いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

SONY CFD-5 のスピーカーを鳴らしてみる

平面型スピーカーを搭載した、ソニーの型番不明の小型スピーカーを入手した。イコライジングを施して音を是正してみたりした。その所感。

 

正体は?

ソニーの古いスピーカーを、某大手ECサイトで手に入れた。前々から欲しかったものではなく、ヴィンテージらしい角張った意匠が好みで気になったものだ。

SONY 型番不明
ただ、パッシブスピーカーっぽいことは予想できても、外装に品番らしきものが見当たらない。前面に「SONY」と「APM」のロゴがあるので、「まあソニー製のスピーカーなんだろう」程度の軽い気持ちで購入。
販売側も、古いものであること以外の情報が無く、正体をつかめていないようであった。

ちゃんと音出るんかな?
平面型振動板が見えるのと、どちらかというとカジュアル寄りの雰囲気なので、以前整備したことのある「SS-X300」と近い年代のものだろうと予想。アタリをつけてインターネットに画像検索でお尋ねすると、割とすんなり当該品を見つけることができた。
1985年に登場した、いわゆる「CDラジカセ」である「CFD-5」という製品のスピーカー部であることがわかる。
CFD-5は、コンシューマー向けに開発されたCDラジカセ第一号機だという。CD自体が登場して間もないころ、普及を目論むソニーが技術の粋を集めてハードの小型化を進め、従来のラジカセにCDプレイヤーを積載させた、当時としては画期的なものだったらしい。
国外にも輸出されていて、CDというソフトのカジュアル化に大いに貢献したようだ。軽い気持ちで入手したスピーカーだけど、じつはオーディオの歴史的に重要な位置にある代物だった。
 
当時のラジカセは、上位機種になるとスピーカー部をアンプ部から独立できる構造にするのが流行で、現代の感覚としてはミニコンポの趣である。今回入手した製品のようにスピーカーに品番の類が無いのは、ラジカセの付属品の体だからだろう。
たとえアンプやプレイヤー側が故障したとしても、セパレートタイプであったからこそ、スピーカーだけは製造から40年近く経っていてもこうして現存することができたわけだ。
 

外観

小型ながら2ウェイ2スピーカーで、スリット型のフロントバスレフポートまで備えている。といっても、ラジカセはラジカセ。エンクロージャーはオール樹脂製で、質感としてはオモチャみたいにチープ。

相応にくたびれている

バスレフポート
外形寸法は幅120mm、高さ200mm、奥行き180mm程度。突起部を含めるともう少しある。
筐体の側面は左右対称ではなく、片方はフラットでシボ加工が成され、もう片側にはスペーサーのような凹凸が施されている。

側面
また、背面にはおそらくアンプ側にドッキングするために必要になると思われるギミックがある。

背面

「LOCK」とあるけど、どうやって固定するのかわからない
アンプ側と一体となったさいに余剰となるケーブルを巻きつけておけるホルダーが用意させているのも、セパレートタイプならでは。

使うかどうかはさておき……
当時のソニーが推していた、特徴的な平面型振動板をウーファーに搭載したものとなっている。
銀色の表面に薄っすらと六角形が並んでいるのが見えるので、おそらくSS-X300と同じくアルミのハニカム構造なのだろう。
その上部にあるツイーターは平面型ではなく、一般的な円形のコーン型振動板のようだ。

ツイーター正面
ここも平面型振動板にしてほしいところだけど、コストの兼ね合いで汎用的なものにしているのだろう。正方形のイコライザーが、なんとなくコーンの円形を隠して誤魔化しているように見えなくもない。
 

改修前の音

音を出してみる。いつも使っているヤマハのAVレシーバーが都合により使えないため、アンプはサブ機のTEACの「A-H01」とする。
かなり高音に寄ったバランスである。
SS-X300でもそうだったのだけど、当時の新技術であるCDのHiFiな音を際立たせたかったのか、このころのソニーのエントリークラスのスピーカーはやたら高音域を強調させるきらいがある。このスピーカーも、SS-X300ほど聴きづらいものではないにしろ傾向は同じである。
 
音自体は元気で、能率感がある。ソースによっては若干ひずむ感じがあるものの、基本的にはクリアで見通しが良く、音を細かく分解してくる鳴らしかた。古いスピーカーにありがちな"どん詰まり感"みたいなものがほぼ無い。
言ってみれば現代的な雰囲気があり、現行機に引けを取らない。このあたりはさすがソニーだなという印象。
 
低音は、最低音が高めであるものの量感があり、サイズを鑑みれば十分である。バスレフが上手いこと働いているようだ。箱鳴りするのは、軽量な樹脂製エンクロージャーでは致しかたないところだろう。
 
ラジカセといえど、当時の定価で10万円以上した高級機のスピーカーとあって、相応の音を醸してくれる。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性
およそ聴感と一致する。高音域の大きく上下する稜線を見るに、おそらくウーファーはフィルターレスのフルレンジ動作だろう。
 

分解

中身を見てみる。
 

バッフル

前面のバッフルプレートは、六角穴のタッピングネジ。Bタイプのように先端が平らだけど、ピッチが広めなのでPタイプかな?

ネジの頭が妙に大きい
ただし、前面バッフルが分離できるので、このネジはこの段階で外す必要はない。
前面バッフルとキャビネット部は4点のネジで緊結されている。背面から長尺のPH2ドライバーでネジにアクセスする。

こちらはBタイプか?
バッフル自体は簡単に外れるけれど、ケーブルの接続がすべてはんだ付けであり、はんだを溶かすかケーブルを切除しないと筐体から完全に分離できない。

フィルターはこれだけ

ネクター部もはんだ付け

ケーブルを切断するほうが容易
ツイーターユニットはバッフルプレートとは別のネジで固定。ウーファーユニットはバッフルプレートと共通のネジで固定されている。

前面バッフル
化粧を兼ねた矩形のバッフルプレートは、ドライバーユニットごとに独立しているダブルバッフル仕様。ヘアライン加工が施された金属っぽい見た目だけど、じつはすべて樹脂製。

ツイーター側の裏面
パンチングメタルのグリルネットは金属製。ただし、ウーファー側はプレートに両面テープで固定されているのみとなっており、テープが劣化してほぼ外れかかっている状態。

黄色いものがテープ。パリパリになっている
バスレフダクトの上部、ウーファーユニットとの間の空間に、フォームシートが貼られている。

ダクトの制振用だろうか
よく使われるゴムシートではなく、ポリオレフィン系フォームのようだ。このような使われかたはめずらしい気がする。
そのダクトの開口部には、目が粗めのガーゼのようなもので覆われている。

意外と手間をかけているな
 

エンクロージャ

エンクロージャー側は、内部にリブの走った合成樹脂製。おそらくはABSだろう。

俯瞰
両サイドを棒状の金属材が渡っている。

空間のちょうど真ん中を突っ切るかたち
これは補強のためのようだけど、両端部の固定はふたつのリブに行われているため、あまり用を成していないように見える。現に側面を外から押しこむと、けっこうたわむ。
吸音材として、柔らかめのニードルフェルトが背面側を覆っている。

吸音材を外した状態
 

ウーファー

正方形のウーファードライバーユニットは、77平方cmのアルミハニカム平面型振動板を携えた独特なもの。

平面型振動板ウーファー
真ん中に貼られている矩形のプレートは、高音の共振の調整用だろうか。
エッジはクロス製。非常に綺麗な状態を保っている。前後のストロークも柔らかめ。

マグネットは一般的なもの
フレームは金属プレス製。ボビンと振動板を繋ぐコニカルコーンの部材も金属製で見た目は重々しいけれど、重量としては汎用的な同径のドライバーユニットと大差はない。

通気口
 

ツイーター

ツイーターは、5cm径の紙製コーン型振動板。

変色しているツイーター
特徴らしい特徴のないユニットだけど、こちらのコーンもしなやかにストロークする。けっこう下のほうまで鳴りそうだ。

マグネットもやや大きめ
 

コンデンサ

配線に使われているケーブルは、すべて24AWGと細め。背面のコネクターからウーファーまでフィルターレスで接続され、ウーファーの+側のタブからツイーターまでは3つのコンデンサーを直に渡らせる方法。

初見、目を疑った
静電容量はかなり大きめ。ニチコン「DB」は15μF、アキシャルリードのエルナ製が3.3μF、そしてメーカー不明のスチロールコンデンサー0.1μFの3つを併用させて、直列で18.4μFとしている。並列のコイルは無く、-6dB/octである。

ネットワーク回路
ツイーター直列でここまで大きいコンデンサーを用意しているのは初めて見る。しかもこの状態で、ウーファーはフルレンジ動作するのである。各ドライバーの能率がどうなっているのかわからないけれど、高音がバシバシ出てくるのも納得である。この設定であればむしろ、中音域がもっと出ていてもおかしくない気もする。
 

整備

あまり大げさに整備するつもりはなかったけれど、このスピーカーと対峙するのもおそらく今回が最初で最後だろうということで、ある程度綺麗に整えていくことにする。
 

塗装

パンチングメタルの塗装が少し剥げているので、錆を落としつつ塗装しておく。アクリルシリコンのツヤ有ブラック。
塗料が余るので、ついでにエンクロージャーも同じ色で塗装してしまうことにする。
塗装の前に、背面下部にある二つの"脚"を折っておく。

なんだろうこれ
このスピーカーの底面部には、前面にラバー製の脚がふたつあるものの、背面側にはなぜか樹脂製の突起のようなものが二か所に生えている構造になっている。安定しないため、別途インシュレーターを用意することを前提に、撤去してしまうことにする。
 
仕上げはツヤ有のクリア。

塗装後
これで多少の擦り傷は目立たなくなる。
 

グリルネットの固定

パンチングメタルは、オリジナルと同じように両面テープでバッフルプレートに固定したあと、接着剤を補助的に塗っておく。

適当に細く切り出した両面テープ
バッフルプレートも清掃してみるけれど、メタリックな塗装の劣化が進んでおり、表層の汚れを落としてもあまり綺麗な見た目にはならない。

まあいいか
 

インシュレーターの新設

エンクロージャーの塗料が乾いたら、底部の背面側にフェルト製のパッドを貼る。5mm厚の、やや厚めのものを用意。

3点支持が好みだけど、今回はとりあえず4点で
 

ディバイディングネットワークの調整

高音域をなんとかしたいので、ネットワーク回路にも手を加える。というか、作り直す。
オリジナルが不思議な定数をしているネットワークであるため、今回は周波数特性を確認しながら採用するフィルターを決定する。
ウーファー
まずはウーファー単独。

周波数特性(ウーファー単独)
妙にガチャガチャしている高音域を抑える方向とする。手元に0.33mHのコイルがあるのでそれを基準として、並列に挿しこむコンデンサーの容量を決定する。

イカット案(1kHz以上)
じつのところ、フルレンジスピーカーとして扱う場合は、コンデンサー無しの-6dB/octでも違和感なく聴けたりする。ただし今回は従前どおりツイーターを付加した2ウェイとするので、ある程度は高音を削ぎ落としたい。
上記の案では、3.3μFではまだ聴感上煩い。思い切って10μFとしてみると意外にもちょうどいい感じなので、それを採用する。
なお、もともと直列に付いていたニチコンの15μFを並列に用いてみたのは、テスト時では違和感があって止めたけれど、今となってはそれでもよかったかもしれないと思ったりもする。
ツイーター
次にツイーター。この扱いはウーファーよりも気を遣う。

周波数特性(ツイーター単独)
グラフのとおり、素の状態で1kHzくらいまでは余裕で鳴ってくれる。能率もウーファーとそれほど差がない。
この特性に合わせて再度ウーファー側のフィルターを調整するのも手だけど、あくまでも平面型振動板の音をメインとしたいので、ここはツイーターの受け持ち幅を狭めていくことにする。とはいえ、あまり極端に縮小してもオリジナルの雰囲気からかけ離れてしまう可能性が高くなるので、大きめの静電容量とする点に関しては変更が無いようにする。
手持ちのポリプロピレンフィルムコンデンサーに8.2μFがあるので、試しに採用。すると、静電容量が半分以下になっているにもかかわらず、十分広い帯域をカバーできることがわかる。

コンデンサー換装前後の比較
ここからさらにパーツを追加し-18dB/octとして、3kHzあたりから下をバッサリ落としてもいいけれど、あまりお金を掛けたくないので、今回はこの状態からアッテネーターを追加して能率調整を図ることにする。
クロスオーバー
最終的には、高音の雰囲気をそれなりに保ちつつ、特性的にフラットに近づける調整となった。

周波数特性(改修後)

ネットワーク回路(改修後)
ツイーターに並列で7.5Ωの固定抵抗器を追加。さらに、位相接続を反転するとちょうどよい塩梅になった。
ただこれも、-6dB/octに拘るならば4.7μFくらいまで絞ってしまっても問題なかったかもな、とも思う。
組み立て
当然ながらフィルター用のパーツを用意しなければならないわけだけど、このスピーカーの筐体内は先述のとおりリブだらけで、内壁に接着しようにもパーツをしっかりと固定できそうなスペースがどこにも存在しない。そこで今回は、既存の金属の桟に半ば無理やり括りつける方法を採り、それに見合うように組み立てていく。

ネットワークを構成するパーツたち
ベースとなるMDFは、長辺9cm、短辺4cmで切り出したもの。厚みは5.5mm。
この面積の半分は桟への固定に充てられ、残りの半分のスペースにパーツを固定することになる。かなりの狭小住宅となるけど、従来では片面しか使えなかったMDFが、今回は両面利用できるというイレギュラーな状況であるため、床面積としてはそれなりに確保できる。よって、ここまで小さくても問題とならない。

MDFの表と裏にパーツがある
すべて組みこんでみると、むしろスペースに余裕ができてしまい、そのぶんの余計な配線をしている。MDFはこの3分の2くらいの大きさでもOKだったようだ。
ちなみに、バッフルの着脱が容易になるように、ディバイディングネットワークと各ドライバーの間に接続点を設けている。
 
これをそのまま、桟に括りつけることになる。MDFにあらかじめ開けておいた孔に結束バンドを通して固定する。

空間の有効活用……
背面のコネクターまでの配線は、既存のニードルフェルトにハサミを入れて孔を開け、そこを貫通させるようにする。

今回、吸音材の配置は弄らない
あとは念のため、ショート防止として桟にゴムシートを貼っておく。これは、接続点として設けた平型端子との絶縁のほか、ケーブルのタッチノイズの軽減も狙っている。

ゴムシート、最近出番が多いな

一応、端子側にも熱収縮チューブを被せている
 

改修後の音

先述のとおり、ネットワーク回路の変更により整備後の音は「中音やや増幅、高音抑制」となり、中音がハッキリと聞こえてくるようになっている。いわゆる"ドンシャリ"の色味は薄まった。

ボーカルが一歩前に出てくる
小型スピーカーは中音域が聞こえてきてナンボみたいなところがあると思っているので、その再現に努め、結果意図したとおりの音になったことになる。
また、整備前よりもエネルギーがやや中心に寄っているような気がする。クロスオーバーをさらに詰めていけば、このあたりを分散させてより洗練させることもできるかもしれないけど、これはこれで良い。
 

まとめ

思わぬ掘り出し物だった。多少の調整は必要だけど、想像以上にしっかり聴けるスピーカーだ。

整備後の姿
音質面以外でも、このころのソニーのスピーカーは造りがていねいで良い。パーツの使いかたが堅実だし、意匠と機能性の融合の仕方も、国産スピーカーのなかでもトップクラスだ。当時から世界中にファンがいたのも頷ける。

安価な製品にこそ「世界のソニー」が際立つのかも
ソニー製のスピーカーをもっと聴いてみたくなった。
 
終。