いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL L88M をメンテナンスする

JBLのユニークなデザインのブックシェルフスピーカー「L88M」を入手したので、メンテナンスしてみた。その所感。

セルフオマージュ

前面パネルのデザインが印象的なこのスピーカー。手元の資料によると、約半世紀前の1969年に発売された「L88 "Nova"」の小型復刻版らしい。

JBL L88M
リアルウッドの突板仕上げ。そこに大きな丸と四角のサランネットが大胆にあしらわれ、エンブレムが無ければスピーカーと認識されないような佇まい。

背面。ブラケットの取付け跡がある

エンブレム
L88Mは、2000年の発売。今だから「凝った意匠だな」で済ませられるけど、1970年前後の世に出されたのなら、相当インパクトのあるものだったのではないか。
 
しかし、このモダンな造形が仇となっている部分もある。
前面バッフルの縁が非常に薄くなっており、ちょっとぶつけるだけで表面の突板にクラックが入ってしまうようだ。

角をぶつけたらしく、綺麗に一筋クラックが
この部分は、前面パネルが付くと面一になる。インターネット上で見かける中古品では、この前面の突き出た部分が破損している出品物をよく見かける。

カッコいいけどね
硬い床面に落としでもすれば一発で粉砕だろう。
 

改修前の音

過去作をリスペクトしているとはいえ、背面のスピーカーターミナルは現代機らしくバナナプラグ対応なので、扱いやすい。
いつものヤマハのAVレシーバー「RX-S602」に繋いで音を出してみる。
傾向としては、中低音重視の暗めの音。その意味では、JBLらしくないともいえる。
中高音が奥のほうで鳴っている。音場は平均的で、定位もやや不明瞭。物足りなさを感じる。元のL88の音を聴いたことがないので何とも言えないけど、これも当時の音の再現なのだろうか。
小編成のクラシックや、ダークな雰囲気のジャズなどを、艶っぽく聴かせてくれる。得意分野の限られるスピーカーのようだ。これはこれで良い。
 
このスピーカーは、ツイーターとバスレフの位置が左右で逆。聴き比べたところ、ツイーターが内側に来る配置のほうが音にまとまりがある。
 
フロントバスレフで、けっこう低い音を出している。バスレフ特有の低音が膨らむような感じはほとんどなく、個人的には好み。
 
周波数特性を見ると、見事に右肩下がり。聴感と一致する波形だ。

入手時の周波数特性
 

分解

中身を見ていく。
前面ネジ、背面のネジ共に、PH2のクロスヘッド。工具はプラスドライバー一本で済む。

ウーファー。繋がれているケーブル径は細め

背面。ネットワーク基板はない
吸音材は、前面以外を薄い化繊ウールシートで覆っている。

俯瞰
低音が締まって聴こえるのは、これらの影響かもしれない。
 
クロスオーバーネットワークの構造は非常にシンプルで、銅箔の基板すら用意されていない。
コンデンサーとコイルをひとつずつ、スピーカーターミナルユニットの裏面に接着剤で固定しているだけだ。

パーツのメーカーはいずれも不明

ネットワーク回路(既存)
このへんの「意図的なのか手抜きなのかわからない」感じはいかにもJBLだなと思いつつ、コンデンサーにフィルムコンデンサーがあてがわれているあたり、一応音質に気を掛けているのはわかる。

ELYTONEか……
 

整備

今回、ネットワークの改修を施すにあたり、ウーファーのフィルターの掛け方を迷った。
中音域を持ち上げたい。これを自分のセオリー通りやるなら、新たにコンデンサーを設けて12dB/oct化するところ。ただ、今回はなんとなく、フルレンジ化してみたくもあった。

ウーファー。ホワイトコーンは黄ばんでいる
結果、コイルを撤去してフルレンジ化することにした。
対して、ツイーターのほうは、18dn/octに強めてみる。フルレンジ化したウーファーの特性を邪魔しないための措置だ。
クロスオーバー周波数は、オリジナルと同一の7kHzとする。

ツイーター。メーカーお得意のチタンドーム

ネットワーク回路(改修後)
パーツは新たに設けるベースに固定する。
パーツ点数が少ないため、ベースの面積は名刺サイズで済む。MDFを切り出して、そこにパーツを固定。

これだけ
コンデンサーはすべてパナソニック製のPETフィルムコンデンサーとする。ツイーターに並列させるコイルは、ウーファーに使われていた空芯コイルをそのまま流用。
パーツを固定したら、ほかの既製品でよく見かけるような、スピーカーターミナルユニットのスタッドにネジ留めする手法で、ネットワーク回路を筐体に収める。

ネジはM3相当のタッピングネジ
スピーカーターミナルは、ポストが汚れていたので、同形のものに丸々交換する。
 
吸音材は弄らずそのまま。
 
エンクロージャーは、せっかくリアルウッドなので、オイル仕上げにしてみる。
いつものように、ワトコオイルナチュラルを使用。

前面、パネルも含め、木部にはすべてオイルを塗る
ただし、筐体表面に目立つ傷が見当たらないので、研磨は最小限に留める。
  • 1000番相当のスポンジやすりでオイル研ぎ
  • 2000番相当のスポンジやすりでオイル研ぎ
  • 3000番相当の紙やすりで空研ぎ
刷毛は使用せず、ウエスにオイルを浸み込ませて薄く撫でていく。

やはりオイル仕上げは綺麗だな
 

改修後の音

整備を終えた後の音は、周波数特性を測定するまでもなく、中音域の輪郭がハッキリしているのがわかる。こちらのほうがバランスとしては聴きやすいだろうと思う。

改修後の姿
フィルターを強めたツイーターも、自然に高音を添えている。
6dB/octから18dB/octに変更する改修は、今回が初めてだったけれど、違和感ない結果となって一安心。もともと能率があまり高くないユニットだったから、特性の変化も小さかったのかもしれない。

改修後の周波数特性を併記
 

まとめ

全体の雰囲気が暗めなので曲調を選ぶだろうけど、それでも整備により聴けるジャンルが広がった。
同様の結果を得たいなら、ツイーターは弄らず、単純にウーファー側のコイルをスルーさせるだけでも十分だろう。

横置きもサマになる
お手軽な改修で高音質化を図れる機種だと思う。
 
終。
 

(写真資料)