オーレックスのミニスピーカー「SS-S1W」を入手し、主に外装を調整して小綺麗にしてみた。その所感。
※ この記事は、前後編の前編にあたるものです。
初AUREX
「小さいのにやたら重い」タイプのスピーカーシステムだ。記憶するかぎり、このテのいわゆる"ミニ・スピーカー"を扱ったのは、パイオニアの「S-X3II」が最後か。ケンウッドの「LS-XK330」もかなり小さいけどあちらは木製エンクロージャーであり、毛色が違う。こちらは手に持つとヒヤリと冷たい、金属質なものだ。
オーレックスの名を冠する製品を手にするのは、今回が初。
かの東芝にもかつてオーディオブランドが存在していたことは知っていたけど、自分がオーディオに興味を持つころにはすでにピュアオーディオの分野からは撤退済みで、知る人ぞ知る盛時の輝き、みたいな印象を持ちながら、今後の人生において交わることもないんだろうな、ぐらいに思っていた。しかし、こうしてデスクトップに置けるようなスピーカーを仕入れ、整備をしながらとっかえひっかえしていく流れのなかで、ついに巡り合ってしまったわけだ。
といっても、「オーレックスブランドだから」気になったというよりも、そのめずらしい仕様に惹かれて手にしてみたくなったのだ。
外観
前オーナーいわく音は出るとのことなので、まずは外周を見ていくことにする。
まず、重い。奥行も横幅も10cm強しかないのに、それに見合わずかなりの質量がある。
見るからに金属筐体。だけど、S-X3IIのときのように"金属っぽいなにか"の可能性もあるので、なんとも言えない。
背面のスナップイン式のコネクターユニットは押しボタン式で、あまり見かけないタイプ。
ボタンを筐体内部に向かって押しこむあいだスプリングが押され、内部の金具が開く仕組み。
外した前面ネットを見ると、ダボがひとつ折れている。
パンチングメタルのネットの外周にあるフレームは樹脂製。ABSだろうか、弾性の低そうな素材でかつ劣化も進んでいるので、脆い部分は遅かれ早かれ破断してしまうのだろう。
このスピーカーにおける目玉は、なんといってもウーファーのエッジ。スエード調の皮革製である。
見たところ「セーム革」っぽい。
これ、見つけた当初は前オーナーが張り替えたものだろうと思っていたのだけど、そうではなく元からこの仕様とのこと。たしかに、近年張り替えたにしてはやや年季が入っているように見えなくもない。この点がものめずらしく、手にしてみたくなった理由だ。
今や整備を専門とする業者や個人でエッジを製作するようなケースで採用されるセーム革を、家電メーカーのコンシューマー向けスピーカーで組み入れているとすれば、非常にめずらしい仕様と言えるのではないだろうか。
よくわからないので、資料になりそうなものを取り寄せてみる。下は、発売当時のフライヤー。
エッジについては「人工皮革」とある。つまり不織布がベースの人造皮革のようだ。天然皮革ではないらしい。
たしかに、そう言われるとフェルトのような触覚もある。いや、でも、鹿革だと言われても信じてしまうぞ……。
なんにせよ間違いないのは、素人の"し"の字にも満たない自分には判別できないということだ。
たとえ人工皮革だとしても、それはそれでレアであることに変わりない。どういった経緯でこの素材を採用したのか知りたくなる。
ここからはフライヤーの情報も踏まえて書き残していく。ツイーターは、2.5cmソフトドーム。
編みこまれた布状のものになにかがコーティングされているもの。それ自体は一般的なものだけど、ドームの左右からリードが突き抜けてバッフル面に露出しているのは、ちょっとしたことで引っ掛けて断線させてしまいそうでコワい。
ドームのコートは、40年以上経っているであろう今でもヒビ割れなど無く綺麗に残っているけど、ややムラがあるように見える。
整備前の音
音を出してみる。今回は都合によりあまり長時間聴けていないので、一聴での感想となる。
意外と落ち着いている。これは、以前整備したS-X3IIやビクターの「S-M3」などの音の傾向が頭にあるからで、それと比較して、という印象だ。
音場が広く、かつ制動が効いていて音があまり暴れない。これが、今まで聞いた古いミニスピーカーと一線を画する特徴だ。
中音をとにかく前へ前へと投げつけてくるようなことが少なく、横方向の広がりと粒感のある音で、適度に湿度のある音楽的な空間を作ろうとする。
低音は、さすがにサイズなりの量感と音域に留まるものの、音が無いわけではなく、フライヤーにもあるとおり置きかたを工夫するとサイズアップが狙えそうな感じはある。弾性があってもダレる感じはほぼ無いし、質が良いといえる。
高音はよく伸びている。不自然に尖った音も無く、どのソースも無難に聴きとおせる。
データによればクロスオーバー周波数は3.5kHzらしいけど、聴感ではもう少し上のほうにあるように聞こえなくもない。
へぇ、ミニスピーカーってこういう音も出せるんだ、というのが感想。正直、もっとラジカセに近い雰囲気を想像していた。
さすがにワイドレンジなHiFiサウンドを聞きたいとなれば現代機に軍配が上がるけど、同じ1978年発表の大貫妙子「Mignonne」なんかを聴くと、途端にアナログのツヤっぽさがグッと際立つ感覚があって、これはこれで乙なものだ、などと思ったりもする。
周波数特性を見てみる。
聴感と一致する。クセの小さい綺麗な特性だ。特筆すべきこともない。
内部
内部を見ていく。
開封
前面に見える8つの六角穴キャップボルトは、各ドライバーユニットをバッフルに固定しているもののように見受けられる。背面のパネルがネジ留めなので、こちらから開封するのが順序だろう。ただ、今まで見てきたミニスピーカーは、ネジ留めしたうえでなぜか内部から接着しているものがほとんどだった。現に、こちらも四隅のネジを外すだけではバックパネルは外れてくれないようだ。
ちょっと不可解ではあるけど、こうなれば前面からアクセスするしか手立てがない。キャップボルトをすべて外した途端に筐体内部に落下しても故障しにくいであろうウーファーユニットから外していく。
とりあえずボルトを4つ外すも、ウーファーはそのまま引っ付いている。ツイーター側もおっかなびっくり少しずつ緩めていく。
ツイーターも同様、ボルト撤去後も残存している。んん? と思いながらひっくり返すと、バッフルプレートに引っ付いたままユニットが筐体から外れてしまった。
結局、バッフルプレートの裏にはインナーバッフルがあって、キャップボルトは前面のバッフルプレートと各ドライバーをまとめてインナーバッフルに緊結するものだった。バッフルプレートにドライバーが引っ付いていたのは、プレートとドライバーのあいだにゴム製のシートが挟まっており、それのおかげで吸着していたかたちだ。要するに、ネジを外すだけではドライバーユニットは筐体内部に落下はしない。
解ってしまうとついさっきまでビビりながら作業していたのがアホらしくなってくる。
バッフルプレート
ヘアライン加工されたバッフルプレートもおそらくアルミ製。
その裏に、ほぼ同径のゴムシートがパッキンとなるかたちで挟まり、各ユニットのフランジ部、筐体のインナーバッフル、という構成。
ドライバー
各ユニットを見ていく。
ツイーター
ツイーターは、メンブレンも含めてすべて金属製。
振動板の径に対して、フェライトマグネットは平均的なサイズである。それにしても、金属製のバッフルプレートにほぼすべて隠蔽される部分についても金属製としているのには、なんとなくメーカーの拘りを感じる。
こうしてみると、リードがドームの外側に出ているのは、金属製パーツであるがゆえショート対策が構造上難しいことの対処であると想像できる。
ちなみに、もうひとつのスピーカーのほうでは、ツイーターのリードとゴムシートが若干融着した状態であった。
先行したものは特に意識することなく剥がれたけど、運が良かっただけらしい。やはりツイーターの取外しに関してはより慎重になっていて正解のようだ。
ウーファー
このドライバー専用に製造されたものかはわからないけど、コストをかけているのは感じ取れる。
コーンはドットのエンボス加工された紙製。ツイーターのドームと似た質感のコートがされているセンターキャップも、おそらくは紙だろう。
件のエッジは、ロールの裏側になにかが塗られているような雰囲気がある。ダンプ剤か、あるいは耐久性を上げる保護剤かなにかか。
エンクロージャー内部
エンクロージャー内部を見ていく。
畳まれたニードルフェルトが敷き詰められており、ドライバーが収まると筐体内に空洞となっている部分がほぼ無い。
内側でミッチリ接着されていると予想していたバックパネルは、薄いフォームシートが挟まっているだけで、接着剤はほとんど使われていない様子。試しに押しこんでみると、意外とあっさり外れるのだった。
エンクロージャーは、やはり見たままアルミダイキャスト製とのこと。
ディバイディングネットワーク
バックパネルの裏には、ディバイディングネットワークとコネクターユニットが括りつけられている。
パーツ点数は最小限でありながら、ずいぶんと広々とした基板を下敷きにしている。
パネルにはネジ3点、コネクターユニットを固定している2点で留まっている。そのうちの2つは、コイルの固定を兼ねている。
フィルター回路は、12dB/octのお手本のような設計となっている。アッテネータも無し。