デノンの重量級ブックシェルフスピーカー「SC-E727R」について、出音の確認と中身を見てみた記事。
素性
先日の「SC-CX101」に引き続き、またデノン製のスピーカーである。
こちらは、1998年に登場した、ブックシェルフスピーカー。
サイズ的にブックシェルフスピーカーになるのだろうけど、持ち上げてみるとかなり重い。
このスピーカーの存在は某フリマサイトで知ったのだけど、そのときは特段興味もなく、どんなスピーカーなのか調べることもしなかった。今回も事前に情報を集めないまま、たまたま中古品を入手できてしまったのだった。
このスピーカーの存在は某フリマサイトで知ったのだけど、そのときは特段興味もなく、どんなスピーカーなのか調べることもしなかった。今回も事前に情報を集めないまま、たまたま中古品を入手できてしまったのだった。
ただの2ウェイユニット搭載品にしては妙な重さなので、整備の前にインターネットで検索をかけてみると、そこでようやくエンクロージャー内部にもドライバーユニットが存在するいわゆる「2ウェイ3スピーカー」であることを知った。
なるほど、背面が大きく開くようネジ留めされている構造なのは、内部にユニットを搭載するためかと納得。
まあ、合計3基も積んでいれば、このくらいの重さになってもおかしくはないか、とそのときは思っていた。
しかし、のちに分解してみてわかったことだけど、この重量はエンクロージャーの素材として使われているランバーコアと内部にあるMDFの質量が主で、ドライバーユニット自体はいたって平均的だ。
このスピーカー発売の前年には、「SC-E727」という、型番の末尾に"R"が無いモデルが発売されている。そちらは未入手なので現状比較することはできないけど、おそらくこのスピーカーの原型となるものだろう。
源流は、1992年に登場した「SC-E535」と「SC-E232」というモデルのようだ。デノンがよく謳っている「ヨーロピアンサウンド」「ヨーロピアンテイスト」を取り込んだもので、以降「Eシリーズ」として数代にわたり発展している。その系譜をたどった先にSC-E727Rがいる。
外観
ランバーコアとは合板の一種で、原材料によっていくつか種類があるらしい。
仕上げが樹脂のものもあるけど、基本的には天然木が積層され作られるようで、現にこのスピーカーの仕上げは、MDFやパーティクルボードに突板を張ったものとはまた異なる、重厚でより木材に近い風合いをしている。角に緩くRが付いているのも、どこかクラシカルでよい。
スピーカーターミナルはバイワイヤリング対応。大型の金属製キャップが採用されている。
本来は、ここにハイファイとローファイをショートするための金属バーが付属しているようだけど、残念ながら今回入手したものには無かった。前回同様、ここもジャンパーケーブルを新たに制作することとする。
前面にあるのは14.5cmコーンウーファーと2.5cmソフトドームツイーター。
ウーファーはバッフル部がシボ加工された樹脂製で、ちょっとチープ。ここが金属製だと締まって見えるのにもったいないなと思ってしまった。
ツイーターは、なんとなく瞳に似た独特なデザインのプレートが特徴的。
音
出音を聴く。
アンプはヤマハのAVレシーバー「RX-S602」。もちろんシングルワイヤリング。
整備前のリスニング時はまだ3スピーカーであることを知らなかったため、ファーストインプレッションでブックシェルフスピーカーらしからぬ豊かな低音域に驚愕する。バスレフポートがあることは判っていたし、堅牢そうな筐体だから低音が出そうな気はしていたけど、まさかここまで出るんか、と。
中低音重視のバランスである。重心は低いけど、どっしり構えるというよりは包み込むような鳴り方。
ただ膨よかな低音ではなく、響かせる中にも粒感を感じ取れる、独特な艶っぽさを持つ音。
この低音の量感と互角に渡り合えそうなブックシェルフスピーカーは、知っている限りではケンウッドの「LS-1001(LS-300G)」だ。ヨーロッパを範としている点でも共通している。
どちらかというと低音特化型で、2スピーカーの自然な音場のLS-1001と、中音域との繋がりに優れ、高音域に透明感のあるSC-E727R。雰囲気は似ていても、好みが分かれそうなところだ。
全体的に明るく温度を感じる音でまとまっている。リッチに鳴らすので、この音で耳が慣れているとほかのブックシェルフスピーカーでは物足りなくなってしまう。
周波数特性を見る。
200Hz付近から60Hzまで伸びる緩やかな傾斜は、小型スピーカーではなかなかお目にかかれないのではないだろうか。このスピーカーを象徴している。
分解
中身を見ていく。
エンクロージャー
その前に、底面に貼ってある円形のゴムシートは、劣化して用を成していないので剥がしておく。
ウーファー、ツイーターともに六角穴キャップのタッピングネジ4点で留まっている。
とりあえずウーファーからネジを取っ払ってみるも外れず。対してツイーターは容易に外れる。
背面のパネルを外す。8本のタッピングネジと取り除くと、パネル自体は筐体から簡単に分離できる。
近代のスピーカーでよく採用されているようなスピーカーターミナルユニットの内側にクロスオーバーネットワークの基板を背負わせる形ではなく、スピーカーターミナルのすぐ上の位置に各パーツを固定する方法が採られている。当然そこに配線も接続されているので、ウーファーユニット側でケーブルを外せない場合はそれらを外さないと背面のパネルを完全に分離できないのだけど、ネットワークからウーファーまでのケーブルはファストン端子で接続されており、ケーブルを切断しなくとも取り外せるようになっている。
前面からツイーターユニットを外しておいたならば、ここを引き抜けばパネルを分離できる。メンテナンスしやすくなっているのは助かる。
ちなみに、スピーカーターミナルユニットは、ポストを弄る必要がなければパネルから取り外す必要はない。
背面から内部を覗くと、隠れていたもうひとつのウーファーがこちらをにらみ返してくる。
エンクロージャーはランバーコア製だけど、内部にはさらに1.5mm厚のMDFが所狭しと並べられているのが見える。
このスピーカーはバスレフ型ではあるけど、実は前面のウーファーは事実上密閉されたハコの中で鳴っており、隠れたもうひとつのウーファーの出音がバスレフポートから出てくるような構造になっている。この仕組みが、ユニークな中低音を醸しているのだろう。
ランバーコアの内側はおそらくラワン材だと思うけど、そこへさらにMDFを固定して補強してある。
天面に一枚、両側面の背面側に一枚ずつ、底部にも一枚、さらにウーファー上部にもかまぼこ板のようなものが意味深に一枚と、徹底している印象。
筐体の体積に対して容積を犠牲にしているようにも思えるけど、ある程度奥行きのあるスピーカーなので、あまり問題にならないのかもしれない。第一、エンクロージャー内にウーファーがあるという特殊な構造であれば、一般的なブックシェルフスピーカーの常識は通用しないような気もする。
吸音材はエステルウールのシートで、天面に一枚と、底部に折り畳まれた一枚が固定されている。
意図はわからない。防磁用のカバーだろうか。
ドライバー
ドライバーユニット類はすべて外して筐体のみとなった状態でも、かなりの重量である。ランバーコア材は約1.8mmの厚みであり、そこにMDFやら金属板やらが組み込まれているのだから当然といえる。
対して、ドライバー類は平均的な造り。
2つのウーファーは外見がそっくりで、同じもののように見える。ただ、マグネット部のラベルにゴムシートが貼られて隠れており、型番などで断定することができない。
フレームは前面部と一体の樹脂製。おそらくABSだろう。
以前整備した「SC-A77XG」のような貧弱なものではないけど、ここは金属製にしてほしかった。特に、ネジ孔部も樹脂なのはいただけない。経年劣化で割れそう。
コーンは樹脂製。ポリプロピレンのような軽い素材。表面には同心円状に細かな溝が彫られており、艶のある黒い色も相まってビニール盤のよう。
エッジは、ロールの小さいラバー製。硬くも柔らかくもない。
ちなみに、ケーブルの接続は、ドライバー側がいわゆる187型のオス形のタブとなっているけど、ケーブル側のファストン端子のメスはなぜか205型が採用されており、接続されてはいるけどガタガタする。ヘンなところで詰めが甘い。
ツイーターのドームはやや引っ込んだ位置にあり、前面プレートが小型のホーンのようになっている。
前面プレート部の固定は嵌合式のようで、比較的簡単に取り外せそうだけど、今回は用事が無いのでそのままとする。
クロスオーバーネットワーク
クロスオーバーネットワークは、構成自体は至ってシンプル。
ウーファーは6dB/oct、ツイーターは12dB/oct。
そうではなく、実測で0.4mHという小さな有芯コイルがひとつ繋がれているのみで、むしろ動作としてはフルレンジに近いものとなっている。コイルの導体もけっこう太め。
ツイーター側は、U-CONのUΣ型コンデンサーが目を引く。オーディオ向けメタライズドポリエステルフィルムコンデンサーだけど、外装に円筒形のアルミケースを採用していて、大きな電解コンデンサーっぽい見た目をしている。
並列に繋がれたコイルの導体は一般的な径だけど、空芯コイルを採用している。
整備
ドライブに異常は無く、ネットワーク回路も問題無し。ということで、今回の整備は清掃と配線の引き換えくらいとなる。
スピーカーターミナル
真ちゅう削り出しだというスピーカーターミナルのポストは、分解して研磨する。
といっても、既に金めっきが薄くなっており、あまりガッツリ削ることはしない。酸性洗剤に数分浸したあと、ポリッシングクロスで擦る程度だ。
内部配線
メーカーいわく、
OFC内部配線材をはじめ、高音質コンデンサー等を惜しみなく投入し(以下略)
と謳っており、そうであればいよいよすることがないなと思いつつも、いざ中身を見てみると内部で渡っている配線自体はごく一般的なダブルコードのように見える。ならば引き換えてもいいかということで、新しいケーブルを用意する。
ウーファー用は、ZONOTONEの「SP-330Meister」とする。
今回、ウーファーは筐体内部で1.5mm厚のMDFを貫通しなければならない。そのための既存の貫通孔をそのまま再利用したかったので、外径が細く取り回ししやすいこのケーブルの出番と相成った。ファストン端子の圧着も、少しの加工のみで行える。
対してツイーターのほうは、inakustikの「PRM-1.5S」。純銀コートされたOFCケーブルだという。今回初めて使ってみる製品だ。
マテリアルに銀が採用されているケーブルはいくつか存在するけど、費用対効果が良くなくて普段使いする気になれないのが正直なところだ。今回採用したのはただの気まぐれ。
内部配線のケーブル長は、既存のケーブルが
- ツイーター:43cm
- ウーファー:52cm + 22cm
となっている。22cmというケーブルは、ウーファー間を渡る分である。
ウーファー用のケーブルはやや大回りな配線経路と2基分必要である都合で、一般的なものより長めに必要となる。新規で用意する場合は注意。
ただ、しなやかなケーブルであれば、ウーファーの固定の順序を工夫すれば数cm短くできそうではある。
ツイーターは、ネットワークの回路にはんだ付けした後、背面のパネルを閉じたのちにドライバーに接続すればいいだけ。
ただし、ウーファーについては、接続がファストン端子なのではんだが不要である代わりに、先に端子を圧着してしまうと例のMDFの通線孔を通せなくなる。先に2基のドライバー側の端末処理を済ませ、いったんエンクロージャー内を配線してからネットワーク側の圧着をする、という手順をとる。
組み上げる際の順序の例
もちろん、貫通孔を拡幅するのであれば、この限りではない。
ジャンパーケーブル
バイワイヤリング対応のポストをショートするケーブルを作る。
導体は前回使用したケーブル「6NSP-1500Meister」がちょうどよい長さで余っているので、それを使う。作り方も全く同じ。
まとめ
これだけの物量でペア7万円は、なかなか攻めているんじゃないだろうか。現代で発売していたら、そんな値付けはされないだろう。
少なくとも、1台6万円のSC-A77XGなどよりもグレードがはるかに上だ。
中古市場でもそこそこの流通量があるし、価格も手ごろだ。ある程度小型のスピーカーでも低音域を重視したい場合は、良い選択肢となるのではないか。
最近のデノンはこういった意欲を感じるスピーカーが出ていない印象がある。やっぱり、売れないから徐々に手を引いている感じなんだろうか。
これからさらにモノが売れなくなっていく時代になるだろうし、キビシイな。
終。