サウンドハウスオリジナルブランド「CLASSIC PRO」から発売されていた「EX-10M」を入手したので、音を出してみた。その所感。
往年の名機の復活?
ヤマハの"テンモニ"こと「NS-10M」は、1980年代に大ヒットし未だにファンの多い、ブックシェルフスピーカーの名機である。
1978年に初代「NS-10M」が登場。その明瞭な中高音がスタジオレコーディングモニターとして有効だと認知されると、プロアマ問わず瞬く間に世界中に愛用者が出現し、リニューアルを繰り返しながら2000年初頭まで発売され続けたという、異例ともいえる超ロングセラー製品である。
30万台を超えるといわれる流通数から、発売を終えた現在も中古流通数が多く、かつ高値で取引されているのが現状だ。
今回手元に届いたスピーカーは、NS-10Mが生産を終了してしばらく経った2004年に登場したもの。サウンドハウスのオリジナルブランドである「CLASSIC PRO」から発売された「EX-10M」である。
型番からも想像ができるように、NS-10Mのコピー製品である。もちろん、モロに「コピーです」と謳われているわけではないけど、全身真っ黒の密閉型エンクロージャーと、オリジナルのトレードマークともいえるホワイトのペーパーコーンのウーファーとなれば、もう「アレ」を意識している以外ナニモノでもないのだ。
しかし、決定的に違う部分もある。外形の寸法である。
EX-10Mは、オリジナルより図体が一回り大きい。
たまたま未改造の初代テンモニが手元にあったので並べてみると、明らかに違うことがわかる。
搭載されているウーファー径は、オリジナルが18cmであるのに対し、こちらは20cm。若干大きい。
それに伴い、重量も増加している。オリジナルは1本あたり公称6kg、EX-10Mは9kg。1.5倍も重い。
単純にコストが増大しそうなのに、なぜ大きくしたのか。それとも、同じにできなかったのか。
反対に、ツイーターは同じソフトドーム型だけど、3.5cmから2.5cmに縮小されている。ここはコストとの兼ね合いだろうか。
背面は埋込型スピーカーターミナルユニットがあるだけの、極シンプルなもの。
エンクロージャーは全身梨地のシボ加工が成されたビニールシートが張られている。このあたりの質感は、テンモニの系譜の実質的最終モデル「NS-10MT」に近い。
音
音を出してみる。
アンプは「TEAC A-H01」。パソコンからUSB接続で再生。
傾向としては、やはりNS-10Mと似ている。中高音が前に出てくるような張り出し感があって、そこに締まる低音と丸い高音が合わさる。いわゆるカマボコである。
異なるところといえば、テンモニ特有のキンキンする高音が、本機では抑えられている。
また、中音域重視といえど、こちらはよりフラットなバランスとなっている。聴きやすい音だ。
ただし、中高音のディテールはやや粗く感じる。
周波数特性を見てみると、概ねオリジナルと似通っていることがわかる。
EX-10Mのほうは、3kHz前後に大きなディップが発生している。これは、マイクの配置を変えてみてもほぼ発生した。これがディテールに影響しているのかもしれない。
分解
中身を見てみる。
たぶんスピーカーターミナルユニットの裏にネットワーク基板が背負われているだろうと予想し、まずスピーカーターミナルを外してみる。
すると、ゴロンとユニットが外れるだけで、単独であった。
孔の奥にはあまり見かけない大きな銅箔の基板が浮かせて付けられている。
正面から各ドライバーユニットを外していく。見えるネジを外していくだけだ。
ネジはプラスのなべ頭。ミリネジと鬼目ナットではなく、タッピングネジなのが残念。
トルクがキツいのか、ウーファーのフレームがネジ近辺で少し凹んでいる。
取り外してみると、金属フレームがオリジナルよりも薄く、柔いことがわかる。凹んでいたのは、堅牢性が低いこともありそうだ。
ウーファーを取り外すと、吸音材として化繊ウールがどっさり出てくる。ここはオリジナルではグラスウールだ。
結線は、スピーカーターミナル以外は平型端子を採用している。
ただし、ツイーターユニットのオス端子は、端子自体を固定している黒い樹脂製のベースがあまり丈夫でなさそうだったので、引き抜くのを断念。別の方法で接続点を設けることにする。
ネットワーク基板は、スピーカーターミナルの裏にスペーサーによって浮かされている。
そして、この基板が珍妙である。
基板の印字と実装されているパーツが異なる。抵抗器を乗せる位置にコンデンサーが乗っかっていたりする。
はんだ面には撚り線がはんだ付けされてジャンプしていたり、銅箔を物理的に切除している部分もある。
素人から見ても、堅気の仕事ではなさそうな印象を受ける。
少なくとも、このスピーカーのために作られたものではないだろう。実装されているパーツ類も、特別拘って選定されているようには感じられない。ペア2万円という破格の理由がここにある。
一応、回路図を起こしてみる。
コイルのインダクタンスは、基板の印字があてにならないため、実測値である。
ちなみに、各ドライバーについてものっぺらぼうで、正体はよくわからない。
まとめ
音に関しては好みがあるだろうけど、安価ながらオリジナルの音をよく再現していると思う。
ただし、若干径が大きいウーファーを積んでいても、密閉型テンモニシリーズの弱点である低音域が改善されているかといえば、そうでもない。大型化したメリットが感じられない。
スピーカー単体の質感は、おそらく外国で製造されていたであろう「NS-10MT」より下だ。全体的に造りが粗い。図体は大きくても、所有感は低いだろう。
ネットワークにいたっては、本当にこれを業務用音響機器として売り出していいのか疑問に思うクオリティーだ。
単純に、価格相応の劣化コピーと言わざるを得ない。同じ値段なら、状態の良い初代NS-10Mを中古市場で狙っていくほうが、納得感が高いと思う。
終。