いつか消える文章

本当は、ペンとノートを持ち歩くことにあこがれている。

JBL J216 をメンテナンスする(後編)

1980年代JBLのスピーカー「J216」の故障品を入手したので、整備して音を出してみた。
この記事は、前後編の後編。前編は下から。
 

整備

 

振動板の塗装

コーンの塗装を行う。
センターキャップとコーン紙で塗り分けようかとも思ったけど、今回はヨーク再着磁の作業で満身創痍状態。あまり神経を使う作業はしたくない。
手元にあった黒系のアクリル塗料ひとつで塗りつぶしてしまうことにする。

筆塗りで着色中

左:塗布後 右:塗布前(漂白済み)
塗装後、表層の保護と補強を兼ねて、ウレタンニスを塗っておく。

水性のクリアーニス
紙製のコーンにウレタンの膜を作るのは、最近試験的に始めている整備だ。塗布前後で低音域の響き方が聴感上で若干変わる場合があるみたいだけど、古いものについては延命を重視して塗ることがある。

ウレタン乾燥後
 

エッジの張替え

ウーファーのエッジはラバー製で、本機では汚れている以外に外観上の異常は見受けられない。ただ、ゴムにしては硬めで、反発力も乏しい。ラバープロテクタントを含浸させて揉んでみても、変化は無い。
劣化なのか、はたまた元来こういう性質なのか判断つかないけど、ついでに新しくしてしまうことにする。

ラバーエッジの除去って、あまりやったことないな
既存のエッジは、カッターである程度切り落としたあと、コーン外周はハサミで切り落とす。
フレームの"耳"の部分は、シンナーを塗しながら古いニッパーでゴリゴリ削ぐように剥ぐ。

エッジを剥いだ状態
今回はフレームも後ほど塗装するので可能な荒業である。
ちなみに、外周にある紙製のガスケットは、今回使う新しいエッジと物理的に合わないため、破棄する。
 
金属製のフレームに錆があるため、エッジを張る前に塗装しておく。
錆落とし不要かつ防錆剤含有のアクリルシリコン塗料というものがあることを知ったので、そのつや消しブラックで上塗りする。

塗装中。ペイントうすめ液で少し薄めてもよかったかもしれない
便利な塗料ではあるけど、乾燥がやや遅いのか、一晩寝かせてもまだ表面がベタつく。冬場だからというのもあるだろう。
 
新しいエッジは、クロス製にする。6.5インチユニット対応の汎用品で、JBLっぽいアコーディオンプリーツのものがあったので、それを使ってみる。
ユニット固定用のネジ孔部の逃げを作っておく。
今回はフレームの外周にガスケットを取り付けないつもりなので、この部分の処理もなるべく綺麗に整えて見栄えを良くしておきたい。

ハサミで切り落とす
エッジの接着は、いつもの「スーパーX」。綿棒に纏わせて少しずつ塗る。
このクロスエッジ、プリーツ構造のためか割と硬めで、コーンの下に滑り込ませるのに少し苦労する。コーン紙に折り目を付けないよう、また余計な部分に接着剤がつかないよう注意を払う。ウレタンニスを塗っておいて正解だったかもしれない。

エッジ装着後の姿
もともとコーンの外周にも凹凸があり、そこから地続きのように同じような溝がエッジにもあるという、波紋が広がったようなユニークな見た目のウーファーになった。

コーン拡大
いろいろやっていたら思いのほか時間がかかってしまったけど、これでようやくウーファーの整備を終えることができる。
 

ツイーターパネルの新調

ツイーターの前面パネルを新しくする。作業内容はJ216PROなどとほぼ同じ。
今回は、エンクロージャーの側面が木目調なので、それに合うような色味の木材を使用する。
チークの5mm厚の板材。例によってハンズで購入。既存のパネルをあてがい、必要な孔を開ける。

ハンズに売っている「木のはがき」を加工
オリジナルと同じようにネジ留めするだけなのだけど、木板のパネルがコイルのリード線に直接触れるのが気持ち悪かったので、ワッシャーを挟んで少し浮かせることにする。

M4相当のナイロンワッシャー
固定させるネジは、M4の低頭ネジ10mmを採用。
また、浮かせたために生まれた隙間は、袴をはかせるようにグルリと一周コーキング材を流す。

乾くと透明になる

ツイーター正面
 

エンクロージャーの清掃

各パーツを筐体内に組み込む前に、外装の掃除をしておきたい。
エンクロージャーの仕上げはPVCシートで、暗めの木目調とグレーということもあり、汚れそれ自体はほとんど目立たない。ただ、中性洗剤でちょっと拭くだけでウエスが真っ黒になるので、相当汚れていることは間違いない。
 
中性洗剤とアルコールでいくら拭き取っても、まるで擦るたびに汚れが生まれてくるかのようにウエスが汚れ続け、際限がない。もう少し強力な洗剤が欲しい。
なにか良い洗剤はないものかと探したところ、「ハヤトールNX」というものを見つけた。泡スプレータイプのアルカリ洗剤である。「ニコチン汚れ」という単語が見える。

ドーナッツ状の泡が出る
本来は全体的に塗してしばらく置き、汚れを浮かせてから拭き取る使い方をするようだけど、木製スピーカーでそれはやりたくないので、いったんウエスに出してから擦るようにする。
これで多少はラクになるかと思ったけど、3回くらい拭いてから中性洗剤で擦ってみても、まだ汚れが付着する。

まだこんなに汚れてるのか……
40年分の汚れ、頑固すぎる。
表面に付着した汚れのほかに、経年劣化したPVCシートが削れてきているようにも見える。
そこそこで手を引くしかないのか。
 

ネットワークの改修、整理

ネットワーク基板に乗っているコンデンサーは、一応規定値内に収まっているけど、40年モノということで交換する。
また、ツイーターの手前に付いていたセメント抵抗器も、基板側に固定させる。抵抗器はオリジナルのものかイマイチ判断がつかないけど、今回は残すことにする。
コイル類は再利用とする。

今回用意したパーツ類
コンデンサーは、電解コンデンサー4.7μFとフィルムコンデンサー3.3μFの合成とする。
電解コンデンサーはニチコンMUSE ES」。フィルムコンデンサーは神栄キャパシタのメタライズドポリエステルフィルムコンデンサー。もっと拘ってもいいところだけど、今回は治具の制作で完全に予算オーバーなので、新たに調達することはせず自分のストックから無難な組み合わせを選んだ。
抵抗器は、2.4Ωというものが無いので、2.2Ωで代用。

リードを適当にフォーミングしてはんだ付け
配線類もすべて引き換える。先と同じ理由で、一般的なダブルコードとする。

ネットワーク基板(改修後)

ネットワーク回路(改修後)
基板の固定は、筐体底面から背面側のスペースに移す。
基板四隅に孔が開いているので、それを利用してネジ留めとする。ここでも樹脂製のスペーサーを利用して、はんだ面を若干浮かせて固定できるようにする。

スペーサーは瞬間接着剤で固定

バインディングポストのすぐ上あたり
 

バインディングポスト

オリジナルのバインディングポストは、筐体を貫通して内部でナット留めするためにかなりシャフトの長いものが使われている。交換するにしても、同様にロングシャフトのものを用意しなければならない。
以前「S-M3」を整備したときに入手したセットの余りがあるので、それを使用する。

新旧ポスト
ただし、今回はそれでも長さが足りず、根元側の透明樹脂カバーを外してさらに埋め込む必要がある。
この処置をしても配線を接続できるので機能面では問題ないのだけど、プラスマイナスを示す赤と黒のリング状のパーツも取り除くことになるため、極性の判別がしにくくなる。

キャップ側でしか赤黒の判別ができない
あまりやりたくないけど、ほかの汎用のスピーカーターミナルユニットを設けるためにエンクロージャー側を加工する気にもなれず、これを採用することにする。
 
内部の配線の接続は、穴径4mmのクワ型端子とする。
ただし、作業性が悪く、ナットを締める際に配線が邪魔で思うように工具を動かせない。ここは定番の平型端子のタブにしておくべきだった。

なんとか固定できた

新しいバインディングポスト
 

前面ネット

前面のサランネットは、多少汚れてはいるものの、破れは無く良好な状態を保っている。これは、両側面のやや出っ張っているエンクロージャーが、ネットを外傷から守っていたからだろう。ただ、本来はネットが本体を守らなければならないはずで、主客転倒っぽい。
 
せっかくなので、ネットはオリジナルを残すことにする。
とりあえず石けん水を溜めたバスタブに浸してみると、水がすぐに濁っていく。

どれだけ汚れているんだろう……
しばらく浸してから、陰干ししておく。
 
エンブレムも同様に汚れているので、綿棒と中性洗剤で擦ってみたところ、マットな黒い塗装が簡単に溶けだしてしまった。

こういうこともあるのか
見ようによってはシルバーのJBLの文字に墨入れしたようで、これはこれで良い気もするけど、黒系の塗料が目の前にあることだし、今回は洗浄後にタッチアップしてみることにする。
初めにアクリル塗料を筆塗りしてみたけど、ムラができて汚らしくなってしまったので却下。

このあとクリアーを塗ってもダメだった
ウーファーのフレームの塗装に使ったアクリルシリコン塗料だと、塗膜が比較的均一で綺麗なので、こちらを採用。

このくらいだったら及第点
 

時間がかかったけど、なんとか無事に音が出るようになった。早速聴いてみる。

完成後の姿
アンプはTEACの「A-H01」。
低音重視のバランスだ。「J216PRO」よりも量感がある。そこまで低い音は出ないけど、歪み感が少なくエネルギッシュで、聴いていて心地よい。
高音域は特徴がそこまでない、無難な音。
中音域は、全体のバランスからするとやや抑え気味か。ただ、定位が良くボーカルがちゃんと中心に居るし、引っこんでいる印象は無い。

試聴中の図
もっとガチャガチャしているのかなと思っていたけど、ちゃんと聴ける音だ。ドライバーどうしの繋がりも悪くない。後継機よりもこちらの無印J216のほうが好みのバランスだな。
 
周波数特性を見てみる。

周波数特性
右肩下がり。概ね聴感と一致する。
1kHz付近がやや窪んでいる。クロスオーバー周波数付近なのかなと思ったけど、公称では4kHzなので、ウーファー由来だろう。中音域が少し引っこんで聴こえる主因だろうけど、聴感上そこまで違和感は無い。
なお、15kHz以上が急降下しているのは、マイクの位置の影響だ。
 

まとめ

今回初めて治具を作ってヨークの着磁を行ったけど、できればやりたくない作業だなと思った。やたら神経を使うし、なにより時間がかかる。音を出す目的なら、同じユニットの動作品を中古で探して、丸ごと乗せ換えてしまうほうが手っ取り早く済ませられる。
今までもこれからも、特段の理由がない限り、わざわざ故障品に手を出して修理することはしないだろうな。

パネルはウーファーに合わせて黒に塗装してもよかったかな
とはいえ、無印J216の音は、以前から一度聴いてみたいと思っていた。今回それが叶えられたのはよかった。
JBLのブックシェルフスピーカーも、現状興味をそそられたものはほぼ入手できた。そろそろ別のメーカーの舶来品も聴いてみたい。
 
終。
 

しばらく作業スペースのスピーカーに据える