いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Celestion Celestion3 をメンテナンスする

セレッションのブックシェルフ型スピーカー「Celestion3」を入手し、気になる点を補修して音を出してみた所感。

 

セレッションのセレッションシリーズ

久々の舶来品である。イギリスの老舗スピーカーメーカーのひとつ、セレッションのCelestion3というスピーカーシステム。

Celestion Celestion3 ブラック
現代ではギターアンプPA用のスピーカーのメーカーとして名を馳せるセレッションだけど、一昔前は2chステレオ用やいわゆるシアター向けのスピーカーも製造していた時期があった。古くからスピーカーシステムを開発、供給していた実績から、民生機でも音は折り紙付きというわけらしい。

前面ネット装着時
自分としては存在だけ知っていて、机上に置けそうな小型のシステムもラインナップにあるのでいつか音を聴いてみたいと思っていた。まずは有名どころの「SL-6」がいいかなと思っていたのだけど、すでにヴィンテージの域であってもいまだけっこうな金額で流通していて、ちょっと手を出しづらい。
 
いっぽう、このCelestion3は1989年に「Celestionシリーズ」第一号機として登場したもの。ペアでの販売であり、SLシリーズよりも廉価で手を出しやすい。日本のみならず世界的にも相当数売れたようで、現代でも比較的容易に、良心的な価格で手に入る。
"初めてのセレッション"ならこちらだろうということで、オーディオマニアからそれなりの状態のものを譲ってもらった。

ロゴ。「3」はなにを意味するのだろう
「CelestionのCelestionシリーズ」という呼称はわけがわからないのだけど、JBLにも「JBLシリーズ」があったことだし、まあ事情は知らないけれどそういうものなんだろう、程度の理解でいる。
 

外観

 

仕上げ

エンクロージャーはビニールの化粧シートでくるまれている。ブラウンの木目調のものもあるようだけど、今回手元にあるのはブラック。

背面と側面

天面
質感は価格なり。側面を叩くとポンポンと軽い音がする。けっこう箱鳴りするのかな?

横置きの状態
構成はシンプルで、密閉型の2ウェイシステム。されど、外見にはいくつか特徴的なギミックが見受けられる。
 

溝ゴム

まずは、前面バッフルの上下端にある、ネットを固定するためのC型の溝ゴム。

一瞬「なんだこれ」と思ってしまった
この溝に、ネット側のフレームにある4か所の突起を挿し入れて、咥えさせる感じで固定する。

ネットのフレームには、四隅にタブのようなものがある
この仕組みは初めて拝見。たいていは円柱型のダボとその穴で支持するけれど、あえてこのようにしているのは、ネットを外したさいの意匠面の都合だろうか。
このタブのような形状の突起は、円柱状のダボよりも折れにくい反面、溝ゴム自体は天面と底面の板材とバッフルのあいだに挟まっているだけなので、簡単に外れてしまう。

これは接着すればいいかな
 

イコライザー

次にツイーター。ドームの上を飛び越えるように、三つのアーチが渡っている。

ツイーター正面
これは独自のイコライザーらしい。ドームの一部をシールドするわけでもなく横方向に三本線だけ、というのも初めて見る。見た目はカッコいいけど、どんな効果があるのだろう。
 

小ネジの種類

おそらくマグネットとメンブレンを緊結しているであろう小ネジのひとつだけ、やたら発錆している。なんか妙だなと思いよく見てみると、このネジだけほかと種類が違うようだ。

頭が微妙に小さいし、十字の溝の形状も若干異なる
「こんなことある?」という感じだけど、過去にJBLでも似たようなことがあったし、欧米のメーカーのエントリークラスだと割とあることなのか? あまり自信はないけど錆びているネジもポジドライブっぽいから、前の所有者がこのネジだけ交換しているとは考えづらい。いや、あえてポジドライブのネジを取り寄せたのか?
 

ウーファーエッジ

気を取り直して。
ウーファーは、大きめにロールされたラバー製エッジに、ドットのエンボスが付いたペーパーコーンの組み合わせ。
エッジはかなり柔らかめ。コーン型振動板を押してみると、密閉型エンクロージャーでありながらけっこう容易に沈みこんでいく。

低音域が出やすい感じなのかな
 

ネクター

背面にあるコネクターユニットは埋込ボックス型。面積を広く取られていて、結線時は扱いやすい。
樹脂製のキャップのバインディングポストは、バナナプラグが挿さる。

「MADE IN ENGLAND」が眩しい
 

劣化部

エンクロージャーの仕上げは、一見傷が少なくてきれいだけど、ところどころくたびれて割れている部分がある。

バッフル板と側板の接合部にあるヒビ
また、ツイーターのネジにも見られた赤褐色の錆は、バッフルプレートを固定している六角穴のキャップの一部にも見受けられる。

舶来品の宿命みたいなもの
これらも、なんらかの方法でそれっぽく綺麗にしてやりたいところ。
 

備前の音

出音を聴いてみる。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。インシュレーターは黒檀サイコロの3点支持。
密閉型筐体にしては低音が出るな、というのが第一印象。仕様をなにも知らずに聴いているとバスレフ型と勘違いしそうなくらい、跳躍感のある低音域を繰り出してくる。こういうスピーカーもあるのか。
 
バランスとしては、ややカマボコ寄りのフラットに聞こえる。能率はそれほど高くはなさそうだけど、音離れの良さと実在感のある音で、ほとんど気にならない。
予想していたとおり、けっこう箱鳴りしている。その影響か、中音域がやや煩雑になるときがある。これをこのスピーカーの"味"とみるか、個人的には微妙なところ。もう少し抑えられていてもいいな。
 
ボーカルの表現力が良好。中音はエネルギーが中心に集まるような傾向があるなかで、埋もれず真ん中にいて、ニュアンスをよく伝えてくる。
 
高音域は良く伸びている。ドラムのシンバルの金属音は、適度に派手さがありながらも誇張せず、音を自然に延長している印象。煩わしさを感じさせない。
 
音場は、横方向は平均的。パース感がそこそこあるけど、やや前のめりに展開するのが特徴的。
破綻しない程度の温かさを保ちながら、硬くなりすぎない程度に音に輪郭を形成する。
 
終始明るいイメージで、聴いていて楽しくなる音だ。エネルギーを振り分けるバランス感覚がすばらしい。万能選手といったところ。
 
ひと通りリスニングを楽しんだところで周波数特性を見てみようと準備していたところ、一定の音量になるとウーファーがビビりだすことに気がつく。
サイン波を流すと、片方は40Hzから60Hzくらいまで、もう片方は80Hzから100Hzあたりまでで、矩形波のような音が不定期に鳴りだす。小音量だと発現しない。
よくわからないので、特性の測定はせず、そのまま分解して中を覗いてみることにする。
 

分解

 

エンブレムとバッフルプレート

前面は六角穴のキャップを回すだけなのだけど、ツイーターユニット側から外していくのが無難であると感じる。ウーファーの樹脂製のバッフルプレートの下部にあるエンブレムは、プレートに一体だと思っていたところ、実際はエンブレムだけ独立してバッフル板に固定されている構造で、ウーファーのバッフルプレートの一部が下に挟まるように潜りこんでいる構造であるためだ。

ウーファーユニットを少しスライドさせた図
エンブレムはそのままでウーファーを外すことはできなくはないけど、エンブレムの破損に繋がるリスクを負うくらいなら、先にツイーターを外してウーファーをスライドさせるスペースを設けておくほうがいい。

結線はすべて110型の平型端子

俯瞰
 

フィルターレスでの出音確認

取り外したウーファーをフィルターレスで鳴らしてみる。やっぱり変わらずビビっている。フィルター回路の不良を疑ったけど、そうではないらしい。

まあ、そんな感じはしていたけど
 

吸音材とエンクロージャ

吸音材は、エステルウールのシートが一枚、天面と背面、底面にかけてコの字型に置かれているのみ。意外と少ないな、という印象。
それを取り除くと、補強の類がいっさい存在しない、いかにも"箱"といった具合の、さっぱりとしたエンクロージャー内部を拝見できる。

吸音材撤去後
筐体は、前面バッフルを含むすべてを12mm厚のパーティクルボードで構成されている。
コスト面もあるだろうけど、ここまで小ざっぱりとしたエンクロージャーであれば、あえて箱鳴りを生かすような意図で設計しているのかもしれない。
 

ウーファー

調子の悪いウーファーユニットを見る。
フレームは、バッフルプレートまで一体となったモールドの成型。見た目の質感はABSっぽいけどそこまで柔らかくないし、ポリプロピレンとかだろうか。
振動板には表も裏もコーティングの類が無く、シンプル。

振動板拡大
フェライトマグネットの径がやたら小さいのが目を引く。自重が軽く感じるのは、これのせいでもある。

一応、厚みはそれなりにある
 

ツイーター

続いてツイーター。

ツイーター
ツイーターのほうもウーファーと似た質感の樹脂製のバッフルプレートで、そこにダイヤフラムが接着されているかたち。

ネジを外すだけで分離できる
円形のメンブレンに合わせているのか、矩形のプレートでリブが放射状に流されているのはめずらしいかもしれない。
ドームの内側にはフェルト。ギャップに磁性流体は使われていない。

このあたりは、なんの変哲もない
ウーファーのマグネットが小さいので、ツイーターはどうなんだろうと思っていたけど、こちらはそれなりのものが使われている。
……というか、同じ大きさだ。

こんなこともあるのか……
コーンのストロークが妙に柔らかくできているのは、貧弱な磁気回路を補うためだったのかな。
まあ、「マグネットが大きい=音が良い」とは一概には言えないし、磁束密度を測ったわけでもないのであまり突っこむこともしないけど、コストカットの一環なんだろうな、とは思う。
 

ディバイディングネットワーク

ネクターユニットの裏にあるディバイディングネットワークを見る。
各パーツをコネクターユニットに接着させている。

ディバイディングネットワーク
LF側を6dB/oct、HF側を12dB/octで濾波。舶来のスピーカーらしい、必要最低限のフィルターだ。

ネットワーク回路図
ツイーター並列のコイルに空芯コイルを採用している。

小さめだけど
 

整備

 

ウーファーエッジの軟化

ウーファーのビビりは、聴感では気にならない程度だけど、気づいてしまったからには直してしまいたい。
とりあえず、エッジにラバープロテクタントを塗って様子を見る。多少のビビりなら、これだけで直ってしまうことがけっこうある。
適当な容器に移して、絵筆で塗りたくる。コーンが紙製なので、なるべく染みないよう慎重に塗る。

裏側にも少しだけ塗る
塗り終えたら、浸透して余分な溶剤が揮発するまで24時間から48時間放置。
 
そして2日後。とりあえず、ビビりは解消してくれたことを確認。
これでダメだったら、振動板の特定の位置に重石となるものを貼りつけてみたり、コーティングを施してみたりと、手間がかかるうえに後戻りができない状況になってしまうところだったので、胸を撫で下ろす。
 

ネットワーク&バインディングポストの更新

そのあいだに、ほかの整備を進める。
今回、ネットワーク回路については、定数の変更はしない。コンデンサーの交換に留める。
 
指月電機製作所のポリエステルフィルムコンデンサーに、オリジナルと同じ4.0μFのラインナップがあるので、素直にそれを採用。

久々に秋葉原に出張して入手してきた
セメント抵抗は再利用してもいいのだけど、一緒に交換してしまうほうが施工がラクなので、一緒に新しくしてしまう。
 
バインディングポストは、分解して内部を研磨したらそのまま再利用するつもりでいた。しかし、洗浄中にキャップのひとつにクラックがあることが判明。

最近樹脂キャップのポストを使わなくなっているのは、コレがあるからなんだよな
2液性エポキシ系接着剤で固めて誤魔化してもいいけど、力が加わる箇所でそれもどうなのかということで、こちらもついでに更新してしまうことに。
ちょうど、汎用の金属製ポストが手元に届いたので、そちらを採用する。

最近試用を始めた、安い汎用品よりも若干丈夫そうなヤツ
やることといえば、既存の抵抗器とコンデンサーを取っ払ったあと、同じ位置に同じように固定するだけ。

ペリペリ
ネクターユニットへの固定は、2液性エポキシ系接着剤。リードを結線してから接着する。

リードもオリジナルと同じようにはんだ付け
これも硬化するまで一晩かかる。なんだか今回の作業は、細かい作業ばかりでかつ時間がかかるものが多いな。
 
配線は、自分の整備ではすっかり定番となっているJVCKENWOODのスピーカーケーブルを使う。

結線後の完成図

ネクター部の仕上がりは上々
 

エンクロージャーの清掃

エンクロージャーの仕上げの補修をする。その前に、表層の拭き掃除を済ませる。
中性洗剤と使い古したタオルで、一番汚れていそうな天面を擦る。これだけで、タオルは真っ黒になる。

スピーカーって、なぜか定期的に清掃する人がほとんどいない印象
古いヤニ汚れがあるけど臭いはまったく無く、比較的軽微なのでヤニ汚れ専用の洗剤の出番は無さそう。あまり擦っても化粧シート自体を削り落としてしまうので、程々のところで終える。

左:清掃後 右:入手時
そのあと、シートどうしの突合部や、劣化して剥がれている部分などに、黒の塗料を塗りこむ。

塗りこんで、すぐ拭き取る。これを繰り返す
黒のサーフェイサーを、細めの絵筆を使って所定の場所に置く。大きくえぐれるような打痕はないので、パテを盛るようなことはせず、塗装だけで済ませる。
 

ナットの埋込み

各ドライバーを固定しているタッピングネジは、錆びているものがあるので交換してしまおうと手持ちの同等品を引っ張り出してきたのだけど、ネジ山のピッチが異なることが判明。
そこで、代替策として、ナットを埋めこんでミリネジのボルトにしてしまうことにする。前面バッフルのスペースに余裕があり、爪付きナットが余裕で埋めこめるためだ。
ただし、キャップの大きさを既存と合わせるためには、M5の六角穴付きボルトが必要となる。普段ほぼ使用しない規格であり、手持ちがない。爪付きナットと一緒にこれも取り寄せなければならない。

黒いM5のキャップボルト、近所のホームセンターにも置いてないんだよね
ここまでするなら、ツイーターのネジも一新してしまいたいのだけど、こちらはこちらでミリネジではないなにやら特殊なピッチのもの。汎用性の無いものを調べて仕入れることもしたくもないので、今回は見送り。
 
既存のビス穴を直径7mmの孔に拡張し、ナットを埋めこむ。

筐体内部
 

フランジの孔の拡張

オリジナルのタッピングネジがM5相当のため、キャップボルトも同じようにM5にしたけど、各ドライバーのフランジにある孔は径が若干小さく、ボルトが通らない。

ネジの選定、難しいんだよな
仕方がないので、フランジの孔のほうも少しだけ拡張する。5.5mmのドリルビットをゆっくりと回す。
このスピーカーの樹脂製のバッフルプレートは、JBLのJシリーズなどで使われているものよりは厚みがあって、ネジ孔付近に経年によるクラックは発生していない。それでもキワの部分なだけに、拡張には神経を使う。

真円にならない。ステップドリルが必要かな……
 

吸音材の追加

エステルウールがペラっと置かれているだけのエンクロージャー内部に、吸音材を追加で配置する。
使うのは、チップフォームと「固綿シート」。

最近使う吸音材は、だいたいこのふたつ
いずれも適当な大きさに切り出して、チップフォームは天面に、固綿シートは両側面にそれぞれ接着する。接着はG17。

天面はほぼ全面チップフォーム
チップフォームは質量が大きいためか、吸音の効果よりもエンクロージャーの容積の減少による低音域への悪影響のほうが出やすい印象なので、使う量の配分や位置に気を遣う。いっぽうの固綿シートは、そのあたりのバランスが良くて、わりと雑に扱える感じで重宝している。
最後に、エステルウールを元の位置に戻したら、整備は完了。

ここは接着は無し
 

整備後の音

音を聴いてみる。
箱鳴りしている感じが若干抑えられて、落ち着いている。

整備後の姿
併せて、フィルムコンデンサーへの交換の影響で、中音域の雑味が薄れて幾分スッキリしている。このくらいのバランスのほうが、個人的には好みだな。
 
備前には確認しなかった周波数特性を見てみる。

周波数特性(整備後)
だいたい聴感のとおり。
バスレフ型みたいだな、と思っていた低音域は、やはり稜線からもそのような印象を受ける。ドライバーの特性なのだろうか。
中高音は、クロスオーバー周波数付近と思しき4kHz付近でディップが出るものの、概ねフラットで推移している。
 

まとめ

デノンを筆頭とする、日本のオーディオメーカーがこぞって目指した「ブリティッシュトーン」というものは、おそらくこういった印象を抱かせたかったんだろうな、という音のするスピーカーシステムだと思う。

なんとなく、ヒットしたのもわかる気がする
中音域が煌びやかなのはアメリカのものと同じ傾向だけど、こちらは全体的に湿度があって、音楽的に耳に残る感じ。突き抜ける爽快感よりも、パッと花咲くような明るさとコントラストで聴き手を楽しませることをより重視した音作り。そんな印象をこのスピーカーから受けた。

安価だけどカッコいい面してるし
また、製品としての品質はそれなりだけど、意匠と機能の両立をきちんと合理的に落としこんでいるのは、このころの国内メーカー製には無いよな、とも思う。範にしたくなる気持ちもわかる。
 
このスピーカーは後年マーク2がリリースされているらしい。そちらも今後、良い状態のものがあれば積極的に手に入れていきたい。

気に入った
 
終。