いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

Aurex SS-S1W をメンテナンスする (後編)

オーレックスのミニスピーカー「SS-S1W」を入手し、主に外装を調整して小綺麗にしてみた。その所感。

この記事は、前後編の後編にあたるものです。
前編は下記より↓
 

整備

今やヴィンテージの域のスピーカーでも、しっかりと鳴ってくれることがわかった。外観でいくつか気になる点があるので、その是正を中心に作業し、見た目をキレイにしてやることに注力する。
 

リカラー

アルミダイキャスト製エンクロージャーの特に天面に関しては、塗装の劣化が激しい。

紫外線か、埃か、あるいは拭き掃除時の洗剤か
S-X3IIのときと同じようにリカラーして、無難な感じにしたい。
古い塗装の除去
60番と120番のスポンジやすりで、表層をひたすらゴシゴシ擦る。

風呂場にて。やはりアルミにも少しだけ腐食があるようだ
新しく乗せる塗料がなるべく落ちにくくなるように、角の部分を削って丸めておく。といっても、あまりRを付けても不自然なので、気持ち程度となる。

ふたつで半日かかった
最後に240番でゴシゴシ。塗装前のいわゆる足付けとする。
パテ埋めの代替(結果イマイチ)
天面にあるわずかな腐食箇所は、パテで埋めて平滑にしたいのだけど、このわずかな部分のためだけに出番の少ない金属用のパテを購入するのがもったいない。そこで今回は、いつぞやYouTubeで見かけた代替策を試してみる。
アセトンで薄めた2液性エポキシ接着剤を塗るだけ。

塗った直後の図
やすりをかけられる程度に硬化するまで、所定の時間放置しなければならない。
先に結果を述べてしまうと、これはあまりうまくいかなかった。やらないよりはマシ、といった程度だ。作業してみた手ごたえとしては、アセトンでシャバシャバにする必要はない気がしている。
言わずもがな、専用のパテを使ってしっかり埋めてしまうほうが間違いない。
パンチングメタルの塗装
パテ代わりの接着剤の硬化を待つあいだ、もうひとつの被塗装物に移る。
前面ネットのパンチングメタルについても、少し錆が浮いているので再塗装する。

エンブレムは取り外す
パンチングメタルは樹脂製のフレームに爪で固定されている。一面で10か所ある爪をすべて起こし、フレームから分離する。
爪はたいてい細長いフォームラバーの下敷きになっているので、フォームラバーの新調も検討する。

既存はなかなかキレイに剥がせないので、新調してしまうほうが手っ取り早い
なお、パンチングメタルの状態によっては、爪を起こしたり寝かしたりしていると折れることもありうる。その場合は、フレームに接着剤を流して接着することになる。

フレームから取り外した図
錆を可能なかぎり落としたら、ササッと塗っていく。
塗装は、手持ちで余っていたプライマーとつや消しブラックのアクリルラッカースプレーで行う。
あとは、先の手順の逆で組み上げていくのみ。
ここでひとまず、エンクロージャーの塗装に戻る。
エンクロージャーの塗装
エンクロージャーの塗装も、ラッカースプレーで行う。塗装が必要になるたびにエアーコンプレッサーを導入したくなってくるけど、塗装する頻度が多くはない現状から、いつもスプレータイプの塗料に甘んじてしまう。
 
今回もカーペイント用の用品からチョイスするのだけど、初めてプラサフというものを仕入れてみる。
自分のイメージは、これひとつあればプライマーとサーフェイサーの一挙両得! である。塗料が定着しにくいアルミにも使えるらしい。とりあえず今回はなにも考えず、メタルプライマーと同じ感覚で使ってみることにする。
カラーは、アマゾンでたまたま安売りしているのを見つけた、ホルツの「ジェットブラックマイカ」とする。
上塗りのクリアも無難にホルツ製で合わせる。
 
今回扱うスピーカーは小型の部類なので、どうにかして吊り下げて塗装できないか試したところ、なんとかギリギリそのスペースを確保できた。

ベランダの一角が塗装ブースに
塗装後の状態
そして、ほぼ一日がかりで上塗りまで済ませ、翌日まで乾燥させたものが下の写真。

塗装後の姿
想像していた質感とは違うな、という仕上がりとなった。S-X3IIのマイカカラーが綺麗だったので、そのブラックバージョンとなることを期待してチョイスしたのだけど、こちらは粒状感があり、俗に言う「メタリックブラック」に近い。
うーん。色味が暗いとこんなもんなのかな。悪くはないけど……。
 
手触りも見た目どおりで、シボ加工された表面に近い感じ。これはおそらく、プラサフの定着後に研磨をしていないからだろう。プラサフのあとは、付着した埃を毛抜きで取り除いたり、乾燥後にウエスで拭いたりしただけだ。
ただまあ、もともと無骨なデザインだからこれはこれでアリかな、という感じもする。
研磨の必要性に気づいていたものの控えたのは、プラサフ自体の乗りがあまり強固な感じがせず、研磨により塗膜が剥がれるような気がしたから。スプレーの中身がスッカラカンになっていて、追ってすぐに再塗布することができないこともあった。
初プラサフの印象
プラサフを扱った印象としては、「どちらかといえばサーフェイサー」だ。今回初めてプラサフを使ってみただけなので言えることはほとんど無いけど、塗膜の密着力に関してはメタルプライマーのほうに分があるように感じるのは確か。
 

ネジの防錆

六角穴キャップボルトも少し汚れているので、薄めた酸性洗剤に浸したあと防錆剤を塗っておく。

これも買い替えるとなるとけっこういい値段するしな……
これでようやく、塗装関係の作業は終わり。
 

前面ネットの補修

発泡ゴム製クッションの新調
前面ネットの組み立てを進める。
新しく貼りつけるフォームラバーは2mm厚のもの。これは前面ネットとバッフルプレートとのあいだに挟まるスペーサーの役目もあり、薄すぎるとネットがガタつき、厚すぎると前面ネットのダボが穴に収まりきらず固定できない、ということがある。
このフォームラバーは両面テープ付きなので、接着材の用意が不要なのが良い。

ハサミで切って貼るだけ
ここは長い目で見れば、耐久性や色移りを考慮してPORON製やEVA製などとするのがベストだろうけど、これもたまたま手元にあったので。
ダボの補修
いくつかのダボは、曲がっていたり樹脂が痩せていたりして、バッフル側のダボ穴に引っ掛からず固定できない状態になっている。
それらは応急処置として、短く切り出した熱収縮チューブを被せたうえで、根元を接着剤で固定することにする。

接着剤塗布前
これで一応嵌合するようになったけれど、耐久性が増したわけではないので、ダボ自体が根元から折れたらそれまでとなる。といっても、前面ネットの着脱の頻度はそう多くはないだろうから、一般的な運用上では支障ないだろう。

整備後の前面ネット
 

ディバイディングネットワークの乗せ換え

最後に、ディバイディングネットワークの整理をして、一連の整備を終える。
電解コンデンサーの交換と、基板の撤去を行う。
 
コンデンサーは、HPF用に1.0μFのメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーを用意して電解コンデンサーと併用すること以外は、基本オリジナルと同等の仕様とする。

今回搭載するコンデンサーたち
電解コンデンサーは、今や貴重となってしまったニチコン製「UES」シリーズの2.2μFと、最近活用しているエルナー製の音響向け4.7μFをチョイス。コイルは取り外したのち再利用する。
 
シンプルな回路なので、パーツはケーブルを含めてすべて直結とし、信号は銅箔を介さないものとする。
MDFを基板と似たような大きさで切り出し、そこにすべてのパーツを固定する。基板を固定しているネジの穴は再利用するので、位置が合うようにMDFに孔を開けておく。

このあたりは、なにも考えず作れるようになってきたな
注意したいのが、このMDFの厚みだ。今回は2.5mm厚を採用している。
これは組み上げるさいに気づいたことだけど、ベースとなる板材が厚い場合、パーツのレイアウトによってはウーファーフェライトマグネットとパーツが物理的に干渉する可能性がある。オリジナルの0.6mHの有芯コイルや、大きめのケースのフィルムコンデンサーなどを使う場合は、なるべくツイーターの背面側に位置するような配置を考える必要が出てくる。

そんな事情は露知らず、なんかイイカンジになるように組み上げている図

コイルの方向性を考慮したこと以外、特筆することもない
バックパネルへのアッセンブリーは、コネクターユニットと同時に行う。今回はコネクターユニットを再利用するので、新しいネットワークとともにパネルへ固定したのち、両者間の配線を実施する。各パーツの接着も、この段階で行う。

接続ははんだ付けだけど、作業自体はとてもラクにできる
 

吸音材の配備

バックパネルをエンクロージャーに固定したら、吸音材を配備する。今回は既存のニードルフェルトを再利用する。
ところが、フェルトをオリジナルと同じように詰めると、方向性を確保するために配置を変更した0.6mHのコイルとウーファーフェライトマグネットとのクリアランスが確保できなくなり、ドライバーユニットをネジ留めできないことが判明。

写真真ん中のコイルが干渉する
とりあえずフェルトが無い状態であれば支障がないため、フェルトは半分に切断し、それぞれ折り畳んだあと両側面に配することで難を逃れる。

こんなかんじ。手戻りが出なくてよかった……
 

整備後の音

手間がかかったけれど、これでようやく組み上がったので、音を聞いてみる。

整備後の姿
高音がややクリアになったかな、と感じる程度で、バランスや質感は整備前と変わらない。外観の整備ばかりにかまけて信号回路の調整はほぼオリジナルのままなので、当然といえば当然である。

周波数特性(整備後)

備前後の周波数特性比較
整備後の波形で低音が若干持ち上がっているように見えるのは、吸音材の配置の変更による影響か。整備前の収音後に収音環境がいったんリセットされているので、比較してもあまり参考にはならないけれど。
 
今さらながら、波形のスムージングというものを覚えたので、今回から載せてみることにする。

備前後の周波数特性比較(平滑化処理後)
 

まとめ

今この文字を打ちこんでいる瞬間も、このスピーカーで音楽を流し続けている。正直なところ、ここまで気に入るとは想定外だ。なかなかどうして侮れない機種だ。

ツボにハマってしまった
オーレックスのスピーカーはまったくといっていいほど知らないし、今後も入手できる機会は少ないだろうから、性格や傾向を掴むことはできないかもしれない。それでも、ユニークな仕様でかつしっかりした音を繰り出す製品をかつて輩出していたことをここで知れたのは僥倖だと思う。こういうことがあるから、スピーカー探しは愉しいんだよな。

ミニスピーカーというジャンルに惹かれる人がいるのもわかる気がする
整備を終えて早々、引き取り手が現れてしまった。ニーズもそれなりにあるらしい。
名残惜しいけど、向こうでも元気でやってくれよ。
 
終。
 

またどこかで会えるといいね