パイオニアの変則的なスピーカー「S-J7-Q」を入手したので、整備してみる。
2ウェイ3スピーカー
この製品は、1989年に登場したコンポーネントシステム「IMPRESSO」のスピーカー部として発売されたもの。
コンポといっても、見た目は単品機器と見分けがつかない、いわゆる「高級コンポ」「ハイコンポ」の類である。オーディオブームが斜陽となった当時、各メーカーがこぞって開発したシステムで、これはパイオニアから登場したもののひとつにあたる。
ブックシェルフスピーカーにあたるけど、妙に背が高い。40cm弱ある。トールボーイ型スピーカーの腰あたりをぶった切ったような全高の高さである。
いわゆる2ウェイ3スピーカーと呼ばれる形態だ。
低音域を補完する意図があるのだろうけど、前面ではなく背面に取り付けたのはどういう理由なのだろうか。全高が高いので、前面に二つ取り付けてツインドライブとすることもできるように思うけど。
音
背面のウーファーに耳を近づけて聴いてみると、中音域がほぼ聴こえず、低音のみに絞り込んで鳴動していることがわかる。
今度は通常通り前面から聴いてみる。たしかに低音がよく聴こえてくるけど、量が増したというよりは指向性が無くなったと表現するほうが合う気がする。定位が曖昧で、飽和感がある。ただし、ボワボワするわけではない。独特で好みが分かれそうな音だ。
それよりも、特筆すべきはツイーターである。金属製のドーム型だろうか、これが自然で、低音域に埋もれることなくしっかり耳に残る中高音を醸す。金属臭さもほとんど無い。
全体のバランスとしてはドンシャリっぽい感じだけど、マイクで拾った周波数特性を確認すると、ややカマボコっぽいフラットであることがわかる。
ここは、聴感と齟齬がある。設置環境に影響されやすいのかもしれない。
音場は、低音域のみがやや広めで、そのほかは標準的。尖った部分が無く、聴きやすい音だ。
分解
内部を見てみる。
このスピーカーのエンクロージャーは、背面が開くようになっている構造である。
8点のネジで留まっており、それらをすべて外せば容易に内部にアクセスできる。
前面のウーファーは、筐体の中央部で太いボルト一本で固定されている。
ウーファー由来の振動を抑える目的らしいけど、どの程度効果があるのだろうか。
ウーファー本体を眺める。
フレームは、アルミダイキャスト。見るからに高剛性で、しっかりコストをかけている感が伝わる。
マグネットの大きさは標準的。キャンセルマグネットが実質的にウーファーの固定面となるけど、ボルトを締めあげた圧力で割れたりしないのだろうか。ちょっと気になる。
エッジはクロス製。内側から何か塗られているのがわかる。
ツイーターユニットは、独特の形状のつばが付いている。
こちらはウーファーと異なり、前面バッフルに内側から固定する。
背面を見ていく。
背面にあるのは天面側からバスレフポート、ウーファー、スピーカーターミナルユニットとなっている。
外すには前面の金属リングを外す必要がある。固定は両面テープなので、リングの縁を先端の細いもので慎重にほじるように持ち上げれば簡単に剥がれる。
グリルはユニットにブチルゴムのようなもので固定されいる。こちらもゆっくり持ち上げれば外れる。
こちらのウーファーは前面と比べるとグレードが下がっているようで、フレームは樹脂製、マグネットが若干小径で、固定も一般的なバッフル4点留め、エッジのコーティングもなされていない。
とはいえ、樹脂製フレームといえど剛性は高く造られており、歪んだりすることはない。このあたり、鋼板製でもペラペラで貧弱だったCLASSIC PROの「EX-10M」とは、えらい違い。
クロスオーバーネットワークは、スピーカー底部で組まれている。
紙製ベースに大きめのコアコイルが接着剤で固定されており、目を引く。
前面のメインとなるウーファーには2.7mHが、背面のウーファーには3.3mHが、それぞれあてがわれている。背面の低音域専用に3.3mHは理解できるけど、前面のウーファー用に関しては、だいぶ大きめのインダクタンスを採用している印象。
フィルターは12dB/octを基本とし、ツイーターのみアッテネーターを噛ましている。いずれも正相で接続。
整備
クロスオーバーネットワーク
ネットワークから整備していく。
2.7mHのコイルは大きすぎる気がするものの、今回はとりあえずオリジナルの設計を維持することとし、パーツ交換のみに留める。
紙製の基板は剥がすのが億劫だったので、上に乗っているパーツ類を撤去してから残置とする。
新しいネットワークの固定位置は底面ではなく、前面ウーファーの下部に変更する。固定の作業性と3ドライバー分のパーツを収められるスペースとなると、そこがベストと判断。
ベースとなるMDFは、そこに収まる最大の寸法で切り出す。
新たに用意したパーツは、コンデンサーと抵抗器。
コイル類は既存を再利用。ただし、ツイーター並列用のみ新しいものを用意する。測定値が0.1mHほど低かったため。
抵抗器は、同じ抵抗値のセメント製を購入。本当はオーディオ製品らしく無誘導巻の酸化金属皮膜抵抗にしたかったけど、搭載できるスペースが限られているため、今回は断念する。
固定は、四隅をタッピングネジで締める。前面バッフルはMDF製で、薄い部分でも1.8cm以上あるため、安心してネジをタップできる。
ウーファー
ウーファーは内外共にカビが発生しているため、洗浄しておく。
アルコール系洗剤と中性洗剤でビショビショにしたのち、エッジを中心に綿棒やウエスで擦って落とす。
漂白剤を使わずにカビを落とすのは時間がかかるけど、地道にやっていくしかない。
仕上げに、シリコンオイルを塗っておく。カビを落とした跡は完全には消えないため、それをオイルの含浸で誤魔化す意図もある。
前面のウーファーやツイーターは、金属フレームに薄く白錆があるため、可能な限り磨いておく。
この作業がとにかく手間。紙やすりではなく「ピカールネリ」であれば、仕上げの研磨が楽だったかもしれない。いい加減、入手しておきたいところ。
スピーカーターミナル
スピーカーターミナルを扱いやすいものに換装する。
既存のものは、接着剤で固定されている。内側からノックアウトする。
エンクロージャーの埋込孔は、直径50mm。汎用のユニットを購入し、ネジ留めすればいいだろうと思っていた。しかし、そのままあてがうとザグリの部分が若干はみ出て見えてしまうことが判明。
たまたま手元にあったエポキシ系のパテで、見える部分だけ塞ぐように盛っておくことで対処。
金属リングとグリル
ツイーターと背面ウーファーの金属リングは、接着剤で再度固定し直す。
ツイーターは元々接着剤で固定しているだけなので、同じ位置に塗り直す。
背面ウーファーは、樹脂製フレームに接着。
グリルは、シリコン系接着剤をマイクロアプリケーターでウーファー側の溝の中に押し込むように塗ってから、嵌める。
まとめ
とりあえず、一通り作業を終えて、外観はそれなりに綺麗になった。
今回はネットワークの回路設計をほとんど弄っていないため、改修前後で音の変化はほぼ無い。フィルムコンデンサーの搭載で、歪み感が減ったくらいか。
音の調整をするとしたら、前面ウーファーのコイルを2.7mHから1.8mHくらいまで落として、中音域を張り出させるような改修になる。しかし、オリジナルのままでも十分聴ける音だから、おそらくこのままにするだろう。
低音再生に特徴を持たせたのに高音が優秀という、ちょっと不憫な感じもする本製品。とはいえ、国産のスピーカーの造りの良さが残っている優秀なスピーカーだと思う。
終。