のダクトの開口とかなり近い位置にあるけど、バスレフの機能としてはこれでも問題ないのだろうか。
エンクロージャーの構成は、前面バッフルは21mm厚のMDF。それ以外の面は15.5mm厚のパーティクルボード。バッフルは中間部に補強材あり。

梁や裏当てなどの補強は無く箱鳴りが若干あるものの、それなりの剛性を持たせている設計。小型なのに立派なものだ。
ネットワーク基板
ディバイディングネットワークの基板が、底面の背面側にある。以前見たD-102AXLTDのような、高音域と低音域でそれぞれ専用の基板を設けて別々の位置に固定する方法は採られておらず、一般的なレイアウトである。

このあたりは小型のスピーカーであれば致しかたないのかな、とは思うものの、回路構成はたいしたことないので、やろうと思えばできそうではある。コスト面で採用を見送ったのだろう。
基板は、オンキヨーのスピーカーでよく見るナイロン製のスタッド3点で固定されている。しかし、そのうちの一か所はロックが外れ、基板が宙に浮いている状態となっている。

これ、もうひとつのほうのスピーカーでも同じような状態であった。おそらくこのスピーカーは横向きに置かれていた時間が長かったのだろう。自重で自然と外れてしまったようだ。これも省力化の一環なのだろうけど、堅牢にするにはやはりネジ留めするに越したことはない。



ツイーター用HPFにはフィルムコンデンサーが採用されている。メーカーは不明。ウーファーのLPF用に搭載されたアキシャルの大きな電解コンデンサーは、東信工業製のようだ。メタリックなブルーのシースだから、てっきりELYTONEかと思ったら違った。

コイルはすべて有芯。

ドライバー類
ウーファーユニットは、いたって凡庸。



スピーカー本体の質量がけっこうあるので、以前上位機種「D-202ALTD」で見たような鉛の重石を背負っているのかと期待したけど、そんなことはなかった。
4本ある金属製のアングルのうち二つに、ゴム系のシートが貼りつけられている。
こういった細かな施工はオンキヨーらしい

振動板のコーンは紙製のようだ。エッジのほとんどない状態でも、振動板のストロークはけっこう重め。エッジが薄いのはバランスをとって軽量にするためのチョイスだったのだろうか。

ツイーターは、前面プレートとメンブレンの接合部以外に接着剤をほぼ使用されておらず、分離はネジを外すだけで容易に行える。




コイルの径は小さいけど、フェライトマグネットはそれなりの大きさのものが使われている。

ドームの内側、センターポール部には窪みがあり、内側にグラスウールが少量詰められている。ギャップに磁性流体は使われていない。

整備
ドーム内吸音材の追加
とりあえずこの段階で、吸音材の追加を済ませる。柔らかめのニードルフェルトを、グラスウールの上から押しこんでおく。

ウーファーエッジの張替え
続いてウーファーのエッジ。
古いエッジはコーンの外周部が綺麗に剥がせるか心配だったけれど、コーンの表層に施されたコーティングが接着面の部分のみ持っていかれるだけで済みそうだと踏んで、そうなるように慎重に除去。



エッジの最外周、フレームのフランジ側は、紙製のベースがある。モノによっては残して再利用することもあるけど、今回はこれもすべて撤去。シンナーを少量含ませて削り落とす。


新しいエッジは、クロス製とする。今回手に入れたのは某オークションサイトで出品されている手作りのものだけど、このスピーカー用ではない。サイズが合いそうなものをチョイスした。

安価で流通している汎用品のラバー製だと、このウーファーの動作には重すぎるような気がしたので避けたかった。
接着剤は例によって「B7000」。
コーン外周に接着剤を塗り、その上に乗せるようにエッジの"耳"を貼り合わせる。そのあと、同じことをフランジ側にも行う。
エッジの張替えについては、最近なぜかコーンの表層側にエッジを貼るスピーカーを預かることが多いため、作業も手慣れたものである。

エンクロージャー内吸音材の追加
下ごしらえ
エンクロージャー内部に新しい吸音材を追加する前に、筐体内の整備をしておく。
既存のナイロン製スタッドを引き抜く。基板と底面のあいだに挟まるように設けられた薄いフェルトも撤去。


このペアの片方は、背面側の大きなダクトがなぜか斜めに固定されている。紙製のダクトが、背面の板にキッチリ挿しこまれていないようだ。接着剤が硬化する前に動いてしまったのだろう。

ダクトの生え際にシンナーを含ませてグラグラさせていると、わりと簡単に外れる。

ダクトに2液性エポキシ接着剤を塗り、再度板に挿し入れて固定。

吸音材配置
新しい吸音材は、グラスウールのシートとする。

天面と両側面に接着。

底面についてはネットワーク回路が置かれる都合で、作業の終盤、ウーファーユニットをバッフルにネジ留めする直前に固定する。
ディバイディングネットワークの刷新
そのディバイディングネットワークは、今回は音を出すことが目的なので調整をしないことと、回路自体がシンプルなので、新たに組み直すことにする。

ツイーター並列のコイルのみ既存を流用し、残りは別途用意。フィルムコンデンサーはパナソニック製と東信工業製を組み合わせて、オリジナルと同じくらいの静電容量を構成する。ウーファー並列の両極性電解コンデンサーはエルナー製。
8cm角のMDFの上に各パーツを固定する。


そのMDFは、エンクロージャー内の既存の基板があった位置に固定するのだけど、良い固定方法が思いつかなかったので、2液性エポキシ接着剤と釘で適当に固定する。



ポストのケーブル接続
背面のコネクターユニットへの配線は、すべて丸形端子。


音
ざっと整備を終えたので、音を出してみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。

中音が密で、意外と低重心だな、というのが第一印象。
バスレフポートが前後にあるとどんな感じになるのか、スカスカなんじゃないかと気掛かりだったのだけど、意外としっかり効いている。低い音に厚みがあるというよりも、共鳴しているような不思議な質感で、独特の深みがある。音域的にはやはりそこまで低い音は出ていないようでいて、鳴らせる範囲の量感はしっかり確保されており、音全体を包むような空気感と凄みがある。反面、アタック感は弱い感じ。
お見逸れしました。
中音は密度と自然なエネルギー感を伴うオンキヨーらしいもの。低音域と相まってリッチな雰囲気とメリハリのある音は、このスピーカーの味なのだろうな。
高音は、伸びは良いもののやや軽い感じがある。もう少しニュアンスを引き立てる輪郭が欲しい。ソフトドームらしい音といえばそうだけど、これが後年のモデルに搭載されるリング型ツイーターの開発に繋がるのかな、という妄想も膨らむ。
音場は広めで、パースペクティブもそこそこある。細かく分析するのは苦手だけど、ソースを楽しく聴かせる能力に長けていると思う。
まとめ
オンキヨーのスピーカーについては、やっぱり近代の製品よりもこの時代の音のほうが自分は好みなんだな、というのを再認識した。

聞き慣れているというのもあるとは思うけれど、円形の断面の筒状のダクトを使った奇をてらわない筐体を堅固に作り上げるほうが、安心して聴けるのだった。

終。







